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第八話「第610独立機動艦隊の奮戦」①

「島風、不味いぞ……千歳、千代田のアサルトゼロ戦隊が敵機に突破された……もうすぐ、お前の射程に入るぞ!」


 旗艦フッドに座乗中のグエン提督からの至急電。


 艦隊最後尾にて、殿を務める駆逐艦島風の光学索敵システムにもその敵影はすでに捉えられていた。

 

「なにこれ……Ju87Cに、Ju87D-4……ドイツの艦載型スツーカなんて、レア物が山盛り!」


「戦闘機もBf109とか、Me155なんてのが出てきてたよ! 結構いい空戦ドライバ使ってるみたいで、割と手強いから気をつけて!」


 千代田からの警告に、島風も思わずうんざりしたような表情を見せる。


「でも、どうやら……こっちのデータは表向きの情報を真に受けてるみたいね。……そんな迂闊に近づいたらどうなるか、教えてやるわ! 127mm電磁投射砲!! 弾種対空気化砲弾一斉投射ッ! 放てッ!」


 島風の下命に応えるように、レールガンから対空砲弾が放たれる。

 

 可燃性のエアロゾルを広範囲に撒き散らした後に点火……いわゆる気化爆弾と同じ原理の広範囲殲滅弾の巨大な爆炎が雷撃を敢行しようと低空飛行中だったドイツの雷撃機群を包み込む。

 

 雲霞のように見えていた敵機を覆い包む爆炎と閃光……近年、黒船が多用するになったドラグーン級と呼ばれる超大型飛翔タイプの黒船に対しては、さしたる効果も無いのだが……非装甲艦艇や航空機相手には、絶大な効果があった。


 けれども、この状況……不利は否めなかった。

 重装空母の千歳、千代田の艦載機群はすでに圧倒的多数の敵機群により、蹂躙突破され、殿を務める島風が矢面に立つ……610艦隊は敗走の末、もはやそこまで追い詰められていた。

 

 しかし、これも危険を察して、早急に撤退準備を完了していたからこそ、かろうじて脱出が間に合ったからで、同行していたアドモス商会と、エスクロン社の私設無人戦闘艦艇群はすでに蹂躙され、壊滅していた。

 

 また交渉にあたっていた両社の重役や同行していた幹部社員は、全員虜囚の身となっているようだったが……。


 その中には、610艦隊や永友提督達とも懇意の関係にあるカドワキ氏なども技術アドバイザーとして同行しており、その中に含まれていたのだが……610艦隊の面々も脱出するのが精一杯で、彼らを助け出すような余裕はとてもなかった。

 

 610艦隊は……と言うと、現状としては、敵対勢力の有するドイツ空母グラーフ・ツェッペリンと、フランス軍の正規空母ジョッフルとパンルヴェの三隻を主力とする機動艦隊の追撃を受けている真っ最中だった。

 

「島風さん、提督命令です……私が殿を務めますので、貴女は上がってください!」


 フッドからの連絡が島風のもとに届く……どうやら、グエン提督が命じたらしかった。

 速度的にも、フッドが一番低速、その上曲がりなりにも排水量4万6千トンの巨大巡洋戦艦なのだ。

 火力防御力ともに優秀で、状況としてはそうするのが理にかなっているのだが……。

 

「はぁ? 旗艦が殿を務めてどうすんのよ! 連中横合いから、次々伏兵出してきてるからアンタはそっちを叩きなさい! こちとら毎回、殿艦やってんだから、今更気にすんな! 不屈不沈の二つ名は伊達じゃないの!」


 これが島風という艦なのだ。


 勇猛果敢、仲間のために盾となる事も厭わない……どんな不利な状況からでも、帰還すると言われた武勲艦。

 

「そうねー。普通に考えて、フッドが敵の最優先目標になるんだから、最後尾なんて集中攻撃受けるのは目に見えてるわ……ここはむしろ先陣を切るくらいの勢いで良いと思うわ」


