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第九話「ファースト・コンタクト」③

 それから……。

 監視用の小型無人哨戒艇を残し、利根達も斑鳩基地に無事帰還してきた。

 

 利根も戻ってくるなり、後先顧みない全力突撃を柏木に危うく敢行しそうになると言う、いつぞやの再現フィルムのような光景が展開されたのだが。

 

 まぁ……港湾施設のクレーン台が微妙に傾いた程度の被害で済んだので、軽微な被害と言えよう。

 

 そして、そんなちょっとしたアクシデントがありながらも、柏木達にとっては大本命のイベント。

 ブリタニアの女王陛下の来訪を出迎えることとなった。

 

 彼女を迎えるにあたって、さすがに柏木も緊張を隠せないでいた。

 さすがに、サプライズでもあるまいしという事で、グローリアス達から、その重要人物が何者かは聞き出せたのだが。

 

 まさかのブリタニア国家元首クイーン オブ ブリタニア……ルクシオン陛下。

 大物中の大物、超VIPとも言える人物だった。

 

 柏木も副官の園松と、前線にいておおよその事情を察していた佐神中佐にも情報を共有して、その同席を許していた。

 

 見栄えだけはどこぞの大将軍のような柏木と、第一種礼装の白服姿の園松と佐神……どちらも背丈もあって、軍人そのものと言った様子で、並び立つとなかなかの雰囲気だったが。

 

 さすがに、これから現れる超VIPには遥かに格が及ばず、柏木もともすれば膝が笑いそうになるほどの緊張に包まれていた。


「柏木、お前は普段使えない奴だが、ちゃんとそう言う格好をすれば、なかなか男前じゃないか。まるで、どこぞの大将軍みたいだぞ?」


 柏木の様子を見てとったらしく、佐神中佐が笑いかけた。

 その物言いにさすがに、柏木も相好を崩す。


「先輩、相変わらず手厳しいねぇ。まぁ、どうせ俺はお飾りだからな! 見栄えくらいはちゃんとしねぇと。だが、この将軍様の礼服って奴はどんな貧相なヤツでも着れば、それっぽく見えるように作られてるからな。この将軍の礼服をデザインしたヤツはなかなか優秀だ……勲章モノだぜ」


 戯けてそう言いながら、腰の礼刀をポンと叩く柏木。

 どうやら、緊張も少しは解けたらしかった。

 

 佐神中佐もにやりと笑うと、その大きな手で柏木の背中をバシンと叩く。


「お二人とも、私語は厳禁ですから……司令もこう言うときの為にいるんですから、打ち合わせ通り失礼のないように、万事滞りなく済ませてくださいね?」

 

 園松大佐も流石に緊張している様子ながら、こんな時でも忘れずに柏木に釘を差してくる。

 へいへいと気の抜けた返事と共に肩をすくめると、改めて前を向く。

 

 どこからか引っ張り出してきた赤絨毯と……明らかに小柄な白のセーラー服姿の儀仗兵がズラリと並んでいた。

 銃については、天然木の銃床の古式銃にて、捧げ銃の姿勢をするものらしいのだが。

 そんなものがあるはずもなく、白兵戦用のレーザーライフルに木目調のステッカーを貼って代用した。

 

 ひとまず、式典用マニュアル通りにやるには、装備や物資も人員も尽く不足しており、利根達にも儀仗兵の礼服を着せて、数合わせで陸戦用機械歩兵に衣装だけ着せて並べるという斜め上の対応でお茶を濁すこととなったのだが。

 

 ……何と言うか、思った以上に違和感がすごかった。

 

 一応、本職の近衛兵のアカスタとアーデントが利根達に所作の指導をしたらしいので、一応それっぽい雰囲気にはなってはいるのだが……。

 

 正直、失敗だったんじゃないかと柏木も思い始めていた。

 

「ははは……こうしてみると、うちの示現体達は何と言うか、小さいのばかりだな……由良くらいか? 背丈もあって立派なのは……数合わせの機甲兵も投影面積の縮小化重視とかでコンパクトだから、どうにも迫力にかけるな」


