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異世界転移して半日で神様殺した件  作者: 雪斎拓馬
第一章 神殺しの魔眼
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6 『未来視の右眼』

 わかりやすい構図だ。要は現在大柄の男に喧嘩を吹っかけられているという状況。俺は喧嘩屋ではないのでどうしてこう言った奴らが、好んで喧嘩をするのか全く理解できないのだが、徐々に増えていく野次馬に鑑みるに、自分の力を誇示したいようだ。


「あなた失礼だよ、人にぶつかったら謝るものでしょう?」


 俺に制され前に出ることを諦めたノエル、それでも物申す。対して名も知らぬ大男、返し答う。


「そう言うてめえはヴェルゼンの支配神じゃねえか。けっ、待ってろよ。ベルリアを支配し次第ぶっ潰してやる」


「おい喧嘩を振っておいて対象を変えるな。今おまえが見るべき相手は俺だ」


 と格好良く挑発してみると見事なまでに引っかかった。


「調子にのるなよ」


「どうにも乗れる調子がないようだ、俺はいつも変わらない。ところで本当はおまえに割いている時間はないんだ、手短に終わらせてくれ。ギャラリーがこれ以上増えても困る」


「なんだてめえ、何様だ」


「他人の詳細を問うならまず自分の名前でも名乗ってみたらどうだ」


 男は明瞭に怒りを露わにしている。


「不死狩りの神テルテトス」


「無名の死神アイギス」


 互いに武器を構える。

 俺は短剣を、テルテトスはメイスを。


 大勢の野次馬の中、神同士の喧嘩が始まった。

 ちなみに、俺の知識はギリシャ神話に偏っているため他のものは知らないが、少なくともギリシャ神話の中では神同士の喧嘩は案外珍しいものではないらしい。


 その重そうな格好で割と速く突進するテルテトス。メイスが、ただ振りかざされただけだというのに地を震わすほどの勢いでこちらへ距離を詰める。


 正面向き合っての戦闘。実はこの状態は俺にとって案外不利である。元の世界からの服装のままで、鎧など人生で一度も着用した経験がない。その上鎧というのは正面からの攻撃に最も効果を発揮する。攻撃の通用する範囲が極めて狭いのだ。


 だが問題はないだろう。

 そのメイスでの攻撃は確かにひとたびまともにくらえば木端微塵にされるだろうが、一撃一撃が重過ぎる。ダメージも、重量も、重い。かわしてしまえば隙ができる。そこを背後に回り攻撃する。確実に仕留めるなら頸動脈、あるいはうなじを切る。だがここで殺神を犯しても仕方がない。背中を二度ほど切りつけて終わりにしてやろう。


 さてどう避けるか。とはいえ、俺はこういった問題に特出した人間なので、やはり問題はないのだった。


 

 イメージしろ。

 


 右眼に、心象風景に集中しろ。


 ――瞬間、ビジョンが浮かぶ。


 ――メイスを右へ避ける。そこへテルテトスの重心移動を使った回転蹴りの追い撃ち。だが右にあるメイスの棒部分が邪魔して自然俺の腹を狙う攻撃となるので、それを下に屈んでかわす。この時点で相手はラッシュが続かない状態に陥る。素早くメイスの棒を乗り越え、背後に回って広い背中を切る。


 これだ。


 実世界。メイスが地面を揺らした。恐らく野次馬の中にこの衝撃音に驚いた者もいただろう。


 右に避けた俺は追撃の回避に備えて体勢を整える。

 左足を軸とした強烈な右足蹴りがまるで吸い込まれるように飛んでくる。俺はむしろ足へ向かって前進しながら、姿勢を低くし避ける。

 そのまま前進。棒をひょいと越え、背後へ回り、すかさず勝負をつける。


 肉を切る音が耳に届いた後、野次馬の歓声が聴覚を埋め尽くした。


「な、な……なぜ、だ」


 暫時挟んでテルテトスの呻き声が聞こえた。

 俺は自分の右眼を抑えながら、かの鍛冶師アミラの自慢話を思い浮かべながら改めて自己紹介する。


 ――君の『右眼』はわたしが創った傑作だ。その未来のビジョンを見る能力、さしずめ――


 

「自己紹介が不十分だったな。どうも『未来視の右眼』アイギスだ」

 


 未来視。


 一体こんな魔術をどう創ったのかは想像もできないが、どうやらアミラが俺のためにわざわざ創ってくれたらしい。「ちょうど右眼が余っていたから」だとかなんだとか良くわからないことも言っていたが。