 空母の片割れ、千代田が割り込んでくる。

 彼女は比較的、艦隊の中でも良識派とも言えた……。


 冷静に戦況を見て、最適な判断でうまく周囲をコントロールしてくれる。

 熱くなりがちな島風にとっては、良いフォロー役だった。

 

「そう言う事……それに提督の座乗する旗艦なんだから、無茶は禁物。それにしても……行きがてら、妙に輸送艦があちこちにいると思ったら、全部偽装した戦闘艦だったみたいね! 続々とこっちに向かってきてる……連中初めから騙し討する気満々だったのね。ホント、腹立つわーっ! マラン! デリブル! あんた達は先頭で露払い、ちゃんとやってる?」


 610艦隊の先陣を行くのは、フランス海軍最速を誇る大型駆逐艦、ル・マランとル・デリブルの二人。

 二人は、45相対ノットと言う猛スピードで先陣を切って、先行中だった。


「……こちら、デリブル……前方に二隻の不審な輸送艦を発見! 敵味方識別に応答してますけど、こっちのコースを塞ぐように動いてるわ」


「マランも確認しました。なんですか……あれ? 40相対ノット以上の猛スピードが出てます」


 戦術マップ上には、二人の言うとおり二つの高速の輝点が艦隊の進行方向を塞ぐように進んでいた。

 エーテル空間用の輸送艦は、速力なんて求められないので、速度は20相対ノット程度……良くて、30相対ノット。

 それを考えると、40相対ノットは早すぎる……島風も即座にそれが戦闘艦だと看破する!


「んな、バカ早い輸送艦なんていてたまりますか! この状況で私達の前に立ちはだかるなんて、もう敵性艦と断定してよし! 遠慮なく撃っちゃってっ!」


「い、いいんですか?」


「いいからやれっての! 今なら、こっちがアウトレンジで行ける! 向こうの射程に入ったら、すぐに撃ってくるに決まってる! 撃たせる前に沈める!」


「りょ……了解です! デリブル、撃ちまーすっ!」


「同じくマラン! 撃てーっ!」


 島風達のそんなやり取りにさすがに、グエン提督も顔色を変える。


「お、おいっ! 馬鹿、やめろっ!」


 静止を無視して、先頭を行くマラン、デリブルの両艦から、電磁投射砲の一斉射撃。

 

 艦体の前部に直撃をうけたその輸送艦は、爆炎に包まれながらも一瞬何事もなかったかのように進み続けると、唐突にその艦影が前半分を失った大型駆逐艦に変化し、力尽きたように沈み込むと派手に爆発する。

 

 もう一隻の方も、艦体のど真ん中に直撃を受け、あっという間に真っ二つになって沈む。

 

「……て、敵艦の艦種判明……え? ル・ファンタスカ級? そ、そんな……」


 同級艦……言わば身内を撃沈してしまったデリブルとマランはショックを隠せない様子だった。

 けれど、島風には確信があった。


「なるほど、そう言う事……二人共! こいつらセカンドの艦よ! そもそもドイツ空母なんてこっちの世界じゃ、企画倒れで存在してなかったはずだからね。今の奴もどうせアンタ達の身内じゃない……よく見なさい……横っ腹にデカデカとハーケンクロイツなんて飾るような趣味がアンタ達の身内にはあるの?」


 もはや、浮かぶ鉄クズのようになったル・ファンタスカ級に酷似した艦の舷側には、ナチス・ドイツのハーケンクロイツを模したようなマークが記されていた。


「た、確かに……あんなマーク死んでも飾りたくないですっ! ……で、でもでもっ!」


 まだ信じられないと言った様子のマランとデリブルに対して、島風もいよいよしびれを切らす。


「こんな程度の事で取り乱すなっての! このバカっ! 良く解らないけど、クリーヴァとセカンドの軍勢が手を組んだ……そう言う事なんじゃない? そう言う事なら、クリーヴァ社艦籍の艦艇はもう全部敵! ハーケンクロイツも敵っ! 情け無用ッ! ファイアーよッ!」


