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その切符、使えません

作者: 白告 枢

「声劇台本」兼「会話小説」です。


【台本の利用について】

収益化(後述)及び【禁足事項】に抵触しない限りはご自由にお使いください。

また、上演時には台本URLの記載を必ずお願いします。


【禁則事項】

・内容の過度な変更

・世界観を崩壊させるようなアドリブ

・この台本を利用しての誹謗中傷・他者への迷惑行為

・飲酒上演

・自作発言及び無断転載


また、上演時の台本使用連絡はどちらでも構いませんが、収益化(広告、投げ銭、換金可能な課金アイテム含む)、動画の作成、教材での使用、ツイキャスなどの放送録画(アーカイブ)を残す場合は、お手数ですがTwitterアカウント【@kkk_night】までご一報下さい。



私個人の規約は以上です。では、ごゆっくりお楽しみください。


上演目安時間

~30分


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弥生(ヤヨイ):女性:私

快活な性格、というよりはあほの子に近い。

電車は嫌い。ロマンが好き。ただし、ロマンの意味はあまり分かっておらず、響きだけを好んでよく使っている。

よく切符を無くす。


遠野(トオノ):男性:俺

面倒見はおおよそ良いほう。

面倒なことは好きじゃないが、避けて通ることをしない。

本人曰く「遠回りをするのが面倒くさい」


車掌:不問:私

暗くはないが明るくもない性格。

つかみどころも特にない、これといって特徴のない人。なぜか機関士も兼任している。

ちなみに、作者は車掌さんに出会ったことがないので、なんか実在しそうな乗務員のノリで書いている。



配役表


弥生:


遠野:


車掌:



