疑似夫婦
一歳になった。今年の春も風が気持ちがいいぜ。あれからハイハイができるようになって、外に散歩に出ることが増えた。
兄は相変わらず色んなものをつくってくれる。姉も相変わらずだが、おしゃぶりを奪うことはなくなった。母さんは甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれる。動けるようになったことでうろちょろしているので、よくもとの位置に戻される。
母子家庭かと思いきや、ちゃんと父親がいる。この村のというよりここら一体の土地を運営する領主の私兵をやっている。月に一度帰ってくる程度だが、最初見たときは熊かと思った。
父は寡黙で兄を大きくしたような存在だ。無言で俺を持ち上げて顔を確認すると、うんうんと頷き、満足してどこかへいく。そんなことが月一で行われる。
母さんが言うにはあれは俺が元気かを確認しているのと、照れ屋だからあんまり構えないのだそうだ。本当は一緒に遊びたいらしいが、身体が大きいこともあって怖がらせたくないのだとか。
そんなことは気にしないが、突然やるのだけはやめてほしい。こっちも兄のおもちゃで遊ぶのが忙しいからな。
最近兄は高度な技術を身に付けたのか、知恵の輪を持ってくる。まだ脳が発達しきれていないこともあってなかなか解けない。それが面白いとも言える。
「クオン」
「ぱーぱ(なんですかい?おやじ)」
「強く育つんだぞ」
「あいっ(なに、そのフラグたてるような言い分は)」
「セレナ」
「なんでしょう?」
「やっぱりクオンはかわいいな!」
「くーちゃんがかわいいのは当たり前ですよ。もちろんれーちゃんとれーくんもかわいいわよ!」
すいません、目の前でイチャイチャするのやめてもらっていいですか?心になんかくるものがあります。さて、この隙に外にいくか。
うちの間取りはざっくり言うと、リビング一つに父と母の部屋、子供部屋二つの客間と応接室。正直言って広い。しかもこの世界じゃこれが一般的な部屋の間取りだ。二階建てもあるが、ここは景観重視の村のため、二階建ての建物自体ない。
周辺は野原と畑、それから遠くに森がある。のどかな雰囲気と豊かな自然がある。前世の事を考えれば、たまには行きたい自然公園みたいなところだ。
家と家の距離が広く、家一つにつき、広い庭と畑がある。子供は野原を駆け巡り、小動物もいれば、簡単な遊具もある。まさに子供にとっては最高の遊び場だ。
そんななか、俺が最近一人で行っているのは近くにある大きな木だ。俺が一人でそこに勝手に行くことを見越して布が敷いてある。そこはのんびりとお昼寝するにはちょうどいい。
兄のレオもそこでおもちゃをつくっているので、一人で過ごしてるわけではない。姉のレイナも時々来るが、大体は村の子供たちと遊んでいる。
「またきたのか、くおん」
「にーに(やっぱりいたか)」
「いまちょうどできたところなんだ。あそんでくれる?」
「あーぃ(お、またできたのか。やったぜ)」
「あはは、これはこうやってあそぶんだよ」
兄との遊びは非常に有意義だ。こうやって笑いあっているとどこからか姉がやってくる。混ぜてほしいが、照れて参加できない。そんな姉に兄は優しく声をかけて呼び寄せる。
遊びに姉が入れば賑やかになる。最近は姉の希望でおままごとをやっている。うちの母さんと父さんは参考にならないので、最近、近所に引っ越してきた若い夫婦を参考にやっている。
これがなかなか楽しい。
「おかえりなさい、あ、あなた」
「たらいあ(ただいま)」
「しごとはじゅんちょーかしら?」
「うまぁく、いってりゅ(まぁまぁだな)」
「そう、よかったわ。きょうは向かいのおにいさんがあそびにきてるのよ」
「こ、こんばんは。れおです」
「うわさは、かねかね(噂はかねがね聞いております)」
「ねー、くおん。かねかねってどういういみ?れおにーさんしってる?」
「うーん、ぼくもわからないよ」
し、しまった。つい前世のビジネストークを言ってしまった。普通は使わないもんな。どうする。