イチゴうさぎの奇跡 3
「マジか」
健は目の前の光景に愕然となる。
「健さん、これ、ヤベェっすよ」
横に控えた平田源太郎の声も心なしか上ずったものになっていた。
スィーツフォートレスは最近駅前にできた人気のケーキ屋で、女性を中心に絶大な人気があった。
そのため、健の目の前の長蛇の列は若い女性や通学帰りの女子高生、子供連れの若奥様グループで構成されていた。並んでいる男は一人もいない。
「本当にここに並ぶつもりですか。俺たち、どう見ても不釣り合いですぜ」
健は、お喋りに興ずる女性の列に自分が交じる姿を想像して、小さく首を振った。
あり得ない。罰ゲームとしか思えない。いや、ひょっとしたら何かの法律に抵触するかもと真剣に心配した。
だが、どうしても『ピョンピョンうさぎのイチゴレアチーズケーキ』を手に入れなければならない。例え警察に捕まる事になったとしてもだ!と健は心の中で叫ぶ。
「並ぶ」
健は決然と答える。
「アイタ、イタタタタ」
健の答えを聞いた平田は突然、腹を押さえる。
「スンマセン、健さん。
俺、急に腹が痛くなってきたんで、ト、トイレ、行ってきます」
平田はそのまま体をくの字に折ったままその場を離れる。
逃げるようにその場を去る平田の後ろ姿を黙って見送る。
ふっ、仕方あるまい。警察に捕まるとなればあいつを巻き込むわけにもいかんだろう
そう思いながらも健は少し肩を落として列の最後尾に並ぶのだった。
「店長、店長。ちょっと、来てください」
スィーツフォートレス店員、堅守優花は厨房に入るやいなや、店長に向かって叫んだ。
「店の外に変な人がいます」
優花の言葉に店長は慌てて店頭にでた。
窓際から外を指差す優花に促される方向を見てみると確かに行列の中に体を半分ほど飛び出たせた大男が一人いた。
「なんだあれ」
その異様な風景に店長は思わず呟く。
「でしょ、でしよ。
変でしょ。怪しいでしょ」
音もなく横についた優花が店長の耳元で囁く。
「い、嫌、単なるお客さんかもしれないし……」
「いいえ、あの顔がケーキを食べるなんてあり得ません。もっと別の目的があるに違いありません」
「べ、別の目的?」
優花の言葉に店長は外の大男をもう一度まじまじと見る。
どう見てもゴリラ。
確かにこの男がバナナを食べる姿は想像できてもケーキを頬張る姿は想像できない。
「新手のみかじき料の要求か?」
店長の額に脂汗がにじむ。
と、列が動き、大男が店の中に入ってきた。
「「ヒッ」」
入ってきた男と目が合い、店長と優花は同時に声にならない悲鳴を上げた。
2018/05/01 初稿
2019/09/14 改行などのルールを統一のため修正
海道健君。
作中で良くゴリラ扱いされていますが、そのガタイの大きさと目付きの悪さで見ている人の心理的補正がかかってそういう風に見えているだけです。実際はそんな醜男ではありません。
ターミネータ1のシュワちゃんかイケメンゴリラのシャバーニぐらいなイメージでお願いいたします。
次話投稿は5月3日 10:00を予定しております。