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イチゴうさぎの奇跡 5

「おらぁ」

 男は健の顔面に左右のパンチを打ちこむ。

 しかし、健は微動だにしない。

「この。なめやがってぇ!」

 健の態度に男は激昂すると、右手を大きく振りかぶって渾身の右ストレートを放つ。

 健はそのストレートを左手で軽くいなした

「うがぁ」

 とたんに男は自分の右手を押さえ悲鳴を上げた。

 店内では店長と優花が窓に手をつき男と健の攻防を食い入るように見ていた。

「な、何が起きたんでしょう。単に腕を払われただけですよね。

なんで殴りにいった方が痛がってるんですか」

「僕はパテェシエだから。むしろ優花ちゃんの方が……」

「だから、私が店長より格闘技に詳しいとかあり得ませんから」

 などと二人が緩い会話をしている間も男と健の戦いは続いていた。

「だりゃー」

 気合い一閃、男が前蹴りをしてきた。

 健はほんのちょっと体の軸をずらす。そして、足を軽く上げて男の蹴りをいなした。

ガツッ

 と鈍い音がした。と、同時に凄い悲鳴が上がる。

「うぎゃあぁ」

 またもや、男が自分の足首を押さえ、転がり、のたうつ。

「わっ、また!

なんであんなに大袈裟に痛がってるの?」

 優花は不思議そうに呟く。

 優花が不思議がるのも無理はない。

 はたから見ると健は男のパンチやキックをガードしているだけに見えたからだ。だが、実際はパンチやキックをいなす時に健は自分の膝や手首の骨といった人間の一番固いところを当てていた。

 男にしてみれば殴りや蹴りにいった手足を金槌で殴られたようなものだ。痛がらない方がおかしかった。

「きゃー、ちょっと、達ちゃん、達ちゃん!

大丈夫?しっかりして」

 金髪の女が慌てて駆け寄る。そして、健の方をきっと睨む。

「あんた!達ちゃんになんて事するのよ」

「達ちゃん、達ちゃん、うるさい。お前は浅倉みなみか?」

「う、うるさいわね。あんたにそんなこと言われる筋合いはないわ。このばーか、ばぁーか!」

 自棄になったように女は健に罵声を浴びせる。

 健はヤレヤレという風に頭を掻く。

「バカでもなんでもいいが、さっさと列に並ぶかどこか行くか決めてくれ」

「キ、キナコ。俺、スッゲー足が痛い。医者、連れてってくれ」

 男が女の腕を取ると泣きそうな声で言った。

「え、ええっ?

ていうか、その名前であたしを呼ばないでって言ったでしょ。

何、そんなに痛いの?

……もう、しょうがないわね、ほら、立って。

車運転できそう?

できない。ああ、もう!

良いわ、後ろに乗って。あたしが運転するわ」

 女は男を車の後ろにほうりこむと運転席に乗り込む。

「良い、今度会ったらただじゃ置かないから覚悟しておきなさい」

 女は運転席から顔を出し、テンプレな台詞を吐き、車を猛発進させた。

 後には鼻につく排気ガスと健たちが残った。

パチパチパチ

 スィーツフォートレスに並ぶ女性陣の間から拍手が沸き起こった。

「おお、凄い。あの大男の人、見かけによらず良い人ぽいですね」

 優花も手を叩きながら言う。

「そうだね」

 店長も手を叩きながら同意する。

「あれ、あれあれ。店長、あの人どっか行っちゃいますよ」

 健が店内に戻ってこないのを見て、優花は驚きの声を上げた。

 健はのろのろと列の最後尾に並び直す。

「うわ、あの人最後尾に並び直してますよ」

「多分、さっきの兄ちゃんと揉めた時に列を離れたんで並び直したんだね」

「うはっ、なんと律儀な。

店長!あの人、凄く良い人じゃないですか!!」

 優花は健を指差して大声で叫ぶ。店長もうんうんと頷いた。

 そして、二人同時に呟いた。

「「でも、めんどくさそう……」」



2018/05/04 初稿


防御する時に自分の頑丈なところを当てて相手の手や足を破壊するのは空手の防御する方法であるようですね。

健は格闘技を正規に習ったことはありませんが番長グループには格闘技を習得した者が多くいて、彼らとの戦いのなかで覚えています。(と、言う設定)


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