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蛍はいつも泣いている T T

「なんで健が亜美を呼び出しているのよ?

亜美になんの用事なの」

「それは言えない」

「あーー?なにが、それは言えないよ!

私の親友に変なことをしたら承知しないから」

「変なことなどしない」


 じゃあ、何をするつもりだ、となおも問いただす蛍に健は口を閉ざした。

 眉間にシワを寄せ首を捻る蛍。だが、すぐにあることに思い当たった。なんのことはない男でも女でも異性を呼び出すならばやることは大体一つしかない。


「まさか、あんた、亜美のことを……

嘘っ!だって、あんたの好きな()って『ネコの君』じゃなかったの」

「なんだ。その『ネコの君』とは」

「あんたが子供の頃、好きだった猫を抱いてた女の子のことよ」

「なっ?!そ、そ、そ、そんなのは居ない!」

「居たでしょ。私、子供の頃見たんだからね、健がその女の子と一緒にいるところを」

「一体何年前の話をしているんだ」

「それはこっちの台詞!

健がその女の子に振られたけど、ずっとその子のことを思っていたのを知ってたよ。

ずっと思っていたから、私は……

なのになんで今になって亜美なのさ、なんで亜美のことを――」

「振られてない。いや、そもそも何も話してもいない。あいつは、俺が何も言わないうちに引っ越して居なくなった」

「えっ?それって……

えっ、つまり、亜美が『ネコの君』?」


 健がコクリと頷くのを見て、蛍は口をあんぐりと開けた。


「マジかぁ~。全く気づけなかった。

って?!

あーーー、私のバカ、バカ、バカ」


 蛍はその場にしゃがみこむと、自分の頭をポカポカ叩き始めた。


「しくじったぁ~。

とんだ道化師(ピエロ)だ」


 蛍はそのまま仰向けに大の字になった。

 急に不可解な動きを始めた蛍を健は半ばどうしたものかと思いながら見下ろしていたが、さすがに心配そうに声をかけた


「どうした。大丈夫か?」

「うるさい。大丈夫じゃないわ!

もう、私のことはいいから行きなさい。そろそろ時間なんでしよう」

「お、おう。本当に大丈夫なのか」

「だから大丈夫じゃないって……

ああ、大丈夫よ、大丈夫。勝手に自爆してるだけだから放っておいて。さっさと行って」

 

 蛍はヒラヒラと手を振って、健に立ち去るように促した。健は少しの間、蛍をこのままにしておいて良いものか悩んでいたが、結局、じゃあな、と言うとその場を去った。

 屋上の扉がガチャガチャと開き、閉じる音を聞きながら、蛍はモゾモゾと携帯を取り出した。

 

《ごめん。行けなくなった。

一人でがんばれ!

