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3.彼女の軌跡の上で、僕はラーメンを食べる

作者: 永丘麻呂

僕はポケットから目的地が書かれた一枚紙を取り出した。


そこには、少し無理をすれば徒歩でも行ける。

メトロで行けば、ほんの数分で着くのだけれど、今の僕はそれよりも歩きたかった。


こうすることで、少しばかり感じる罪悪感と距離を置くのだ。

その間を取り持つのは、いつもと同じで、風であったり樹木であったりした。


現実とは思えない足取りで目的地に着いた僕は、古くさい木製のドアを開けた。

「いらっしゃいませ。」

僕と大して歳の変わらない髭を生やした店主が言った。

「味噌にんにくラーメン、お願いします。」

「かしこまりました。」

店内には、僕を含めて客が3人。

夜に繁盛するこの店は、実は昼間もやっているだ。

そのことを知っている人は、実はそんなに多くない。

昼間までガッツリ働きたくないという店主の思いらしい。

まあ、全部人から聞いた話なので実際のところ真意は不明である。

また、時々働いていた可愛いバイトの女の子も今日はいない。

残念ではあったが、そんなこと僕には分かりきっていることだった。


「はい、お待ち」

僕は直ぐ様、ラーメンをすする。変わった形の蓮華が僕の手にはよく馴染んだ。

「すいません。にんにく、ちょっと入れすぎてませんか?」

僕が言うと、

「そうですか…そんなはずはないのですが。」

店主はそう言った。

「これはちょっと変ですよ。さすがに入れすぎです。」

「申し訳ありません。お取り替えいたします。」

「いえ、結構です。それよりご自身で1口飲んでみてはいかがです?」

店主はたじろいでいる。周りの客は見て見ぬふりをしている。

僕は構わず、蓮華でスープを小皿に注ぎ、この憎たらしい男にナイフを突き刺すかのように差し出す。

店主は躊躇ったが、僕の気迫に負けてそれを飲み干した。

「…そんなに、入れすぎですか?これ」

店主は、むしろ食ってかかってきた。

「もういいです。お金はここに置きます。ご馳走さまでした。もう二度と来ません。」

「…なんだよ、アイツ」

数秒後に聞こえた店主の言葉を、僕は背中で聞いてあげた。


憎たらしい男よ。

それが君の最期の言葉なのだから。


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