車掌「当機関車は~もうまもなく発車いたします。

ご乗車される方は、四十三番線へお急ぎ下さーい。黄泉行き、もうまもなく、発車いたしまぁ〜す」


弥生「ふぃ〜、なんとか間に合ったぁ…」


遠野「やー、よかったよかった。また乗り遅れるかと思ったぜ…」


弥生「ギリギリだったけどね」


遠野「もっと余裕持って生きてこうや…」


車掌「発車いたしまーす。駆け込み乗車はご遠慮くださーい」


弥生「あ、動いたね」


遠野「ずっと乗りたがってたもんな、お前」


弥生「だってさー、機関車だよ?よくない?」


遠野「電車のほうがハイテクじゃん」


弥生「君はロマンないなぁ…。だめだよ、そういうのは」


遠野「どっちも線路掴んで走る鉄の塊だろ?なら便利なほうがいいじゃん」


弥生「ロマンのない男はだめだよー!!」


遠野「はいはい、そりゃどーもすみませんでしたー」


弥生「いい?機関車っていうのはね、通電してるただの鉄の塊とはわけが違うの」


遠野「お前そのうち鉄道ファンから怒られろ」


弥生「今更誰に怒られるっていうの?」


遠野「それもそうか」


車掌「切符を拝見いたしまーす」


弥生「えーっと、切符切符…どこやったかな?」


遠野「ズボンの右ポケットだろ」


弥生「あ、そうだったそうだった!はい、車掌さん」


車掌「ありがとうございます。そちらの方も切符をお見せいただけますか?」


遠野「あー、俺切符持ってねーんだわ」


車掌「なんと!!無賃乗車は犯罪ですよ?」


遠野「あー、違う違う。切符はそっちのが一緒に持ってんの」


弥生「……あれ?」


車掌「では、切符をもう一枚お願いします」


遠野「なんで一緒に見せてねーんだよ…」


弥生「おっかしいなぁ…」


遠野「またなくしたのか?」


弥生「てへっ」


車掌「ということは、無賃乗車ということになりますがよろしいでしょうか?」


遠野「いやまぁ、よろしくはないけどそうなるわな」


弥生「ごめんね…」


遠野「いいって。車掌さん、次の駅で降りるわ。いくら?」


車掌「次の駅は終点になりますので残念ながら下車を認めるわけにはいかなくてですね…」


遠野「そうか、そりゃ参ったなぁ…」


弥生「どうしよっか…」


遠野「どうしようも何も、俺はこのまま引き返すしかないだろ」


弥生「お金あんまりないもんね…」


遠野「うるせぇ」


弥生「私も一緒に引き返そうか?」


遠野「お前まで引き返してどうすんだよ。俺はあとで電車使って追いかけるわ」


車掌「大変申し訳ないんですけど。実を言うと、この便で廃線でして…」


弥生「えー!うそ!!」


車掌「誠に残念ながら……はい……」


弥生「こんないい機関車の最後の乗客が私たちとかツキすぎでしょ!!」


遠野「いやそっちかよ」


車掌「なんというか…少しずれた方ですね」


遠野「少しじゃない。だいぶずれてるよ」


車掌「そうですね、どうせ最後なんですし無賃乗車は見逃しますよ」


弥生「だって!よかったね!」


遠野「よかないでしょ」


車掌「いいんですよ。みんな通電して走る鉄の塊に移ってしまいましたから」


遠野「鉄道関係者がそんなこと言っていいのかよ」


車掌「いいんですよ。所詮機関車は時代とともに廃れ行くものですから」


弥生「そんな悲しいこと言わないでくださいよ。私、機関車のほうが好きですよ」


車掌「みんながみんなそうだといいんですがね」


遠野「まぁ、そううまく事が運ぶのは難しいわな」


車掌「どうせ暇ですし、運賃がてらお二人のお話でも聞かせてくださいよ」


弥生「いいですよ~」


車掌「お二人はもしかしなくともご友人でしょうか?」


弥生「めっちゃくちゃ仲のいい友達です!」


遠野「いえ、ただの腐れ縁がある他人です」


弥生「ひどい!一緒にお風呂まで入った中なのに!!」


遠野「それはちっさい頃の話だろうが!」


車掌「仲が良さそうで何よりです」


弥生「でへへー」


車掌「して、お二人はなぜこの列車へ?」


遠野「こいつがどうしても機関車じゃなきゃ嫌だって聞かなくてな」


弥生「えへへ~」


車掌「切符も取りにくかったでしょうに。わざわざありがとうございます」


弥生「どうせ一回しか乗れないなら、好きなのに乗りたいじゃないですか」


