第2章 前世の記憶と大切な君
目の前が真っ赤に染まった。
ずっと一緒に入れると思ってたユーリちゃんが、目の前でトラックに轢かれそうになった。
咄嗟に体が動いた。
けれど結果は二人一緒に轢かれただけだった。
眩い光に目を開けると僕は豪華なお屋敷みたいな部屋で目を覚ました。
「ここは・・・・・・」
違和感を感じ手を見れば、まるで子供の様に小さい。
サイドテーブルに置いてある鏡を見れば、見たことがない顔がそこにあった。否もっと、成長したであろう姿には見覚えがあった。
【悪役令嬢と百合の華】
という女性向け恋愛ゲーム。
所謂乙女ゲームと呼ばれるものの、攻略対象クロード・フォン・エンブレ
ユーリちゃんの推しキャラである。
似てるなぁ。と感心していると、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい。」
「失礼いたします。クロード様目が覚めてよろしゅうございました」
クロードと呼ばれた。
もうこれは確実に悪百合の世界確定じゃないかな?
漆黒の髪に月さえ飲み込んでしまうような黒髪、吸血鬼のように白い肌。
イケメンではある。
「あ、あぁ。僕はどれくらい眠っていたのかな。」
「1週間ほどでございます。」
「そんなに・・・・・・」
現状を把握すべくそう尋ねたんだけど、思いのほか彼は眠っていたらしい。
「記憶の混濁が酷いようだ。すまないがメアリー説明してもらってもいいかな」
「かしこまりました。」
先ほどまでの真っ赤な光景は前世 天笠 啓太の記憶だろう。
クロードの10歳までの記憶はあるが、意識は完全に僕、啓太のものだ。
彼女がメイド長のメアリーというのはクロードの記憶だが
「まずおぼっちゃまのお名前はクロード・フォン・エンブレ様
エンブレ侯爵家の嫡男であらせられます。
1週間前、領地の視察に行かれた御父上の当主フロード様について行かれた際、暴走した馬に蹴られ助けに入った庶民の少女と共に意識不明となっておられました。
御年10歳を迎えられ、お目覚めになるのをお待ちしていた次第です。」
やけに詳しく話してくれたが、これで間違いはない。
「そうか、その助けてくれた少女の名はわかるか?」
「ユーリと言う名だけでございます。」
「!!」
二度と彼女に会えない上に、彼女の一番お気に入りのキャラになったのは、なんという皮肉かと思ったけど。
直感でそれはユーリちゃんだと分かった。
記憶が戻る前かもしれないけど、前世でもあの時逆に立場ならば彼女もそうしてくれた筈だ。
「至急その少女を探し出してくれ、礼がしたい。」
「かしこまりました。」
「あと、ユーリ・アマガサキという女性もついでに探してくれ」
「変わったお名前の様ですが、どのようなご関係ですか」
「メアリーに関係あるのか」
顔の半分を覆うくらい長い前髪の隙間から、メアリーを睨みつける。
クロードは根暗キャラだったから、見辛いことこの上ない。
これはイメチェンが必要かな。
「出過ぎた真似を致しました。先ほどのユーリなる少女共々探す手配を致します。」
「わかればいい。」
メアリーはお辞儀をすると僕の部屋を後にした。
そんなやり取りから数週間後のこと。
全国のユーリという名の少女や女性が集められた。
この中にユーリちゃんはいるのだろうか。
居ないかもしれない。期待はしないでおこう。
「まず最初に言っておこう。この中で僕を馬車から助けてくれたユーリという少女ともう一人以外は用がない。もし、エンブレ家の金や爵位が目当てで偽っていたり、一切関係がない者が居たら直ちに立ち去れ。
嘘をついたものは、罰刑を科す。」
酷いかもしれないが、これで大半の謝礼目当て、僕の婚約者目当ては立ち去った。
残った中に果たして僕が目当てとしている人物はいるだろうか。
助けてくれた少女を見つけ出すには、状況を再現するのがいいだろう。
騎士たちに馬を暴れさせてわざと僕の方へ向かうように仕向けた。
結局、残りの3人の中で咄嗟に動いてくれたのは、1人だけ。
ユーリ・ルイス。
「君があの時助けてくれたのか?」
「多分。」
「歯切れが悪いが、多分とはどういうことだ?
それとケータ・アマガサと言う名に聞き覚えは?」
「申し訳ありません。記憶が混乱しており・・・・・・っ!?」
この反応は間違いない。
ユーリちゃんだ。
彼女もこの世界に来ていたのか。
「ユーリちゃん。なんだね?」
「けい・・・・・・ちゃん?」
「あぁ、良かった。」
呆気にとられる残り二人なんかそっちのけで、僕はユーリちゃんに抱き着いた。