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僕のヒーローアカゴケミドロ  12





 唯は目を瞑り、聞こえてくるであろうウサギの断末魔に備えて身を硬くした。

 しかし、幾ら待っても断末魔は聞こえてこなかった。

 おそるおそる目を開ける。

 その視界にナイフを振り上げた大悟の姿が飛び込んできた。

 やっぱりと思い、急いでもう一度目を閉じようして、唯はおかしなことに気づく。振り上げられた手が小刻みに揺れている。良く見ると大悟の手首をがっしりと握るもう一つの手があった。大悟の体が横に動き、後ろから赤茶色の巨体が姿を現した。


「アカゴケミドロ……さん?」


 唯は呆然と呟く。逆に大悟は後ろを向いて叫ぶ。


「また、お前か。一体何だって――

あっ、痛っ」


 大悟は顔をしかめて、持っていたナイフをポトリと落とす。


「くそっ、手ぇ、放せよ。痛いじゃない――

がはっ」


 強気で怒鳴る大悟の腹にアカゴケミドロの蹴りがめり込んだ。

 もんどり打って大悟は地面を転がる。

 周りの少年たちは、急な展開についてい行けずに立ちすくみ、誰も動かない。

 アカゴケミドロは悠々と唯に近づくとウサギを差し出す。

 さっきまで大悟が持っていたウサギだ。

 いつの間に奪ったのかと戸惑い、黙ってみていると、アカゴケミドロはもう一度、ぐいとウサギを唯に差し出した。


持ってろ、って言っている?


 唯は思いつくと、慌ててウサギを受け取った。


「くそっ、くそっ、くそ!

今度は容赦しないぞ。お前たち、ぼうっとしてないでやっちまえよ!!」


 大悟が地面に倒れたままヒステリックに叫んだ。その声に弾かれたように少年たちがアカゴケミドロに襲いかかる。

 ゆらりとアカゴケミドロの体が揺れた。

 アカゴケミドロの頭から伸びていた触角のようなものが鞭のようにしなり、近づこうとする少年たちを打った。


「イタッ」

「うあ!」

「ぎゃ?!」


 三人の少年がほぼ同時に悲鳴を上げ、地面にうずくまる。


「ハリケーンラッシュだ」


 アオインジャーを苦しめた技が目の前でリアルに再現されるのを見て、唯は驚きの声を上げた。自然とガッツポーズが出る。

 アカゴケミドロは大儀そうに肩を回し、一人残り棒立ちになっている少年へと顔を向けた。

 仲間内で一番背が高い出っ歯の少年が目を丸くして立ちすくんでいた。一瞬出遅れたお陰でハリケーンラッシュを免れたのだ。


 さっき、僕を助けようとしてくれた女の人をつきとばした奴だ


 と、唯は思う。

 少年は、一度情けない顔で大悟を見たが、大悟に睨み付けられて震え上がる。


「うわあああ、こんちくしょう~」


 大声で叫ぶと、目をつぶり出っ歯をむき出しにして少年はアカゴケミドロに殴りかかる。

 アカゴケミドロは難なく少年のパンチを避ける。避けた時にアカゴケミドロは少年の足をひっかけた。


「うわ?」


 少年は大きくバランスを崩す。アカゴケミドロは倒れようとするその少年の腕を掴んだ。唯は、一瞬倒れそうになる少年を支えるのかと思ったが、すぐに違うことがわかった。

 アカゴケミドロは少年の腕を捻ると支えるどころか引っ張ったのだ。

 ゴキン、と鈍い音がすると同時に少年が鋭い悲鳴を上げた。


「肩が、肩が、痛い、痛い」


 少年は肩を教えてゴロゴロと地面を転がる。


「何しやがる、け、け、警察に言うぞ」


 大悟が金切り声を上げながら足をじたばたとさせる。まるで駄々っ子のようだった。

 アカゴケミドロは大悟の方を見る。


「ひっ」


 アカゴケミドロがゆっくりと近づいてくるのを見て、大悟はしゃっくりのような悲鳴を上げた。


「な、なんだよこっち来んなよ」


 大悟は上ずった声で叫び、ずるずると後ずさる。立たない、いや、立てないのは腰が抜けているからだろうかと、唯は思った。


「弱い奴は強い奴に踏みつけらていれば良い。そう言ったな?」


 アカゴケミドロのくぐもった声が大悟にかけられた。


「な、な、なんだよ。言ったがそれがなんだっつーんだ。文句あんのか?!

