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童話シリーズ

桃子(桃太郎が、もし女サムライだったら?)

作者: 山家

 桃太郎が女性だったら、ということから考えたのですが、どうしてこうなった?

 昔々、ある所にお爺さんとお婆さんがおりました。

 若い頃に二人は結婚して、共にずっと暮らしてきたのですが、二人の間に子どもはできず、そのことを二人は嘆いておりました。

「どうか、私達の間に子どもをお授けください」

 二人は、神に祈りを度々捧げておりました。


 ある日、お爺さんは山に柴刈りに行きました。

 お婆さんは、お爺さんが山に行っている間に、洗濯しようと思い、川に行って、洗濯を始めました。

 すると、上流から大きな桃が流れてきました。

 お婆さんは、思わずその桃を拾い上げ、洗濯を済ませた後、お爺さんとその桃を家で食べようと思い、それを持って帰りました。


 お婆さんが家で待っていると、お爺さんが柴刈りから帰ってきました。

「本当に大きな桃だ」

 その桃を見たお爺さんも驚きました。

「取りあえずは、二つに切り分けましょう」

 そう言って、お婆さんがその桃を切ってみると、その中から女の赤子が出てきました。


「これは神から授けられた子どもに違いない」

 お爺さんとお婆さんは言い合い、この女の子を大事に育てることにしました。

 そして、女の子を桃から生まれたことから桃子と名付けました。


 桃子は、すくすくと美しく成長しましたが、その一方で武術を好みました。

 桃子は、お爺さんとお婆さんに頼み込み、近くの武道場で武術を学びました。

 その武道場は、天然理心流を教える総合武道場といえるところで、桃子はその全ての武術を学んでしまおうと必死になりました。

 剣術のみならず、居合術、柔術、小具足術、棒術と多種多様な武術が、天然理心流では教えられていました。

 とは言え、桃子は天賦の武術の才能を持っていました。


 剣術等一通りの武術を学んで熟達し、20歳になるかならないかの内に、武道場の師匠を凌ぐ腕前の持ち主となり、更に修行のために遠くの国々まで出向いて、他流試合をした結果、終には近隣の武芸者に他流試合の立ち合いを挑まれても,ことごとく返り討ちにする程の武術の達人に桃子はなりました。


 桃子の住む土地は、海からそう遠く離れてはいませんでした。

 ある日、桃子が武道場で師範の代理を務めている際に、武道場を尋ねてきた海岸沿いの町から来た商人から、最近、離れ小島の無人島だったところに、鬼の一族が住み着き、海賊行為を働き、海岸沿いの住民が苦しんでいることを、桃子は聞かされました。


「役人が何とかしないのか」

 桃子が尋ねると、その人は

「役人が行くたびに、鬼にその役人が返り討ちにされてしまいました。それ以来、誰も手を出せなくなっています。今では、その小島は鬼ヶ島と呼ばれる有様で、海岸沿いの町の住民は皆が、鬼を怖れてしまいました。そのために、海岸沿いの町の住民は、自分の身を守るのも無理な有様です」

 と嘆くばかりでした。


「よし、それなら、自分が鬼を退治してくれよう」

 桃子は決断しました。

 桃子は、お爺さんとお婆さんに頼んで、弁当代わりの黍団子をたくさん作ってもらい、鬼ヶ島へと向かうことにしました。


 お爺さんとお婆さんは、桃子をしきりに止めました。

 鬼を退治するのはいいが、鬼の呪いの報復があるだろうと、武術で鬼の呪いの報復は防げるものではない、とお爺さんとお婆さんは理由を言いました。

 桃子は決然と言いました。

「覚悟の上です。これまで育ててもらった恩もあり、お爺さまとお婆さまのお言葉に、私は従うべきなのでしょうが、それよりも鬼に襲われて困っている人を助けねば」

 その言葉を聞いたお爺さんとお婆さんは、桃子を泣いて見送りました。


 道中で、犬、猿、雉が、桃子に鬼退治の助太刀を申し出ましたが、桃子は黍団子を渡し、助太刀無用と告げた後で、更に言いました。

「鬼の呪いを受けるのは、私1人でよい。黍団子を渡すから、私が鬼ヶ島に渡った後、3日経ったら、お前たちは鬼ヶ島に様子を見に来てくれ」

 その桃子の様子を見た犬、猿、雉は、桃子を泣いて見送るしかありませんでした。


 桃子は、鬼ヶ島に単身で小船の櫓を漕いで渡り、鬼たちの様子をうかがいました。

 鬼たちにも家族がいるようで、女鬼や子鬼の声もします。

 桃子は悩みました。

「大人の男の鬼だけを退治すべきなのだろうか。女鬼や子鬼を退治するのは、どうにも躊躇われる」

 