遠野「俺はこいつに振り回されてるだけ」


車掌「先ほど、切符をなくしたのは初めてではないような口ぶりでしたけど、以前にもこういうことがあったんですか?」


遠野「俺と一緒に乗ろうとすると毎回俺の切符だけどっかやるんだよ」


弥生「ちゃんと持ってるはずなんだけどねー」


車掌「それはまた珍妙ですね」


弥生「だよねー。ほんと不思議」


車掌「しかし、この列車に乗れたということは、少なくとも乗る直前までは切符はあったんでしょうし、きっとどこかにありますよ」


弥生「そうだといいけど」


車掌「それはそうと、お二人は向こうへ着いたら最初は誰に会いに行きますか?」


弥生「私はやっぱりお父さんとお母さんかな」


遠野「俺は会いたいやつもいねーから適当にぶらぶらするよ」


車掌「そうですかそうですか。早く着くといいですね」


遠野「いや、俺らスピードとかいじれねーし」


車掌「いじれますよ?」


遠野「機関室とかで?」


車掌「そんなところに入っちゃだめですが?」


遠野「ですよねー」


弥生「入れると思ったの?ばかじゃん」


遠野「うるせー」


弥生「ところで、私たちのほかに声聞こえないけど、どして?」


遠野「だって、俺らのほかに客いねぇし」


遠野「最初からほかにいなかっただろ」


弥生「あんなに客車あったのになんで!?」


車掌「それはその…見栄といいますか…」


弥生「切符がとりにくかったのは?」


車掌「月に一本走ればいいほうでしてー…。なにより、この機関車がもう年ですから」


遠野「かなり整備されているように見えるが?」


車掌「この機関車だけでなく、こちらで動くものはすべて結構な年月をあらかじめ食っているので、こちらの世界の役割を果たせるのも短いんですよ」


遠野「余生みたいなもんか」


車掌「どちらかというとロスタイムのほうが正しいかもですね」


弥生「でもそれってかっこよくない?」


遠野「別に。余生でも何でもいいが、ゆっくりゆとりをもって生きたかったけどな」


弥生「そうかなぁ…。あわただしいほうが私的には好きなんだけど。刺激的だし」


遠野「刺激的とあわただしいは全くの別だと思うぞ」


車掌「ではでは、終点までどうぞお楽しみください」


弥生「終点まではあとどのくらいですか?」


車掌「さぁ、日によって違いますので何とも…」


遠野「決まったコースはないのかよ…」


車掌「そこがあの”電車”というものにシェアを奪われた原因の一つでもありますからね」


弥生「へー、やっぱり燃費とか?」


車掌「いえ、決まった線路の話でして…」


遠野「こいつ、聞いてるようでなんも聞いてないんだわ。わりぃな」


車掌「あはは、そうなんですね。そんな感じしてました」


弥生「線路の話?」


車掌「先ほどもお話しした通り、この機関車には決まった線路はないんですよ。その昔、三途の川を渡す船渡しが魂の罪の重さによって舟をこぐ距離が変わっていました。この機関車はその舟渡しに則って乗客の魂の重さによって客車が切り離されて運転されているんです」


遠野「燃費が悪いとかそういうレベルの話じゃねーな」


車掌「しかし、新しく開通した”電車”は魂の重さにかかわらず一定の距離を往復するんですよ。業務の効率化というやつですかね」


弥生「やっぱり通電してるただの鉄の塊はだめね。ロマンがないわ」


遠野「お前そればっかりだな」


車掌「ロマンもいいですけど、本来の目的を見失ってしまうほどに忙しいですからね」


弥生「そんなに忙しいんですか?」


車掌「駅にたどり着く人っていうのは、全員じゃないのはご存じですか?」


弥生「え、知らなかった。みんな駅に行くものだとばかり…」


車掌「この世界は駅に限らず、バスやタクシー、船、飛行機、牛車(ぎっしゃ)なんかもあります」


遠野「へぇ、交通手段発達してるのな」


弥生「それだけいっぱいあったら選びたい放題じゃない?」


車掌「ところが、そうもいかないんですよね」


遠野「というと?」


車掌「向こうへ渡る乗り物というのは、生前その人に最も関係の深いものがあてがわれます。たとえば、興味があったもの。その人の人生に大きな影響を与えたもの。あるいは、死因に直結したもの。それこそ、人によりけりです」


