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第二話「帝国海軍重巡洋艦利根の憂鬱」②

 寝間着代わりの薄手のワンピースを脱ぎ捨てながら、ベッドの上から起き上がる。

 ……服を着て靴も履いて、鏡を見ながら髪を梳かしながらベッド脇に座り直す……準備はオッケー。

 

 直後、わたくしの私室代わりの士官用個室の扉を叩く音。

 

「……どうぞ。起きてますわ」


 返事をすると、ボサボサ頭に分厚い眼鏡の青年が入ってくる。

 

「や、やあ、おはよう……利根ちゃん、良く眠れたかな?」


 蒼島健二技術中尉。

 

 重巡利根わたくし専属の技官さん。

 

 本来、最前線に出るような方じゃないのですけれど、今回わたくしが単艦で出ると言ったら、核融合ボイラーの調整が完全に終わってないとかで、勝手に付いてきてしまいましたの。

 

 まぁ、わたくしの専属メカニックのようなものですし、邪険にする訳にもいきませんでしたし……。

 一人じゃ、ちょっと寂しいって……日頃から思ってたのもあって、思わず頷いてしまいましたの。

 

 実際、わたくしが短期間休眠モードの最中でも、サブシステムを使って、瑞雲の制御や操艦くらいならやってくれるので、思った以上に助かってます。

 

「蒼島中尉……別に起こしに来なくたっていいんですのよ? それにノックなんかしなくたって、艦内のことは隅々までモニターしてますから、解りますの」


「ははっ……レディの部屋を訪問する時はノックするのがマナーって言ってたじゃないか。それに前みたいに下着姿で寝られてたりしたら、大変じゃないか……主に僕が」


 言われて、思わず顔が熱くなる……。


「あ、あの時は、メンテナンス中で艦内モニターがオフになってたから、解らなかったのですわっ!」


 ……長時間に及ぶ戦闘後、不覚にも着替えながら床に転がったまま休眠モードになってしまった事があって……たまたまわたくしの部屋を訪れた中尉に、思い切り見られた挙句、色々勘違いされて、抱き起こされてしまって……。

 

 ああっ! もうっ! 今、思い出してもドキドキしてしまいますの。

 

「いやぁ……あの時は、本当に悪かったよ。僕も君が倒れてるように見えたから、色々テンパっちゃってさ」


 ……正直、殿方にあんな風にお姫様抱っこ……って言うんですかね。

 そんな風に扱われたのは始めてだったもので……以来、なんとなく意識してしまってますの。

 

 でも……今更、そんな事言うなんて、デリカシーってもんがなさすぎですわーっ!


「……も、もういいですのっ! そ、それより、予定より早いのではなくて? 何かありましたの?」


 よく見ると、予め伝えていた起床予定時刻より一時間くらい早いんですの。

 まぁ……わたくしもとっくに起きてたんですけどね。

 

 ベッドの上でごろごろとしながら、物思いに耽る時間があったって良いじゃないですか。

 わたくし、乙女なんですから。

 

「ん、ああ……そうそう、由良達が到着したから、一応知らせようかと思ってね」


 軽巡由良……わたくし同様、セカンドフェイズ無人戦闘艦……旧来の仲間。


 今の状況を伝えたら、向こうも心配して交代要員として応援にくると言う話になってしまいましたの。


「……あら、随分早かったのね……むしろ、敵なんていやしないのに……」


「うーん、そうだね……事情は良く解らないけど、有明と夕暮まで連れてきちゃったらしい……それと、佐神中佐も一緒らしいよ」

 

 ……随分と大げさ。

 これでは、斑鳩基地の主力が集まってしまったような感じになってしまってますの。

 

 そうなると、今ここに居ないのは、近接防衛艦の睦月と如月。

 それと現在メンテナンス中の空母龍驤。

 

 もちろん、基地の防衛隊の方々の駆る小型有人戦闘挺や航空隊とか、わたくし達以外にも戦力はありますけどね。

 

 いずれにせよここは……わたくし達にとっては、最前線……緊張はさすがに隠せませんの。

 

「利根ちゃーん! お疲れ様ですぅ! ちょうど、ご飯が出来ましたから、うちにいらしてくださーい!」


 唐突に……由良からの間延びした通信が……。

 モニターには、肩の当たりで切りそろえた黒髪、前髪ぱっつんで割烹着を着た和風美人が映し出されていますの。

 

 人が真面目に、気合い入れているのに、ご飯が出来ましたよーと。

 

 色々、台無しな感じなんですのーっ!

