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鳳凰って知ってる?  作者: 刹那 連鎖
12/15

召集?

「まさか中央に召集がかかるなんてな」

「いやまさかですねぇ~……東西南北の騎士隊長が集められるなんて。珍しくないですか?というか初めてじゃないですか?僕が隊長になってからは初めてですよ。いや~なんかわくわくしますねぇ~」

「相変わらずお前煩いな。言葉量が多いんだよ、いつも。そんなだと部下に疎まれるぞ」

「いやいや東地区に戻ったら無口なんですよ、こう見えても」

「どうだかな」

 西地区のスパイヤー、東地区のヘルバウト。彼ら二人は中央騎士団にいた頃の先輩後輩だ。地区隊長の地位は騎士の中でもそう高くはない。中央騎士団の幹部たちの下に位置する存在だ。その代わり中央騎士団にいるよりはずっと自由で動きやすい。そこが一番の魅力だ!と地区騎士隊長になった者は揃って言う。

「今日は何のための召集なんですかねぇ~!」

「いやお前の地区での出来事がアンノウンの仕業かもしれないって話だろ?それで緊急招集だろ?」

「え!!??」

「いや知らんのかい!把握しとけよ!隊長だろ?カルカッタの冒険者ギルドで一人の冒険者が違法薬物を使用したって話らしい」

「ああ、なんかそんなことを言っていたような言っていなかったような……ってことはその違法薬物が……」

「アルファポップ……人工的に作り出された魔薬だ」

 スパイヤーはふーっと口笛を吹いた。


 二人の足は中央騎士団総合詰所へとたどり着いた。


「二人揃って仲がよろしいことで」

「お久しぶりですねぇ~!ラング隊長。どうですか北地区の治安は?東地区はちょっと迷惑かけちゃってるみたいで申し訳ないですね」

「くっくっく……いや東地区で起きたことですが仕方のないことですよ。個人の思考まで取り締まることはできますまい。ああ、北地区は今のところは問題なし、ですね」

 北地区騎士隊長、ラング シュタイナー。地区隊長歴は十五年という大ベテランで中央騎士幹部にも顔が利く存在でもある。

「おっと最後のお一人が来たようですね」

 見えてきたその姿に三人の隊長も重圧を感じる。本人は意識せずに覇気のような見えないものを出しているのだろう。それによって人間が感じるのは恐怖や不安。隊長であってもそれは変わらない。微かではあるが、三人は自分たちが震えていたことを自認した。


「お三方、揃っていましたか。申し訳ないです。遅れたようですね」

 サファイア ブルーバード。帝国最強の剣士であり、他国からも一目置かれている存在だ。地区隊長などに収まっているのが不思議なくらいで、皇帝からは何度も中央騎士隊長を務めてくれないかと打診を受けているようだが、サファイアは拒否しているらしい。

「いやいや何の。我々もちょうど着いたところなのでね。ところでサファイア殿、またしてもアンノウンの構成メンバーを捕縛したとか?」

「はい。ただ本当の下っ端で、アンノウンの中枢部のことは何一つ知らないようでした。まあただのチンピラだったようです」

「そうですか。それは残念。ただ今回は当たりかもしれませんね。違法薬物使用者が生きたまま捕らえられたのは初めてですからね」

 ラングのように期待している者は多い。今までアルファポップの禁止薬物を使用した人間は遺体となって発見されるか、そのまま自殺、病死など最期は結局死を迎えることが多く、生きて話を聞くチャンスなど一度もなかった。

 浮足立つ空気がこの中央騎士総合詰所に漂っているのも仕方のないことだろう。

 

 地区隊長の四人が詰所の中に足を踏み入れるともう多くの帝国騎士の重鎮たちが席に着いていた。

 四人は一人一人のお偉いさんのもとへ挨拶に回る。


 気付かれないように溜息をつくのはヘルバウト。至って真面目な男だが、彼はこういうのが嫌いだから中央騎士団から離れたのだ。だがやはりどこに行こうが騎士は騎士で、それが地方でも何も変わらない。

 しがらみだらけの世界で生きていくのは憂鬱だと思っている。

 隣の席で首を上下に動かして今にも眠りそうな後輩のスパイヤーはそんなことで悩んだりはしないだろう。そんな弱音というか、内面の部分を曝け出すほど気を許している相手ではないのだが……

