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第十三話「旭光回廊会戦」②

「総員! 対空戦闘用意っ! 第一陣は、桜蘭のタイプゼロのようだが、カタログスペック通りの相手だなんて思うなよ! 撃ち方始めっ!」


 セルゲイの号令とともに、各艦の対空砲が唸りを上げるっ!

 

 だが、ハイ・ゼロの機動力と龍驤の組み上げた回避アルゴリズムは恐ろしく巧妙で、鋭角的な機動でたちまち流体面すれすれへと下降し、滑るように接近してくる。

 

「なんだ、あの機動はっ! 本当にレシプロ機なのか? ブリタニアの機体とも桜蘭のタイプゼロとも全然違うぞ! クロンッ! 敵の機動予測は出来んのか!」


「現在、計算中っ! ですが、間に合いませんっ! 第一次防空ライン……あっさり突破されましたっ! こ、来ないでーっ!」


「こりゃ、何発か直撃食らうな……やれやれ、トンデモねぇのを相手にしちまったかな……こりゃ」


 前方に出ていたネウストラシムイが50kg級の小型爆弾の直撃を食らう。

 さすがに、一撃で沈むほどではないが後部砲塔が潰され、炎上する。

 

「ネウストラシムイに伝達っ! 機雷を投棄……! せっかくだから、嫌がらせで誘導モードにセットしてやれ! 全艦ポートターン! 奴らとはまともにぶつからずに、円周機動を取りつつ、後退へ移れっ!」


「りょ、了解っ……ヒィイイッ! ゼロがっ! ゼロがまっすぐ突っ込んできますっ! カ、カミカゼですかっ! いやーっ!」


 次の瞬間、クロンシュタットも至近弾を浴び、艦体が大きく傾く、クロンが情けない悲鳴をあげるのを聞きながら、セルゲイも舌打ちをする。

 

 彼女は、旗艦という事もあって、後方支援に徹することが多く、こんな至近距離まで敵機を寄せるような機会は無かった。


 それだけに、魚雷のように波を引きながら突っ込んでくるという、ハイゼロの超低空水平爆撃に半ばパニックになりかけていた。

 

「うろたえんなっ! あんなもん、急降下爆撃と違って速度も乗ってねぇ! 食らってもたかが知れてる! 冷静に敵機の機動データを取りつづけろっ! 無人機なら、必ずパターンがあるからな……ここは踏ん張りどころだ。怖いならとりあえず、目を瞑って、適当に弾幕でも張ってろ! その方がかえって当たるかもしれんし、弾幕は当てるんじゃない……敵機の行動の自由を奪うために撃つんだ!」


「は、はいっ! 解りました! 私、頑張りますっ! 絶対、落としてみせます! 逃げるなーっ! このっ! このっ!」


 投弾を終えて、背中を見せて上昇中のゼロにクロンシュタットの対空砲火が集中ッ!

 

 ……運動エネルギーを失ったところに、全砲門の集中砲火を浴びてはひとたまりもなく、あっという間に翼がもげて、失速すると真っ逆さまに墜落していく。

 

「逃げる敵を撃つとか意味のねぇことやってんじゃねぇよ……。まったく。しかし、弾が当たってんのに全然落ちねぇってのは、どうなってんだか……あれなんか、胴体ぶち抜いてるのに平然と飛んでやがる……」


 胴体部に向こう側が見えるほどの大穴を開けられながらも、上空退避していくハイ・ゼロの様子を見て、流石にセルゲイも呆れ返る……。

 

 それもそのはず……この機体、大半がハリボテのような代物で、エルロンや舵についても無線制御になっているので、ワイヤーすら通っていない……多少被弾しても平然と飛び続けられるようになっているのだ。

 

 機首部プロペラ周りに設置された4基のモーターと融合炉とバッテリー、ユニット化された30cm四方程度の制御システム。


 これがハイゼロの心臓部と言える部分で、これをやられるとさすがに落ちるのだが……それ以外では、弾薬や爆弾が誘爆でもしない限り、翼や胴体が穴だらけになっても飛び続けるゾンビのような機体なのだ。

 

 その上、素材も焼成セラミック……と言えば聞こえは良いが、資源衛星での鉱石採掘の際に出る副産物の砂利を溶かして固めたような代物……要するに、瀬戸物なのである。

 

