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第八話「第610独立機動艦隊の奮戦」④

「そうだな……どうも星間連合軍でも後ろ暗い仕事を一手に引き受けていた連中らしい。銀河連合も一枚岩のように見えて、色々火種があってな……小さな反乱や個人の暴走とかも表に出ないだけで、何度もあったらしい。そう言うのを人知れずに始末する……そんな連中らしい」


「なに、その暗殺部隊みたいなの……引くわぁ……。と言うか、私達って……そもそも、そう言うのじゃないよね? 私だったら、そんな命令されたら、断固拒否するわ」


 千代田の感想も無理もなかった。

 

 彼女達は、あくまで人を守るのが第一の存在意義であり、率先して人殺しに加担などしたくない。

 それは島風も同感だったし、他の頭脳体も似たようなものだった。

 

「銀河連合の闇を一手に引き受ける暗部……そんなところですかね。そんな奴らがいよいよもって暴発したと……なんとも世知辛い話ですこと。ところで、グエン提督、増援の当てはどんなもんなの? 武蔵とこっちのビスマルクが向かってるそうだけど、まさかそれだけ?」


「いや、もちろん駆逐艦やら空母やらも随伴してるそうだ。レキシントンとサラトガ、ヨークタウン、USN系の精鋭空母のご登場だ。それと永友提督の敵討ちってことで信濃やハーマイオニー達がこっちに戻ってきてたらしく、合流して一緒に出撃してるらしい。編成を見た限りだと、どうやらロバート提督の独立艦隊が駆けつけてくれているようだな。アトランタやらアラスカもいるみたいだぞ。あと、例のスツーカ大佐も動いてる……奴さん、セカンドのドイツ、フランス系の艦隊が敵に回ったことで、大激怒してるらしくてな……ナチス・ドイツの面汚しだとか言ってるそうだ」


 まさに、星間連合軍でも主力クラスの大戦力だった。

 

 島風もクリーヴァ社との交渉が決裂する可能性が高いと考えていて、グエン提督に他の艦隊の提督に出撃準備を促すように手を打っていたのだが……。

 それが功を制した形で、この事態に率先して立ち上がった有志が集結しつつあるようだった。


「なかなかの朗報ね……それ。到着は? 1時間以内とかだったら素敵なんだけど」


「残念ながら、分進合撃になるのは避けられないらしくてな……どんなに早くても第一陣が6時間後ってとこだな……これでも、かなり早い方なんじゃねぇかな。銀河連合の本部じゃ、未だに対策会議すら開けてないらしいからな。俺たち再現体の提督は戦慣れしてる奴も多いから、動きは早いんだが……未来人共は相変わらずだ。ひとまず、艦載機群を先行させたとしても、2-3時間ってところだ……ちょっとタイミングとしては、厳しいな」


「やっぱ、半日とかふっかければ良かったかな。でもまぁ、この場を突破して、1時間も逃げおおせれば、お味方の登場って感じかしらね。それなら、なんとかなるかな」


「最大限に楽観して……の話よね……それ。けど、なんかさぁ……降伏は論外って感じみたいだけど、一応考える余地くらいあるんじゃないの? 対人類戦なんて、あたしらも想定してなかったから、戦時規定なんて無いのは確かだけど……降伏したふりして、こっちが騙し討ち仕掛けるのだってありだと思うよ」


 陽炎が不思議そうに島風に尋ねる。

 要は、こっちも騙し討ちにしてやろうと彼女は言いたいらしかった。

 

 ……だまし討ちの応酬とは、また酷い話だったが……戦争はよりえげつない方が勝つと言う言葉もあるくらいなのだ。

 彼女の提案も一考の余地ありではあった。

 

「そうね……でも、古今東西……戦争で白旗掲げてその後無事に済んだって例の方が少ないのよね。特に私達なんて、頭脳体だけでもそこそこ戦えるし、艦を沈めたって全然安心できないから、最悪、コンクリート詰めにされて、沈められるとかもあり得ると思うわ……どっちにせよ、あまりいい未来は待ってないんじゃないかな。……そう言えば、グエン閣下って20世紀にアメリカ軍と戦ってたって話ですけど……こんな風に追い詰められたような事ってありました?」


「ベトナム戦争の時の話か? そうだなぁ……降伏して、ズラリと並べられて皆殺しとかも普通だったな。まぁ、戦争なんてそんなもんだ……降伏しても結局、相手の良識やさじ加減次第だからな。……初めから降伏して助かるなんて期待してなかったから、皆、最期まで死ぬ気で戦ったもんだ。まぁ、そんな訳で、俺は降伏って奴はどうも趣味じゃねぇ……一発ブチかましてトンズラこくなら、痛快で実に結構な話だがな」


 不敵に笑うグエン提督……随分と気弱になっていたようだったが、島風の奮闘を見て、少しは気分が乗ってきたらしくいつもの調子が戻ってきたようだった。

 

 提督が弱気では、皆の士気に関わると危惧していただけに、これはいい傾向だった。

 

 島風も気合を入れ直すとばかりに、自分の頬を両手で叩く。


「よっしゃ! 気合入ったっ! グエン提督もやっぱそれでなくちゃね! では、提督の仰せのままにいたします。じゃあ作戦……一時間とかふっかけたけど、実際はそんなに待ってやらない……間を取って15分前くらいの時点で、向こうに奇襲攻撃を仕掛ける! 初手はフッドの荷電粒子砲をビスマルクの艦橋に集中……運が良ければ、頭脳体を仕留めて一発で終わらせられるかもね!」