 静寂が支配する空間で扉を開く音だけがやけにうるさく聞こえた。 

 入ってきたのは帝国騎士のトップ、中央騎士総隊長だった。名前は確か……

「お久しぶりにお顔を拝見しましたね。リア フォークス……最年少の騎士総隊長。」

 ヘルバウトはラングの呟きに軽く頭を上下させた。

東地区の隊長で中央区に行くことがほとんどないからか、総隊長の顔を見るのは何度目だったか。

 三年前に中央騎士副隊長であったリアが総隊長に電撃就任して帝国でも大きな話題になっていたが、へルバウトは興味がなかった。


「すまないな。少し遅れた。早速始めようか。ボーグ ヘイトリッチを連れてきてくれ」

 席に着いたリアの言葉を待っていたかのように数人の騎士が押さえつけながらボーグを連れてきた。

 カルカッタの冒険者らしい。パーティの名前はオブリビオン、正直聞いたことのない名のパーティだ。だがスパイヤーから聞くところによると西地区では名の知れたパーティだったらしい。腕があるというわけではなく、頻繁に問題を起こすという意味で名が知れているようだ。

 

 無理やり俯せに押さえつけて動きをさらに拘束する。

「では質問しよう、ボーグ ヘイトリッチ。どこでアルファポップを手に入れた?」

「……馬鹿が。誰がそんなこと言うかよ!」

 帝国騎士に連行される際は禁止薬物の使用は認めていなかったようだが、尋問の際にはあっさりと認めたようだ。だが肝心の薬物の出処については知らないの一点張り。

 ここでもそれは継続中ってことらしい……ヘルバウトは手元にある資料からゆっくりと顔を上げる。


「……もう一度質問をする。いいか?ボーグ ヘイトリッチ、どこでアルファポップを手に入れた?いや……誰から薬をもらったんだ?それくらいは覚えているだろう?」

 冷静だね、やっぱり。じゃないと務まらないのか、本当のトップは。自分なら無理だろうと想像するだけで寒気がする。地区隊長はそんなに重い責任はないし、所属の騎士たちをまとめるのもそう難しいことではないので楽だ。

 リア フォークスの姿を見ていると自分の今の立場のありがたみを深く感じる。

「お前が帝国騎士の頂点か?ってことは一番つえー奴ってことだよな?」

「お前に質問する権利はない。聞かれたことにだけ答えろ」

 騎士の押さえつける力が増す。苦しさからかボーグの口から息が漏れる音がした。

「何をされようが何も答える気はない」

「……そうか、それがお前の答えか。アスナロ、やれ」

 アスナロは皇帝直属の特殊部隊の一人で、その部隊は極東の国ヒノモト出身者だけで構成されている。その詳細は帝国でもほんの一部の者しか知らず、ヘルバウトの立場では言うまでもなく知る由もない。

 そんな人物が何故こんなところに?という疑問を思う前にアスナロは右手をボーグの額にかざす。

「……呪術か。珍しい性質の魔力だな」

 左隣にいたサファイアはボソッと呟いた。

「サファイア、お前あれが何か分かるのか?」

「ええ、なんとなくですけどね。呪術師ではないのでそこまで詳しくはないですが、あれはウガラーダ……術を受ける者の思考を強制的に開放するものだったはずです……」

「つまり自白を促す魔法のようなものか……」

「ええ。まあ効力を発揮するのに数分は掛かるはずですから、戦闘中に使えるものではないでしょうが……」

「こういう場面にはもってこいってことだな」

 呪術師の職業ジョブを持っている知り合いはいない。というかそれをわざわざ選ぶ奴は変わり者だとさえ思っている。帝国騎士は皆、戦士や侍などの前衛ポジションを職業ジョブを修得しているので呪術師を選ぶ気持ちが分からないのだ。しかも知り合いの冒険者に聞いても呪術師なんて選ばない。選んでいる奴はお前の言う通り変わり者だと言っていた。

 間違いなく仲良くはなれないだろうな。仲良くなりたいわけでもないんだけど。


 アスナロが右手を翳してから数分後、敵意を剥き出しにしていたボーグの様子は少し変わった。見るからに瞳の奥の光がぼんやりとした薄闇に包まれたのだ。ここにいるようでここにいない。何かぼーっとした感じだ。

「誰から薬をもらったか、答えろ」

 アスナロの言葉がやけに反響して聞こえる。それ以外の音は何も聞こえない。

「……ルティナ。アンノウンの最高幹部の一人」

 周囲が急に騒然としはじめた。

 ん?みんな知っている名前なのか?ヘルバウトはスパイヤーに視線を向けてみるが、首を横に振るだけだ。あまりにも罪人や闇ギルドなどの悪人たちに無頓着すぎたかもしれない。スパイヤ-を無知だといじるのはこれからはやめようと少しだけ反省した。

