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第十二話「重巡洋艦クロンシュタット」③


 ルクシオンは柏木の隣まで駆け寄ると、堂々とセルゲイにその姿を見せて、睨み返す。

 

 しばし、無言の二人。

 

「やっぱり、そう言うことか。柏木さんよ……アンタも人が悪いねぇ……。これは、これは、ルクシオン陛下、ご機嫌麗しゅうございますかな? ご無事で……なによりです」


 セルゲイが恭しく最敬礼を捧げる。

 なんとも芝居ががっていたのだが……ルクシオンの安否を確認すると言う彼の目的は、この時点で達成できていた。

 

 柏木もそれを読んでいたからこそ、ルクシオンには姿を見せずに控えているように言っていたのだが。


 ……セルゲイの話を聞いているうちに、我慢の限界を超えてしまったようだった。

 柏木としては、色々台無しにされて、もはやため息しか出なかった。

 

「黙れっ! 貴様……よくもそんな恥ずべき考えを平然と口に出来るな! そのような考え……野蛮人そのものではないか!」


「そうですなぁ……野蛮といわれれば、確かにそれまでですな……ですが! 陛下の母国ブリタニアとて侵略の繰り返しで版図を広げたようなものではありませぬか……。何より滅びに瀕した世界で、民を救うためにはどうすればいいか? 手の届く場所にセカンドという安寧の地があるのであれば、力づくでも奪い取って進出する……国を営むものであれば、その考えはむしろ、当然ではありませぬか?」


「そ、それは……」


「自由と平等、正義……綺麗事なんぞいくらでも言えるが……人類なんて、宇宙に出ても飽きずに何百年に渡って戦争三昧。ちょっと虫けらに割り込まれたもんだから、身内争いを自重してるだけで、居なくなりゃ、どうせまた戦争三昧に逆戻りだ。……陛下は何やらご高説を賜っているようですが……その言葉にどれだけの者が付いてきたのですかな? はっきり申しましょう……我々はブリタニアに依頼されてここにいるのです。陛下の安否を確認し、死んでいたらその旨を知らせ、生きていたらきっちり消せと……」


 自分達はブリタニアの刺客だと断言するセルゲイ。

 

 これをここで断言したとなると……もはや、確実に戦闘になると柏木も判断する。

 

 向こうはどの程度、勝算を持っているか解らないが……。

 勝ち目があるからこそ、勝負に出てきた……その程度の計算の出来ない男とは思えなかった。

 

 何らかの秘策を用意している……柏木もそう判断する。

 指先だけで、利根に耳を貸すように指示を出す……利根も遠慮なく柏木にしなだれかかるように耳を向ける。

 

(利根……索敵範囲を広げろ……何かある)


(かしこまりました……戦闘になると思われますか?)


(この流れじゃ当然だ……まったく、陛下が大人しくしてくれていれば、適当に煙に巻いて穏便に済ませたんだがな……)


 柏木としては、この手の実直な人物を口八丁で煙に巻くなど造作もないと考えていた。


 実際、セルゲイも柏木の何ともやる気を削がれる対応で、とても追求出来るような雰囲気ではなくなった為に、この場は一旦退かざるをえないと考えていたのだ。

 

 けれど、ルクシオンが出しゃばったことで、それも台無しになってしまった。

 

 セルゲイも、こうなった以上、おめおめと引き下がる訳にも行かない……柏木もルクシオンを引き渡すなどありえない。


 引き渡したら、彼女の運命は決まったも同然だった。

 セルゲイ達は直接、手を下さないにしても、ブリタニアに引き渡した時点で、その運命は決まりだった。


 ……それだけは、何としても阻止せねばならない。

 双方、退けない理由がある以上、必然的にセルゲイ達とは戦闘となる……嫌が応にでもだった。


「バカな……いくらゲーニッツ大統領でもそこまでする訳が……」


「要するに、アンタは邪魔者なんだってよ……ったく、空気読めっての。そもそも、人間がそう簡単に戦争を止められたら苦労しねぇっての……ルクシオン陛下もそんな寝言言ってるから、臣下に切られたんじゃねぇのか? まぁ、あの状況で生き延びたその強運と度胸は大したもんだが……そんな夢物語を語ってるだけの王女様なんて、誰も付いてこねぇよ……もうちょっと現実ってもんを見てくれってんだ」


