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T.F.Lovers  作者: 氷硝栖
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F.Lovers〜萌芽〜

書き溜めの投稿です。

暇つぶしになれば幸いです。

春。

それは別れの季節と出会いの季節が同時にやってくる、忙しくも華やかで切ない季節だと一般的には認知されているらしい。

それもそうかもしれない。

かくいう僕も二週間ほど前に卒業式を終え、今から入学式に向かおうとしている最中なのだから。

少し肌寒い気温のおかげで布団が気持ちいいことこの上なし。このまま二度寝も辞さない構えをとりたいが、それをしてしまうと高校生活初日から遅刻魔の烙印を押されてしまいかねないので、そろそろ脱出しよう。

自分の体温でちょうどいい具合に温まった布団からズルズルと這い出し、なんとか脱出成功。

そのまま上下灰色の寝巻きを脱いでいく。白いカッターシャツに袖を通し、紺色の制ズボンを履いていく。ネクタイは…あとでいいか。苦しいし、あれ。

六畳間の部屋から出てすぐに左に行き洗面台でバシャバシャと冷水を顔へ。

うん、冷たい!

でも目覚ましにはこれが一番効果的なんだよね、自分の中では。

手近にあったタオルで顔を拭き階段を軽やかに降りていく。

ドアを開けてすぐの所にある冷凍庫からパンを一枚トースターにセットしてから電気ポットで湯を沸かす。

その間に白いパン皿と水色のマグカップを準備してあとは待つだけ。

チンッ…と小気味よい音がしたら食べごろのサイン。パンを取り出してマグカップには紅茶を入れる。もちろんティーバッグのだけどね。

それらをリビングにあるテーブルに置いたら朝食の完成!

我ながらよくできたと思うさ。

両親が長期出張で夏まで帰って来ず、一人暮らし(仮)1日目にしては上出来だよ、うん。

薄茶色に焦げたパンにバターを塗って齧り付く。1日目からなんと優雅な朝なんだろう。

そんな感慨に浸りながら朝食を片していく。10分足らずで完食し、皿を洗い終えて再び自分の部屋へ。

クローゼットから薄めのワインカラーネクタイを締めて、紺色のブレザーを羽織れば準備万端。

ピッカピカの高校一年生ここに爆誕。

と。

ピンポーン。

呼び鈴によって1人だけの制服ファッションショーは早くも終わりを告げた。

「はい、森川ですが」

『起きてたか!田口だよ、二週間ぶりだな?』

「なんだグッチーか。悪質なセールスかと思って丁寧な対応しちゃったよ」

『ひでぇなおい!今日から同じ高校の新一年生だろ?一緒に行こうかと思ってさ』

「わかったよ、もう準備できてるから少しだけ待ってて」

『あいよ』

ガチャリ。

受話器を戻して支度をし、玄関へ。

学校指定のローファーを履き、玄関を出る。朝日が少し眩しい。

「よう、相変わらず気難しい顔してんなぁ」

「ほっといてよ、これがいつも通りなんだからさ」

「はいはいっと…。じゃ、行こうぜ。新しい学校へさ」

「そうだね、遅刻しても困るし」

二度寝しそうになったことはもちろん内緒である。

田口幸助(たぐちこうすけ)。気づいたら友達になっていたパターンの友人。髪は短くまとめ、大きく見開かれた双眸はキラキラと輝いて見えた。

グッチーとは中学で知り合い、いつも朝は共に学校に通っていた仲である。そして、これからも2人で通うことになるだろう。なにせ同じ高校に合格したんだから。

「ふわぁぁあ…」

「グッチーさぁ、少しは欠伸(あくび)を隠す努力はしないの?昔からずっとだよね?」

「だってよ、別に見られて恥ずかしいやつと一緒じゃねぇんだし」

「まぁ、それはそうかもだけどさ…」

気にしないことはとことん開けっぴろげにするのは美徳なのか恥なのかわからないけど…。

「もっちーはさ、色々気にしすぎだって。そんなに他人は自分以外に対してあんまし興味持ってないように思うんだけど」

「それは自分に自信があるから言えるんだと僕は思うよ」

そう。何を隠そう、グッチーは中学の頃陸上部に所属していてなおかつ、部内でもトップクラスの実力を持っていた人物だったからだ。

「あんなのが自信になるもんなのかぁ?よくわからんが」

「少なくとも学校カーストの中じゃ上位にいたのは間違いないよ」

「なんだよ、そのカーストって。そんなの気にしてるから眉間にシワができるんだよ」

「……余計なお世話だよ」

他愛もない会話。だが、気をつかう必要がない友人というのは心底ありがたいと思う。

そうこうしている間に、新しく通う学校が見えてきた。

「中学とは逆方面だが、かかる時間は同じぐらいか。起きる時間変えなくていいから助かる」

「それはよくわかる。通学時間が変わらないのはいい文明だもんね」

我が家から歩いて15分ほど。

閑静な住宅街を抜け、少しだけ坂をのぼった所に僕たちが通うことになる学校がある。

なんで学校ってだいたい坂の上に建っているんだろうね。学校の七不思議に加えても問題ないんじゃなかろうか。

「にしても、この坂道なーんもないのな」

「何もないって?」

「普通さ、学校の近くって桜とか咲いてないか?」

「そう言われてみれば…」

「なんか何も咲いてないと少し淋しい感じするよな。これから入学式だってのに」

「グッチーってさ」

「ん?」

「そういうところ、ロマンチストだよね」

「う、うっせー!特別な時間を特別な空間で過ごしたいってだけだよ、俺は」

「ふふっ、やっぱりグッチーはグッチーだね」

「なんだよそれ…」

プイッと拗ねるような仕草を見せて先を歩いていくグッチー。その照れ隠しもグッチーらしい。

僕も少し歩くのをはやめてグッチーの隣に並ぶ。

「グッチーと同じクラスなら嬉しいのにね」

「そうだな、新しいスタートを切るのに知り合いがいるかいないかじゃ随分と違うだろうし。どっかの誰かさんは友達ができるのか不安がってるし?」

「ぼぼ、僕、そんなこと、言って、ないよねっ?」

ユッサユッサとグッチーが身につけてる新品のカッターシャツの襟を掴んで揺らす。

「わ、わかったから!もう言わねーから離してくれっ…!」

スッと。

「わかってくれたなら、嬉しいよ」

微笑みを浮かべて、掴んでいた襟元を離す。

「もっちーの笑顔ほどこえーものはねぇな…ホント」

「なにか言ったかな?」

「いや、なにも言ってないです」

げんなりした様子のグッチー。はて、何か言ったかな?

そうしたじゃれあいをしている間に坂道を登りきっていたらしい。

学校の正門に到着。

周りにはちらほらと僕らと同じ制服をきた人たちが正門をまたいでいく。

「行くか」

「うん、行こう」

踏み出す。一歩前へ。

期待半分、不安半分。

僕の、僕たちの新しい学校生活が始まろうとしていた。

また書き次第投稿します。

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