7 『対世界違和感』
「そういえばノエル」
「ん? なに?」
緊張感漂う王城の城門。
俺の見送りをしに来たノエルに尋ねた。純粋な疑問であったし、杞憂にすらならぬ、つまらない好奇心ありきの疑問だ。
「幻想の国ベルリアの国王って結局誰になったんだ?」
「ああ、それね。確か国民の投票で選ばれた男で、名前がフィウィン・パーシカだった気がするよ」
「ふうん、民主主義か、平穏で何よりだ。支配神はひょっとして誰か着任してしまったか?」
「いや、多分ルベルの一件で、席に着こうとすると殺されると怯えた所為か、あるいは信仰度を下げまくったアミラの所為か知らないけれど、まだ誰も支配神にはなってないようだね」
「そうか。なら良かった」
そう言って進路へ向く。
これからベルリアのパシフィカエのシストロークロまで行く。それが、可視化された手がかりの一つだからだ。逆に言えばそこに行ってわからなかったらお手上げだ。
「ああ、あとそうそうノエル」
「なに?」
「帰って来たら、魔法を教えてくれないか?」
「魔法? でもあなた、魔法は俺には合わん、とか言って手を振ってたじゃん」
「気が変わった。俺に合わなかった理由もわかったしな。俺が教えて欲しいのは魔法の使い方じゃなくて、魔法の構造だ。つまり魔術編者がやっていることを真似たいんだよ」
「あ、ああー……わたしその類の話は苦手だなあ……けど、頑張るよっ」
むん、と張り切る彼女。
「そうか、ありがとう。それじゃあ行ってくる」
ともう一度進路を向いたが、流石の往生際の悪さ、すぐさま踵を返してノエルに頼んだ。
「ノエル、最後に頼みが」
「往生際悪いよね、まったく。しまるものもしまらないよ」
「螺旋の鍵剣を持っているくらいだしな」
「冗談言ってないで」
「俺に『死の因子』との縁を結んでくれないか」
「あまり結びたくない不吉なもののようだけど」
「いや、ただ縁を結ぶだけで良い。効果を無効にするとか、逆に鋭敏にするとか、そういうことはしなくていい。ただ繋がりが強くなれば良い」
「ふうん、わかった」
と言って、ぐいっと顔を近づけてくる彼女。
「な、なんだノエル」
「え? いや、キスして欲しいのかなって」
「そんなわけあるか、大体そんな遠回しな要求はしない」
「ええー、つまらないなあ」
「おまえ……、ただおまえがしたいだけだろ」
「ん?」
「この淫乱女が……」
「淫乱女は言い過ぎだよー!」
「で、実際ただおまえがしたいだけなんだろ?」
「は」
「…………」
「ええそうよ! なんか文句ある!?」
逆ギレされた。
「いや、ないが……」
「じゃあするよ、異論は認めない!」
言うが早いか、あるいは言い終わるなり、強引にキスされた。
暫くして顔が離れる。
「……はあ、まったく、これから生きるか死ぬかの危険地帯に行くってのに。そもそもリーヴェンは握手だけで済ませられるだろうが」
「だから今回は握手で済ませたよ」
「は?」いやでも今ガッツリ……。
「ああ、キスは、その……オプション?」
こいつ、俺以上の物語壊しかもしれない。
「閑話が長引きすぎたな、それじゃあ今度こそ行ってくる。ありがとう、ノエル」
「お互い様だよ、いってらっしゃい」
三度進路を向き、ようやく歩き始めた。
ベルリアに行くということは、バイパスとして――否、ショートカットとしてアミュステラを使う必要がある。これは人間には許されない、神の特権だ。
アミュステラを歩く。
何だかんだ、少しは街の構造を理解してきた。
街、そう街。この天上都市アミュステラは街である。
