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第十三話「旭光回廊会戦」③

「敵艦より、制圧射撃! 本艦周辺に来ますっ! 高速飛翔体迎撃システム起動ッ!」


 利根の対空砲、主砲が火を吹き、砲弾を撃墜する。

 利根達の作り上げた高精度砲撃システムは、超音速で飛来する砲弾すらも撃ち落とす事を可能としていた。

 

 音速を遥かに超える速度で飛来する砲弾を艦体運動だけで、回避するのは物理的にも不可能。

 装甲で防ぐのも、レールガンクラスともなればその物理衝力だけで、大和クラスの重装甲でも防ぎきれるものではない。


 強電磁界フィールドで砲弾を逸らすにしても、稼働限界がある上に、事実上攻撃不可となってしまう欠点がある。

 

 そこで、利根達の出した結論は、砲弾を砲弾で迎撃するという方法だった。

 

 これは、利根の持つ多元同時観測システムと高精度未来予想システム、そして高精度レールガンによって実現できたものであり、楼蘭を含めてそれを可能とするのは、このセカンド宇宙では利根達以外皆無というものだった。

 

 けれども、相手はレールガン搭載のそれも戦艦クラス。

 その砲数は30.5cmの大口径三連式砲塔三門の合計9門! そして、その連射速度は毎分100発以上ッ!


 もはや機関銃弾のような勢いで、雨あられと打ち出される大口径砲の砲弾数は凄まじいものだった。

 

 そのいくつかには散弾も混ざっているようで、利根の戦術モニターがあっという間に真っ赤に染まる。

 

 如何に利根と言えど、全弾迎撃は無理があり、至近弾が出始める。

 

 一弾が艦橋部装甲を掠めたらしく、金属の悲鳴のような音が響き渡った!

 

「おおおっ! 利根ちゃん、今のはヤバイヤバイッ! ヤバイって!」


 青島中尉が腰を抜かしたようにしゃがみ込みながら、悲鳴を上げる。

 ルクシオンも思わず耳を抑えて、肩をすくめるのだが、柏木は腕を組んだまま微動だにしない。

 

「うろたえるな! 利根、今のはわざと避けなかったな?」


「その通りですの……どうせ直撃しないと解ってましたから、紙一重の弾を大避けして、舵を切るなんて意味のないことは致しませんの。青島中尉も、柏木様を見習ってくださいまし」


 そう言って、利根は青島中尉に手を貸す。

 本当のことを言うと、柏木も頭を抱えて、しゃがみ込みたかったのだが。

 

 理性で恐怖心を押し殺しただけの話だった。

 この場は、恐怖など感じない不屈の司令官を演じるべきだと思っていた。

 

 そもそも、利根の対艦戦術は初霜の戦術データを相手に鍛え上げられているのは、柏木も知っていた。

 

 初霜は、本気で紙一重で回避しながら、超精密射撃で反撃してくるような命知らずと言える戦術を多用する艦だった。

 当然、その直弟子とも言える利根もしっかりその思想を実践している。

 そして、利根も戦術VRシュミレーション上では、初霜を圧倒するほどの技量を得ていたのだ。


 当然ながら、初霜譲りの高い戦闘力を誇る夕暮や有明の二人ですら、利根相手の模擬戦では相手にならない……その程度には利根の戦闘力は高かった。


 柏木もなにも蛮勇で最重要人物とも言えるルクシオンを連れて、最前線にて陣頭指揮を取っている訳ではないのだ。


 ある意味、宇宙で最も安全な場所……それがこの重巡利根の艦橋だった。

 

 その時、利根に向かって放たれていたクロンシュタットからの砲弾数は軽く三桁に達していたのだが、利根は必要最低限の迎撃のみで、直撃弾のみ全て迎撃していた。

 

 その砲弾のコースはミリ単位で予測しており、至近弾や掠める程度なら、基本的に無視を決め込んでいるので、周囲のエーテル流体面はもはや土砂降りの雨でも振っているかのような有様になっていた。

 

 当然、艦体も激しく揺れる上に、至近距離着弾の爆音やらで、乗っている側は生きた心地がしないような状況だったのだが。


 けれど、それを雄々しく許容するのも指揮官のあるべく姿……そう思って、柏木も雄々しく耐えているのだった。

 

「……艦長! 報告しますわ……索敵機が新手の接近を感知……これはインセクターです!」


「なんだと? 奴ら、ドンパチを嗅ぎつけて、出張ってきやがったか……進路予想を出せるか?」


 柏木の言葉に答えるように、戦術モニターにインセクター群の進路予想が表示される。

 その進路予想は、もっと近い所にいるセルゲイ艦隊を無視する形で、柏木達の進路に割り込むような進路となっていた。

 

「これは? 青島中尉……進路予測間違ってないか? 連中の行動パターンだとより近い側を目指すはずだろう?」


「いえ、各種観測データを元に未来予測システムの弾き出した進路予想です。確度についてはセブンナインってとこです。……数は、駆逐と巡洋クラスで20ってとこですな。この分だと確実に進路上に、割り込まれるかと思われます。さすがに、この数相手となると、少し厳しいものがあります……早急に対処が必要です」


 99.99999%の確度……ほぼ断定と言っていい数値だった。

 

