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破滅へ至る道1

次回の更新は、明日12時です

「瀬戸内祥吾との接触は、今後も最小限にしてちょうだい」


 まさか断られるとは思っていなかった。ぼくの内心を感じ取ったのだろう、凜さんは眉間に皺を寄せながら、


「不確定要素が多すぎるわ。今日は上手く行ったけど、今後も朝日食堂の惣菜事業が利益を出し続けるとは限らないし。たとえ成功したとしても、今度は別の問題が起こるかもしれない」

「そのときは、またぼくたちで助ければ」

「その問題の原因が、オレーナさんと関わりがあったら? 問題を解決するために、オレーナさんを裏切る必要があるとしたら? それでも瀬戸内祥吾は、こっちの味方でいてくれるかしら?」


 凜さんの冷たい視線。ぼくは、さっき見た光景を思い返した。


 お惣菜が売れて喜んでいた瀬戸内さん。懸命にお客さんを集めていた千桜ちゃんと悠翔くん。


 ぼくに瀬戸内さんたちを傷つける意思なんて微塵もない。でも万が一、億が一、ぼくが関わることで、あの笑顔が失われる可能性があるとしたら──


「それにオレーナさんにとっても、朝日食堂との関係はマイナスになる可能性が高いしね」

「え?」


 驚いたぼくに、凜さんは半眼を向ける。


「あんた、オレーナさんのアカウントに、お惣菜の写真上げたでしょ」

「ダメでしたか?」

「ダメに決まってんだろこの野郎~?」


 凜さんは、にこにこしていた。にこにこしながら怒りを伝えるという、とても器用な表情だった。


「なんでいいと思ったんだてめぇ~?」

「で、でも、みなさんいいねを押してくれましたよ? ほら、コメントだってこんなにたくさん」

「それがダメだっつってんだよ」


 威嚇するみたいに、凜さんは犬歯を剥き出す。


「モデルはね、イメージが大事なの。いままでオレーナさんは、ミステリアスで、クールで、最高にスタイリッシュな女の子のペルソナを築き上げてきた。そこへいきなり庶民的で、安っぽくて、フォトジェニックの欠片もないお惣菜が入り込んだら、イメージの低下に繋がるでしょうが!」

「朝日食堂のお惣菜は、安っぽくなんかありません!」


 かっとなって、ぼくは凜さんに噛みついた。反論されると思っていなかったのか、凜さんは一瞬、気圧されたような顔になる。


「あのお惣菜は、孝太郎さんが前日の夜から仕込みをして、一つ一つ丁寧に調理したものなんです! 揚げ出し豆腐も、煮豆も、天ぷらも、アジのフライだって、全部心がこもってるんです! いくら凜さんでも、いまの発言は見過ごせません。訂正してください!」

「あんたがどう思ってようが関係ない! あたしは、オレーナさんのイメージの話をしてるんだよッ!!」


 凜さんは、挑みかかるようにぼくを睨んだ。


「本来の瀬戸内祥吾のシナリオを教えてあげましょうか? あいつはね、オレーナさんが揚げ物を食べないって投稿したせいで、朝日食堂が苦境に立たされてるって逆恨みするのよ。天ぷらは油を使うから身体によくない、そういうイメージをオレーナさんが植え付けてるって。

 恨みに憑りつかれた瀬戸内祥吾は、オレーナさんの批判を繰り返すようになるわ。それがやがてネット世論を誘導して、オレーナさんはモデルの仕事を失うことになる」


 オレーナさんは朝日食堂を、名指しで非難したわけではない。ただモデルをするうえで、揚げ物は口にできないと言っただけだ。

 お店が傾いた瀬戸内さんは、そんなオレーナさんの言葉を曲解し、一方的な恨みを募らせる。

 あくまで瀬戸内さん個人のものだったはずの怒りは、ネットを漂ううち徐々に燃え広がり、まったく関係ない人間が油を注いだことで、巨大な炎となってオレーナさんに襲い掛かる。


 それが瀬戸内祥吾に与えられる破滅だと、凜さんは言った。

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