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異世界転移して半日で神様殺した件  作者: 雪斎拓馬
第一章 神殺しの魔眼
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5 『天界と地界と冥界』

 アミュステラ。

 北欧神話で言うユグドラシルに当たる「世界樹階段」の最上層にして神々の集う国。言い換えれば天界である。この国は第二層、つまり地界の十二分の一の面積しかない。それゆえ街中の地区区分はあれど、統治者が異なったりはしない。簡潔に言えば、中立が約束された神聖なる街ということだ。


 また各所に第二層の各国へ繋がる階段がある。さらに階段の出入り口を「ゲート」と呼ぶ。考えれば、このアミュステラなる街は要するに第二層においての長距離移動を短縮するバイパスでありショートカットであるのだ。


 確かパソコンゲームに似た状況があった気がするが、要するに天界での一メートルは地界での十二メートル分に相当するということだ。


 ところでこの異世界には冥界が存在するという。基本誰もが寄り付かないが、世界樹階段を下り果たせば到着するらしい。冥界。話を聞く限りギリシャ神話の「奈落」タルタロスのようなものだ。神の中でも大罪を犯す、あるいは神の道を外れたものが追放される場所。


 設定がわかりやすくてこちらには助かる。要は天界、地界、冥界の三つの世界を世界樹階段が繋いでいるというそれだけなのだ。


 ただ肝心なのは「神は唯一ではなかった」ということだ。アミラ一人ではなかった。他にもうじゃうじゃといて――俺もその内の一人だった。


 

 そう。

 現在、俺は神様なのだ。

 


 神。俺が神。神を殺し神となった神。

 幾ら何でも早過ぎじゃあないのか。大体神様召喚ものっていうのは苦労に苦労を重ねてようやく幹部の座につき、神を殺すものではなかろうか。


 確かに伏線はあった。全く気にしていなかったがそういえば俺はパシフィカエにおける「邪神」の伝承は聞いても、ベルリアにおける彼女の噂を聞いたことがなかった。それに屁理屈かもしれないが「唯一神」だなんてこと言われてもいなかった。


 そりゃそうだ、もしこの世界を支配する者が神一柱だけで、それが邪神だなどと呼称され侮蔑され憎まれていたのであれば、直ちにこの世界は崩壊するだろう。


 とにもかくにも、神は唯一ではなく、この国には数々の神が棲み、賑わっているのだった。


 この情報は実は顔の知っている例の女に聞かされた。このアミュステラについて順序立てて説明するのなら、まずは彼女――『縁切りの右手』と呼ばれているノエルとの出会いについて語らねばなるまい。


 


「あれ? あ、やっぱり来たんだ、あなた」


「…………?」


「なんか見た感じ無所属って感じだけど――ああっ、ちょうど良いよ、やっぱりわたしの仲間になってくれる?」


「すみません、以前会いましたか?」


「ひょっとして忘れてる!?」


 運良く、偶然にベルリアへ降りる「ゲート」より出て早々声をかけられた。しかし物忘れの激しい俺は当時彼女の顔と名前を完全に忘れていた。まあ無理もない、一人神を殺したのだ、その疲労は今に影響を及ぼしている。