 テルテトスは大衆に跪きながら呼吸を荒くして俺を尚睨んでいる。


「巨人器官……だと? ふざけるな! こんな弱っちい奴が上階級? なんだそれは!」


「未来、視……?」


 おっと完全に意識から忘却されていた。そういえば俺はノエルと共に神の国を歩いていたのか。


 彼女は目を輝かせながらこちらを見て、何か言いたげに少し口をあわあわと動かしている。忙しない奴だ。


「ノエル、とりあえずここを離れよう。案内を続けてくれ」


「わ、わたしの――いや、うん、今はやめて置こう。アイギス、どうやら次に『アミュステラの巨人』の説明が必要そうだから、大聖堂に行くよ」


 了解と言って、無残なテルテトスを放置して大広場を離脱した。


 


    *


 


 地界の十二分の一の面積とはいえ広いものは広い。そこそこ歩き大聖堂に到着した。途中、ノエルが善意で昼食を奢ってくれたりもした。


 大聖堂は名前の通りのお決まりの聖堂だった。聖堂、あるいは神殿。パルテノン神殿とタージ・マハルを足して割ったような、宗教的な建築物。宗教、神でありながら何を崇拝するのかといえば、それは『巨人』なのだろう。


 巨人の説明を受けた。どうにもぱっとしない存在である、というのが第一印象である。

 まず一つこの異世界に物申したい。


 ――なんだ、結局『唯一神』的な存在はあるのか。


 俺が神を殺そうとも、神になろうとも、やはり上は存在する。敵対すべき存在はある。


「ほら見て、あれ」


 大聖堂の中。異様に広い大広間の中心にある台の上に「石碑」が設けてある。彼女の注意によればその足元に彫られた術式刻印(エングレーブ)によって結界魔法が発動されており、管理者すら触れることができないという。


 見えない壁、という奴だ。それほど重要視されている存在で、どうやら触れようとしただけでも冥界へ追放されるという。反逆神の名を負って。

 余談、石碑を守るそれのエングレーブは魔法陣状である。


 この世界での魔術というのは、術式を介したものであるという。術式、すなわちエングレーブはガイドではなくツールあるいはメディア――つまり必需品なのである。


 例えばロマンであり基本と呼ばれる「火を出す」という魔法を発動する際、人間は己に持つ魔力をどこかしらに記された術式に注ぎ込む。そして術式が魔力を受けて既定の動作をし、魔法が発動される。


 プログラミング言語に例えれば関数だ。C言語を例に挙げれば、コンソールに文字を表示するだけの簡単なprintf命令文をmain関数の中に記すことができないのだ。必ず他関数を呼び出し、その中で実行する。俺たちをmain関数、エングレーブをtool関数と見なすなら、俺たちができることはtool()の命令文たった一つだ。


 俺は石碑の下に彫られたエングレーブを見、その後アミラとの戦闘を想起する。彼女は術式刻印のない状態で投影魔法を発動していた。


 どうやらエングレーブの表面的な短縮はできるという。ただ、本質的な短縮はできないと考えれば答えは容易に想像できる。つまりエングレーブは実世界に存在しなくとも、自分の意識の中にさえ存在すれば良いのだということだ。術式はイメージであっても関係なく発動できる。そういうことだ。


 火を出す魔法を発動する際、その術式を想像する。そこでできたイメージの術式に魔力を注げば発動する。いちいち地面に術式を記したり、あらかじめ記された札をばらまいたりする必要は一切ない。ただし、想像とは脆弱なものだ。ほんの些細な気の揺らぎが簡単に形を変える。


 要はリンゴの絵を描くとき、エングレーブが実世界にある状態はモデルを見ながら描くという状態を示し、エングレーブが空想上にある状態はリンゴを頭の中で想像しながら描くという状態を示す。成功率は圧倒的に前者の方が高い。

 確実性を求めるなら術式は実世界へ刻み、柔軟性及びスピードを求めるならその必要はないのだ。


 また、俺が未来視を除いて今のところ唯一使用した魔法、螺旋の鍵剣。どうやらあれは誰でも使用できるグローバルな術式に設計されているらしい。それにしても、魔法を使おうとして使わなければ効果を発揮しないのであって、もし俺があのときビジョンで「魔法を使う」ことを把握していなかったら、お陀仏だった。