 セルゲイの容赦のない言葉に俯きながら、涙目になるルクシオン。

 彼女も薄々感じていたことをよりにもよって敵国の将に告げられたのだ。

 

 彼女の受けた衝撃と屈辱は計り知れないだろう……。

 そして、ブリタニアの政府に完全に切り捨てられた事も……。

 

 けれど……彼女は決して四面楚歌ではなかった。

 

「セルゲイさんよ……アンタ間違ってるぜ! 良いじゃねぇか……ルクシオン陛下、あなたの志は正しい! この世に正義というものがあるのならば、陛下こそが正義というもの! 正義に背を向ける事こそ、明確な悪……違いますかな? 悪いが俺は、出来るだけ正しく生きたいと思ってるんだ」


「か、柏木殿……」


「陛下、ご安心を……この柏木、陛下の考えに賛同いたします! 何と言っても俺もナイト・オブ・ブリタニアの称号をいただいた……陛下の騎士でございますからな。俺は陛下を全面的に肯定する! 例え、世界全てを敵に回してもな! そんな訳だ……セルゲイの旦那、俺としてはアンタみたいな奴は嫌いじゃないんだが……陛下の身柄が欲しけりゃ、力づくで持っていきな! まぁ、やれたらの……話だがな」


「……まぁ、そうなるな。立場上、アンタとは敵だが……世界全てを敵に回しても……なんて男気のあるセリフを堂々と吐けるなんて、そうそう出来るもんじゃねぇぜ! 気に入った! だが……ワリィがこっちも任務なんでな……ここは手加減なしでやらせてもらう……すまねぇな」


「いやいや、運良く貴官を捕虜に出来たら、酒でも差し入れてやるから、一杯やろうぜ! 敵にこう言うことを言うのも何だが、貴官の武運を祈らせてもらう! 話はこれまでだな……お互い因果な話だが、致し方ない」


「ったく、やりにくい奴だな……アンタは……。まぁ、それもお互い様か……しかし、俺達が負ける前提ってのは気に食わんな……まぁ、せいぜい勝手にくたばってくれるなよ。では、互いの健闘を祈ろう……貴官らの勇戦を期待する!」


 それだけ言い残すと通信が切れる。

 

 柏木もルクシオンのところまで歩くと、その肩に触れると声をかける。

 

「悪かったですな。話を打ち切っちまって……正直、見てらんなくてね……。どのみち、野郎とはやり合うしか選択肢はなかったからな……後は俺たちに任せとけ」


「すまない……柏木殿。……だが、嬉しかったぞ……あと、あまり顔を見ないで欲しい……察しろ」


 涙を必死で拭うルクシオン。

 何と言うか……感情的で未熟な王女様だな……と柏木も思いながらも口には出さない。


「イエス・ユア・ハイネス! ……利根、戦闘準備だ! ドンパチはお前に一任する……一応言っとくが、艦橋狙いは無しだ……なるべく沈めずに勝て……ああ言う気持ちのいい野郎は、出来れば死なせたくないからな……。ウラル側との交渉の窓口や情報源と言う意味でも、生かしたまま捕らえるのが理想だな。でも、うっかり当てて死なせちまっても気にするな……野郎に運がなかったってだけの話だ」


「かしこまりました……では、戦術については、いかが致しますの?」


「……本艦には一発も当てさせるな! 御召艦が直撃もらうとかみっともねぇ真似をされちゃ困る。だが、敵艦は全て無力化せよ! まぁ、俺は各級指揮官との連絡調整役ってところだな。お前ら同士の連携は俺の判断を待つ必要はない。いつも通り、好きにやれ……フォローは任せろ」


 大見得を切っておきながら、柏木の指示とやらは、いい加減極まりないものだった。

 思わず、利根も困ったように苦笑する。


「要するにいつも通りなんですのね……でも、やってみせますわ。仕上げは御覧じろ……ですわ!」

ストックが乏しいのと、新作始めた関係で更新頻度下がってますが。

まだまだ終わらんよっ!


そんな訳で、今年もよろしくお願いします。

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