煙のように消えていく
いつもの。
日々上がっていく消費税に嫌気がさす。嗜好品は特にそうだ。酒、たばこ、はたまたパチンコ。そのすべてが課税対象だ。最近は子供の教育のためのゲームまで増額されている。本当にこの世界は終わってる。
娯楽があるからこその人生。それが今では仕事して経済を発展させるだけの歯車の一つか。笑えねぇ。本当に笑えない。
「ふー…やっぱりたばこは最高だぜ」
「あー!先輩!だめですよ、ここ禁煙ですよ!」
「いやいや、なにをおっしゃる。ここを見ろ」
「なんです?」
「敷地外だろ?つまりここからは禁煙ではない」
「いい大人が屁理屈言わないでくださいよっ!」
「あっ…おま…たばこを叩き落とすとか…おいおい…まだ二口しか摂取してねぇんだぞ…」
地面に叩き落とされ、踏み潰されたたばこをしゃがんで眺める。こいつは23の後輩だ。三十路になる俺からしたらお子様なのだが、妙に俺につっかかってくる。
「先輩、そんなことより…先輩?」
「あぁ…ど…かした?」
「い、いえ、なんでもありません。部長が呼んでましたよ」
「お、おぅ。そうか」
もう一服と行きたいところだが、たばこを瞬殺する後輩が目の前にいたんじゃ、ゆっくりすることもできない。仕方がないので言う通りに向かうことにした。
「久園、健康診断の結果は見たか?」
「はい?あー、また再検査ですか?」
「あぁ、それもあるが…お医者様からたばこ使用のドクターストップが来てるぞ」
「え?いやですよ」
「馬鹿野郎。命かかってんだろ」
「またまた~。そんなこと言って5年大丈夫だったんですから。まだいけますって…」
「はぁ…俺は言ったからな?」
「はい、部長様のご意見、大変勉強になります!」
「こいつは…まぁいい。それよりあの案件どうした?」
「それはですね…」
終電ギリギリまで働いた後の喫煙は最高だ。達成感と充実感、そしてこのたばこの万能感がたまらない。うまい。たばこの煙が全身を巡り、外へ出ていく感覚。酒を飲む時、喉を伝うのど越し。それと同等かそれ以上だ。
喫煙可能な公園で星空を眺めながらの一服、まさに至高。煙が闇に消えてく様も美しく感じる。
「ふぅ…だが、部長の言う通り。このまま吸ってるといつか死ぬな」
吸殻を飲みかけのコーヒー缶に落とす。そしてまた吸って味わい、吐く。この繰り返しだ。たばこはお金がかかり、そしてすぐに消費される嗜好品だ。それならまだゲームやパチンコをするほうがマシだが、俺にはこれさえあればいい。
「あー…もうなくなっちまったか…」
もう一本、というところでたばこが切れてしまった。吸っているとすぐになくなる。夢中で吸ってしまうほど、このたばこに溺れてしまう。電子タバコもあるが、あれは味がおいしくない。
料理でもそうだ。わざわざ不味いものを食べることを進んでする人などいない。たばこも同じだ。ニコチン摂取、確かに喫煙者にとって大事なことだ。だが、俺はたばこの味わいが好きだから吸っている。
もし、このたばこにニコチンが入っておらず、味がそのままなら吸わない時間がないだろう。
「あ~きれちまったものはしゃあねぇ。買い足すか…」
ベンチから立ち上がり、近くのた自販機に向かう。年をくったせいか足元おぼつかない。視界も霞んでみえる。なにかがおかしい。そんな気がした。胸が苦しい。呼吸ができない。
「くっそ…部長の話…ちゃんと…聞けば…よか…った…」
視界の先で誰かが駆け寄ってくるのが見えた。だが、それが誰だったかなんてもうどうでもいいことだ。俺は死ぬ。それだけのことだ。