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異世界転移して半日で神様殺した件  作者: 雪斎拓馬
第一章 神殺しの魔眼
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3 『螺旋の鍵剣』

 この、外は爽やかながら身体に齎すのは不穏である無人の山を下る女性。フードを被った、銀髪の女。


 一見クールビューティといったところだが、良く見れば案外顔立ちは幼くむしろ可愛い。服装は紫と黒色ベースで薄い生地のファンタジーもの。イメージを言えば「魔女」あるいは「魔術師」って感じだ。

 ここは神の棲む聖域だという。ならばそれに何か用があって訪れたのだろうか。まさかとは思うが俺と同じで邪神討伐か? いや、もしそうならば方向は俺と一致するはずだが、彼女は下山の最中である。


 ちょうど目が合った。より一層警戒する。

 だが、彼女は特に攻撃する様子もなく、しっかり観察してみればあの暴言ばかり吐くノエルとかいう奴と比べてお淑やかな雰囲気のある女性であることが判明した。

 安心してこの世界について尋ねようかとしたそのとき、彼女の方から会釈してきたので、俺も会釈し返し、好機とばかりに問うた。


「あの、すみません、少し時間はありますか?」


「ないわ。それでは」


「そうですか、それは失礼」


 では、ともう一度頭を下げて登山を再開しようとすると、すれ違ってから、背後から、下から、声をかけられた。


「冗談よ、少年。なに、少し君が気になってしまってね……ふうん、君のことが少しわかった気がするよ」


 どうやら冗談だったらしい。俺は改めて向き合う。

 登山道。緑の覆う中。明るいこぼれ日の照らす平穏な世界。

 彼女は、会話が長引くことを予想したのかフードを外した。綺麗な、やや紫がかった銀髪が風に浮かぶ。それを手で抑える彼女。顔が改めて良く見える状態になったが、幼く見えるのは目がパッチリしているからだろう、キャラ枠はクールビューティで間違いない。


「俺のことがわかった気がする? 参考程度に、俺はどんな人間でしょう」


「わたしとは敵対関係にあるだろう人間」


「…………そうですか」


「ふふ、心配することはない。これも半ば冗談。今ここでなにかをするつもりはない。――それにしても少年。君は良い『右眼』を持っているね」


 また右眼か。いったい俺の右眼がどうしたというのだ。


「それにそのナイフ。嫌に矛盾した最悪のナイフ。どこの鍛冶に打ってもらったのかはわかりかねるけれど、確かに脅威となりうる」


 何を言っているのだ、この女は。口元はやや微笑している。

 俺は指摘されたナイフを抜き、確認してみたが、どこがどう最悪なのか全く理解できなかった。

 割と豪華な短剣といった外見には何のタクティカルアドバンテージもなさそうなエングレーブが彫られている。装飾というよりは異世界文字。ひょっとしたらエンチャントでもされているのかもしれない。


「次君と会うのは雲の上だろうし、そのときには本当に敵対しているだろう。では少年貴重な時間を割いてしまって申し訳ないわ」


「いえ、こちらこそあなたの時間を割いてしまって申し訳ありません……と、忘れていました」


 もう少し俺に付き合ってもらおうか。せっかく対神戦直前なのだ、少しでも優位に立ちたい。

 なんだい、と彼女は首を傾げた。


「どうして神は、こんな外れに棲んでいるんですか」


「あら、知らないのね。神――アミラはどうにも都市が苦手らしくて、この辺境の地に城を築いたのよ。けれど現地民の反感を買って城を燃やされた。と、まあ、なぜ外れに棲んでいるのかという問いの答えは、アミラ自体が都市を好まないから、だね」


 なんというニートな神であるか。

 いやしかし唯一神というのは決まって自由奔放で歩くたびに厄介ごとを引き起こすものだろうから、らしいと言えばらしい。


「最後にもう一つ良いですか」


 彼女は無言で頷いた。


「その、都市ってのはこの近くにあるんですか」


「山を越えた先に『ベルリア』という都市があるわ。長閑な雰囲気の都市だから気が向いたら行ってみると良いわ。それじゃあわたしからも一つ良いかしら」


「ええ、勿論」


「わたしはエレナ、あなたはなんというの?」


「……デオン、とでも呼んで下さい」


 これ毎回違う名前を名乗っているが、もし一同集まって一斉に俺の名前を呼んだとき、俺は改めて「ハル=レイチェル・デオニウス」とかいうトンデモな名前を名乗らなければならないのだろうか。ならば、面倒なので今すぐ全員に「俺の名前はない」と伝えたいところではあるが。


