亜美は秘かに思っている 2
「心臓の音を聞かせてもらいますね」
と青木先生がいった。
「早瀬さん、久野さんを起こしてあげて」
霧島さんに言われて、尚美は我にかえる。慌てて助け起こそうとする。
「心電図、心電図外してからよ!」
すかさず霧島さんにたしなめられた。
「あっ、は、はい」
早瀬が慌てて心電図を外すのを青木先生と霧島さんは黙って見守った。
「それで痛みは変わりませんか?
今もずっと痛いですか?」
聴診器をポケットにねじ込みながら青木先生は亜美に尋ねる。亜美は頷く。
「良くなったような、変わらないような。よく分かりません。痛みはまだあります」
亜美の言葉に、青木先生は後ろに控えている霧島さんの方を見る。
「今日の夕方からまた熱が少し出てるね。
血液検査の結果はでたの?」
「まだです」
ふーんと青山先生は唸った。
「これで少し様子を見ましょう。痛みがひかなかったり、強くなるようなら、またナースコールをしてください」
処置を終わらせた青木先生は、ベットに横たわる亜美に言った。亜美は無言で頷く。
病室を去る先生に霧島さん、尚美も続く。
病室は再び暗闇に包まれた。
心電図の電子音が静かに刻をきざみ続ける。亜美は胸の痛みを抱えたまま、病室の黒い天井を見つめ続けた。
「久野さんのモニター、ちゃんとできてるか確認して」
ナースステーションに戻ると開口一番に霧島さんは言った。
「はい。
……できてます」
霧島さんは、そう、と一言だけ呟くと、疲れたように肩を揉み始めた。
「あの、大丈夫でしょうか?」
「うん、なにが?」
「なにがって、久野さんの事です」
「あの子の病気は、ああいうものだから薬が効くのを待つしかないわね」
霧島さんは椅子に腰かけると、特に感慨もなく答えた。そんな霧島さんの反応に尚美はもどかしそうな表情になる。
「そうじゃなくて、今、久野さんは一人で痛みに耐えているんですよ。孤独で、不安だと思うんです」
「だから?」
霧島さんは片方の眉を少し上げた。それは彼女がイライラしている時に良くやる仕草だった。
霧島さんは怒らせると恐い。それは新人ナースたちの大方の評価だった。
尚美は少したじろぐ。
しかし、どうしても言わなくては、と心を決めた。
「だ、だから、少し側に付いていてあげた方が良いのではないでしょうか?」
霧島さんは尚美をじっと睨み付ける。
「早瀬さん、あなたね。患者さんの事を思うのは大切だけど、一人に肩入れしすぎたら駄目だって教わらなかった?
患者に寄り添うってね。一見正論だけど、言うのとやるのは全く違うものだからね?
理念と現実は区別しないと。
えこひいきと言われるし、あなたの体が持たないわよ」
「それは、わかっています。でも!」
「でも?」
尚美は言い淀む。
『死んじゃうのかな』なんて患者さんの呟きを聞いたら放っておくなんてできない。そう言いたかった。だが、言えなかった。
言ったとしても、『それで』としか言われない気がしたからだ。
「……」
ただ、黙って俯くだけの尚美を霧島さんは怒ったような表情で見ていたが、やがて、大きいため息をついた。
「まあね。久野さん、『死んじゃう』なんて呟いていたからね」
霧島さん、先生と話をしながら、ちゃんと久野さんの呟きを聞いていたんだ
事も無げに呟く霧島さんの言葉に尚美は舌を巻いた。
「良いわよ。見回りまでの2時間。好きになさい」
意外な言葉に尚美は少し驚く。だが、願いがかなった。
「あ、ありがとうございます」
尚美はペコリとお辞儀をするとナースステーションを脱兎のごとく飛び出した。
「だけど、あっ!こら、待ちなさい、
人の話を……聞いてから………
相変わらず聞かない子ねぇ。大丈夫かしら」
霧島さんは頬杖をつくと小さく呟いた。
ナースステーションを飛び出した尚美だったが、亜美の病室に近づくにつれ、歩みが遅くなる。何かしなくてはと思って勢いに任せて飛び出たものの、では自分に何ができると言うのだろうか?と段々自信が無くなって来たからだ。
痛みを取る?
すぐは無理。
じゃあ、不安を取り除く!
どうやって?
考え出すとどんどん足が重くなってきて、ほとんど止まりそうになった頃、亜美の病室についた。
入りにくい
開口一番なんと声をかければ良いのか、それすら考えがまとまらなかった。正直、挫けそうだ。しかし、あんな事を霧島さんに言った手前、なにもせずに戻ったら大笑いされる、いや、軽はずみな考えで行動するな、と怒られるだろう。
ええぃ、ままよ!
尚美は心を決めると静かに亜美の病室に入っていった。
2018/06/02 初稿
2019/09/14 改行などのルールを統一のため修正
《オマケ》
蛍 「さぁーて、始まりましたヤングレ通信。回を重ねること第48回となります」
亜美 「(いつの間にそんなにやったのかしら)」
蛍 「それでは早速、亜美さんの名前の由来について説明してもらいましょう。では、亜美さん、張り切ってどうぞー」
亜美 「え~と。前にも少し後書きに書いてありますが、このお話の元になる歌があって、その歌を歌っていたのが久川綾さんです。
私の苗字の久野は久川から持ってきてます。
それで、名前の方は、その久川綾さんが担当していたセーラー○ーキュリーの水野亜美の亜美からとってます」
蛍 「……つまらん」
亜美 「いや、つまらないと言われても、そうなんだから仕方ないじゃない」
蛍 「駄目だ、駄目だ、駄目だ。そんな事で読者の気を引けるなんて思ったらおおまちがいだぁ!」
亜美 「ちょっと、暴れないで!蛍も、セーラームー○つながりだから」
蛍 「そうなの?」
亜美 「そ、そうよ。土萌蛍から取ったって」
蛍 「土萌蛍、セーラーサ○ーン……
セーラーサ○ーンってセーラー戦士の中で一番影が薄いキャラじゃない。
それこそセガサ○ーン並みよ」
亜美 「ドリ○ャスよりは知名度があるかと」
蛍 「だーーー、フォローになってないってーの!責任者出てこーーい!!」