「ノエルだよ、ノエル! ふん、あなた本当に馬鹿なのね。鶏か鶏以下よ。こけこっこー!」


「……、今、おまえの方が馬鹿なことに気付けないのは本当馬鹿だな」


「な、なにをうっ」


 暴言馬鹿キャラとはこりゃ酷く滑稽な人間だこと。ああいや神なのか。しかしこれは好都合、俺はまだここがどこかすら全く把握していない。情報収集にはうってつけだ。


「ノエル、俺は馬鹿だからここがどこか忘れてしまったようだ。何も知らない人間に説明するように俺を案内して下さい」


「全く世話が焼ける人だなあ。ならまずわたしの仲間になってくれるなら要求に乗ろう」


「他を当たるので良いです、では失礼」


「ちょちょちょ待って、ごめん、わかった、ええとじゃあ敬語をなくして。それなら案内するから」


「俺は敬語で話している方が楽なんですけれどね……わかった、これからは手加減抜きで突っ込んでいくので、よろしく」


「こちらこそよろしく、レ――」


「――おっと。突然だがすまない、俺の名前は実はレイじゃあないんだ。今後俺のことはアイギスと呼んでくれ」


「アイ、ギス? 変な名前だね」


 異論は認めよう。元の世界でもそんな名前の奴がいたら引くからな。自分のネーミングセンスの無さには呆れるが、「無名の死神です」と答えても何も進展はしない。


 由来はギリシャ神話の武具の名前だ。アイギス。鍛冶の神ヘーパイストスが造った鏡の盾。ゼウス、アテーナーなど神々が使用し、最も有名な話であれば、英雄ペルセウスのメデューサとの戦闘時に使われた盾である。


 なぜアイギスかと言えば、それは俺の『右眼』に関係している。どうやらこの『右眼』を創ったのはアミラだという。彼女は自己紹介の際に鍛冶師であると言っていた。つまり彼女をヘーパイストスと見立て、『右眼』をその創作物としたのだ。


 嬉しいことに「鏡」という言葉は俺に嫌なほど似合っている。何にでもなれる、逆に言えば何にも興味を示さない、さらに逆説を唱えれば、知り測れない深淵。


 昔、鏡は何色か、という質問が流行った。明確な答えはないが最も妥当なのは「あらゆる色」というものだろう。つまり本質を見抜けない。あるいは定義されていない。そんな測定不能の不安定因子。周囲を崩壊させる因子。物語を壊す者(ストーリーブレイカー)


 全く、お似合いだ。

 少し、心の中で自虐気味に笑っている中、面白そうだったので問うてみた。


「ノエル、鏡って何色だ?」


「銀色?」


 閑話休題。


 と、この調子でアミュステラとこの異世界そのものの情報を集め、現在に至る。


 目の前には大きな噴水のある大広場。思ってた以上の人数がある。神というのはこんなにいていいものだろうか。見た感じ、千差万別というか多種多様というか種々雑多というか、色んな神がいる。ごっつい鎧を着て大きな斧を担ぐ男、あからさまな真っ黒ローブを被る魔女、奇跡を操るのだろうか修道服を着ている者もいる(おまえは神でありながら一体何に祈りを捧げるのかと尋ねたくなるが)。


 それで、今は俺が神であるという話だ。


「俺が神だということは最初からわかっていた? わかりやすい嘘だな」


「嘘じゃないよ、もう。だってほら、あのとき右眼を光らせていたでしょ? それは神が持つ固有の魔術だから、わかりやすいの。わたしだと『縁切りの右手』って呼ばれるくらいだから右手だね。大体甲の辺りが光るよ」


「確かにそんなことがあったような。まあいいか」


「うん、でも最初は気付かなかったなあ、なんかそこまで強そうに見えなかったから」


「そうかい。まあ俺はガタイの良い方じゃあないし、言われて当然だな。その『無所属って感じ』というのもそこからの判断か?」


「強い人でも無所属の神はいるけど、でも弱い人は基本なれないよね」


「そういうおまえはどうなんだ?」


 わたし? わたし? とさぞ嬉しそうに満面の笑みで自分を指差す馬鹿。

 そこまで自慢できるものなのだろうか。


「ふふん。聞いて驚きなさいっ。わたしは『縁切りの右手』にして騎士の国ヴェルゼンの支配神ノエルなのよ!」


 なのよ!――という声がアミュステラの大広間に反響した気がした。

 俺はそれを聞いて、ふうん、と言ってから応える。


「国を知らないから凄さが良くわからないが、確かに強そうではあるな」


「く、国もしらないの!? あなたそれでも神なの? ひょっとして『無知の右眼』だとか言わないよね?」


「俺にはそんな異名はないが、まあ無知と言われれば反論できないな」


 彼女は頭を抱えて説明し始めた。実は面倒見の良い人なのかもしれない。

 その「やれやれ」と言わんばかりに首を振る彼女、少しばかり可愛気があったりする。


「地界には、幻想の国ベルリア、騎士の国ヴェルゼン、魔術の国ビュルンデッド、神聖の国クレイシス、不死の国アンディリュエ、機械の国ベフェルト、海底の国ハインヅェル、氷河の国アレッツェルン、灼熱の国オーゲント、九つの国があって、天界には天上都市アミュステラが、冥界には牢獄レゼージェンと奈落ムラクネアが、合わせてこの世界には十二の国があるのだけれど、その内地界の九つは神が統治しているの。つまりわたしは九分の一の存在ってわけね」