 まあでも名前を知らなくてもアンノウンの最高幹部と言われればかなりの大物なのは分かる。やはり違法薬物に関わっているのは大手闇ギルドのアンノウンのようだ。

 苦虫を噛み潰したようかのような表情を浮かべる者や悔しさからか膝の上で拳をぎゅっと握っている者の姿がここから見える。

 アンノウンが裏社会を牛耳ってからもう十年以上だと言われているが、その期間で何人もの騎士たちが犠牲になってきた。深夜の見回り中に急に襲われ、なぶり殺しにされた者や壁外の治安調査の際に魔法で焼き殺された者、挙げたらきりがないほどアンノウンの仕業だと言われている事件は多い。

 知り合いに現場を見た奴がいるが、目を覆いたくなる惨状だったと話していた。幸運なことと言ってはいけないのかもしれないが、まだヘルバウトの部下や同僚、知り合いが犠牲になったことはない。だからこそ今は冷静でいられるが、厳しい反応を示している者は親しい存在を喪った悔恨を抑えきれないのだろう。

 

「無関心だと危険だな。ルティナとかいう奴のこと少し調べる必要があるかもな」


「お、じゃあ何か分かったら教えてくださいよ、ね?」


「いやお前も調べろよ。何か分かったら教えてくれ。こっちもそうする」


「いやまあいいっすけど、あんま期待しないで下さいよ?」


「大丈夫だ。はなから期待してない」


「あ、そりゃあひでぇっすよ、先輩」


 二人のやり取りを聞いてサファイアは薄い笑みを浮かべる。

「仲がいいんですね、お二人は」


「そう見えるか?俺としてはもうちょっと先輩として敬って欲しいくらいなんだが」

 そう、どうもスパイヤ-は俺のことを同期のように扱っているような気がする。最低限の口調だけは敬語を使用しているが、中身が伴っていないというか、中央にいた頃はもっと上下がはっきりしていたんだが。


「めちゃめちゃ尊敬してますよ、先輩くらいしか俺と話してくれないしね。でも昔よりはそうっすね、慣れたというか自信がついたんすよ。これでも地区隊長、部下がいる立場っすから」

  スパイヤーが地区隊長になってまだ一年ほど。先輩である自分が地区隊長としての仕事を指南すると自然と懐いてきた。軽い態度を見せているが、何を考えているのか分からないところがあり、深く気を許すことはできずにいる。

  あらゆる知識は不足しているが、実力は隊長としては申し分ない。もしかしたら自分よりも強いかもしれないとヘルバウトは思っていた。


 リア フォークスの質問に次々と答えていくボーグであったが、ルティナがいる肝心のアジトは分からずじまいだった。

 これ以上はもう意味がないだろうとその場にいた誰もがそう判断したまさにその時、後ろの入り口の扉が乱雑に開け放たれ、衛兵が一人入ってきた。

「総隊長。ナタリア皇女殿下がお呼びです」

「ああ、今いく」

リア総隊長は側近の耳元で何やら話して部屋を出ていった。

 ナタリア第三皇女殿下は何かあるとすぐにリア総隊長を呼ぶ。裏で二人はできているのではと噂されているが、実際はどうなのだろうか。美男美女でお似合いだが、姫と騎士では地位の格差がある。現実的ではないだろう。

  隣を見るとスパイヤーが羨ましそうな表情を浮かべていた。

「お前、顔に出てるぞ」

「マジでいいなあ。俺も美人にお呼ばれしたいっすよ。数年くらい何もないんですから」


 この話は何度も聞いている。聞き飽きるほどに。

 ヘルバウトにはどうすることもできないし、ヘルバウト自身も独り身が長いので何とも言えない。

「サファイア、はどう思う?二人は付き合ってると思うか?」

「どうでしょう。付き合っているに一票ですかね」

答えを期待してはいなかったが、ヘルバウトが想像しているよりもずっとサファイアはノリがいいみたいだ。近付きがたいと思っていたのは見た目からくる勘違いだったようだ。

 

 総隊長の側近がアンノウンの情報について話し終えると会議はお開きになった。もっと有力な情報が手に入ると全員が思っていたのだが、ボーグからの情報が予想していたよりも薄かった。

これは独自でしっかりと調べる必要がある。スパイヤーにもやる気を出させて、出来ればサファイアとも協力していきたい、うん。

 

 それからヘルバウトは東地区に戻るまで路道を歩きながら険しい表情を崩すことはなかった。









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