第7話 最初の町
〜前回のあらすじ〜
遂に地上へ!夜営中オークに襲撃されるも撃破!
おくすりキメてヒャッハー!
川沿いを歩いて数時間、ようやく最初の町が見えてきた。
近づいていくと川は町を囲むようにY字型に分岐しており、更に内側には50メートルはあるであろう白いコンクリのような外壁がそびえ立っていた。
壁の所々に穴が開いていて、そこから大砲の砲口が口を覗かせている。
更には監視塔なのだろうか、壁の上の方は尖塔のような建築物があり、魔物の蔓延る世界だけあって防備はしっかりしていそうだ。
川沿いに歩くとやがて跳ね橋と大きな門が見えてくる。
町の入り口の門には幾人かの衛兵が座り込んで談笑していた。
俺たちの他には商人だろうか、数台の馬車とこれまた数人の村人と思われる人々がみすぼらしい姿で、でかい荷物を背負い、警備兵に守られている。
『思ったより人が少ないんだな。旅をする人間てあんまいないのか?』
『そりゃ戦争やら魔物の大量発生によるスタンピードなら、大量の難民が発生して押し寄せてくるでしょうけど、普段は商人に傭兵、物資を調達しにきた村人くらいしか来ないんじゃ無いかしら?
貴族や富裕層が引っ越す時には多くの護衛や荷物持ちが付いてくると聞くけれど、そんなにタイミングよく同じ時間に門の前で鉢合わせることなんて、滅多に無いと思うわ』
アーチ状の跳ね橋を渡り、衛兵の前に来たところで、
『折角だから、彼らと会話してみなさい』
『やってみるよ』
短期間とはいえ簡単なフレーズは叩き込んでいる。
何も問題はないはずだ。
「入町か?」
「そうだ。どうすれば良い?」
「1人銀貨1枚か大銅貨10枚払ってくれ」
この世界は通貨の価値はある程度統一されているらしく、
白金貨1枚=大金貨10枚
大金貨1枚=金貨10枚
金貨1枚=大銀貨10枚
大銀貨1枚=銀貨10枚
銀貨1枚=大銅貨10枚
大銅貨1枚=銅貨10枚
となっている。善神側が開発した貨幣制度を邪神側も丸パクリしたらしく、国によって硬貨に描かれる神々や国王は当然異なっているものの、貨幣の価値に関しては殆ど同じだ。
円に換算しようにも日本とは品物の価値が異なるので判断し難いが、敢えてするなら、
銅貨1枚=10円
大銅貨1枚=100円
銀貨1枚=1000円
大銀貨1枚=1万円
金貨1枚=10万円
大金貨1枚=100万円
白金貨1枚=1000万円
といった所だろう。話を戻すが今の俺たちには善神側の貨幣は持っていない。
幾ら価値が同じと言っても魔族の貨幣を渡すわけにもいかず、メアはマジックバックからワインの入ったボトルを取り出した。
「今お金がないのよ。これで勘弁してくれないかしら」
大柄で茶髪の顎髭を蓄えた衛兵がそれを受け取る。
「少しlmvmrjrjnvmnvmdjnpjkvdvjpj?」
「良いわよ」
ダメだ、何言ってんのか全然わからん。
衛兵は門の前にある駐屯所へ向かい、幾つかのコップを持ってきてワインを飲み出す。
「jdlavmvmvkrjtntw!!行っていいぞ。ようこそ、サラゴサへ」
ろくに素性を訊かれることなく門を通り抜けられた。案外雑なのは助かる。
『衛兵は何て言ってたんだ?』
『「少し試飲して品質を確かめたい。」と言った後、「なめらかで柑橘系の酸味があり、非常に飲みやすい」のようなニュアンスだったわ』
『あんな無粋そうな見た目なのに酒の違いが分かるなんて、意外だな』
『門兵は貴人が訪れても良いよう、ある程度教養のある人間に任せてるんじゃ無いかしら?』
『その割には随分仕事が良い加減じゃ無いか?』
『きっと騎士のなり損ないがなる職種だから、やる気が起きないのよ。給料も大したことない上に、貴族の訪問する直前でも無いと監察員も派遣されないでしょうし』
なるほど、異世界で食い繋いでいくのも色々苦労が多そうだ。
◇
俺とメアは町中を散策する。サラゴサには三層の壁が存在し、それぞれ第1外壁の中に領主の城、第2外壁の内部に貴族等の上流階級居住地、最後の第3外壁と第2外壁の間に一般市民の居住区があるといった塩梅だ。
更に南と北を川で囲まれているだけかと思っていたが、西は海なので、この町は実は巨大な中洲の上に建設されているようだ。
建築物はゴシック様式風の、ザ・異世界感漂う建物を中心に、ロマネスク様式やバロック様式風の、中世ヨーロッパを想起させる建物が多いが、サラゴサは大陸の北と南、更には西と東を結ぶ中継地点となっているらしく、少なからずアラブ風の丸い屋根や幾何学模様のある建物、それにアジア風の瓦屋根の木造建築なんかも存在した。
更に一部の区域はそれらの建物が階層構造となり連なっている。
アーチ橋や螺旋階段によって行き来できるようになっているが、そこからの風景が余りに幻想的な為、俺は言葉を失い、思わず立ち尽くしてしまった程だ。
