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第十一話「いつかのティータイム」②

「失礼……こちら柏木。何事だ……こちとら女王陛下の接待中だぞ? 急ぎでないなら、園松あたりに回してくれ……いや、わかった……すぐ行こう」


 それだけ応えると、柏木もなんとも困ったような様子を見せる。


「柏木様、何事ですの?」


「二人共済まない……残置してきた偵察艦が妙な報告を寄越してきたらしい」


「妙な報告?」


「桜蘭でもブリタニアでもない所属不明艦艇が現れたらしい……未確認ながら、戦艦クラスの大型艦と大型駆逐艦らしき艦が数隻いるらしい。それと、1000m級の超大型艦も……これはどうも汎用輸送艦とかそう言う類のエーテル空間船らしい。……どこから湧いてきたのかもわからんが、まっすぐインセクター共の巣のある支流へ向かってるようだ。……利根、これで何かわからないか?」


 柏木も第一報として、携帯端末に送られてきた艦影を利根に見せる。


「……映像が鮮明でないのでよく解りませんわ。戦艦にしては艦形が細長いので、高速戦艦? もう少し近くで確認しないとなんともいえませんけど、わたくしのデータベースにはない艦です……とにかく、わたくしも出ます!」


 そう言って、利根は立ち上がると駆け出そうとする。


「いや、お前はこの場で待機だ……ルクシオン陛下の護衛を頼む。……ひとまず、有明と夕暮、それとブリタニアのアマゾンがスクランブルしてる。先行偵察として、龍驤直卒のゼロ第11中隊と彩雲が緊急発進中だ」


 慌てて柏木は、利根の手を取るとそう告げた。

 

 一応、彼女は斑鳩艦隊の総旗艦たる位置づけになるのだ……今後は、軽はずみな独断専行は控えて欲しい。

 ……と言うのもあるのだが。

 

 ルクシオン陛下と二人きりにしないで欲しいと言う割と切実な事情もあった。

 

 利根という潤滑剤がいたからこそ、屈託なくルクシオンと会話出来ていたのであって、素で……と言う事になると、相手はブリタニア女王なのだ。


 迂闊なことは言えないし、言動一つも本来ならば細心の注意を払う必要があった。

 そんな針のむしろ、御免被りたいと言うのが柏木の本音だった。

 

「そうですね……事は慎重に当たるべきかと、すでにレナ達にも同様の情報は回っているようで、彼女達からの第一報が届きましたわ……彼女達は、重巡洋艦クロンシュタットとタシュケント級じゃないかと言ってますね」


 同じように、連絡用の端末を操作していたルクシオンが、そんな事を言う。


「クロンシュタット……なんですか? それは……そもそも、どこから現れたんだか……」


「レナ達の話だと、ウラル側の特務艦隊だそうです……レナ達とは任務の兼ね合いで何度か衝突しているそうです」


「なるほど……時代遅れの共産主義を崇め奉る馬鹿共。ナチス・ドイツの第三帝国の再興……とか言ってるシュバルツハーケンの教信者共と同じ穴のムジナってところですな」


「よくご存知で……我々もだいたい同じ認識です。けど、どうやってここまで? ブリタニアの勢力圏を強行突破でもしない限り、ここまで来れるはずがないのですが……」


「確かに……ウラルと我が国は、一応国境を接してはいますが、すでに接続回廊は放棄されておりますし、ここ旭光回廊もブリタニア以外は接しておりませんからな。ここに奴らが来れるはずがない……一体、どうなってる?」


 この場にウラル連邦の艦艇が現れるのは、本来あり得ない……それはどうやら、二人の共通認識のようだった。

 そもそも、タイミングも……まるで、ルクシオンの到着に合わせたようなタイミングだった。

 

 ……柏木も嫌な予感がしてならなかった。

 