 まったく、運が良いんだかなんだか。


「そういえば騎士の国の支配者よ」


「んん? なに、アイギス」


「おまえ、魔法は使えるのか?」


「使えなきゃこの右手はどうなるのさ。これも巨人器官とはいえ結局は魔術なのよ。基礎ができないと、持て余すだけ」


 ふうん、と俺は頷く。

 魔法発動の際、術式に魔力を込めるだけでは足りないという。そんなことができれば、誰かが書いた術式を勝手に俺が使用することもできる、ということになってしまう。どうやらこちらから術式に合った周波の魔力を注ぐ必要があるのだとか。

 螺旋のエングレーブのようなグローバルな術式もあるそうだが。


「巨人器官、ね。それについて説明をまだ受けていない」


「どうして自分の右眼に宿しておきながらわかってないの。本当馬鹿なの?」


「馬鹿しか言えないおまえは馬鹿のようだがな」


「むん。なんか魔術について話すばかりでそこまで説明できてなかったけど、まあとにかく『()()()()()()()()()()。』ということは理解できた?」


「ああ、問題ない」


 ()()()()()()()()

 この大聖堂。到着するまではそこに巨人が居座っているのか、眠っているのかと思っていたが、いざ確認してみれば拍子抜けというか肩透かしで、石碑しかなかったのだ。


 彼女の言い分では、巨人は以前神々によって葬られ、そのときから既に死んでいなくなっているらしい。ラスボス、既死状態である。


「そこでこれから巨人の説明をするね。――巨人っていうのは『支配力』そのものなの」


 人間にとって神は支配力そのものであり、神にとって巨人は支配力そのものであるとはな。滑稽だ。


「けど神が支配者、別の言い方をすれば統治者であるのに対して巨人は『規定』という存在。秩序と混沌も善悪も優劣も苦楽も全ての『対極』を規制する存在なのよ」


「…………」


「大昔、世界は巨人によって支配されていた。そこには全てが平等な世界が広がっていた。さっき挙げた秩序と混沌もなく、善と悪の差もなく、優れたものも劣ったものも、苦しみも楽しみも、全ての『対極』がない平たい世界だった。それを忌み嫌った――自由を愛した神々が反抗した。大戦争の末に神々は巨人の殺害に成功した。そして自由を得た」


「…………」


「けれど自由な世界は瞬く間に崩壊していった。天界も地界も冥界も、例外なく滅亡しかけた。自由な世界は自由な世界で毒だったのね、神は直ぐにそのことに気付いて巨人の支配力を欲した。だから()()()()()()()()。それがあの石碑。良く見ればわかるでしょ、あそこには無数の術式彫刻が羅列しているの。あれはそう、実在した巨人が睡眠しているときを保つための疑似的な巨人なのよ。それをわたしたちは『アミュステラの巨人』と呼んでいる」


「……はん、不愉快極まりないな。俺たちの全てが規制されていると、そう言いたいのか。ならばうんざりする。結局この世界は巨人に束縛されているじゃないか」


「だから。それが嫌だから中間の睡眠状態を選んだのよ」


「少量でも、微量でも、毛ほどにも満たない、刹那すら届かない量だったとしても、そこに巨人の影響があるのだとしたら自由とは呼べない。非依存だなんて言えない。補集合は要素の全てを排除した完全に独立した存在でなければならない。俺たちの世界に自由はない」


「え、ええ、自由は、ない、ね」


「俺は許せないな。そんな、巨人なんていう害悪を知らされちゃあ壊したくていてもたってもいられない」


 言って俺はナイフを抜き、石碑めがけて走り出す。


「ねえ待って!」と、背後からノエルに制される。勢い余ったのか、それとも俺を止めるにはそうせざるをえなかったのか、完全に俺を抱きしめた状態だ。


「なにしてるんだ、ノエル」


「それはわたしの台詞だ馬鹿! そんなことしたら冥界に堕とされるよ! わたしはここであなたを逃すわけにはいかない。絶対に冥界になんて堕とさせないよ!」


「おまえはこのままで良いのか、何かに束縛された状態で自由のない世界を生きることになるんだぞ」


「良いよ! わたしは、自由だから。わたしの中にある感情も何も、全部自分のものだと思ってるから、大丈夫。それより、なにより、とにかく、その石碑への攻撃だけは絶対にやめて」


 彼女は本気で俺のことを心配しているようだった。

 馬鹿野郎が。本当おまえはどうしようもない馬鹿だ。

 馬鹿で馬鹿で馬鹿で馬鹿で、馬鹿馬鹿しいほどに良い奴だ。


「…………異世界に行ってまで、俺は束縛され続けるのか。自殺して尚自由を得ることはできないのか。うんざりだ、本当に、うんざりだ」


 彼女に聞こえないよう呟いた。


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