第八話「悪ノ華」②
「ビスマルクくん、僕は決めたよ……攻撃開始は今から10分後だ! 初弾で当てるつもり撃たないと、反撃が来る……荷電粒子砲は問題にならないだろうけど、ここは絶対必中で仕留めて見せてくれ」
「向こうは相対停止状態ですから、確実に当たります。……でも、10分後ですか? 先方に告げた時間より30分も早いではないですか」
「僕は、最初に30分以上待たないって言ったからね。むしろ予定通りだ……実に誠実な対応だと思うよ? なんにせよ……敵の言うことを真に受けるほうが悪いのさ。トーンはビスマルクの砲撃開始にタイミングを合わせて、向こうの千歳と千代田をさっさと潰しちゃってよ。主力艦を沈めれば、後は雑魚の駆逐艦だけ……まぁ、余裕だろう?」
「あの不格好な艦ですね……実は、わたくしあの二隻とっても気に食わなかったんです……空母なら空母らしくしろと言いたいですの。まぁ、所詮は改造空母……装甲なんてたかが知れてるでしょうから、確実に沈めてみせます。マスターカイオスは当艦の特等席で、悠々とわたくしどもの処刑ショーをご覧くださいませ」
「じゃあ、わたしは残り物の駆逐艦を狩りますね。凍結弾とか食らった事なんて無いでしょうから、あいつらがどんな顔するのか見ものです……動けなくなった所で一隻ずつ直接乗り込んで、一人づつ氷漬けにしちゃうってのはどうでしょう? あの疾風って奴には、まんまと逃げられてしまいましたからね……」
「いいねぇ……カチカチになった所をハンマーで叩き割るとか、楽しそうじゃないか……ああ、島風ちゃんは残しといてよ! せっかくだから、僕が自ら処刑するとしよう。どんな殺し方をしようかなぁ……」
「島風ですか? マスターの好みもよく解りませんね……間違って、殺しちゃうかもしれませんから、あまり期待しないでください」
「と言うか、君らって頭脳体を殺して艦を沈めても、エーテルの底で、艦が勝手に再生して、頭脳体がバラバラになってても、艦体側で再生して復活するんだってね……なんで、そこまでしぶといの?」
「そんなのわたしも知りませんよ……同じ相手を何度も殺せるんだから、それはそれで良いんじゃないですかね」
「わたくしもフロストも何度か捨て駒にされて死んでますけど、あまり気持ちは良くないですね……再現体もバックアップ取れば、死んでも生き返れるそうなんで、マスターも一度死んでみます?」
「うーん、死ぬのは一回で十分だなぁ……いくら死に戻りが出来るからって、そんな何度も死ぬとか嫌過ぎるから、殺すのは勘弁してくれよ」
「あら……わたくしのそれは、究極の愛情表現ですのよ……わたくし、殺す相手には心からの愛情を持って殺してますの。愛したものと死別する時の思い……それはそれは、格別なのですよ?」
トーンの言葉にカイオスがさぞ、おかしそうに笑う。
「はっはっは……そりゃ、いい! うん、僕も死にゆく相手にこそ、愛情を感じるよ……やっぱり、君とは気が合うね!」
傍から聞けば、常軌を逸した内容の会話なのだが……彼らが他者はもちろん、自分達の生死にすら酷く無関心なのが、容易に窺い知れる内容だった。
ビスマルクは、そんな三人の様子をモニター越しに興味なさげに眺めていたのだが、不意に険しい顔を見せる。
「カイオス総統! 敵艦フッド……主砲を当艦に指向! この感覚……まさかっ!」
ビスマルクが言い終わった直後に、荷電粒子砲が放たれ、それは瞬時にビスマルクに迫る!