「私も正直、解りかねる状況ですが……ウラルもシュバルツハーケンもインセクターの侵攻に際して、相互不可侵条約を締結していますからね。ただ、出現状況が不可解ですので、それこそセカンドの軍勢の可能性も……であれば、まず話し合いを試みてみるべきかと。利根、よろしければ私を貴艦に乗船させていただけないですか? いずれのケースでも私の肩書は有効でしょうし、貴女とともに行くなら、危険もないでしょう?」


 ルクシオンがそんな事を言い出した。

 利根も困ったように、柏木へ視線を送ってくる。

 

 レナやグローリアスの艦体は、現在ドッグにて補給とメンテナンス中。

 

 流石の彼女達も、幾多もの激戦を繰り広げ無傷とは行かず、現状ブリタニア側で即座に動ける艦は、アマゾンくらいだったのだが……そのアマゾンも真っ先に出撃してしまった。


 であれば、ルクシオンが現場に出るとなると、利根に乗艦すると言うのは、最善の選択と言えた。

 

 だが、さすがに未知の艦艇群との交渉に、ルクシオンを矢面に立たせるのは、どう考えても問題ありだった。

 一番いいのはルクシオン様には基地でお留守番をしていてもらうことなのだが……。

 

 駄目と言って、考えを改めてくれるような人物ではない事は、柏木も思い知っていた。


「どうせ、駄目と言っても、止まらないんですよね? ルクシオン陛下は……。なら俺も行くしかねぇか! 利根……先の命令に変更を加える……緊急出撃だ。ブリッジに二人分の席は空いてるか? 俺と陛下の分だ」


「も、問題ありませんわ! では、直ちに出撃準備に取り掛かります!」


 傍目にも張り切り過ぎな勢いで、利根は軽く敬礼を寄越すと、軽くスカートを摘むと文字通り手綱の切れた犬のように、ものすごいスピードで駆け出していってしまう。

 

 柏木も、ますます手綱を締める役として同行しないとダメだと実感する。

 

「一応、陛下に警告しておきますが。連中が敵の可能性も考えておいてください……正直言って、タイミングが良すぎる……陛下を狙って、かなり前から追跡していたと言う可能性もあります」


「柏木殿もそう思いますか? 根拠はありませんが……少々嫌な予感がしてなりません」


「偶然ですな……俺も根拠ありませんが。どうにも嫌な予感がしましてな……やれやれ、貴女といると退屈だけはしなさそうだ」


 柏木自体元々は、後方で采配を振るうよりも最前線で陣頭指揮を執ることを好む、猛将タイプの指揮官なのだ……久しぶりの前線指揮に嫌が応にでも、気分が昂ぶっているのを自覚していた。


「それは、褒め言葉でしょうか? でも、柏木殿もなかなか悪くないですよ……。何て言うんですかね……自分ではお気付きではないかもしれませんが……目付きが最初に会ったときより、ちょっとワイルドな感じになってきてますよ? うん、利根ちゃんがぞっこんな訳も解ります」


「ワイルドに、ぞっこんって……陛下も案外、俗なのですね……国家元首とは、とても思えない」


 そう言って、にやりと笑う柏木。


「そりゃ、つい半年ほど前は普通に中等部の女子学生やってましたからね。俗なのは認めます……。けど、私にそんな無礼な口を聞く者も前代未聞ですよ? レナあたりが聞いたら、激怒しそうですね」


「そりゃ、勘弁してほしいね。俺は、女の涙と怒り顔にはとことん弱いんだ。どっちも反則だ……ですので、使い所は弁えていただきたいものですな」


「それは良いことを聞きました。では、よろしければ、エスコートしていただけないでしょうか?」


「イエス ユア ハイネス……これでよろしかったですかな? マイロード」


 そう言って、柏木は片膝を付くと、恭しく胸に手をやる。

 

「よしなに……では、参りましょう!」


 そう言うと、ルクシオンは柏木の手を取ると、走り出す。


 仕方なしに柏木も共に走り出すと、重巡利根へと向かった。

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