 島風の迫力に、二人もヒィイイ等と情けない悲鳴を上げて、フレームアウト。

 

「……千歳千代田も、残ってる偵察機を先行させて徹底的に前方を索敵! さっさと砲戦モードに変形しなさい! でもって、輸送艦だろうが民間船だろうが、クリーヴァ社の船は手当たり次第に全部沈める! 提督もそれでいいわね? 二人もいい加減にしなさい……ここは戦場! 生き残るためには、敵は問答無用で沈めるしかないの」


 島風の言葉に、マランもデリブルもただ頷くだけだった。


「……ほ、本当に民間船だったらどうするんだ? さすがに大問題になるぞ」


 さすがに、島風の無茶振りにグエン提督が口を挟む……。


 民間船に偽装する……それは、海賊行為以外の何物でもなく、20世紀の戦場ですら禁止されていた行為。

 

 怪しげな武装艦艇を問答無用で沈めること自体に、グエン提督も異論はなかったが。

 敵が民間船に偽装しているからと言って、間違って、民間船を沈めて死者なんて出してしまったら、非難が殺到するのは目に見えていた。


「クリーヴァ社はもうテロ支援企業として認定されてるから、こっちが誤爆したってあいつらの責任よ! やられる前にやる! それだけよ……永友提督なんて、騙し討ちされて集中医療カプセル送りになったし、初霜達も提督をかばって戦線離脱。……手段を選ばない外道相手に、こっちも手段なんて選んでられない! とにかく、この場は逃げ切って、生き残るのが最優先! 追手が来るよっ! 敵機総数つかみで100! 本命のご到着ってところね」


 猛る島風……無茶苦茶な言い分だったが。

 そもそも、彼女は永友提督と初霜達の負傷の報を聞き、初めから心底怒り心頭だった。


 交渉なんて、悠長なことをやるより、一戦交える気満々で、艦隊の戦闘準備や諸々の仕込みを済ませた上で、現場に赴いていたのだが。


 結果的に、それが功を制して、敵の包囲網の完成前に一手早く動くことが出来た……ちょっとでも動くのが遅かったら、610もとっくに包囲殲滅の憂き目にあっていただろう。

 

 けれど、頭に血が上っていたにも関わらず、その状況下で、彼女は迷わず逃げの一手を選んでいた。

 今もその判断に迷いはなかった。


 ……いかなる時でも、どこか冷めた冷静な部分を失わない彼女らしいクレバーな判断だった。


「解った……俺も覚悟決めるぜ! しかし、さすがにこりゃ手が足りねぇだろ……陽炎と不知火も島風のラインまで下がって、防空ライン張るのを手伝ってやれ! 例の無制限相互情報連携システム……使いどころは今だな! 全艦対空戦闘用意!」


「解ったわ……統括は私が引き受ける! 皆、ここは正念場よっ!」


 島風による全艦統制モードでの一斉対空砲火が始まる。

 すでに全艦の艦載砲は最新鋭のレールガン改装が済まされており、超長距離対空砲戦とでも言うべき、戦術が完成されていた。

 

 そんなものはさすがに想定していなかったらしく、敵機は近づくこともままならないまま、バタバタと撃墜されていく。


 ドイツ系の艦載攻撃機なんて、島風達も想定外の相手なのだが、蓋を開けてみれば動きも鈍重で、まるで射的の的のようにパタパタと落とせていた。

 このドイツ航空機がどんな敵を相手にしていたかは知らないが……島風達に言わせれば、経験不足の未熟な相手だった。

 

 そもそも、Ju87Cはスツーカの艦載機改装を済ませただけの代物。 

 Ju87系列の爆撃機の性能自体は、どこぞの大佐のせいで名機のように扱われているが……実際は頑丈なくらいしか取り柄がなく、運動性も劣悪で……島風達にとってはさしたる脅威でもなかった。

 

 けれども、敵の包囲網は島風達が思っていた以上に厳重、かつ執拗だった。

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