その速度は、光速の10%……秒速三万キロにも及ぶ。
そもそも視認も回避も不可能……撃った次の瞬間にはもう当たっている。
フッド装備の38cm荷電粒子砲。
かつては、その威力はともかく、射程距離が話にならないレベルという問題があったのだが。
最初に強力なマイクロ波を放つことで、エーテル大気にトンネル状の荷電化した穴を穿ち、それに追従するように荷電粒子を放つことで、大気中での減衰を低減させる事に成功していた。
もちろん、この技術は……人類発の技術ではない。
カドワキ達アドモス社の技術陣が、ネストグランデ戦における千歳爆沈の際に収集されていた黒船の荷電粒子砲を技術解析した末に独自開発したものだった。
当然のように、極秘扱いされており、フッドの荷電粒子砲は旧式のままの数値が公表されていたのだ。
けれど、狙われたビスマルクも砲塔指向の時点で気付いて、強電磁界シールドを緊急展開することで、かろうじて直撃は免れたようだった。
彼女にも荷電粒子砲の射程外だという認識はあったのだが……本能的な直感でシールドを展開したのだから、大したものだった。
「……ば、馬鹿な! 今の……初弾で艦橋直撃だったぞ! クソッ! 回避しきれなかった……第二砲塔異常加熱……電磁パルスの輻射によるEMP効果で電装系、左舷副砲が全損! なんてことだ……この私が先手を取られた! やられたっ!」
直撃こそしなかったものフッドの放った荷電粒子は、ビスマルクの第二砲塔の真上を掠めていった。
第二砲塔は一瞬で赤熱化し溶解、強制冷却システムと緊急消火システムが起動……誘爆こそしなかったものの、この時点で砲塔としては使い物にならなくなった。
……更に艦体の至近距離を掠めたことで、全電子システムが一時的にダウン。
電磁パルス輻射でフッドに向けていた左舷側の兵装が全壊……たった一撃で大戦艦ビスマルクは、その戦闘力を半減させていた。
「くそっ! このタイミングで、なんの前触れ無く撃ってきただと! それにあの荷電粒子砲! この距離まで届くなんて聞いてないぞ! あいつら……どっちが卑怯なんだっ! トーン! フロスト! 反撃しろ! 潜行艦群にも統制雷撃を下命! こうなったら、飽和攻撃で沈めてやれ!」
「だ、駄目です! ビスマルクの強電磁界シールドの影響で、この付近の電磁場偏差がメチャクチャです! 現時点での予想命中率……1%以下ですっ! 予想散布界もkm単位……これでは当たりませんっ!」
「くそっ! ビスマルク! 何やってるんだ! そんなもの展開し続けたら、こっちの反撃もままならないぞ! 早く切れ!」
「む、無理です! 敵艦からの荷電粒子砲の砲撃は今も継続中……恐ろしい勢いで撃ってきてます! 今、シールドを切ったら、こちらが即座に沈められます! あいつ……どれだけ正確に撃ってきてるんだ! トーン、フロスト! 貴様らも回避行動急げ! 敵艦……千歳、千代田が発砲! 至近弾が来るぞっ!」
その言葉と共に、爆発したように流体面からエーテルの柱が登り立つ。
その位置はビスマルクとトーンのちょうどあいだの辺りだった。
更に、エーテルの柱がトーンの後ろに立つ……トーンの周辺に次々砲弾が着弾し、彼女達の周囲にはまるで、驟雨のごとく砲弾が降り注ぎ、その狙いも加速度的に正確になっていく。
「マスター! 敵空母からのレールガンによる砲撃が夾叉中……敵艦は明らかにビスマルクの強電磁界シールドの影響を計算に入れて撃ってきてます! このままだと、直撃弾が来ます……当艦も強電磁界シールドを立ち上げますの!」
トーンが強電磁界シールドを展開する……不可視の凝縮された電磁場がプラズマ雲と反応して、スパークを散らす。
飛来していた砲弾が不自然な弾道を描き、流体面上に叩きつけられると盛大なエーテル流体の柱を立ち上らせる……。
一手遅かったら、直撃コースだった事をトーンも悟り、思わず青ざめる。
「貴様ら! 僕の言うことを聞けないのか! 防戦一方じゃ、やられるだけだろう! いいからシールドを切って損害に構わず、撃ちまくれっ! くそっ! なんなんだあいつら……時間稼ぎしていたんじゃなかったのか!」