 いやしかし、レイだのハルだのデオンだの覚え辛い上にたかだか数十分しか言葉を交わしていない奴の名前を憶えている人間なんてそうそういない。余計な心配だ。


「そう。わかったわ、ジオン」


「違います」つい反射的に突っ込んでしまった。


「失礼。改めて了解したわ、ディオニス」


 もう良いよそれで。暴君で良いよ。


「今度こそ、さようなら」


 別れの挨拶を返しながら思い出す。

 そういえばこの彼女――エレナは、次会うのは「雲の上」と言っていた。

 もう一生会わないだろうってか。ふん、気に入らん。運命に抗ってでもおまえに会って見せてやろうじゃないか。




 登山を再開し数時間。


 案外あっさりと廃城に到着した。

 確かに人為的に燃やされた形跡がある。元は大分豪華な城だったのだろうが、今となっては遺跡だ。ちなみに、かなり狭い方の城である。ノイシュバンシュタイン城を二十分の一に縮小したようなイメージだ。その上雰囲気はどことなく日本の城に似ている。

 そりゃあ子供も無理をしてまで来ようと思えるわけだ。こんな神秘的な場所、一生に一度は訪れるべきだと俺なら言って回るぞ。


 城内を探索する。依然として息苦しい空気ではあるが、それでも耐えられないわけではない。まだ転移してから何も口にしていないが、まだ問題はない。

 だが、今懸念すべきことはそれなのである。

 もしここで獣に襲われて万全でない状態で神に挑むとしたら? それは自殺行為だ。俺は自殺して転移して来た異世界でもう一度自殺することになる。死に戻りなる能力がない限り俺の旅はこんな辺境の地で終焉を迎える。


 また、神を無事に倒せたとしても、激しく消耗しここに戻ってきたのなら食糧問題に陥る。栄養不足でぶっ倒れ、誰にも発見されずに朽ち果てる。これもまた迎えるのは死。

 いつかどこかで聞いたことがある。


 

 ――()くも地獄、戻るも奈落、途中退場なんて論外。この世に生まれた以上人間が背負うのは「感謝」じゃなくて「死」だ。

 


 本当その通り。右も左もわからない、職もない、食もない場所に放り込まれたこの状況、何をしたって死が待ち構えている。

 俺は今平凡な人生の数倍数段危険な綱を渡っているのだ。

 最善の一手を打たねばならない。


 シストロークロ。

 ノエルとかいう馬鹿少女は祠のような形容しがたい何かだと言っていたがなるほど確かにこれはどう表現すればいいのかわからない。

 結論から言えばかなり容易くそれを発見することはできた。

 遺跡。まるで神への供えをする台のような石の柱。祠というほど屋根のあるものではないが、だが用途としては祠のそれと酷似するであろう。そこには三つの宝玉と台に突き刺さる「剣」があった。


 オーウェルさんからの情報を思い出すも、剣について話題にすら上らなかったので全くわからない。これもまた形容しがたい剣でいて、螺旋状に刀身がひねられている。割かし長い。

 そしてそれを囲むように正三角形の位置に配置されている宝玉。どうやらパシフィカエの子供はこれを破壊したらしい。……そりゃあこんな綺麗なもの壊せば神も怒るだろうさ。


 さて。

 神がいない。


 ある程度、くまなく、城内を見て回ったのだが微塵の気配もない。

 そうそう物語を終わらせないってのか。ふん、それなら良いだろうもう少しばかりここを堪能してから山を越えることにするか。


 とその瞬間。


 再び脳に映像が流れた。


 今回は不吉なビジョンだった。身の毛もよだつ、なんとも馬鹿くさい映像。

 しかしそう罵倒しながらも、一蹴はできなかった。完全に否定することはできなかった。むしろ頭の中では理解しているようだった。


「ったく……別に俺はそこまで根の強い奴じゃあないっての」


 一人、苔の廃城で吐き捨てる。はたから見ればただの変人だが、今はそんなことに構っている暇はない。一歩一歩微々苦笑しながら祠へと戻る。

 俺はどうやら浮かれていたらしい。あの祠の台に突き刺さった棒を剣だと見抜いたことに浮かれていたらしい。正解であって十全ではない。あれは剣ではあるが剣だけではない。

 祠に到着するなり台から反時計方向に回しながら引き抜いた。まじまじと観察するが、やはりビジョンの方が正しいらしい。


 これは剣であって「鍵」であるのだ。

 さしずめ『螺旋の鍵剣(かぎつるぎ)』と言ったところか。


 俺はそれを両手で逆手持ちに握る。とはいえ刀身は捻じれているので諸手の剣も驚きの全方向刃なのだが。

 続いて拳を目の高さまで上げる。

 しっかり力を込めて。


 

 自分の胸元へ突き刺した。

 


 刹那。

 俺の視界がまるっきり変貌する。

 暗闇だ。

 俺はこの「無」を知っている。一度経験している。


「やあ久方ぶり、若き少年」


 無の中から女性が現れる。こいつのことも知っている。一度会ったことがある。

 まるでスポットライトが当たったかのようにはっきり姿を露わにする美人――この世界の神アミラは言う。


「そうそういないのだよ、『螺旋の鍵剣』を自分に突き刺す奴は。流石は私の創った『右眼』を持つ男」


 その神の手にはこちらへ向けられた鍵剣が握られていた。


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