弥生「ふーん、なるほどね」


遠野「お前あんまりわかってないだろ」


弥生「うん!」


遠野「元気そうで何よりだ」


車掌「機関車、お好きですか?」


弥生「大好きだよ!だって、ロマンの塊だもん!」


車掌「それはそれは、ありがとうございます」


弥生「あっ、そっか!だから私たちは機関車に乗れてるのね!」


遠野「でもさ、みんな駅に着くわけじゃないなら電車が効率化で導入された意味ってあるのか?」


車掌「電車はどうも特別らしいです。誰しも一度は乗ったことのある人が多いようですし、そこの縁を無理やり引き出してきて結びつけるという手法です」


遠野「無理矢理か、なるほどな。道理で俺が電車に乗りそうになるわけだ」


弥生「はいはーい!私が電車に惹かれなかった理由は?」


遠野「お前が単純に機関車好きすぎるだけじゃないか?」


車掌「おそらく、そうですね。無理に引き出す分強い意志には逆らえないんだと思いますよ」


遠野「効率化という割にその辺は適当なんだな」


車掌「生者の世界でもあまり変わらないとは思いますけどね」


遠野「あっちは集団の中で回る歯車じゃないと異端の目で見られるけどな」


車掌「あー、それも効率化ってやつですかね」


遠野「人格の効率化なんて、ただのロボット量産だろ。考える工程を与えていないのに考えろとか無茶が過ぎる」


車掌「いやな世の中になりましたね」


遠野「まったくだな」


弥生「はいはーい!私質問!」


車掌「なんでしょうか?」


弥生「その話と、私たちがいつまでたっても到着しないのとどういう関係があるんですか?」


車掌「いえ?到着しないのは魂が想定していたより重いからじゃないですか?」


弥生「そんな!」


車掌「ですので、もうしばらくお待ちくださいとしか言いようが…」


弥生「こんな可憐な乙女に重いだなんて…酷いわ!」


遠野「乙女とか自分で言うあたり地雷だぞ」


弥生「乙女なんですぅ~!!」


車掌「あとは、死因。ですかね」


弥生「試飲?なにか飲むの?」


遠野「そっちじゃねーよ。仮にそっちだとしてもそんなサービスないだろ」


車掌「ワインならありますよ」


遠野「あるんかい!」


車掌「といっても、私の私物なんですけどね」


遠野「運行時間になんてもん持ち込んでんだよ!」


車掌「今は運転室においてあります」


遠野「それ絶対に熱くなるだろ」


車掌「はっ!言われてみれば!」


遠野「言われなくてもわかるだろ!」


車掌「こっちの世界はいつも涼しいですからね。熱いところといえば地獄くらいですよ」


弥生「たしかに~」


遠野「ほんとに大丈夫かよこの機関車…」


車掌「味は保証しますよ」


遠野「ワインの話じゃねーよ!」


弥生「飲んでみたかったなー」


車掌「まぁ、あと考えられる原因としては…。そうですね…」


遠野「なにか心当たりが?」


車掌「あなたが生きている可能性です」


遠野「……俺が?」


車掌「突拍子もない話なのは重々承知です。しかし、列車が到着しないとなれば原因はあなたしかありえないんですよ」


弥生「もしかして、切符を無くしたから?」


車掌「それが一番の根拠ですね」


遠野「切符を無くすことと俺と何の関係があるんだ?そもそも、切符を持っていたのはこいつだろ」


車掌「そう、そこなんですよ!なぜあなたが持たずにお連れさんに持たせていたのか。そこが一番の問題なんですね」


遠野「切符を預けることの何が問題なんだよ。まぁ、そのせいで切符はなくしたわけだけど…」


車掌「では、なぜ複数回も紛失している人に切符を渡したんですか?」


弥生「毎回渡そうとしたんだけど、まとめて持ってるほうが後で楽だからって言ってた!」


車掌「確かに、確認の時にもたつく心配がないので後々楽かもしれませんが、それはあくまで持たせておく口実にすぎない。本当の理由は別にありますよね?」


遠野「悪いけどそんなものは無いよ。あとが楽だから渡してた。それだけで、あとは俺が管理するのが面倒だから入れる場所まで指定して持たせてただけ」


車掌「切符。触れないんですよね」


遠野「はぁ?ばかじゃねーの?」


車掌「仮死状態、もしくは限りなく死に近い危篤状態であれば確かにこちらへたどり着くことはできます。しかし、その先に到達することはありません」


遠野「それと俺が切符に触れない根拠とどこに共通点があるんだよ」