でも、大丈夫、身の安全は保証するから。

優しくしてやってね》


 そうメールすると携帯の電源を切った。


「これぐらいはしてあげるわ。健。

後は自分で頑張れ。ノーアドバイスよ。

撃沈しろ。

フラれろ、フラれろ……」


 蛍は呪いのようにぶつぶつと呟く。

 寝転がり見上げる屋上の空は馬鹿みたいに澄みきっていた。

 その青さがやけに目にしみた。


「失敗したなぁ。こんなことなら、あいつの気持ちなんて無視してぐいぐい行けば良かった」



「えっ、嘘。これはどれを選べばいいのよ」


 パソコンを睨み付けて亜美はぶつぶつと呟いていた。それを横目で見ながら蛍はため息をついた。


 選択、選択、選択。


 蛍は思う。

 ゲームもリアルも変わらない。人は常に何かを選択して日々を過ごしている。ゲームとリアルの違いは目の前に選択肢が現れるかどうかぐらい、だと。

 自分も亜美も健も無数の選択をして今がある。

 例えば、あの日。公園で警官に問い詰められていた健を助けるのか、助けないのか。

 自分はただ、黙ってみていただけだった。


 例えば、健と亜美が一緒にいたのを目撃した時に何か行動を起こしたか、起こさなかったか。

 やはり、自分は何もしなかった。


 亜美が引っ越していた時に健との距離を縮めようともしなかった。


 なにもしないのも一つの選択ではあるけれど、思い返せば自分はいつも泣きたくなるようなしょぼい選択(チョイス)ばかりしていた。


 それに比べると亜美は……


 蛍の視線が再び亜美に注がれる。と。


「うはっ、やった!トゥルーエンドだ」


 亜美が突然両手を上げて叫んだ。蛍は思わず椅子から立ち上がった。


「えっ?まさかクリアしたの。嘘でしょ」

「本当だって、ほら、見てみ」


 誇らしげに亜美は蛍にパソコンを向けた。確かに画面にはトゥルーエンドの絵をバックにエンドロールが流れていた。


「亜美。最初に自販機でトマトジュース買った?」

「トマトジュース……?」


 亜美の頭に「?」マークが浮かんでいる。

 そう亜美は買っていない。蛍は、亜美がトマトジュースを買っていないのを常に確認してほほくそ笑んでいたのだ。絶対クリアできないと。なのにトゥルーエンドとは。


「まさか、あんた……

新ルートを見つけたの!?

ちょっとどういうルートを通ったのか教えなさい!」

「えっ?良く分かんないよ。色々適当にやっていたから」

「適当にやっていたからじゃない!

今すぐ、頭から全部思い出しなさい」


 蛍は詰め寄ると、亜美の首に腕を回す、ぐいぐいと締め上げた。


「いや、止めて、止めて。痛いから」


 亜美はこういう()なんだ、と蛍は思った。


 どこまでも真っ直ぐで、適当に選んでいるようで結果的にはいつも正しい選択をする。多分、健も同じく人間(タイプ)だ。


 それに比べて自分ときたら……


 情けなかった。その泣き笑いの感情を蛍はぐっと飲み下した。


「つまるところは、落ち着くところに落ち着いてるってことなのよね」

「何?なんのこと?」

「なにも。こっちの話よ」


 蛍はぐにぐにと体を揺すり、亜美を責め上げる。


「ちょ、苦しい、苦しい。降参よ。こ、う、さ、ん!」


 人生は選択だ。


 意識する、しないに関わらず、色々な選択をした結果が今なんだ。後から考えると泣きたくなるような選択だとしても、出てしまった結果は受け入れるしかない。と蛍は自分に言い聞かせた。


 まあ、それに健は幸せなのだろう。そして、亜美も多分幸せなのだろう。つまるところは健も亜美も似合いのカップルなのだ。


 では、自分は?


 と蛍は自問する。

 

 それほど、泣けるわけではないわ


 少し考えた後、蛍は自分にそう結論づけた。

 

 一人の恋人と二人の親友。トータルで考えた時にどちらが得なのか、蛍には分からない。きっと死ぬ間際にならなければ答えは出ないだろう。

 

 ならば、今選ぶべき選択肢は……


 この胸のモヤモヤに従い、蛍はもう少しだけ亜美の首を締める腕に力を込める選択(チョイス)をするのだった。

 


 男は白い廊下を歩いていた。

 やがて、廊下の突き当たりに達する。

 突き当たりには机が置かれ、1人の女性が座っていた。男は机に山積みにされたチラシを1枚テニスコート取った。

 男に気付き、女が顔をあげた。

 整った顔立ちだったが、どこか疲労の色が滲んでいた。


「このチラシに書かれているのは本当か?」


 男の問いに女は一瞬目を伏せたが、すぐに視線を男に戻した。


「はい。亜美は先天性の心臓疾患で、手術をしないと命が危ないのです。しかし、日本では許可されていないのでアメリカに行って手術をするしかないのですが、それには膨大なお金が必要なのです」