「艦長、有明と夕暮より報告……敵艦隊、逃げにかかっているとのことで距離が開いているようです! ですが、このままの速度で追撃するとインセクターの艦隊に割り込まれます! ここは守りを緩めて、火力集中の上で二人を先行させて突っ込ませるか、或いはインセクターの迎撃を優先し、一旦二人を下がらせるか……ご決断を!」


 利根もさすがにこの状況は予想外のようだった……クロンシュタットとの砲戦は、利根は柏木達への配慮と、一発たりとも当てさせないと言う命令を忠実に守り、防御に徹すると決め込んだらしく膠着状態。


 けれど、ここに来てインセクターの乱入……そして、そのイレギュラーな動き。

 なにより、インセクターの動きを計算に入れたようなセルゲイ艦隊の退避行動。

 

 それらから導き出される結論は、唯一つだった。


「……まさか、奴ら……インセクターを掌握する術を持っているのか? 利根、青島……奴らがインセクターを外部操作している可能性、及びその方法について推察しろ! それとルクシオン陛下、あなたは何か聞いていませんか?」


「そ、そうですね……ウラルの者達は、かなり独自性の強い艦艇を多数就役させている様子でしたわ。その艦影はまるでインセクターのようだと言われておりました。情報部によると、インセクターを鹵獲し、模倣した可能性が高いと言う話でしたが……」


「インセクター側の技術を模倣したとなると、むしろ、奴らを研究し尽くしたと言うことか。その過程で奴らを外部操作する技術も手に入れたと考えるのが妥当か……青島中尉、どう思う?」


「はぁ……確かに我々もその手の研究は行った事もありましたからね。可能かどうかと問われたら、可能だと断言します。ただ、我々は下手に操るよりも沈めた方が早いって話で、早々に打ち切ったんですがね。操るっても、完全にコントロールするのはやはり無理があって、ちゃんと言うこと聞かなかったり、暴走したり……いずれにせよ、その信頼性は低いでしょう。実際、連中も戦列に加えるんじゃなくて、当て馬代わりに誘導したって感じじゃないですか……」


「確かにそうですわね……けど、遠隔操作すると言っても、どのような手段を用いているのです?」


 利根が素朴な疑問を口にする。

 そう言いながらも、今もクロンシュタットから飛来する砲弾を迎撃したり、艦体の回避行動を行っている……。

 

 彼女達にとっては、戦いながら、会話や考察を行う程度は造作もない事だと解ってはいたのだが……。


 柏木としては頼むから集中しててくれと思わなくもない。

 もっともそこら辺はおくびにも出さない辺り、さすが付き合いが長いだけのことはあった。

 

「そうだねぇ……僕らが試したのは、奴らのコアに等間隔のレーザー光を照射するとか指向性の音波とか、そんな外部刺激を与える方法だったんだけど……。どの刺激にどう反応するかって、個体差もあるから、とにかく思ったように動いてくれないんだ。奴らがどの方法を使ってるかってなると……光は相応の距離に近づくか、大出力レーザーでも使わないと無理だ……だから、多分音波だな……インセクター自体、音波による相互通信を行っているみたいだからね。インセクターの相互通信プロトコルの部分的解析に成功した……そう言うことなのかもしれない。ねぇ、利根ちゃん、ソナーになにか反応は無いかい?」


「少々お待ちを、有明と夕暮のソナーシステムに割り込みをかけます」


 そう言って、少し考え込むような仕草を見せる利根。

 また一弾、艦体を掠めたらしく、派手な金属音が鳴り響く……青島中尉が肩をすくめるのだけど、ルクシオンも柏木もそろそろ慣れたようで、平然とした様子だった。


「……えっと、有明と夕暮のソナーに感ありですの。一定間隔でモールス信号みたいな音波が巨大艦から放たれてるようですわ……指向性が強いみたいで、反応は極めて微弱でしたが、あると言う前提で探るなら、捉えるのは容易でしたわ」


「なるほど、読めてきたな。確かに実戦で使えるレベルの大出力を出すとなると、あれくらいの大きさでないとキツい……。と言うか、我々も同じ結論は出していたのだけど、試算した結果キロメートル級の専用艦を作らないといけないなんて、あまり現実的じゃないシュミレーション結果が出て、破棄したんだ……。さすがウラル、馬鹿げた事でも本気でやってモノにする……なんて言われるだけのことはあるな」


 さすが青島中尉と柏木も素直に感心する。

 的確な分析と利根達への指示で、未知の敵システムを容易に解析して見せてくれた。

 

 利根や有明の能力をほぼ完全に把握しているのも大きいが、青島達技術班も様々な可能性を模索して、今に至っているのだ……技術力に関しては、少なくともウラルやブリタニアに対しても、決して劣るものではない。


 むしろ、技術については、優越している……それは、利根達がレナウン達を容易に手玉に取った事や、現在、明らかに優勢な戦艦クラスの猛砲撃を利根が片手間のようにしのぎきっていることからも明らかだった。

しばらく、休載状態でしたが。

とあるおっさんで、作者読みされてるみたいだし、

新作もまだリリース出来る状況じゃないので、片手間でこっちのシリーズ再開とします。



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