表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/45

イチゴうさぎの奇跡 7


*未成年者の喫煙は(法律で)禁止されています。


*喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります。疫学的な推計によると、喫煙者は肺がんにより死亡する危険性が非喫煙者に比べて約2倍から4倍高くなります。

 健は出口に向かう。心なしか体が左右にヨロヨロと揺れている。


「待ちなさい」


 ドアノブに手をかけた健を呼び止める声があった。

 振り向くと男が一人立ってた。

 逆三角形の顔にノーフレームの丸メガネ。やや顔の作りが上の方に集中しており、顎の辺りが寂しく見える。

 店の奥から自分を見ていた視線の一人だと健は気配で察した。だが、そんなことはどうでも良いことだ。


「どうしても『ぴょんぴょんうさぎのイチゴレアチーズケーキ』でないとダメなのかね?」

「あんた、誰だ?」

「これは失礼しました。私はこの店の店長で、奄美(あまみ)と言います。

イチゴレアチーズケーキにこだわられているのは彼女へのプレゼントだからですか?」

「ど、どうしてもその事を!

店長はエスパーか何かか?」


 健は驚きの声を上げた。


「いや、あなた自分で言ってましたよ」


 奄美は苦笑する。


「そ、そうか。

そうだ。買うと約束をしたが、どうも守ることができなさそうだ」


 健は自嘲気味に口許を歪めた。


「それもこれも全部自分のせいだからな。仕方ない」

「その事ですが何とかできるかも知れません」

「なっ!本当か?

売り切れたのではないのか?」


 驚きの表情を浮かべ、健は叫んだ。


「確かに売り切れですが、時間が貰えれば今から作ることはできます」

「なんと。わざわざ作ってくれると言うのか?

待つ、待つ。幾らでも待つから是非お願いする」


 健は店長の手を取るとぐいっと顔を近づける。店長は健の圧力に押され背骨が直角になるほど折れ曲がった。


「じ、じゃあ、その辺で待っててく、ください」


 店長は顔を真っ赤にして答えた。


「おう。分かった。頼む」


 健はそう言うと近くにあったイスに腰掛けた。


「良かったんですか?あんな事を引き受けて」


 厨房で優花が言った。


「う~ん。なんか凄く残念そうだったから、見ていられなかったんだよね。

それに助けてもらったし、材料も何とかあったし。ま、良いかなぁって思ったわけさ」


 店長はボールの中の生地をかき混ぜながら答える。


「わたしも反対してるわけじゃないんですけどね。

でも、見てて面白い人ですね。最初見たときはビビりまくりましたけど」

「そうだね。優花ちゃんも彼氏にするならああいうのを選んだほうが良いよ」

「えー?でも、見た目が」


 優花は薄い笑いを浮かべる。


「あの手の人間は人を裏切らないからね」

「そうですかね。でも、無器用でなんか面倒臭そうですよ」

「そうそう、ああいう人間は回りを振り回わすんだよ。大騒動になるんだけどね、最終的には人を幸せにするんだ。不思議なもんだね。

好き嫌いは別れるけどねー。

ほい、クリーム取って。それからイチゴ準備してね」

「あっ、はい。

ふーん。深いですね」

「そうそう、深いのよ。このクリームの出来以上にね」


 店長はクリームのトロ味を確認しながら答えた。


 イスに腰掛けていた健は、無意識にポケットをまさぐっていたのに気がついた。

 煙草をさがしていたのだ。

 前なら必ず煙草の一箱、二箱放り込んでいたのだが今はもうない。

 禁煙したからだ。

 禁煙してから大分経つが、なかなか癖と言うものはなくならないものだと、健は苦笑する。

丁度その時、店長が箱をもって現れた。

健は直ぐに立ち上がる。


「おお、できたか」


健は受け取った箱を開け、少し驚く。


「丸ごと?」

「店に並べる時は切り分けるけどね。一から作るとこうなるね。多い分には問題ないでしょう」

「ああ、問題ない。幾らになる」

「お代は良いですよ。好きでやったので」

「なに?それはダメだ。

職人が自分の技能を安売りしてはダメだ。

正当な対価を要求すべきだ。さあ、言ってくれ」


 そう言う健を店長は意外そうな表情で見つめ、笑いだした。


「くっくっく。君は本当に面白いなぁ。

じゃあ、お言葉に甘えて……」


 代金を払い、意気揚々店を出ようする健と入れ違うように小さな女の子が入ってきた。

入ってくるなり女の子は大きな声で言った。


「あの、えっと。

『ぴょんぴょんうさぎのイチゴレアチーズケーキ』下さい」


2018/05/06 初稿

2019/09/14 改行などのルールを統一のため修正



『ぴょんぴょんうさぎのイチゴレアチーズケーキ』は6号です。切り分けるときは6等分にして売っています。


と言うことでオマケです。


《オマケ》

健:「なに?それはダメだ。

職人が自分の技能を安売りしてはダメだ。

正当な対価を要求すべきだ。さあ、言ってくれ」

店長:「くっくっく。君は本当に面白いなぁ。

じゃあ、お言葉に甘えて、4800円頂きます」

健:「えっ?」

店長:「4800円です」

健:「お、おう。分かった。払うぞ。払う」(甘えときゃ良かった……)


次話投稿は5月6日 10:00の予定です。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