だが、ここは天上都市でもあり天上世界でもある。つまり天上世界の中の天上都市アミュステラだ。といっても、街と世界の面積は必要十分条件に限りなく近いベン図が描けそうな割合なのだが。
この中世ローマのような美しき街を外れれば、つまりアミュステラの郊外に行けば、普通に田舎町があるのだ。ただ、「ゲート」が中心部に集まっている所為で、あまり訪れないだけ。住民が神であること、巨人が眠っている場所であることを除けば、地界と特に変わらない。
この街ももう行き慣れたということだ。
相変わらず騒々しい広間を抜け、ベルリアのゲートのある区画へ移動する。しかし神は意外と多く、未だ騒々しい。こいつら人間と特に変わらないじゃないか。むしろ何が違うんだ。
家を持って、友人を持って、暇を持って、金を持って、命を持って、現在を生きる。
何が違うんだ。
こいつらにも職業がある。ヘーパイストスは鍛冶屋で、アテーナーは戦士、とざっくり言ってしまえばギリシャ神話にだって職業的な役割はあった。
だから、特に変わったことじゃない。
だが、それにしても、魔術編者ね。
魔術のない世界からやって来た俺が、そんな高等な業をこなせるだろうか。
――と、薄らぼけっと上の空で歩いていると、
「奴らが動き始めた。三日後あたりには『左手』と決着をつけろ」
背後から声が聞こえた。
咄嗟に振り返るもそれらしき人、もとい神はいない。
「しかし今の声……ミラか?」
俺はおまえも探しているんだ、逃がさないぞ。
そう心の中で呟いて、未来視を使った。
だがミラと対峙するビジョンは浮かばなかった。
見つけることはできないようだ。
「まあ、そんなものだろう」一人呟いて、彼からの忠告を咀嚼する。
奴らが動き始めた? 奴ら?
いったいなんのことだ。
いや、このタイミングなら奴らってのは、きっと『死の因子』の原因となる、そしてエレナの追う連中だろう。
動き始めた――確かに、その死の因子とやらを信じるならば、ビュルンデッドの指揮官が死んでいたのはその一つであるだろう。
俺の予想は外れていないということか。
前進を再開させて、ベルリアのゲートへ。
ここからアズール遺跡へと繋がる。
足を前へ前へ運ぶ。訳あって少し急がねばならない。
ゲートをくぐり、遺跡へ。
遺跡に到着し、ベルリア街へ出る。
地界。人間たちの世界。昼。
さて、ここから本番だ。
俺は近くにいた馬借に声をかけた。
「すみません、馬を出していただけませんか」
「どこまで?」と馬借が問う。
「パシフィカエです」
「へい、かしこまりました。駄賃は三十フィーになります」
この国の通貨はフィーというのか。確かヴェルゼンはリーダスだった気がする。
しかし俺は現在ベルリアの国の通貨を持っていない。恐らくヴェルゼンの金ならノエルが貸してくれるだろうが、しかしリーダスを持ってきても商人は困ってしまうだろう。
だから、俺は堂々と一文無しであることを宣言しなければならない。
「すみません、俺は今一文無しなのです」と説得を始めた。「それには色々な事情がありまして、どうか俺に力を貸してはいただけませんか」
「駄賃なしだと馬は動かないですぜ」
どんな馬だそいつは。
餌は金なのか?
「しかし俺は金に代わるものを持っています」
「ほう、物々交換ですか。――となると、ひょっとして、懐中時計とか?」
「いや、違いますが――どうして懐中時計と?」
「懐中時計は貴族しか持っていない貴重品なんだ。その物々交換ならオーゲントまで運んでいけますぜ」
オーゲント?