車掌「簡単な話ですよ。臨死体験であれば死者の切符には触れない。機関士としては常識ですよ」


遠野「どんな常識だよ」


車掌「そしてあなたは一命をとりとめています。しかし、魂はこの列車に乗って向こうに戻りたがらない。その理由とは、彼女ですよね」


弥生「え、私?」


遠野「……あんた、本当は車掌じゃなくて探偵なんじゃないのか?」


車掌「残念ながらただの廃線の車掌ですよ」


遠野「あっそ。でも、俺は確かに死んだ。臨死体験なんてしてないんだよ」


弥生「車掌さん、私の方なんです」


車掌「それならなぜ切符を持てたんですか?」


弥生「あれ、私の切符じゃないんです。本当は彼の…」


遠野「窓口で買ったときにえらく不審がられたよ。それでも、どうしても切符が買いたいっていうから任せたんだが……まぁ、仕方ないわな」


弥生「わがままいってごめんね」


遠野「反省してないだろ、それ」


弥生「あ、バレた?あたり~。私が反省なんてするわけないじゃん」


車掌「では、到着しない理由も判明したので行先を変更しましょうか」


弥生「それはダメ!」


車掌「どうしてですか?」


弥生「だって、戻ったらもう会えない…」


車掌「戻る…?どこに戻るのでしょうか?」


弥生「現世…」


車掌「私は”行先を変更する”といっただけで、”現世に行く”とは言っていませんよ」


遠野「なら、どこへ行くんだ?」


車掌「我々の仕事はお客さんを”お客さんの目的地に運ぶ”ことです。行先をこちらが決めるなんて野暮なことしませんよ」


遠野「決まった路線を走って決まった駅に運ぶのにか?」


車掌「それは現世だけの話です。この機関車の性質をお忘れですか?」


弥生「あっ…」


車掌「この機関車には決まった線路はないんですよ。まぁ、現世でも降車駅を決めるのはいつでもお客さんですからね。さて、どこへ行きましょうか?」


弥生「じゃ、じゃあ、このまま黄泉までお願いします!」


車掌「かしこまりました。トンネル抜けてまいりまーす」


遠野「トンネル?」


車掌「未練のトンネルです。そこを抜ければすぐですよ」


弥生「未練……」


車掌「それでは、機関室へ行ってまいります。到着までもう少しお待ちください」


弥生「……わがままいってごめんね」


遠野「さっきも聞いた。謝んなよ」


弥生「だって、助けてくれたのに…」


遠野「別に。何とも思ってない」


弥生「何で助けてくれたの?」


遠野「俺の意志じゃない。結果的にそうなっただけ」


弥生「そう、なんだ」


遠野「ああ」


車掌「まもなく、黄泉~。黄泉~。到着の際、かなり揺れますのでご注意ください」


遠野「かなり揺れる?」


車掌「さあて、行きますよ~!あ、停車後は降りないでくださいね。危ないですから」


遠野「はぁ?降りるなってどういう――――うわっと!!」


車掌「あれ?思ったより揺れなかったですね。まぁ、何はともあれ到着いたしました~」


遠野「なんで駅に到着するだけでこんなに揺れたんだよ!」


車掌「駅になんて到着してませんが?」


遠野「今到着したって言ったじゃん」


車掌「ええ、多少強引ですが到着しましたよ」


遠野「駅じゃないならどこに……」


弥生「私の…家?」


車掌「ええ。生者を乗せた状態では駅に何て到達できませんからね。多少強引な方法ですが、不測の事態ゆえ大目に見てくださいな」


遠野「不測の事態って…」


弥生「私の家が黄泉にあるわけないでしょ!ふざけないでよ!」


車掌「ありますよ。といっても、私は見えませんけど」


弥生「嘘つき!どこでも連れて行くって言ったくせに!嘘つき!噓つき!」


車掌「だから、連れてきたじゃないですか。黄泉に。あなたが行きたい場所に」


弥生「だったらなんで黄泉なんかに私の家があるのよ!」


遠野「家なんてどこにあるんだ?」


弥生「はぁ?何寝ぼけたこと言ってんのよ!ここに、目の前にあるじゃない!」


遠野「目の前?いや、目の前どころか周りに家なんて一つもないが…」


車掌「そりゃそうですよ。黄泉はひとりぼっちの世界なんですから」


弥生「意味わかんない!何よそれ…聞いてた話と違うじゃない」


車掌「どういう話を聞いてこられたのか知りませんけど、黄泉とは本来何もない場所なんですよ。死者の魂が十王(ジュウオウ)に裁かれるまでの待機所。要は四十九日までいる場所です」


