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予言の続き

 悩んでも答えは出ず、時間が解決してくれる事もなく、無為に時間を使わぬよう祖父の仕事の手伝いをしながらその後の日々を過ごした。

 そして、三年後。祖父が天寿を全うした。

 この世界の人間の平均寿命は六十歳前後。祖父の享年は六十二歳。平均よりも少し長生きした方だ。

 自分は現在十八歳。

 王族関係者なのに婚約者すらいないのは、単純明快な王妃からの嫌がらせである。嫌がらせと言っても自分に実害はない。自分のところに直接来た婚約話を王妃が片っ端から潰して行き、婚約話を持って来た相手に被害を与えただけである。自分の事を『嫁き遅れ』と蔑みたかったのだろうが、個人的に婚約者がいない方がありがたかったので、逆に感謝した。

 ただ、王妃は盛大に潰して回ったので夫である王から厳しいお説教を延々と受けた。それも、床に正座をした状態で行われた。正座とかこの世界に有ったんだね。そう感心してしまったのは内緒だ。

 まぁ、被害に遭ったのが跡継ぎではない公爵・侯爵家令息達だったので、こればっかりは被害者にする相手を間違えたとしか言いようがない。

 カヴァッリ王家で王女の降嫁はほぼない。王位継承権を持った(あるいは持っていなくても)第二王子や、第三王子などの臣籍降下もほぼない。

 王家に伝わる予言がどこで成就するか分からない為、未然に防ぐと言う名目から行われない。故に母の降嫁はレアケース扱いなのだ。

 そのレアケースで予言成就手前に来たので、今後国外への降嫁は行われないだろう。他国からの婚約話は全て王の手で断わられた。

 国内の高位貴族への降嫁もほぼ行われないので、王女と婚姻出来れば王家と繋がりが出来る。娘のいない家からすると『王女との婚約は千載一遇のチャンス』なのだ。

 それを知っていてか知らないでいてか、王妃がただの嫌がらせで潰したのだ。各々の家の怒りは『苦情』と言う形で王の耳に直接届いた。王妃のお説教はある意味当然の報いである。お説教された本人は不満そうだったが。王妃が反省心を見せるまで説教は続きそう。

 婚約者のいない自分は何をしているのかと言うと――大変今更感溢れるが、いつもの探索を行った。

 残念ながらこの世界に探している九人はいなかった。

 目的がなくなった自分は何をしているのかと言うと、城の書庫で調べものをしていた。

 何を調べているのかと言うと、少し気になる事――予言について調べていた。

 経験上、何度も成就する予言は滅多にない――いや、『人の身で何度も成就する予言は出来ない』が正しいか。王家に伝わる予言は人間以外の超常の存在が関わっていると視るべきだろう。

 この超常の存在が何であるか、何となく気になったのだ。

 予言に振り回された身でもあるから、改めて予言の詳細と『予言を得るまでの経緯』を知っておこうと調査を開始したのだ。

 調査を開始して早々に王から『今になって調べる意味が有るのか』と尋ねられた。無駄に思ったんだろうね。

「詳細と経緯が解れば今後対策に生かせるかもしれない。予言成就が未来でも起きるのか、起きないのかはっきりとさせる事が出来るかもしれない。それに、今後予言成就が起きないようにする方法が見つかるかもしれない」

 そう言ったら王は黙り込んだ。

 予言成就が王家最大の足枷となっているので、予言成就が起きないように出来れば、今後の憂いはなくなるだろう。

 そんな訳で今日も書庫に籠って本を読み漁る。王から禁書庫への立ち入りの許可も下りているので、調査は非常にスムーズだ。建国以前からの書物も多数残されており、知りたい情報は速やかに見つかった。

 だが、その中には知らなければ良かったと思える情報も有った。

 その最たるものが予言であった。

 まず、初代王妃『先見の聖女』が予言を言い残したとされているが、正しくは、『王家と契約した神を名乗る存在が己に仕える聖女たる王妃に神託を下ろした』である。

 何故初代王妃が予言した事になっているのかと言うと、初代王妃は未来を垣間見る事が出来る特異能力を持っており、後世に残すのであれば『先見の聖女の予言』とした方が信用性があるとして、初代王妃『先見の聖女』の予言となったのだ。