ああ、灼熱の国だったか。
いや、いらんだろ、そこまで運べとは言っていない。
「物々交換ではありません。まず、これを聞いてください――俺は神です」
彼は少し目を丸くし、はっはっはと快活そうに笑った。
「ご冗談を」
「いや、冗談ではありません。そうですね、まあこれは良しとして、金に代わるものというのはあなたの未来についてです」
「まさか、脅迫しているんですかい?」
「いえ、そうではありません。俺は未来を見通せる能力を持っています。あなたの未来を覗いて、助言しようと言うのです」
「へえ……神様かどうかは後日わかるってことですかい。かしこまりました、じゃあその話は馬の上で話しましょう」
俺は荷台に乗り、彼は馬に乗ってパシフィカエまでの道を走らせた。
彼の話によれば目的地まではそうそう遠いところではないが、歩けば長くなるとは言っていた。
なんといっても山を一つ越えるのだから。
「では、どれくらい先の未来を視たいですか?」
「とりあえず明日ってのは?」
「わかりました」といって未来視を使う。「そうですね……まずビジョンが正確か確認させて下さい。あなたはダン・ベッケラートですね?」
「おお、当たってる」
「明日、一人の旅人を運ぶことになる。その旅人は提示した額より多くの金を出してそこを去る」
つまらないが、まあ、そんなところだろう。
「へえ、それじゃあ最近起こるビッグイベントは?」
「二週間ほど後に馬借業が活気づく。あなたはどうやら成功するようですね。怯えずに、でしゃばりでも、積極的に労働してください」
「ははっ、そいつは面白い。二日後の国王のパレードが成功するってことかもな。できればおれの将来の結婚相手の名前とか聞けないものですかい」
面倒な。まあでも金の代わりだ、これくらいはしてやるか。
「結婚相手はカリーナ、数年後に出会う」
出会いは……なんだろうな、と思考を放棄した。
だが、これが悪かったのか良かったのか、違和感に気付くことができた。脱力による発見。
さっきの、明日来る旅人も女だったな。
ふと、上の空でそんなことを考えていると、鮮明なビジョンが浮かんだ。
――ダリア?
この女は間違いない、ダリアだ。明日、彼女はここへやって来る。
脱獄してきたのか? しかし、行き先がヴェルゼンに近い場所だ。
明日、彼女は俺たちの前に現れるのだろうか。
それについて未来視を使うも、「来ない」という結果が得れた。では、なんなのだろうか、この出来過ぎた未来は。
「明日来る旅人はしっかり送り届けてください。行き先はベルリアの北端ですから」
「かしこまりました」
この後はずっと何のためにならない世間話をしていた。
あっという間に過ぎたのか、元々短く設定されていたのかはしらないが、ともかく少しの時間を経て、目的地に到着した。
山を越えたすぐそこで下してもらった。
パシフィカエまで行ってまたオーウェルさんに会うのも良いのだが、それでは時間がもったいない。あくまでも俺の目的はシストロークロにあるのだから。
「ここで良いのですかい?」
「はい、ここで良いです。ああでも帰りにも乗らせて頂きたいので小一時間ほどここで待っていてはくれませんか」
「あいよ」
「では、一時解散――あなたに自由あれ」
「なんですかいその挨拶は」
とお約束のノリを終えて、山に向かった。
エレナと会ったのはここだが、だからここでまたエレナに会うとは思ってはいない。恐らく誰にも会わない。それくらい、ここは終わっている場所なのだ。
終わっている。終わりきってはいないにしても、終わりを迎えている。ここに棲む神は死んだ。魔獣も生きられない。いずれ森林も消えるかもしれない。
その原因に、アミュスリアルと呼ばれる『死の因子』がある。
死の因子、というと全生物、全無生物が死ぬために必要なものという解釈ができるし、きっとそれであっているのだろうが、ノエルのあの反応――有名な単語ではないらしい。