 しかし、大人の鬼だけを退治したとして、しばらくすれば、子鬼は大人の鬼になってしまいます。

 また、父親が人間に殺されたとして、子鬼は人間に対する復讐を誓い、成長した際には、また、人間を襲うのが目に見えています。

 それに、女鬼も夫が殺されたとして、子鬼に父親の仇を討つように勧めるでしょう。

 鬼の被害を、今後は出ないようにするには、女鬼、子鬼全てを退治するしかないようです。

 桃子は、しばらく悩んだ末、鬼全てを退治することに決めました。


 桃子は武術の達人です。

 鬼が自分を襲ってくる気配を完全に読んで、紙一重の差で鬼の攻撃を全てかわしてしまい、全ての鬼、大人の男の鬼のみならず、女鬼や子鬼まで含めて、その時に鬼ヶ島にいた鬼全てを退治しつくしました。

 

 こうして、桃子によって、鬼ヶ島にいた鬼は絶滅させられました。

 絶滅させられた鬼達は、鬼霊となって、桃子を口々に呪って言いました。

「我ら全て、罪もない子や女までも殺しつくすとは。その身のみならず、子々孫々までお前を呪い殺してくれよう」

 桃子は言い返しました。

「私は独り身だ。子もいない。私一人が死ぬだけだ。それにそれだけのことをしたことを、自分自身でも分かっている」

 鬼の呪いを一身に受けたために、桃子はすぐに死にました。


 犬、猿、雉は、黍団子を渡された恩を忘れず、桃子が鬼ヶ島に渡って3日後に鬼ヶ島に行きました。

 そこで、犬、猿、雉が見つけたのは、男女、大人子どもを問わず全てが死に絶えた鬼の死骸の山と、桃子の遺体でした。

 犬、猿、雉は、どうしたものか、と相談の末に協力して、鬼ヶ島に遺されていた鬼の全ての死骸を埋めてしまい、桃子の遺髪を切り取り、桃子を埋葬することにしました。

 本来なら、お爺さんとお婆さんの下に、桃子の遺骨を届けるべきなのでしょうが、犬、猿、雉の力ではとても無理な話でした。

 そして、犬、猿、雉は鬼ヶ島を出て、お爺さんとお婆さんの下に、桃子の遺髪を届け、桃子が亡くなったことを告げました。


 お爺さんとお婆さんは大層嘆き、犬、猿、雉に桃子の最期の地、桃子の埋葬された所への道案内を頼みました。

 犬、猿、雉が、お爺さんとお婆さんを道案内して、鬼ヶ島に渡るのには、色々と準備が必要だったこともあり、桃子が埋められてから、3日が経っていました。


「これは何としたことだ」

 桃子が埋められた場所を見たお爺さんとお婆さんは驚きの余り、叫び声を挙げました。

 犬、猿、雉もその場所を見た瞬間に驚きました。

 犬、猿、雉によって桃子が埋められた場所には、僅か3日の間に桃の木が生えており、それもかなり成長していたのです。

「これなら、1年もしない内に桃が取れるのでは」

 お爺さんとお婆さんは言いかわし、更にお互いに言いました。

「桃子は、やはり神の使いだったのだ」

 実際、1年も経たない内に、その桃の木は実を付けました。


 鬼ヶ島には、鬼が遺した財宝の山がありましたが、お爺さんとお婆さんは、それを自分の物にしようとはせず、役所に届け出て、鬼の被害に遭った人達の救済に全てを充ててもらうことにしました。

 鬼の被害に遭った人達の方が、最愛の娘ともいえる桃子を失ったお爺さんとお婆さんを気の毒がり、そこまでしなくても、と言って、幾らかお爺さんとお婆さんに渡そうとする人までいましたが、お爺さんとお婆さんは、そんなことをしてもらったら、桃子の遺志が無駄になると言って謝絶しました。


 そうしたことから、お爺さんとお婆さんは、ますます周囲の同情を集め、鬼の被害に遭った人達を中心に多くの人に囲まれて、見守られながら、あの世へと赴き、あの世で桃子と再会して、共に暮らすことになりました。


 そして、それ以来、桃は鬼の邪気を払うものとして、人々に知られるようになりました。

 また、桃子の埋葬地に生えた桃の木は聖なる樹として、人々から崇められ奉られたのです。

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[良い点] 初めまして。このサイトで小説を書いている竜馬光司といいます。 感想書かせてもらいます。 役人さえも太刀打ちできない鬼達の巣窟に単身乗り込み、たとえ生きて帰る事が出来ないのが分かっ…
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