例えるならばフランスのシュヴァルの理想宮、スペインのカサ・ミラ、オーストリアのフンデルトヴァッサーハウスをファンタジー風に手直しし、違法増築を繰り返した光景といったところだろうか。
日本人には香港の九龍城砦のようになっていると説明した方が分かりやすいかもしれない。
だが流石は異世界、ゴミは少なく、下水道も完備しているのか悪臭も漂ってはこない。
魔法の発達した世界ではかくもこのような素晴らしき世界を生み出せるのかと感動し、俺は初めて異世界に迷い込んだ事を喜んでしまった。
そうこうしている間にも、周囲には様々な人種が蔓延っている。
白人の割合が多めだが、物資の輸送地点なだけあり、その他のコーカソイド系民族や黒人、黄色人なんかもちらほら見受けられ、時折耳の長いエルフや身長の低いドワーフとすれ違うことすらあった。
『何を立ち止まっているのかしら?さっさと移動するわよ』
メアの言葉に俺は思考の渦から我に返る。
『すまん。この町がこんなに美しい何て思っていなかったんだ』
『あらそう。それで気は済んだのかしら?御上りさん』
『勿論だ。さっさと進もうぜ』
住宅地を抜けて、商店街へ入っていく。暫く歩くと素材引き取り屋を見つけたため、オークの棍棒と皮、それとジャッカロープの毛皮を売ることにした。
「買取をお願いできるかしら?」
『はいよ〜』
店の奥から金髪を短く刈り上げた、快活そうな若い男が姿を現す。
驚いたことにメアが共通語で話しかけたにも関わらず、彼は念話で返事をしてきた。
案外念話持ちは多いのだろうか?
『あんたは念話が使える何て凄いな』
『ああ、俺は領主の庶子の息子なんだよ。祖母が夜伽のお相手をして、親父はその時にできたんだ。だから俺の一族は少し優遇されてね、比較的治安の良い地区に店を構えることができたし、俺も学校で魔術をしっかり学べたんだ。ほら、耳が少し尖っているだろ?』
確かにエルフには遥かに及ばないが只人よりは耳が尖っている。
まだ解説していなかったが、実は人間の町に住んでいるエルフの殆どは特権階級であり、人間との混血だ。
本来、同じ善神側といっても仕える神が異なるので、余り両者が巡り合う機会は無いのだが、新たな地上の支配者として君臨した王侯貴族達はエルフの長命と保有魔力の多さに憧れ、自らの血統を安定させて絶やさない事を目的として、金に困り家族に売られたエルフや何らかの理由で追放されたエルフを保護し、交配するようになっていった。
その結果、多くの貴族は長命で魔力が多くなり、庶民からはより畏敬の念を受け、統治が楽になっていったようだ。
似たような現象は他の種族共起きており、遥か東の方の国家では神獣と人間の混血が皇帝として君臨しているらしい。
だとしても本物のエルフより魔力が少ないなら、客が来店するたびに念話を使用するのはかなりの負担になるはずだ。
『だとしても貴方の魔力量だと念話を使い続けるのは厳しいんじゃ無いかしら?』
俺が言おうとしていた内容をメアが代弁した。
『勿論、無闇にやたらと念話を使うなんてしないよ。見たところ、お二人さんは旅人のようだったからね。割と多いんだよ。共通語を話せない癖して念話は使える傭兵なんかが。だから試しに使ってみたんだ。女連れで放浪する酔狂な男なら念話も通じると思っていたよ』
(確かに今の俺は前衛だから衣服がボロボロで如何にも壁の外から来ましたって格好だ。さっさと新しい服に着替えたいな)
『ここを出たら、貴方の服を買いましょう』
何で俺の思考が分かったんだ?エスパーかな?
店員からお勧めの宿や雑貨屋を聞き出しつつ、オークの棍棒と皮を売った。
オークの棍棒は3つで金貨3枚、オークの皮は剥ぎ取り方が下手で価値が落ちてしまった上に、元々価値が低いので大銅貨5枚程度にしかならなかった。
ジャッカロープの毛皮も同様の理由により、銀貨3枚だ。
それなりの収入にはなったが何処かで魔物の剥ぎ取り方を学ばなければ。
日本にいた頃は血を吸ったら毛皮も骨もそのままポイしてたからな。
それが原因でカルト新聞に「チュパカブラ、現る!」何て見出しで掲載されて、一時期狩場の山にオカルトマニアがゾロゾロと訪れたもんだ。
狩りが思うように出来なくてかなり腹が立ったな。
だがメガネを掛けたヒョロガリが俺のした野糞を見つけて、
「君たち、これは世紀の大発見だよ!」とか喚きながら俺の野糞をカメラでパシャパシャ撮ってたのはかなり笑えたぜ。
素材買取屋をでた俺たちは被服店へ行き、俺の新しい服を買った。
新品だったので大銀貨5枚分も使っちまったが比較的上質で日持ちするのを買ったのだから仕方がない。
金が無ければ最悪、魔物狩りをするしかないだろう。
『次はこっちよ』
俺はメアの後を付いて行った。