言っとくけどな、俺を殴ったり蹴ったりしてるオメーも俺たちと同じだぞ。

分かってんのか」

「異存はない。お前の意見に俺は100%同意する。

弱い奴は踏みつけられる。

文句は言えない。

その通りだ。

だから、一つ、聞こう。

お前に覚悟はあるか?」

「へっ?覚悟ってなんのだよ」


 大悟はきょとんとした顔になる。

 アカゴケミドロは大きく足を上げると思いっきり大悟の腹を踏みつけた。そして、そのまま体重をかける。


「ぐえぇ」


 呻きながらなんとか逃れようと大悟はもがくが、なんともならない。唯にはピンに止められた昆虫のように見えた。


「力に頼るものは、より強い力に踏みつけられても文句は言えない。

お前にその覚悟はあるか、と聞いている」


 アカゴケミドロは大悟の髪を引っ張り上げる。


「痛い、痛い。止めて、止めて」


 不意に大悟が泣き出した。だが、アカゴケミドロは許すそぶりを少しも見せない。


「俺は見ているぞ。

ずっとお前たちを見ている。そして、お前たちがしたことをお前たちにしてやる。

頑張って俺をはねのける力を手にいれるか、それとも俺が再び現れないように気をつけるか二つに一つだ。

良いか?分かったか?」


 アカゴケミドロの言葉に大悟は顔を涙と鼻水でくしゃくしゃにさせて何度も頷いた。

 もう、とんがった不良の姿は跡形もない。無様に泣き叫ぶ中学生、子供の姿だった。

 アカゴケミドロは満足したように、大悟からゆっくりと離れた。


パシン


「行け!」


 アカゴケミドロは腕から伸びた触手で地面を打ち叩き、少年たちに命令する。

 とたんに少年たちは、互いに肩を貸しながらよろよろと逃げ出す。まるで猛獣使いに命令されたトラやライオンのようだ。その姿は牙を抜かれた猛獣たちだ。

 少年たちがいなくなったのを確認するとアカゴケミドロもその場を立ち去ろうとする。


「あ、ああ。アカゴケミドロさん」


 唯は慌ててアカゴケミドロに声をかけた。

 しかし、アカゴケミドロは唯を無視してそのまま歩き去る。


「このウサギ、どうすればいいのさ……」


 唯は途方に暮れながら腕に抱いたウサギを見た。ウサギはヒクヒクと鼻を鳴らしながら、赤い瞳で黙って唯を見上げていた。

 

2018/12/08 初稿

2018/12/09 オマケ修正

2019/09/14 改行などのルールを統一のため修正


《オマケ》

蛍 「あ、尚美さん。ショーお疲れさまです」

尚美「あーー、恥ずかしいなぁ。

   棒読みだったでしょ」

蛍 「いえいえ、よい感じでしたよ。

   迫真の演技でした。ファンが増えますよ」

尚美「ははは。看護師として、それはどうなんでしょうね」

蛍 「尚美さんは問題なかったんですけど、

   何でアカゴケミドロ出てこなかったんですか?

   段取り的にはクライマックスはアカゴケミドロとの

   戦闘のはずなのに、結局出てきませんでしたね」

尚美「何でもアカゴケミドロ役の人が行方不明に

   なってたらしいです」

蛍 「行方不明?へーー」

尚美「アカゴケミドロと言えば、さっき整形で変な話を

   聞きました」

蛍 「変な話?」

尚美「肩を脱臼した子が急患で来たんですよ。

   で、何で脱臼したんだって聞いたらアカゴケミドロに

   やられたって!」

蛍 「アカゴケミドロにやられて肩を脱臼?

   その子、夢でも見てたんじゃないの?」

尚美「ですよねーーー」

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