 この世界に実在不確かな神を崇める宗教は存在しないが故の判断だった。

 そして、神を名乗る存在は己を『管理化身』と言ったそうだ。

 聞き覚えのある単語に思わず眉を顰めてしまった。

 だが、誰が残したのかがどうでもよく思える程の、新たな問題が発覚した。

『他国で生まれた我が血族の証を持つものの中に、異世界の記憶を持ったものが生まれるだろう。異端であるが故に正しく扱われず、心に昏き炎を抱く。闇に堕ちる時、大陸は炎で包まれるだろう』

 王家に伝わる予言はここまで。けれど、今回の調査で続きが存在する事が判明した。

『大地は二度炎に包まれる。三度目を防いだ時、世界の柱の下に滅び厄災が降り立つ。何人たりとも厄災を退ける事敵わず。柱の剣を以てしても敵わず、大地は剪定されるだろう』

 続きを知り、思わず息を呑んだ。

 聞かせた王は未知の単語に首を捻るばかりだったが『この世の滅び』が迫っている事だけは理解したらしく、顔を険しくした。

 自分は――知っている単語が何度も出て来た事に驚き、同時に厄災が降り立つ遠因となった事に気付き、頭を抱えた。王からは『気にするな』と言われた。実に人の良い王で良かった。普通ならば『お前のせいで世界が滅びの危機に瀕している』と罵って来てもおかしくはない。

 感に堪えないカヴァッリ王の気遣いに万感の思いを込めて礼を言い、自分は出立の準備を始めた。

 予言の真偽と『どこまで成就するか』は不明だが、自分に出来る事はすべきだろう。

 王を説得して、荷造りをして、体が鈍っていないか――護身と称して剣術授業を受けていて良かった――確認し、一ヶ月後に出立した。

 保有する魔法と魔法具を駆使して探し出したので、向かう先の座標の位置情報は手元に有る。

 暗色の膝丈ワンピースを着て腰の部分をベルトで締める。愛用の双鉄扇を腰の左右に装着したホルスターに納める。空中戦を想定して靴底を加工したショートブーツを履く。

 最後に愛用の黒コートを羽織り、装備を再確認する。

 確認後、空間転移の魔法で一息に飛んだ。

 

 そうしてやって来たのは、天を衝くような大樹の根元。全長は凡そ一キロ以上ある。最も地面に近い下枝ですら、百メートル以上は離れている。地面から非常に離れた先の枝には青々とした見事な葉が茂っていた。世界の柱とも呼ばれるこの大樹は正に『聳え立つ』と言う表現がピッタリだ。横幅も大きく、一見すると『樹の壁』にしか見えない。

 周囲は樹林となっており、空から見下ろしたら、樹海の如き光景が広がっているかもしれないと思った。

 ――それにしても、再びこの大樹に関わる日が来るとは。妖精に謀られたあの日以降、二度と関わらないと決めたのに。

 周囲に人気がないのを良い事に深くため息を吐いた。

 正面の、神木の如き威厳を放つ大樹に手を伸ばして触れる。すると、生き物のように樹皮が蠢いて、人一人ぐらいが通れる大きな洞が出来上がった。

 躊躇わずに洞に入って先に進む。洞の中は暗くなく、ヒカリゴケのような苔の植物が青白く光っている。LED並みの明るさなので足元が良く見える。

 暫く歩き、広場のような空間に出た。ここも通路と同じく、青白い光で満ちていた。離れて見るとちょっと幻想的な光景だ。

 しかし、改めて周囲を見回して、広場のようと言う表現は間違っていた事に気付く。

 広場ではない。

 祭壇、いや、祭礼の間と言うべきか。広々とした空間の中央に祀るようにそれは置かれていた。

 突撃用の馬上槍――ランス、同じ造りの片刃の剣が四振り、バスターソードのような両刃の剣とその鞘、そして棺型の長大な盾。

 知識では知っているが、実物を見るのはこれが初めてだった。そして、ここで何が行われようとしていたのかも知る。

「まさか、予言に有った『大地が剪定される』って『選定の儀』の事だったの? それとも、既に行われている?」

 予言の一部の意味を知り、茫然として呟く。



 選定の儀――千年に一度の文明の破壊と次代の祖を選定する儀式。

『管理化身』と呼ばれる立場にいるものの一存で行われる、破壊と再構築を繰り返す術。

 世界を少しでも長く存続させる為の最終手段と言うものもいるが、発動させると千年に一度『大陸全土が滅びの災害』に襲われて大陸の生物の凡そ九割以上が死滅する、大量殺戮の術でも在る。さすがにそんなものを『世界の滅びを遅らせる為の最終手段』等とは言いたくない。

