序章 乙ゲープレイヤーが乙女とは限らない
小さい頃は、ずっと信じていた。
例えお姫様でなくとも、いつか王子様が現れてこんな自分でもありのまま愛してくれる。と
そんな夢物語が存在しないことは、三十数年生きた現在なら痛い程実感しているし、三次元の人間はクソだ。という価値観は小学生になる頃には培われていた。
イジメ、陰口、自分が強者だと思っている勘違いもいいところ。
そんな周囲に馴染める訳もなく、私は二次元へと逃げオタクとなった。
しかし、その頃には既に悟っていた。
私は決して主人公と結ばれることがない群衆の一人であり、女主人公にはなれないことを。
でも、それで構わなかった。
私のささやかな夢は、推しの幸せを見守ること。
とはいえ、二次元に行く。
なんてそれこそ夢物語だ。
現実逃避なんてわかってる。
それでも、社畜よろしくな現代社会を生きるには、癒しが必要だ。
仕事と家の往復。
趣味と言えば、帰宅後に乙女ゲームを貪る様にプレイするくらい。
でも、そんな日々も悪くはなかった。
幼馴染で同期の啓ちゃんに、頼られるのは悪くなかったし、
「ユーリちゃーん! お願い! 今日も手伝って!!」
「また~?」
そんな子犬みたいな目で見つめられたら、断れる訳がない。
「だってさ、先輩酷いんだよ」
「わかったわかった。しょうがないから乙ゲー1本で手を打ってあげよう」
「わーい! ありがとう」
それに、啓ちゃんは貴重な乙ゲー仲間であり、弟が欲しかった私にとっては、弟の様な存在だった。
後日啓ちゃんに約束通り新作の乙ゲーを買ってもらったんだけど、このゲームが面白かった。
【悪役令嬢と百合の華】
流行りの悪役令嬢に転生してしまったヒロインと本来のヒロインそして攻略対象たち全てにおいて私好みだった。
キャラクターたちもストーリーも。
特に私の推しはクロード・フォン・エンブレ様
私が嫌っているカイルの所為で、ヒロインに振られて闇落ちし、魔王になってしまうんだけど、最後までヒロインのリリーちゃんに手を下すことは出来なくてカイル ルートでは結局二人を祝福し亡くなってしまうバッドエンド。
クロード様ルートでは、リリーちゃんとめでたく両思いになって、平和エンド。
それから、乙女ゲームにしては珍しくモブっぽいキャラを攻略できるのも良かったし。
なんと言っても、タイトルにある悪役令嬢 蘭花さんを攻略して
百合もとい友情ルートに行けるのも良かった。
お陰で、徹夜で全クリしてしまった。
ここまで、熱中したのは久々で、もう若くもない体には酷だったようだ。
ふらふらとした足取りで、仕事へと向かう。
近くに住んでいた啓ちゃんも同じようで、声をかけようとした矢先の出来事だ。
「啓ちゃんおは」
私の言葉はそこで途切れた。
最期に見たのは、トラックが猛スピードで私の方へ向かってくる光景と、
人々の悲鳴。
そして、私に必死に手を伸ばす啓ちゃんの姿だった。