僕のヒーローアカゴケミドロ 3
「はぁはぁはぁはぁ」
少年は懸命に逃げていた。
振り向くと自分を追いかけてくる人影が四つ、すぐそこまで迫っている。
息が切れ、足も重い。心臓も破裂しそうな勢いで脈打っている。
でも、ここで足を止めたら捕まってしまう。
少年はもつれる足を懸命に動かす。
目の前の信号が赤に変わった。
と、たちまち車の奔流が少年の行く手を阻む。
少年は戸惑い、周囲を見回す。すぐ横に歩道橋を見つけた。
少年は迷わず歩道橋に向かって走り始めた。
タンタンタンタン
少年が一歩踏み出す度に歩道橋はリズミカルな音を響かせる。
タタン タン タタタン
だが、すぐに不協和音が割り込んできた。それが追手の足音であるのは振り向かなくても分かる。
少年は息を切らせながら懸命に走った。
「!」
歩道橋を降りようとした少年は驚き、たたらを踏む。
降りる先に二つの人影があったからだ。追手の仲間に先回りをされた事に少年はようやく気づく。
「手こずらせやがって」
勝ち誇ったような声が背後からした。振り返えるとすぐにそこに追手たちの顔があった。
「ちょっと話があるんだ。付き合ってもらうぞ」
追手のリーダーはまだ、少し幼さがあるニキビ面の中学生だった。茶色く染めた髪をトキントキンに逆立てている。口許を歪めて少年に近づく。
少年は前と後ろを交互に見るが逃げ場はない。
追手は勝ち誇ったようにゆっくりと少年との間合いを詰めてくる。
「あっ!」
追手の一人が驚きの声をあげた。
少年が歩道橋の柵を越え、そのまま下に飛び降りたからだ。高さは10メートルはある。
追手たちは慌てて柵に取りつき、下を見た。
少年は地面に倒れ伏し、身動きひとつしなかった。
「やべえ、逃げるぞ」
リーダー格の少年が少し上ずった声で言うと少年たちは一斉に逃げ出した。
「うっ、ううう……」
歩道橋の下で少年は意識を取り戻す。立とうとした足がひどく痛みとても立つことができなかった。
「誰か助けて、助けてください」
ずるずると這いずりながら震える声で少年は闇に向かって手を伸ばし、助けを求めた。
□□□
中庭で作業をする人々を少年をじっと見つめていた。かれこれ二時間ほど見ているだろうか。我ながらよく飽きないものと思ったが、実際、黙々と作業する人と徐々に組上がっていく物を見るのは意外と面白く飽きることはなかった。
何を作っているのだろう
少年は目の前で組み立てられていく物を見ながら思った。
何かの舞台のようだけど……
少年は松葉杖を取り、立ち上がった。
右足は大きな石膏で固められているので二本の松葉杖の力を借りなければ立つこともままならない。しかし、興味の方が上回り、どうしても近くで見たくなったのだ。
苦労して一歩踏み出そうとした少年の動きがピタリと止まり、心臓の鼓動は逆に早くなる。
舞台の影から数人の中学生グループが姿を現したからだ。
グループの真ん中にトキントキンの茶髪頭を発見した少年の頭の中に一つの言葉がこだました。
『手こずらせやがって』
『ちょっと話があるんだ』
少年は杖を最大限使って最速で回り右をすると病院に逃げ込んだ。
「あら、唯くん。外に出てたの?」
エレベータに乗り込む時、知り合いの看護師さんに声をかけられたが答える余裕がなかった。
無言でエレベータのボタンを押す。
エレベータの扉が閉まり、一人になって、ようやく人心地がついた。
あいつら、こんなところまで追いかけてきたんだ
ぼ、僕が喋ると思ってるんだ
どうしよう どうしよう
唯は、エレベータの中でガタガタと体を震わせた。
2018/10/06 初稿
2019/09/14 改行などのルールを統一のため修正
《おまけ》
蛍 「う~ん。う~ん」
亜美「どうしたの?」
蛍 「どうしたもこうしたも、投稿、一週間違えちゃった。
この稿は来週投稿する予定だったのよ」
亜美「いきなり楽屋オチ」
蛍 「一週間飛んだのは痛いわ」
亜美「まだ書けてないんでしょう」
蛍 「一文字もね。アッハッハ」
亜美「アッハッハじゃないわよ。どうすんの?」
蛍 「どうするもなにも、書くだけよ」
亜美「と、申しておりますので、次話は来週の土曜日に投稿予定です。投稿できなかったらごめんなさいです」