 大陸単位で発動可能な大規模術式で、一度発動すると最低でも一万年は停止不可能となる。

 つまり、最低でも十回は『大量殺戮が起きて、大陸の生物のおよそ九割が死滅する』事になる。

 資源の過剰使用を防ぐ為の術とも受け取れるが、大量殺戮をする必要はない――大抵のものならそう思うだろう。

 この術の最大の目的は『文明の破壊』なのだ。生物を死滅させるのは『文明の維持と発展を困難にする為』。どれ程高度な文明であっても『独り』で維持は出来ないが故の数減らしである。

 千年に一度なのは、『人間が再構築された文明の発展を阻む為』である。術を考案した奴にケチをつけるとしたら『千年に一度ではなく、その都度にしろ』当たりだろう。千年で前回と同レベルの文明になるとは限らないのだから。

 実は過去にこの術を発動させようとした奴を殴って止めた事が有る。英断であったと思うが、『資源が大量に浪費されてこのままでは世界が滅びる』と殴った奴に泣きつかれた。

 浪費を止めろと警告を出して、それでも浪費を止めないのなら、自業自得ではないか? そう思ったし、思った事をそのまま言って仰天されたな。

 そもそもの話し、管理化身とは『世界の柱の守護が仕事』であって、『世界を滅びに向かわないように気を遣う』のは職務範疇外なのだ。世界が滅びに向かうのなら、それは『その世界の住人が決めた事』として扱うべきなのだ。余計な事はすべきではない。

 ちなみにこの術を止める方法は一つだけだが存在する。選定の儀自体滅多な事では行われないので知っているものは少ないだろうが。



 話しを戻して。

 空間の中央に歩み寄り、鞘に手を伸ばして、見えない何かに弾かれた。手指に傷はない。弾かれた感触からして障壁の類だろう。そう判断して鞘を見詰める。

「誰かは知らぬが、無断で触れるのは止めて貰おうか」

 突如湧いて来た低い声。正面から聞こえて来たので、恐らく鞘を挟んで反対側にいるのだろう。視線を鞘から正面に向けると白いゆったりとした服を着た一人の男が立っていた。

 絹のような白く長い髪は後ろで無造作に束ねられている。青い瞳は理知的に見えるが、自分は妙な胡散臭さを感じた。そう、遠い昔に出会った『ろくでなしのド屑な男』ような胡散臭さだ。裁判官の振りをしたペテン師(詐欺師?)と言えばいいのか。そんな感じなので、確認を取った。

「現管理化身で合ってる?」

 色々と飛ばして直球に尋ねる。

「如何にも。僕がこの天樹の管理化身だ」

 鷹揚に頷いて男は歩み寄って来た。近くにまでやって来て初めて分かったのだが、この男結構背が高い。目算で百九十前後かな。

 祀られている武具を挟んで男が反対側に立ち、逆に尋ねて来た。

「僕からも質問が有る。君は誰かな? 何の目的でここに?」

「オルネラ・カヴァッリと言えば判る?」

「カヴァッリ? ……ああ、僕に仕えていた巫女の末裔か」

 男の台詞に内心驚き顰めていた。『僕に仕えていた』って事は、こいつが予言を神託として聖女に下ろした管理化身本人か。

「その聖女が残したとされている『予言の全容』を知って、予言がどこまで本当なのか知る為にここに来た」

「そうか。となると、厄災が来るのか。あー、面倒だなぁ」

 男は一人で納得し、やる気なさげに嘆いた。

 これまでに遇った管理化身とちょっと違うが、過去に出遇ったどの管理化身よりも話しだけは聞いてくれそうである。

 予言を遺した本人もでも在るし、情報交換を試みた。

 まず、懸念であった選定の儀は行われていない。創り出されていたのは念の為との事。

 予言を得た過程は、この男が数十日に一度行う『未来予測の魔法』で得たものらしい。この魔法を使用すると専用の魔法具に文字が浮かび上がるが、魔法行使は出来ても、使用者以外に文字が読めないらしい。実際に見せて貰ったが読めなかった。認識阻害系の術がかかっているようだ。ちなみに的中率は高い。

 そして、聖女である巫女はこの世界に召喚された、管理化身のお手伝いの『守護者』だった。元居た世界で戦巫女と呼ばれる女性だったから良かったものの、普通の人間が呼ばれたらどうなっていた事か。珍しい成功例だ。


 