「……それだと、あの敵の指揮官も死なせてしまうのでは? 流石にそれは気が進みませんが……」


 さすがに、躊躇いを覚えたようでフッドがそんな事を言ってくる。

 戦場とは言え、直接言葉を交わした相手を死なせる……抵抗があるのは当然だった。


「別にいいんじゃない……あんな外道、蒸発したって! なんか総大将っぽい雰囲気だったから、案外仕留めたら総崩れになるかも! それにちゃんと警告はしたでしょ? それで余裕こいて、艦橋でふんぞり返ってたら、ただのバカでしょ。ついでに、千歳千代田も高速弾で利根と初霜っぽいのに、主砲、副砲フルで飽和攻撃をブチかましなさい。連中にカマしたら、損害お構いなしで、全艦突撃強行突破! これで決まりっ!」


 平然とそんなことを口にする島風。

 戦場で情けは無用……彼女なりに警告したんだから、それでいいじゃんと本気で思っているのだから、始末に負えなかった。

 

「うわぁ……島風、普段人に散々突撃馬鹿とか言っときながら、結局それなのね! しかも、休戦を自分から持ちかけて、一方的に騙し討仕掛けて、指揮官ブッ殺しにかかるとか、エゲツなさすぎて、引くわぁ……」


 千代田が呆れた様子で笑いながらそうに返す。

 けれど、他の者達も苦笑しながらも、概ね同意したように頷く。


 千代田もエゲツないと言いながら、別に反対するつもりはなかった。


 相手が外道なのに、こちらが紳士的に行く必要などない……そもそも、黒船との戦いでも敵艦の心臓部狙いや、旗艦を真っ先に沈めるのは常套手段なのだ。

 

 要するにいつもどおりやるだけ、そう割り切れば簡単なことだった。


 何より、彼女達は可愛らしいだけのお人形ではない……戦闘兵器なのだ。

 兵器に求められるのは、戦いに勝つ事……その為には、手段など選ばないのだ。


「……ふん、騙される方が悪いし、どうせ向こうもこっちを騙す気満々でしょ……と言うか、向こうも時間稼ぎたがってるのはバレバレだっての! 大方、待ってる間に潜行艦あたりで包囲網を完成させて、前触れ無く撃ち込んでくるとか、そんなつもりなんでしょうね……こっちもそれくらい織り込み済み。ああ、そうだ! 重音響爆雷でもこっそり投げ込んどいて、行動開始前にブチかましちゃいましょう」


「そっか! ドイツといえば、お家芸のUボート……潜行艦がいる可能性が高いのね! でも、ピンガー打っても何の反応もなかったよ?」


 陽炎も当然ながら、その可能性を想定して、すでに何度かアクティブ・ソナーで流体面化の敵を警戒していたのだが、それらしき反応は感知出来ないでいた。


「セカンドの潜行艦って、やたら厳粛性高い上に、アクティブソナーを無効化してくるからね。けど……私は例の伊400と戦闘経験がある……あれって、ピンポイントで居場所が解らなくても、その辺にいるのが解れば、まとめてドカンとふっ飛ばせばいいのよ……やる事はもう解るでしょ? あれはこう言うときに使うつもりで開発してもらったのよ」


「ああ……解った! なら、アレも出し惜しみ無しでいいよね?」


「そう言う事……もし、パッシブで気づいても、手出しは無用で気づかないフリをする……OK?」


「おっけ! じゃあ、さも警戒してるように、適当にピンガー打っとくよ……ふふん、ガチな対潜行艦戦ってのも刺激的で悪くないね。まさに、あたしら駆逐艦の本領って感じで!」


「そうそう、潜行艦なんかで、本来天敵の私達駆逐艦を出し抜こうなんて、10年早い……思い知らせてやりましょう」


「島風殿、陽炎殿……そちらもつくづく悪よのう……ヒッヒッヒ」


 千代田が芝居がかった様子で下卑た笑い声をあげると、皆も一斉に笑い声。


「いいねぇ……実に俺達らしい作戦だ……じゃあ、ここはひとつ連中にぶちかましてやろうぜ! お前たち……勝つぞっ!」


 グエン提督の声に全員が勇ましい掛け声で応える。

 

 610の方針は決まった……些か無謀とも言える作戦だったが。

 彼女達の真価はまさに、この手の突破や蹂躙戦にこそあった。


 逃げまわる戦いや守りの戦いよりも、攻め込む時にこそ、その真価を発揮する。

 

 これまでのような逃亡戦と違って、包囲陣の解囲強行突破……まさに610の土俵で戦うのだ。

 そして、その攻撃タイミングは彼女達に委ねられたようなものだった。

 

 ……誰一人として、勝利を信じて疑ってなかった。

 

 けれど、彼女達の思い違いがひとつだけあった。

 相手は、人間……当然ながら、島風達の作戦も読んでくる……読んだ上で対策を立ててくるのだ。

 

 読み合い、騙し合い、欺瞞情報の応酬。

 直接、銃砲弾を交わし合うのだけが戦いではない。

 

 ……この時点で、戦いはとっくに始まっていたのだ。

次回は、敵フェイズ。

カイオスパートです。


お互い騙し騙されて……最後に笑うのはどっちだ?!

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