 一応、最前線で超、厳重、警戒中なんですけどーっ!

 

 由良って、ほんとにマイペースかつ、緩い……。

 

「「わたし達もお手伝いしましたーっ!」」


 モニターに割り込むように、三角巾を被った長い黒髪のセーラー服。

 そんなお揃いの姿をした小さな二人組が声をハモらせながら顔を見せる。

 

 違いとしては、目の色が青でお玉を持ったほうが有明。

 オレンジの瞳でしゃもじを持ってるのが夕暮。

 

 どっちもほっぺたにご飯粒とかくっつけて……つまみ食いしてたのが、バレバレなのですわーっ!

 

 見た感じは、わたくしが師と仰ぐ初霜さんにそっくり。


 それもそのはずで、この娘達は彼女の姉妹艦……あの方の帰りと再会を待ち望んでいると言う意味では、わたくしと一緒。

 

 正直、この娘達はわたくしにとっても、妹分みたいなのものなので、どうにも甘やかしてしまってるんですわよね。

 

「はぁ……あんた達も呑気ねって言いたいけど……なんか一人で気張ってるのが、馬鹿みたいになってきましたの」


「今は、敵もいませんよ? お腹が減っては戦も出来ぬと言いますからね……利根ちゃんももう5日も休まず活動してるんですから、ちょっとくらい気を抜いてもバチは当たりませんよ。大方ご飯も携帯食とかじゃないんですか?」


「その辺は……蒼島中尉が一緒だから、ちゃんと定期休眠は出来てるし、食事も作ってくれるから、心配には及びませんの」


「あら……蒼島中尉、居ないと思ったら利根ちゃんと一緒だったんだですね。……なら、お邪魔しちゃいましたかね?」


 目を細めて、なんか妙に嬉しそうな由良。

 後ろで、有明と夕暮がこそこそ耳打ちしあってるしっ!

 

 なんなんですのーっ! なんですのーっ!


「いやぁ、ははは……出港直前に融合炉の出力安定性が悪い事に気付いてさ……無理言って付いてきたんだ。利根ちゃんを万全の体制にして送り出すのが僕の仕事だからね! 当然の事だよ!」


 メカニックとしての腕は最高、話相手や雑務もこなしてくれて、料理だって出来るし、お洋服とかだっていつの間にか洗濯してくれたりと……はっきり言って、至れり尽くせり。


 戦闘の役には全然立たないけれど、艦長不在のわたくしにとっては、一番身近な人間と言ってもいいのですの。

 

「……二人きりの航海とかロマンチックですねー! うふふ」


「らぶらぶと言うやつですねーっ!」


「さすが、利根おねーさまですっ!」


 完全にっ……からかわれてますのっ! ……わたくし。

 

 中尉を見ると、我関せずと言った様子で、今も計器や各種パラメーターのチェックに勤しんでますの。

 

 どうもこの人って、この手の話には全然疎くて、周りからも良くからかわれてたりするんですけどね。

 

『僕は、この重巡利根に惚れ込んでいるんだ!』


 なんて、真顔で返すような方なんですの……。

 でも……実際は、わたくしの20.3cm砲に頬ずりしてたりするような、ちょっと特殊な性癖の持ち主。

 

 所謂、メカフェチ。

 わたくしと、重巡利根は一心同体のようなものなので、わたくしも愛されてる……言えなくもないのですけど。


 正直、とっても複雑なんですの。

 

『煙突のラインの艶めかしさがたまらない』……なんてのは、はたして褒め言葉なのかしら?

 さすがに、わたくし良く解りませんの。

 

「はいはい……なんでもいいわ。じゃあ、ご相伴にあずかりましょうかね」


 とりあえず、話を強引に終わらせますの。


 う・ち・き・り! ですのーっ!

蒼島中尉の名前は、プラモメーカーのアオシマから取りました。

なんか目の前にあったもんで……。(笑)

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