 守護者と言うのは、既に述べた通り『管理化身の手伝い人』である。ライトノベルや漫画でよくある『異世界に召喚された勇者』のような存在だ。

 管理化身が召喚するのであれば、天樹(後述にて説明)からの加護で全能力が強化され『ご都合主義』のように強いのだが、滅多な事では召喚されない。理由は幾つかある。


 ・召喚時に使用する魔力量が膨大過ぎる。

 ・仮に召喚出来たとしても、こちらの頼みを聞いてくれるか分からないうえ、どんな人物がやって来るか不明。

 ・何人召喚されるか不明。関係のない人間を巻き込み召喚する可能性も有る。

 ・仮に守護者がこちらの頼みを聞いてくれても、果たされるか不明。実力不足と運の無さなどの原因で途中死亡する事もある。

 ・以上の理由から何度も召喚するのは非効率的。これなら、管理化身経験者を守護者に仕立てた方が効率的且つ、安全。


 結論、ハイリスクハイリターン過ぎる。故に、千年前の事例は珍しい成功例だ。運が良かったな。 


 そして、ここまで何度も出て来た天樹(あるいは世界の柱)と言うのは、『数多の世界を枝葉として内包する大樹――世界樹の枝先』の事を指す。

 世界の柱の別名通り、天樹に何かあると世界に影響が出る。枯れて朽ちれば世界は滅びる。

 管理化身とは『天樹の守護者』なのだ。故に天樹が枯れる遠因となるような事が起きれば止めに入るものもいた。職務範囲外だが。守護と言うのは『外敵から害され倒されないように守れ』であって、『枯れ朽ちないようにしろ』ではない。ここをはき違える奴が多い。


 

 逆に、今になってクリスピーノ(クリスと呼んでくれとの事)と名乗った男に色々と尋ねられたが、正直に答えた。

 坂月菊理としての記憶を持っている事。転生の旅と言う呪いを齎した『至高神』を名乗った男。死ぬ間際に流れ着いた黒い空間と影。自害以外で成立する不死と不老。

 オルネラとしての事は話さなかった。今の自分は『菊理』だから、話すをの躊躇ったのかもしれない。

 でも何故か、自身最大の悩みである『どこの世界で記憶を取り戻しても血の繋がった家族とは上手く行かない』だけは愚痴るように話してしまった。

 いつの間にか一緒に座り――自分は溜め込んでいたものを全て出すように愚痴り続けた。クリスは黙って聞いてくれた。

「……オルネラ――いや、サカヅキ・ククリ。君は何を望んでいるんだい?」

 自分の望み、か。それは、決まっている。

「旅の終わり」

「旅の終わりは即ち『君の完全な死』を意味する。魂は完全に消滅する。それでも望むのかい?」

「そうね。終わらない悪夢と、ほんの少しの安らぎしかないんだもの。それに、この世界で気付いたんだけど、感情が色々と磨り切れてる」

「どうしてそう思うんだい?」

「三年前に、産みの母を殺した。殺して、何も感じなかった。今まで一度も、家族だった人を殺した事はなかったのに。初めて他人を殺した時は、何も感じなくて怖くなったのに」

 母を手にかけて感じた僅かに感じた恐怖は『(考えた末)割り切っている』事についてであり、殺した事ではない。

「それに、家族への復讐を考えたけど、結局どうしたいのかで悩んだ。最後に会っても答えは出なかった」

 正直に言うと、答えは出ない、どこにも見つからない。そんな気がする。

「実を言うと、過去何度か旅の元凶に会ったの。その時はすっごく憎くて嫌いで――殺したかった。力及ばず出来なかったけど、次に会った時には必ずって、旅の途中で魔法の研究をしたり色々備えた。でも、ここ最近になって、あの男の事を思い出さなくなった。今思い浮かべても、殺意すら抱けない」