 当然ながら、ぶつけて割れるほど脆くはないが、コストは極めて安い……装甲や生存性を重視して、重装甲化、乗員保護機構、それに伴う高出力化を施した有人機と比較すると有人機一機分のコストで無人型なら20機は作れるほどだった。

 

「な、なんです……あれ? 中身空っぽですよ。もしかして、大半がデッドスペースなんじゃ……。桜蘭の連中、何考えてるんでしょう?」


「知るかよ……なんとも、気持ちの悪い動きしやがって……まともに空戦なんぞ仕掛けたら、うちの戦闘機じゃ歯が立たんかもな……」


「感心してる場合じゃありませんよ! 索敵機が敵艦捕捉っ! 駆逐艦二隻……照合! 初春型、有明と夕暮です! 距離100kmを切ってます! もう、あんなところにまで……」


「なるほど、航空攻撃で引っ掻き回した上で、駆逐艦の突撃でカタを着けるって魂胆か。むしろ、割と早く気付けた方じゃないか……上出来! だがどうやら、レーザー照準は完全に無力化されてるな。とりあえず、観測機のBe-4が頼みの綱ってところか……頼りねぇな。……上手く隠せてるか?」


「クローキングシステムは、問題無さそうです……提督、ここは一旦引くべきです! 我々も早く逃げましょうっ!」


「おいおい、仮にも軍人が当たり前のように逃げるとか言うなよ……ここは、勝利に向かって転進っ! とでも言っとくんだよ……進軍方向が敵と反対方向でもな! クイーンシップの方はどうなんだ? インセクター共は上手く誘引できてるのか?」


「はい、上手くキャプチャー出来た群れがいて、後10分ほどで戦闘域に合流するはずです」


「連中、クイーンシップが本命だって、気付いてないらしいな……輸送船か何かだとでも思ってるのか、攻撃もしてこない。甘い事で……クロン、とにかく10分持たせろ! 接近中の駆逐艦共へ牽制砲撃っ! 当たらなくても、構わん! 奴らにはこっちが本命と思わせておけ!」


「了解ですっ! フルバーストで弾幕張ってやります! Огонь(アゴーニ)!」


 クロンシュタットの主砲30.5cmレールガン三連装三基分の一斉砲火!

 4門ある副砲の15.2cm連装速射砲も砲撃を開始する。

 

 傘下の駆逐艦群も砲撃開始。

 目標にされた有明と夕暮も、その火力集中の前に回避行動と砲弾の迎撃に移る!

 

 双方の間の空間では、空中で次々砲弾が爆発し、有明達の周囲も沸騰したような有様になっている。

 

「おいおい……これだけ、砲撃集中してるのに一発も直撃できないのか……諸元合ってるのか?」


「諸元は合ってるみたいなんですが……向こうの迎撃能力が高いらしく、直撃弾だけ落とされてます……なんなの! あいつらっ!」


「ったく……レールガンの高速砲弾を撃ち落とすとか、デタラメな話だな。だが、火力ではこちらの方が上だ……とにかく、撃ち続けろ……撃ち負けなけりゃ、こっちも撃たれないからな」


「了解! あ、バクー被弾! 本艦右舷にも被弾……ダメージコントロール起動ッ!」


「バクーとネウストラシムイは、後衛に回せ! 本艦の被害は? どこから撃ってきたんだ?」


「軽微ッ! 航行に支障なし! 砲弾の口径から、駆逐艦ではなく重巡クラスの砲撃です! 弾道計算より、敵艦推定位置判明! 対砲迫制圧射撃開始しますっ! 同時にレーザースキャンを実施!」


「恐らく対レーザー装甲くらい使ってるんだろうな。いいか? どんなに上手く誤魔化しても、赤外放射偏差が必ずあるはずだ……推定座標にティビリシと同時スキャンを実施……これならどうだ?」


「捕捉しました! 敵、重巡利根です! 座標……精度スリーナイン! やっと捕まえた……重巡風情が戦艦に歯向かったことを後悔させてあげますわ! そこぉっ!」

 

 撃たれるのも構わずに、クロンシュタットの全砲門火力が利根へと集中するっ!

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