 佐神中佐が苦笑する……。

 ちなみに、自動機甲兵は1m程度の身長で、一言で言うと、メタボ化した中世の騎士のようなずんぐりむっくりとした体型だった。


「小さくて悪うございますですの……なんで、わたくしがこんなことを……」


 不満そうな利根が柏木の隣で、ふくれっ面でぶつくさ文句を言っている。

 紺色のスカーフと白いセーラー服はまるで、女子高生か何かのように見えた。

 

 普段のフリフリゴスロリ調も悪くないのだが……こう言うのも斬新で悪くない。

 柏木もそんな感想を内心で抱いた。

 

「仕方ありませんよ……先方が出迎えの人員は、ある程度事情を知る示現体達と基地司令とその副官に厳選し、かつ国賓待遇での出迎えを希望とか無茶振りしてきたんですから……。陸戦隊の兵士も使えないので、儀仗兵並べると言っても、陸戦用の機甲歩兵と利根ちゃん達に頑張ってもらうしかなかったんです。ちなみに機甲兵の統括制御は自律稼働だと動きもちぐはぐで、見れたものではなかったので、裏方に回ってもらった睦月ちゃんと如月ちゃんが二人がかりで統制制御してくれてます。あとでご褒美でもあげてくださいね」


「あいつらいないと思ったら、裏方に回したのか……。さすがにあいつらまで並べたら、ブリタニアに舐めてんのか? って、文句言われそうだからな……よし、また俺の手作り紙細工勲章と飴玉でもやるとするか」


「柏木司令、いくら見た目がおチビちゃんだからって、本当に子供扱いするのは止めたほうが良いと思いますの」


「でも、あいつら喜んでたぞ……実は俺、紙細工の名人なんだぜ? 司令官室にいっぱい飾ってただろ。暇だったんでつい色々作っちまってな。そういや、こないだ1/700スケールの利根が完成したんだ……あとで見せてやるよ」


「……そ、そんなものを……わたくし、愛されすぎて辛いですわー!」


 柏木の言葉に嬉しそうにはしゃぐ利根。

 なるほど、そう受け止めるのかと柏木も思わず、苦笑い。

 

「はい、利根ちゃんも司令もそこまでにしてください……先方が降りてきますから、背筋を伸ばして、堂々としてください」


 園松大佐が小声でつぶやく。

 

 やがて、グローリアスのタラップから、赤と黒のブリタニアの近衛軍装に身を包んだレナ達が、続々と降りてくる。

 

 何と言うか……人数こそ、少ないもののいずれも一糸乱れぬ歩調で歩み、キビキビとした動きは歴戦の強者の風格を感じさせた。


 そして、白いドレス姿のグローリアスを隣に控えさせたブリタニアの将軍服を来た小柄の少女が降りてくると堂に入った敬礼をする。

 

 柏木も腰を直角近くまで曲げる最敬礼で応える……これは、本来死者と皇族のみに捧げるべきもので、柏木達なりに彼女への敬意の現れとも言えた。

 

 ……このまま厳かに済めばよかったのだけど。

 さっそうと歩みを進めていたルクシオン女王陛下が、緊張からか自分の足にけつまづいて、途中でズッコケた。

 

 それも柏木の目の前で。

 

 とっさに目の前にいた柏木がその小さな身体を抱きとめてしまったのだが……。

 

「「…………」」

 

 思わず、揃って無言で見つめ合ってしまう二人。

 

 

 柏木もどうして良いか解らず、周囲に助けを求めるように視線を送るのだが。

 

 まさかの珍事に、ブリタニア勢も含めて、誰一人として動けず、一言も発せずにいた。

 

「ぶ、無礼者ーっ!」


 絶叫とともに、柏木の鼻っ面に女王陛下の鉄拳が炸裂した。

 

 狙いすましたような人中へのクリーンヒット。

 鍛えようのないその急所への一撃で、柏木はあっさり白目をむいて倒れた。

  

 かくして……ブリタニアの女王陛下と桜蘭帝国の将軍の邂逅は、帝国の将帥がワンパンKOされると言う前代未聞の事態となったのだった。

JCパンチ最強っ!(笑)

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