 初めて口にするが、これは事実だ。

 ここ最近の転生先で記憶を取り戻しても真っ先に思う浮かぶのは『また転生したのか』である。

 自然に旅が終わらないかと期待したが、結果は空しかった。

 自力で終わらせようにも、探して見つけ出せず『運よく遭遇出来る時』をただ只管待つだけ。

 魔法の研究類はほぼルーチンワーク化しているお陰で苦にならない。

 しかし、自分の精神状態を考えると、問題が発生するのはそう遠くはない筈だ。

「どうすれば、いいんだろうね……」

 ため息を吐く。現状打破の手段がなく、八方塞になった気分だ。青白い天井を何んとなしに眺める。

 どれほどそうしていたのか。

「君は、旅を楽しんだ事が有るかい?」

「え?」

 クリスの唐突な問いに、きょとんとして彼の顔を見る。

「旅は楽しむものだ。苦痛と荷物を背負うものではない。まして君は、多くの人生を歩めるんだろう? どうして楽しむと言う発想がないんだい?」

 旅を楽しむ。今まで考えた事がなかった。その理由は、

「楽しむ余裕がなかった。どこの世界でも『血の繋がった家族や親族に殺された』から、『転生先の人格が消えて』代わりに私の人格が目覚める。家族や親族は皆、私を嫌う。何度も殺しに来る。『何故あれで死なない』って罵って来る。そんな始まりで、どうやって旅を楽しめって言うのさ?」

 悪い終わりばかりではないが、そこに辿り着くまで『楽しむ』余裕はなかった。

「知らなかったとは言え済まなかった。でも、一度は『人生を楽しみ追求してみる』って事を考えてみてはどうだい? 怒りと復讐心だけで生きていては、心が磨り切れるのも当然だよ」

 妙に真剣なクリスの言葉を、目を閉じて反芻する。楽しむと言う発想がなかったのでちょっと新鮮だ。

「君の感情の磨り減りの原因は心を満たし続けるのが『怒りと復讐』だからだろう? それ以外のもので満たそうと考えた事はないのかい?」

「ん~、ないね。独りだったから」

 クリスの問いに答えて、『余裕のなさ』の理由に気付く。

「そっか、『ずっと独りでいようとした』からか。疎まれて、裏切られて、騙されて、色々と嫌になって独りでいようとしたから、余裕がなくなったのか」

 気付いても、こればかりは変えるのは難しい。

 疎まれ、裏切られ、騙され、数多の迫害を受け、自分は人嫌いになった。

 誰かと関わりを持つから、こんな不愉快な思いをするのだと、他者を遠ざけるようになった。

「生きる以上、他者との関わりは切っても切れない。こればっかりは仕方がないが、君は見落としがちだね」

「見落とすって何が?」

 クリスの言う事は尤もだ。だが、自分は人付き合いが苦手なのだ。こればかりは直しようがないと諦めて、可能な範囲での人付き合いを試みるようになった。まぁ、嫌な事は嫌とはっきりと言って嫌われる事が多いが。

 しかし、クリスの言う見落としとは何か。

「まぁ、嫌な事の方が多くて鮮明に残っているからなんだろうけど、君に優しくしてくれた人はいなかったのかい?」

 優しくしてくれた人、か。

「いたにはいたけど、別で問題が有る」

「いたのにどうして問題が有るんだい?」

 話して良いのかと少し悩む。恥ずかしいから言いたくないが、意を決して話す。本当に、どうしてあの女神はこんな呪いをかけたんだろう?

「ずっと昔で、話したっけ? 色んな贈り物をくれた神様に会った世界で、かけたのは多分後見みたいな女神だと思うんだけど『被守護の加護』って言う、呪い紛いな加護が有って……」

「加護ならありがたいんじゃないか?」

 クリスが首を傾げている。普通、女神からの加護なら『ありがたくていいもの』だと思うんだけど。

「それが、『加護を保有しているものを保護し、時にストッパー的な役割を果たす人間を因果を歪めて引き寄せる』ってもので、引き寄せられるのが有る程度の権力を持った奴ばっかり……」

「あー、それはある意味ありがたみも消えるね」

 クリスが納得してくれた。

 ありがたみが有るようでない加護なので、実体験しないとどれほど酷いものか分からない。

 だって権力者だよ? 人間不信の巣窟に足を踏み入れるようなものなんだよ。どうして羨ましいって言えるんだろう。

「しかも、やたらと執着されるし」

「ご愁傷様」

 クリスの顔が引き攣っているのは気のせいか。

 コホン、とクリスは咳払いを一つ零して、空気を入れ替えた。

「でも、引き寄せるだけなんだろう? その後の執着は君と関わって得たものの筈。如何に加護とは言え『人の心』まで操作する事は出来ないよ」

「……そうだと良いね」

 慰めるように、肩を叩かれた。自分は空返事を返すだけである。 

鬱展開が終わり、菊理予言について考える。

ちなみに嫁入りの王妃は魔法が使えるオルネラが嫌い。

それにしても、用語解説が一気に入る展開になってしまった。

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