第1章 前世の記憶と乙女ゲーム転生
意識を手放した筈の私が再び目を開けた時、そこは病院のベッドの上ではなかった。
見慣れない天井、血まみれだった筈の視界はやけにくっきりしている。
(眼鏡をしてない?)
裸眼では近くのものしか認識できない程度の視力の筈だが、眼鏡をしている気配はないしそもそも目線が低い気がする。
「あぁ、良かった。ユーリ目が覚めたのね。」
見慣れない女性が入ってきた。
私が起きているのに気づいて涙を流している。
ずきりと頭が痛み、私は先ほどまでの出来事を前世の記憶だと認識した。
そして今世の記憶も思い出す。
今の私はユーリ・ルイス。
庶民の家に生まれたボーイッシュなだけの普通の女の子。
つまり所謂転生というものをしてしまったらしい。
あの最期の記憶の啓ちゃんが気になるが、この世界に一緒に転生しているかは分からないし。
啓ちゃんも転生しているとして名前も見た目も分からないのでは探しようがない。
「ユーリが目を覚ましたって!?」
「貴方そうなのよ!」
開けっ放しの扉から、40代くらいのおじさん否今世での父さんが入ってきた。
「えっと、父さん?」
まだ今世の両親に慣れないが、本当に心配していてくれたらしく、二人が泣きながら抱きしめてくれて
この人生では幸せな家族なのだろう。とそう思った。
しかし、私からすれば今あったばかりの赤の他人である。
元の人格であるユーリの記憶はあったとしても、人格は私。
簡単に以前のようには戻れなかった。
転生をしてから数日が過ぎた。
ここがどこの世界かはわからず仕舞いだったが、魔法とか魔王とかそんなものが存在するの間違いなさそうだ。
「そういえば、お前聞いたか?」
「何をです?」
未だに両親とはぎこちなかったが、それでも一緒に食事は摂るようにしていた。
「エンブレ家の末男のクロード様がユーリって名前の女性を探しているらしいぞ」
「あら。じゃあ、ウチのユーリも候補に入るんじゃなくて?」
(エンブレ家? クロード様?)
その単語から【悪役令嬢と百合の華】を思い出す。
思わずむせてしまった。
「だ、大丈夫かユーリ」
「だ、大丈夫」
もし、これが悪百合の世界ならば、今のクロード様とはご本人のことだろう。
だが、ゲームではユーリなんて人物は一切出てこなかったし、
そもそも侯爵であるクロード様が私ないしユーリという人物を探すのはおかしな話だ。
しかも女性。というからには成人している方のことを指すのだろう。
私には無関係だ。
その時まではそう思っていた。