「それは大したものだ。まさか大物と偶然顔見知りだったなんて、何か珍しく良い縁があったのかもしれない」


「そうね。良い縁があったのよきっと」


 と『縁切りの右手』は言った。


「まあその大物が大した馬鹿だったというのも否めないがな」


「なにを!」


「それでなんだ、以前から俺に『仲間になれ』だのなんだの言っているのは、国王として手助けが欲しいからか?」


「そうだね、最近イレギュラーな状況に置かれていて、手助けが欲しいの。手助けっていうか、もっと正式に言えば家来が欲しいんだけど、今わたしに仕えている家来の大よそは強引突破しか脳のない人たちだから、あなたみたいな頭の良さそうな人が欲しいの」


「おまえ何かある度に俺のことを馬鹿呼ばわりしているじゃないか」


「あっ」どうやら忘れていたらしい。こいつは本当のアホだ。「あ、あなたは少し知的な人に見えるのよ」


 そうかい、と俺はいつもの調子で応える。

 騎士の国ヴェルゼンの家来、か。仲間になるならまだ良いが、主従関係というのは些か性に合わん。


「俺以外にも策士的な奴は幾らでもいるだろ」


「そう、なんだけど……。えっと、ほら、今は強い人は皆、突然目の前に現れた空席で手一杯だろうし」


「空席?」


「うん。ついさっきベルリアの統治者、『亜空間の左眼』にして鍛冶師アミラが死んだっていうニュースが広まってさ、次々にその席を占領しようとする上階級の神が現れているってわけ。まあ席に座るだけとか、そんな簡単な話ではないから、決定にはやや時間がかかるだろうけれど」


 アミラ……。

 いやしかし、話が広がるのが早いな。

 そしてあいつベルリアの国王だったのか……それを、俺は殺したのか。

 少し厄介になって来たかもしれないな。その懸念点を確認しておこう。


「アミラの死因は?」


「出血多量、殺神(さつじん)事件だって。アミュステラを管理するお偉方は『これは一種の宣戦布告やもしれん』とか言ってたけれど、なんか頭脳しかない癖に良くもまあ物騒な台詞を吐けたものだよね」


 良くもまあ神々の国を管理する組織に悪口を言えたもんだな。


「もし殺神犯を発見し通報したら報酬金とかってのは入るのか?」


「それなりには貰えるんじゃないのかな……ん、あれ? アイギス? あなたさっきまでパシフィカエにいたよね?」


「まさか俺を疑ってはないだろうな。パシフィカエにいたのはおまえも一緒だ」


「ああそっか」


 馬鹿で助かった。ああ、扱いやすい上に見ていて飽きないとは。癒しキャラだ。

 それにベルリアの遺跡のゲートまでは半日じゃ到着しないだろ、と加えて言い訳をしようと思ったが、完全に納得しているようだったのでやめた。


「でも一体どうしてアミラを狙ったんだろうね」


「さあ、ひょっとしたらパシフィカエの住民が邪神退治に尽力したのかもしれないし、ちょうどそのとき山奥で何かをしていた魔女が殺したのかもしれない。少なくとも俺らがどうにかするような問題じゃあないだろ――」と言ったところで、


 何かに衝突した。


 かたい。硬い、固い、堅い。重い。

 がしゃがしゃと鎖の音が耳に障る。舌打ちが追伸が如く届く。


 さらに声。


「おい、どこ見て歩いてやがる雑魚が」


「俺、そこまで弱そうに見えるかね……」と相手に聞こえない程度に呟く。


「ああ? なんだその態度は」


「ちょっとあな――」と制裁に入ろうとするノエルを俺は制す。良い、いらん。


 愚痴を中断してしっかりと対峙する。


 一メートル半ほど先、身長二メートルを超える大柄の、圧倒的な防御力を持っていそうな甲冑を装着した男が俺を睨んでいる。


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