論理的に考えて、もしこの死の因子なる存在を信じるなら、やはりエレナが追究している、追及しているものは、これだろう。
「さて、いき苦しいが、我慢して俺も研究しようかな」
実験方法は幾らでも思いつく。
そう心の中で頬杖をついて、腕を組んで、しかしまるでベクトル場のように要素が支配する空間「死の沼」へと歩き始めた。
*
結局、死の因子の出所はわからなかった。
この物質あるいは概念的存在のもたらす効果なら把握はしたが――例えば、これは推測通り「死」を司るものだった。全ての死を司るもの。死亡時に発生するのではなく、死そのものを起こす因子なのだ。
そして、その因子は生物ないし無生物に死を与えた後、空間に留まる。本来こんなことはあってはならないと思う。そうでなければエントロピーがあまりにも増幅し過ぎる。ゆえに必ずどこかでこの因子は消え去るはずなのだ。
しかし、視点を変えて考えてみれば、死の因子が何なのかがわかる。
アミュステラの巨人だ。
俺の右眼、ノエルの右手、ケルテットの左脚などに固有の特技を与えることで支配力をちょうど良い具合に分散させた巨人。現在睡眠状態にある巨人。
こいつは元々『対極』を支配する規制者だった。巨人が活発であるほど世界から対極が薄れる。巨人が活発であるほど、混沌と秩序、苦と楽、善と悪、優と劣、そして生と死距離が狭まる。
死を司る因子、命を司る巨人。
何か関係がありそうだ。だがそれを追究するには出所を探らねばならない。骨が折れそうだ。
そんな結果だけ見れば全くの無駄だった遠征を終えて、ヴェルゼンの王城まで戻って来た。ちなみにアミュステラの巨人の石碑を見てみたが、良くわからなかった。
王城に着くなりノエルが飛びついて来た。
「意外と早く帰ってこれた」と一言言ってやると彼女は頷いた。
「じゃあ魔法を教えるよ。ええと、魔法っていうか術式刻印のことで良いんだよね」
「ああ、それだそれ」
「じゃあ研究室があるからそこに行こうっ」
やけに楽しそうな神様だった。
手を引かれ到着したのは某魔法映画でありそうな図書室だった。薄暗い、というか真昼間なのに普通に暗い、だが本を読むにはちょうど良さそうなくらいには明るい図書室。恐らくキャンドルに火をつけて読書をするので、やはり暗いと言ったほうが正しいだろうが。
「しかしまずいな」
「どうしたの?」
「薄暗い部屋だとこの女が何をしでかすかわかったもんではない」
「う……い、いやあ、なにもしないよ?…………なにもしないよっ?」
「そうか、なら良かった」と言って席に着く。すぐ隣に彼女が座り、身を寄せる。
机に火のついた蝋燭と紙、ペン、本が置かれた。
これが案外、地獄の始まりだった。
「まさかここまで難しいとは思わなんだ……」
そう呟いたのは翌日の同時刻だ。
一日が経過していた。とはいえしっかり夕食のタイミングで勉強を切り、床に入ったのだが、その時点では触りしか理解できなかった。
二日目の挑戦である。
まずは発火魔法の術式刻印の構造から見た。そこに日本語はもちろん書かれていない。普通に使用されている文字は日本語のように読むことができるというのに、こればっかりは何も浮かんでこない。
ノエルの説明を受けて理解した触りはこうだった。
術式刻印には必ずスイッチに当たる文章が記されている。またこのスイッチは人それぞれ異なるため、ここで自分だけの魔法か他人にも使える魔法かを設定できる。
次に魔法そのものを発動する文章が記されている。発火魔法なら、火を生成する文章だ。まずこの時点で俺は理解できなかった。なぜそんな文章を書けば火が生じるのか理解できなかったのだ。
最後に精算の文章が記されている。これは発動者から受けた魔力を処理し、適切な形で他の文章に供給するためのものだ。つまり他の文章と密接に絡み合っている。
「複雑過ぎる……」
俺は昔趣味でプログラミングを覚えた時期があった。論理的思考力をつけるためだ。同時期に数学を勉強し、本を多く読んだ。だから構造を把握したりする能力には長けているのだが――これは意味不明、理解不能だ。