弥生「じゃあ、お父さんとお母さんには……」


車掌「まぁ、会えませんね」


弥生「そんな……」


遠野「なぁ、車掌さん。ちょっと確認したいんだが」


車掌「なんでしょうか?」


遠野「ここが待機所なら、十王とやらに裁かれた後はどこに行くんだ?」


車掌「それが”余生”なんですよ。それが終われば輪廻の輪に溶けていきます。ですので、ご両親が今どこにいるのか。それは私にもわかりません」


弥生「そう……ならもういいよ。ここで降りる」


車掌「残念ながらそれはできかねます」


弥生「降ろしてよ!」


車掌「ここ、駅じゃないんで扉があかないんです。もちろん、窓からも出られませんよ」


弥生「なにそれ…」


車掌「余生はルールに縛られて生きるんですよ。未練を無くすためのロスタイムなんですけどね」


遠野「どうする?」


弥生「会えないなら帰る」


遠野「だそうなんで。あと、よろしくお願いします」


車掌「かしこまりました。さて、これが最後の発車ですよ。っと、その前に、途中乗車のお客様が来たみたいですね」


弥生「お父さん…?それにお母さんも…」


車掌「残念ながらもう声は出せないそうですが……なんというか、お節介です。列車の」


弥生「うん……わかってるよ。………ばいばい」


車掌「あなたはどうされますか?」


遠野「俺はここで降りていくよ。こいつのこと、よろしくな」


車掌「かしこまりました。では改めて、発車いたします」


弥生「……ありがとう、ございました」


車掌「今度はあちらに戻りますがよろしいですか?」


弥生「お願いします」


車掌「……立ち入ったことお聞きしてもよろしいでしょうか?」


弥生「彼との関係、でしょうか?」


車掌「ええ、まぁ。そうなんですけど」


弥生「彼は命の恩人なんです」


車掌「命の、恩人」


弥生「私と彼、実は面識がないんです。」


車掌「それなのに、命の恩人として一緒に?」


弥生「彼はドナーだったんです。搬入されてまもなく、息を引き取ったそうです」


車掌「そうでしたか。では、彼はドナー希望者だった、ということですか?」


弥生「はい。心臓疾患だった私はすぐ手術室に運ばれました。不幸中の、というよりも、私にとってラッキーだった。なんて言ったら不謹慎かもですけど」


車掌「おかげで無事助かったみたいでよかったと思いますよ」


弥生「私、正直不安でした。ここがどこかわかった時、助からなかったんだって思いましたもん。それで、立ち尽くしてたんですけど、そんな私に彼、駅で急に声をかけてきて。そしたら、なんて言ったと思います?」


車掌「俺、命の恩人だぞ?とかですかね」


弥生「正解です。最初は何のことかわからなかったんですけど、話してみたら彼が助けてくれたって話した」


車掌「助けてくれたとはいったい…」


弥生「彼にあった時、私は生きていることを伝えられました。彼の意志で助けたんだとも言ってました。ドナーだった彼の意志が、私を生かしてくれたんです」


車掌「そうでしたか……」


弥生「…あと、どれくらいで着きますか?」


車掌「もうすぐだと思いますよ」


弥生「なんか、暗い話しちゃってすみません」


車掌「生きていれば儲けものですよ。あなたは彼の分まで生きればきっとそれでいいんだと思います」


弥生「……ええ、きっと。そうします」


車掌「そういえば、この列車の話は誰に聞いたんですか?」


弥生「それも彼が教えてくれたんです。機関車が好きだって言ったら、さっきそこで見かけたって」


車掌「ああ、なるほど。そういうことでしたか…。おや、そろそろですね」


弥生「私、どうなるんですか?」


車掌「記憶なら、残ると思いますよ。人それぞれですけど」


弥生「……そうですか。それなら安心です」


車掌「では、私はそろそろ停車準備に行きますね」


弥生「はい、ありがとうございました…ってもういないし…」


車掌「まもなく、都立総合病院~。都立総合病院です。お降りの際は、忘れ物などございませんようにお気を付けください」



――――――fin


最後まで目を通していただきありがとうございました。

まだまだ稚拙な文ですが、会話形式で8000字を超えたことは初めてですのでうれしく思っております。

このお話は、単純に「機関車で旅をしてみたい」という思い付きの元書いておりまして、実際とは異なるものが多いと思われます。その辺は許容していただけると幸いです。


さて、これまでの台本もそうなのですが、Twitterにてサムネイルを掲載していますので、まとめよりご覧ください。

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