カイオスが頭かきむしりながら、喚き散らす。
彼は、これまで一方的に奪う立場だった。
今回も、610艦隊は増援を期待して時間稼ぎに徹するつもりだと読んで、騙し討ちで打ち勝つつもりだったのだ。
それが良いように、機先を制されて、手玉に取られていた。
騙すつもりがまんまと騙された……冷静さを失うのも当然だった。
「敵を侮ってましたね……律儀に待ってないで、攻撃準備が完了した時点で、即座に打って出るべきでした。報告、敵は重音響爆雷を多数使用……潜行艦群も先手を打たれたことで壊乱状態……続報、敵駆逐艦群がVLS式のクラスター爆雷を一斉投射……エーテル流体面下は現在、沸騰したような有様で何が何だか……未確認情報ですが……核兵器を使った可能性も……」
「か、核兵器だって……奴ら、そんなものまで……」
「いかんせん観測艦も吹き飛ばされたみたいで、連絡途絶……現場の状況は不明、こちらは精密射撃が不可能になりました。必中を期して近づけさせすぎたのが敗因でした……と言うか、向こうにはバレバレだったみたいです。今の今まで気付かないふりをしてただけ……騙し合いは向こうの勝ち……ですね」
冷静に戦況分析を始めたフロストに呪い殺さんばかりの視線を向けるカイオス。
「フロスト……君は僕を馬鹿にしてるのかい? 今更、そんな事を言って何になるんだ……」
そんな風に睨まれながらも、フロスト自体は涼しい顔だった。
「とんでもない……敵の方が一枚上手。連中は桜蘭帝国の潜行艦との交戦経験があります。おそらく、戦訓を得て対抗兵器を独自開発していたのでしょうね。自分達の慢心は素直に認めるべきです……。マスター、冷静になってください。ここはひとまず敵の目を奪いましょうか。この付近の上空に偵察機が隠れ潜んでいます……でないと、この距離でここまで正確な砲撃は不可能……案の定、いましたね」
フロストの脇に、いくつもの映像の表示されたウィンドウが並んでいた。
その幾つかには、灰色のエーテルロードの大気に溶け込むような灰色の迷彩塗装の施された零戦型の偵察機の映像が映し出されていた。
「向こうはこっちの航空隊を引き上げさせろなんて言っておきながら、自分達の観測機はちゃっかり居座らせてたって事ですね! とことん、卑怯な奴ら……ならば、わたくしがすべて叩き落として差し上げます! 唸れブレイドフィン! 廻って巡って、敵を追い詰め、切り刻みなさい!」
利根の後部カタパルトが瞬時に伸びると、そこから次々と何かが撃ち出されていく。
撃ち出されたくの字型の物体は、クルクルと回転しつつ四方八方へと飛び去る。
その軌道は、不自然なまでに鋭角的な軌道で、一気に高空へと舞い上がる。
千歳と千代田が、密かに展開させていた偵察機の総数は全部で10機にも及んだのだが……その全てがトーンの放った回転する刃状の物体に捕捉追撃され、次々と撃ち落とされる。
体当たり専用の特攻戦術機ブレイドフィン……要は、思念誘導ミサイルのようなものだった。
この超高機動の誘導兵器こそ、トーンの主兵装と言っても過言ではないもの。
セカンドの利根がハードウェア的に、情報収集と遠距離精密砲撃に特化する方向へ進化したのと対象的に、トーンは艦載機そのものを誘導兵器として使う方向へ進化していた。
その艦影はほとんど一緒なのだが、その進化の方向性は真逆と言ってよかった。
どちらが優れているかは……直接相見えるまで、答えは出ないだろう。
けれど……その出会いは運命的なものとなるのは、間違いなかった。
……カイオス勢、終了のお知らせ(笑)
ちなみに、トーンはミサイル巡洋艦みたいなのに進化してます。
利根の方は、カートリッジ式荷電粒子砲……ガンダムのビームライフルみたいなものを使ってます。
イメージ的には、メントスぶっこんで思い切り振ったコーラのペットボトルみたいなもので、蓋開けるとバシューッ! と荷電粒子が飛んでいきます。
実は、原理的にもそれであってたりします。(笑)
フッドのは、艦内に熱核融合炉持ってるんで、バカ電力の力技でぶっ放してます。
こっちはエヴァのポジトロンライフル方式……たぶん、フッドさんラミエルと戦えます。(笑)