この術式刻印とやら、プログラムじゃなくて電子回路基板だ。つまり専門外。それに化学に通じるところがあるかと思ったが、全くそうでもなかった。
「ノエル、おまえこれを理解しているのか?」
「魔術編者ほどじゃないけど、ちょっとした魔法を作る程度なら」
「……頭良いんだな、おまえ」
「え……ええっ!? 褒められた!」
嬉しそうに飛び上がる彼女。その仕草は明らかに馬鹿だった。
暫時挟んで、紙に一つの刻印が描かれた。発光魔法の術式刻印だ。これは俺が書いた。だが俺は魔法を使えない体質のため、スイッチの文章を彼女に書き足してもらい、彼女が発動させた。
結果問題なく魔法は発動し、光が生じた。
「うん、大丈夫だね」
「疲れた……駄目だ、お手上げだ。俺はこれで自分に合う魔法を作らなければならないのか……」
「今のところ螺旋の鍵剣とアダマスの剣しか使えないもんね」
「どちらも術式刻印なんて想像もしていない。その上螺旋の鍵剣に関しては実物を持っていない――ああ、昨日シストロークロに行ってみたんだが、無かったんだ――だから比較して共通の文章を見つけることもできない」
魔法が作れれば、俺の体質にあった俺の魔法があれば、割と強いものになるはずなんだが、理想は遠い。
「そろそろ夕食の時間だ、とりあえず切ろう。また明日だ」
本を閉じながら尚考える。
俺は魔法が使えない。どう魔力を流せば良いか理解していないらしい。それに関してはもう無理だろう。バイオリンを弾くための左指が発達していないようなものなのだ。クリティカルピリオドはもう過ぎた。俺は十中八九の魔法が発動できない。ゆえに魔術編者なんて真似すらできない。
魔法を作ることすらかなわなかった。
原因は二つある。術式刻印の構造が難し過ぎたことが一つ。自分がどうやってアダマスや鍵剣を使っているか把握していないことが一つだ。
俺はどうして二つを使えているのだろう。
アダマスに関しては俺用にアミラが作ってくれたから、というのがあるだろうが、では鍵剣はどうして。グローバルな術式だったから? いや、グローバルなものでも俺は使えなかった。俺には魔法が使えないんだ。
二つに共通点があるとしたら、道具であるということだ。鍵と剣。道具だ。
だがそれこそだからなんだ、ということだ。
やはり俺は理解しなければならないのだろう。
なぜアダマスや鍵剣を使えるのか。
夕食を口に放り込みながら尚考える。対面のノエルとケルテットが今後の作戦を議論しているが両耳はそんなもの聞いていない。
なぜ俺は二つを使える。唯一二つを。
そもそもアダマスは俺用に作られた矛盾の剣だ。言ってしまえば鍵剣だって矛盾の剣だ――矛盾というかパラドックスというか。
小人のパラドックスというものがある。心について考えたときに生じた矛盾だ。心はどこにあるか。例えば脳と答える。では心はどうして動くのか。それは脳の中の小人が操作しているからだ、と答える。では小人の中の心はどうして動いているのか。それは小人の中の小人が……と無限に続く。
鍵剣は他人の心の中に入るのはまだしも、自分の心の中に入ってしまえた。あのとき、自分の心の中にいた俺の体の中の心には俺がいたのだろうか。もはや日本語から意味不明になる。
矛盾、パラドックス、逆説。
俺が使えるもの。
俺が使えない理由。
俺が――発動できるもの。
発動――矛盾。
発動に必要なのは――
俺は矛盾――
「なるほど!」
「うわびっくりした!」と俺の大声に飛び退くノエル。
「わかったぞ、俺がアダマスと鍵剣を使える理由。俺が使えるもの」
「良かったね、今後役に立ちそう?」
「ああ、役に立ちそうだ」
「――残念だが、試す時間はないらしい」
声が横から割り込んできた。ケルテットの声だ。
彼を振り向けば、隣に伝達兵が見えた。
まさか、と訝しんだその予感は見事に的中し、
「敵が、この城近くまで攻め込んできている」




