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イチゴうさぎの奇跡 9

「ちわー」


 蛍が病室に現れた。


「もう、遅ーい」


 亜美は蛍の姿を認めると微笑み、そして、直ぐにやや口を尖らせて文句を言った。


「ごめん、ごめん。

でも、入院とかメール見た時は驚いたよ。

で、調子はどうなのよ」

「熱がちょっとあって。体がだるいかな。それから少し胸が痛い」

「ふーん。はい、これ、学校でもらってきた」


 蛍は鞄から紙の束を取り出すと亜美に渡し、自分は近くにあったパイプイスを引き寄せ座った。


「ありゃ、進路希望があるよ。早いなぁ」

「一次のでしょ。取り合えず書けって言ってたよ。期日が5月末。それまでには退院できるの?」


 蛍の言葉に亜美の表情は曇る。


「うーん。検査の結果次第で、どうなるかはまだ分からないって言われた」

「そうなんだ」

「ねっ、それよりホラ」


 亜美はニヘラと笑うと両手を広げる。


「ホラ、イ・チ・ゴ・ケ・ー・キ!」

 両手をぽんぽんと叩いて、催促する。

「無いよ」

「ほぇ?

むぅ。買ってきて言ったのに~」

「あいつ、来てないの?」

「あいつって?」

「健君」

「海道君?

蛍、私が入院している事、喋っちゃったの?」

「聞かれたからね。ちょっと悩んだけど。

亜美何で自分から言わなかったの?」

「だって海道君、携帯持ってないもん」

「携帯持ってないって、今どき?

一体、何時の時代の人間って感じね」

「そんなちゃらいものは持てん、男の矜持(きょうじ)がどうとかこうとか。

本当、男の人はよく分かんないわね」


 と、ぼやきながら亜美はベットの横からゴソゴソとピンクのカーディガンを取りだし羽織る。


「健君は特別でしょ。って、寒いの?」

「うん、それもあるけど……

海道君が何時来るか分からないとなると、無防備なパジャマ姿を見られるわけには参りませんから。

乙女の沽券(こけん)に関わります」

「矜持とか沽券とか。どっちも良く分からないわ。わたしにはね。

ふーん。そうか。健君来てないか。ケーキを買って見舞いに行くと言ってたけどね」

「海道君に『ぴょんぴょんうさぎのイチゴレアチーズケーキ』を買わせようとしたの!」


 亜美は驚き、叫ぶ。


「そうよ。それがどうかした?」

「どうかしたって、あそこ女性御用達じゃん。そんなの所に海道君なんか行ったら大惨事に……」


 蛍は悪そうな笑みを浮かべ、言う。


「ふっふっふっ、それが狙いよ」

「蛍……あんたってそんなキャラだったっけ?」

「なーんてね。

そう言う障害を乗り越えて買ってきてもらったケーキの方が美味しいでしょ。

あーあ、親心のつもりだったんだけど。

あいつ、何処でなにやってんだか」


 蛍が健に思いを馳せるその時


「ママーッ」


 甲高い女の子の声が病室に響いた。

 亜美と蛍は同時に声の方に顔を向けると隣のベットの女性に小さな女の子が飛びついていた。


「すまん、遅くなった」


 やや遅れて男の人が一人姿を現す。 


「良いのよ。私こそ忙しい時にこんなことになって御免なさい」

「まあ、お互いに謝るのは無しにしようか。

はい、おみやげ」


 男は箱を女性の前に差し出す。


「あら、何かしら」

「早く、早く。開けて、開けて」


 嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる女の子に促され、女性は箱を開ける。


「まあ、うさぎのイチゴレアチーズケーキ。しかも、丸ごと?」

「約束したでしょ、買ってくるって!」


 女の子は満面の笑みを浮かべながら言う。


「確かに約束したけど……

丸ごとって少し多すぎない?」


 と、言いながら女性は男の方を見る。


「まあ、色々あったんだ」


 男は頭を掻き、少しぎこちなく答えた。


「うんとね、さくらがね、ケーキ屋さんに行ったら、うさぎさん、売り切れでね。

ママに会えないって泣いてたら、おっきなお兄さんがね、しゅーと小さくなってね。

ママに会いたかったら御免なさいって言えばいいよって言ってね。

さくら、うん、分かったって言ったら、お兄さんがね、ご褒美にこれくれたの」


 うん、うんと話を聞いていた女性は、最後まで女の子の話を聞くと、補足を求めて男の方を見る。


「うん、まあ、そう言うことだ。

売り切れで、買えなかったんだが前のお客さんが箱ごとくれたんだよ。

見た目は凄くゴツかったけど、優しい人だったね。

後で店の人に聞いたら、どうしてもそのケーキが欲しくて、売り切れた所をわざわざ作って貰ったって言っていたよ」


「大きなお兄さん?」

「見た目がゴツい?」


 亜美と蛍は互いに顔を見合わせる。


「「まさか……」」


 亜美は女性の方を見ると女性も亜美たちの方を見ていた。

 女性はにこやかに笑いながら言った。


「良かったら、ケーキ一緒に食べませんか?

三人では食べきれなさそう」



2018/05/08 初稿

2019/09/14 改行などのルールを統一のため修正


《オマケ》

亜美たちが病室でケーキを切り分けている、その病棟の1階のエレベータに乗り込む車椅子の男と椅子を押す金髪の女

車椅子の男:「キナコ、痛いよ。俺、足の骨折れてるのかなぁ」

金髪の(キナコ):「ピーピー煩い。それ見るためにレントゲン撮るんでしょ。えっとレントゲンの病棟は……っと、3階ね」

車椅子の男:「キナコ、キナコ。足の骨折れてたらどうしょう。俺、嫌だよ」

キナコ:「もう、だからその名前を人前で言わないでって言ってるでしょ。

本名だけに本当にムカつくわぁ。

もう、折れてたら入院よ、に・ゅ・う・い・ん!

あったりまえでしょ!

……

……

何よ、そんな情けない顔しなさんな。ちゃんと面倒見てあげるから。

もう、心配いらないって。バカねぇ……」


次話は5月9日の予定です。

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