第3話 新しい家族
高価そうな寝間着から屋敷の中にいる時に着る普通のよりも質素な貴族服へと着ていく。
部屋にある置き鏡を見ると大体五歳ほどの灰色の髪に優しそうな顔立ちと目の奥に少し鋭さを持つ子供の姿が映っていた。
(ほうほう、なかなか良い顔立ちじゃのう。それにしてもやはりこうして若くなった新しい体になるとあの転生魔法が成功したという実感がわくのう。)
実はというと成功率は良くて五分だろうと予想をたてていたのだがそのまま死ぬぐらいなら最後にかけに出ようと考え実行したのだが内心無事に成功して驚いているのが事実だ。そうこうしていると準備が出来たのかメイドに案内されて昼食を食べる食堂へと移動していった。向かう最中に内装などを見るが高価そうな芸術品などが廊下に等間隔に飾ってあった。金がかかっとるのうなどと思いつつ歩いているとそのうちの一つに目がいった。
それは装飾が施されているだけの片手剣なのだが何故が見覚えがある様な気がするのだ。
(あぁ、あの時に作ったのか懐かしいのう)
というのもユリアスが賢者と呼ばれるようになった頃に魔道具に刻む模様を練習した際の失敗作を材料費確保の為に売っていたのだが目の前にあるのはその内の割と出来の良い作品だったものだ。
「そちらは数十年ほど前に生きておられた大賢者ユリアス・ハンニバルが作ったとされる魔道具です。今は魔法効果は失われていますが全体的に刻まれた模様に美術的な価値があります。」
我が興味があると理解したのかメイドが説明を挟む。説明で『今は魔法効果はない』と言っているが元々この剣に付与魔法などは一切行っておらぬ。まぁ大方貴族に買ってもらう為に嘘をついたのだろうと思うが我としてはどうでもよいので話さないでおく。
そんな事もありつつも食堂の近くまで着くと向かいから我よりも幼そうな青銀色の髪の少女が勢い良く抱きついて来た。
「おにいさま、やっとおきたのですね。いまのおにいさまはわたしよりもおねぼうさんなのです。」
少女はだどたどしくもしっかりとした感じで話をしていた。これ位の年の少女がこれ程の言葉を喋るのは珍しいと感心していると我を案内をしていたメイドが「アウレクス様は昼食がまだですので食堂へご案内したいのですがよろしいでしょうか。クリスタ様。」と聞くと少し考え込んだ後に「いっしょにはいりましょう!」と言って我の手を握って食堂の扉へと走っていた。
我も転ばぬようにといっその速度で走っているとクリスタの傍に居たメイドが食堂の扉を開いた。中には大きな縦長の机と計八つの軽い彫刻の入った高価そうな椅子と一番奥のそれ以上に彫刻が入ってるよう見える椅子があり八つの椅子の内の奥の椅子には二名の女性がおり、左の方に座っている女性は金色のふんわりとした感じの髪と青のドレスを着ており右側の女性は先ほど我の部屋に来た銀髪ロングの赤いドレスを着た女性がそれぞれ座っていた。それに金髪の女性が座っている側にお揃いで金髪の十代前半の少年が二人座っており、向かい合うような女性の席の間に青い髪の五十代ほどの男性がその睨みつけるような目線を我に向けていた。
「ようやく起きたかアウレクス。レイルス家の男ともあろう者が何とも情けない事だな。」
うむ、どうやら父親らしきこの男は木から落ちても気絶しない頑丈な体を身に付けよとのご所望の様じゃ。全く五歳ほどの息子に臨むことでもないじゃろうに。
「父上、このような愚弟にその様な言葉をかけるのも無駄かと思います。」
今度は次男らしき金髪小僧がその様な事を言い出した。それを聞いてか金髪長男も「この様なガキはレイルス家には相応しくないかと」など起きたばかりの子供に罵詈雑言を浴びせる家族と思わしき連中。良く死ぬ決断をしなかったなとアウレクスに称賛をおくっていると我の母親である女性が口を開いた。
「アウレクスは起きたばかりでお腹が空いています。そういった話は食事の後でもよいのではないでしょうか。」
どうやら止めはするが食事終わりまでらしい。まあ食べ終わればさっさと部屋に戻ればよいだけの話じゃしのう。そういう考えにいたった我はそそくさと母と人席離れた席に座りクリスタはその間に座った。
そこから食事が始まるのだが二人の兄らしき少年からの罵詈雑言が止まらぬが気にせずに黙々と食事を食べていると金髪長男が顔を真っ赤っかにして机に拳を机に叩きつけた。
「俺様がわざわざ説教してやっているんだからちゃんと聞けよ!」
どうやら完全に聞く耳持たずの我の態度に怒り心頭らしい。だがご飯も食べ終わっているしもはやいる必要もないから部屋へと帰ることとしようと席から降りて扉へと走り出すと慌てて金髪兄弟は追いかけようとするが母親の「ご飯を食べ終わるまでは席を立たないでと教えたでしょう。」という一言で二人の動きは止まった。
扉の前に着いた我が部屋から出ようとすると後ろから父親の鋭い目線と「このまま逃げてお前はそれでいいのか」と脅す様な低い声で言われたが我は「何の話か我は分からぬが。」とだけ言い残して部屋を出た。
アウレクスが出て行った食堂は重苦しい空気が漂っていた。この家の当主であるクリフィード・レイルスは顔には出していないが驚いていた。というのも何時もは大人しく自分の言いたい事をいえない事を言えない息子が自分の思いを話してくれたからだ。長男のクリストフと次男のカルダスが苛ついていたがお互いに話し合って解決するべきことで自分がそう口うるさく言うべきではないなと思い目線をそらす。次に一人娘であるクリスタを見るとご飯を食べ終わったクリスタが「おとうさま、わたしはおにいさまのところへいってきます。」とだけ言って傍付きメイドと一緒に出て行った。それに続いて第二夫人のシャーシャが後を追うようにして食堂を出て行った。今だに部屋の中の空気は重苦しかった。
これからの生活に若干の不安を覚えつつ食事を進めて行った。