「そうか、やはり……

いくらぐらい必要なのだ?」

「二億です。

皆さんのご好意で今ようやく五千万程集まりましたが、まだ、足りません。

直ぐにでも手術がしたいのですが……」


 女はうつむくとそっと目を手で拭った。


「今、これぐらいしか手持ちがない」


 男は五千円札を一枚机に置いた。

 女は軽く会釈をすると傍らに置いてある名簿とペンを差し出した。


「ありがとうございます。娘も喜びます。

では、すみませんがここに名前を……」


 だが、男はそれを無視して踵を返し元来た廊下を戻ろうとする。


「あ、あの」


 立ち去ろうとする男を、女は慌てて呼び止めようとした。


「また来る」


しかし、男は振り向きもせず、そう答えたきりだった。



2019/11/03 初稿


《オマケ》

亜美 「う~ん」

蛍  「どうしたの、難しい顔して」

亜美 「うん。今回私、ゲームして遊んでるだけな気がして。ヒロインとしてどうなんだろうと、思うわけよ」

蛍  「なにを今さら。あんた第一幕はケーキ食べてるだけじゃん」

亜美 「そ、そういわれれば……」

蛍  「第三幕はDVDとヒーローショー見てるだけよ」

亜美 「えっ、うっそ!

……ほんとだ。私、回想シーンでしかでてきてない」

蛍  「ちなみに実写だったら回想シーンは子役がやるからね」

亜美 「マジですか?」

蛍  「マジです」

亜美 「ヒロインなのに影、薄っ!」

蛍  「まあ、このまま死んじゃいそうだし。ますます影が薄くなるわね」

亜美 「そ、それよ!今までもなんとなく伏線張ってたけど、今回の最後のこれはなによ。私、危ないじゃん!!」

蛍  「ヒロインが入院している恋愛物って大抵ヒロインがお亡くなりになるよね。惜しい子をなくしたわ(遠くを見る目)。

でも、健のことは私が面倒みるから安心して」

亜美 「マジですか。私、マジで死んじゃうの?

で、でも手術すれば助かるんでしょ」

蛍  「……」

亜美 「無言は止めてー(悲鳴)」

蛍  「気になる亜美の運命は第5幕で明らかに成るかもしれません」

亜美 「かも、かよ……(ぼそり)

と、言うことで(気を取り直す)」

亜美・蛍「「第5幕『Inochi no Nedan(命の値段)』!

しばしお待ちください」」

健  「亜美。お前は俺が助ける!」

亜美・蛍「わっ!び、びっくりした」


《第4幕の登場人物》

久野 亜美

高校二年生。

高校に入った時に一方的に健にプロポーズされた。

亜美いわくタイプではない。

ちなみにタイプは幼い系、メガネのドS系ぽい(本物は嫌い)のが好き。どちらかというと腐女子の系列。


海道 健

高校二年生。亜美の通う高校の番長。番長連合の四天王の一人。 

学ランを着たゴリラと揶揄されている。見た目はゴツくて怖いが実は心優しく、真面目で筋を通す男。

実は蛍とは小学生時代からの知り合い。苛められているのを助けた。それが原因で喧嘩等をして乱暴者のレッテルを貼られたのは彼が不良と呼ばれる一因でもある。


堂本 蛍

亜美の中学からの同級生

両親は蛍が小学生の時に離婚しており、今は母子家庭。

離婚抗争中にストレスで全身に発疹ができて、それが原因で苛められた事がある。今はそこから立ち直り、強く生きている。


堂本(どうもと) 真奈美(まなみ)

蛍の母親。衣料品販売店の支店長をしている


堂本(どうもと) 光夫(みつお)

蛍の父親。ほとんど登場して来ない。今後も出てくる予定はない。可哀想なので名前だけ決めてみた。

えっ?名字が一緒だって?

ぐ、偶然ですから。

蛍の母親の旧姓と父親の名字が一緒だっただけです。

うっかり、離婚前の蛍の名字を堂本としてしまったのを強引に無かったことにしようとしている訳ではないです。


藤枝(ふじえだ) 瑠璃果(るりか)

亜美達の同級生 クラスカースト上位で小学時代、蛍を苛めていた事がある。なにかと蛍や亜美に突っ掛かってくる。

とにかく一番が好き。


立見(たてみ)謙一(けんいち)

瑠璃果の小学生の頃の取り巻きの一人。

良かった。名前つけれた。


日野(ひの)優太(ゆうた)

取り巻き2号

小柄で少し開いた口から前歯が目立つところから、どこかリスを連想させる


城崎(しろさき)(はじめ)

取り巻き3号

(名前はついても扱いは変わらない)


早瀬 尚美

亜美の入院している病院の看護師。新人



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