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イチゴうさぎの奇跡 2

 ようやくHR(ホームルーム) が終了したので、わたしは貰ったしおりやら書類を鞄に詰め込む。自分と亜美の二人分だ。

 携帯を見ると亜美からLINEが来ていた。


》蛍 寂しい

》苺兎食べたい 買ってきて


 苺兎(いちごうさぎ)

 ああ、あれの事か、と思い当たる。

 今から行けば何とか買えるか?

 時計を見ながらそんな事を考えていた時だ。


「ほ、(ほたる)さん!」


 背後から悲鳴のような声が聞こえてきた。

 見るとひきつった表情の女子が廊下を指差している。どうやら、わたしに廊下に出ろと言っているようだ。

 わたしは首をかしげて席を立つ。


何事?まるでゴリラかライオンにでも鉢合わせしたみたいな顔で……


 外に出ると目の前に白い壁が立ちはだかった。


「あっ、ヌリカベ?」


 わたしは白い壁に沿って上を見る。私の首がほぼ垂直になったところでゴツイ顔と鉢合わせになった。

 四角ばった細長い顔。広い額の下、やや奥まったところから鋭い光を放つ二つの眼。


「違った。やはりゴリラか」

堂本(どうもと)。ちょっと(つら)貸せや」


 私の発言を無視してゴリラがドスの効いた声で言った。

 わたしは小さくため息をつく。

 いかに科学が発達しようともゴリラが人語を話すのはまだ時間が必要だろう。なので、目の前の存在はゴリラではない。

 それは我が高校が誇る番長、海道(かいどう)(たける)であった。

 身の丈190センチ。

 我が高校の番長に留まらず、県内番長連合の四天王の一人。

 歩くハリケーン。学ランを着た森の人と謳われる男。

 そんな男から『面貸せ』などと言われたら腰の一つも抜かさないと礼儀に反するようにも思えたけれど、あいにく、わたしは動じない。

 この(ひと)の本質を知っているから。


「うん、いいよ」


 わたしは平然と答えた。

 健くんはわたしの返事を聞くなり、くるりと後ろを向くと歩きだした。

 ついてこい、と言うことだろう。黙ってわたしはついていく。

 着いた先は校舎の裏だった。

 健くんはポケットに手を突っ込んだまま何も言わない。


「用事ってなにかな」


 少し焦れてわたしの方から問いただしたが、やはりなかなか切り出さない。


「ひ、久野(ひさの)の事だ」


 何度かためらってようやく口を開いた。


まあ、分かってたけどね


 その言葉にわたしは心の中で呟く。


亜美(あみ)の何?」

「久野が今日、休んでいる。堂本なら何か知ってるかなと思って」

「亜美は入院してるよ」

「入院!

マジか?怪我か、病気か!」


 健が大声で叫んで突進してきた。


「ちょっと、落ち着いて。病気よ。循環器系の病気らしい」

「循環器?循環器ってなんだ」

「心臓。心臓が弱ってるそうよ。暫く入院と言っていた」

「マジか」


 健くんは茫然自失になり立ち尽くす。

 どうすれば良いか分からなくて思考停止ってところみたいだった。少し可哀想に思えたので助け船を出してあげる。


「お見舞いに行ったら?」

「え、行って良いのか」


 わたしに聞くのか。


「う~ん、どうだろうね。でも好きなんでしょ」

「おう」

「じゃあ、点数稼ぐチャンスだよ。

ケーキ買って持ってってやりなよ」

「ケーキ?」

「そうそう。ケーキ食べたいってLINE来てたから。亜美、最近お気に入りのケーキがあってね。それ持っていって上げると喜ぶと思うな」

「マジか」


 健くんは一言呟くと暫く黙りこむ。懸命に何かと戦っているようだったが、ようやく重い口を開いた。


「分かった。買ってこよう。何を買えばいいんだ」


 まるでゴルゴが依頼でも受けたかのような仰々しさだ。まあ、良いけど。

 わたしは携帯にケーキの写真を表示させて見せてあげる。

 苺で兎をあしらった見た目にも超可愛らしいケーキだ。


「スィーツフォートレスってお店の『ピョンピョンうさぎのイチゴレアチーズケーキ』よ」


健くんはわたしの携帯を驚愕の眼差しで見詰めながら一言呟いた。


「マジか」

2018/05/01 初稿

2019/09/14 改行などのルールを統一のため修正


もう一人の主人公 海道君登場です。

ヤンデル(亜美)とグレテル(健)でお題はクリアなのですが、

ここからが長い(笑)


この手のシチュって主人公の女の子とか死んじゃうんですよね。


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