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第六話「共同戦線」⑤

一方、ブリタニア側は……レナ達ほど過酷な戦場に動員された経験の少ないグローリアスやアカスタ達にとっては、利根やレナの感覚は常軌を逸している……そう受け止めていた。

 

 元々、近衛艦隊は女王陛下の直属と言う性格が強い関係で、あまり最前線には投入されず、装備や戦術も第二次大戦時とそうかけ離れたものではなかったのだが。

 それでも、インセクター相手で十分以上には戦えてきていたのだ。

 

 けれども、利根達の装備はもはや、隔世の感があるくらいには、先進的で正直、なんでここまでする必要があるのか、理解に苦しむレベルだった。

 

 いずれにせよ比較的、オリジナルに忠実な作りのシーハリケーンに慣れたグローリアスにとっては、このハイゼロと言う戦闘機は、もはや未知の飛行体に他ならなかった。

 ちょっと直接制御してみただけで、そのじゃじゃ馬ぶりは手に取るように解ってしまった……。

 

 ……さすがに、グローリアスも途方に暮れかけていたのだが……。


「それ、個別制御なんて無茶しないで、ドライバ丸投げの群体制御で良いと思いますわ。……その戦闘機、うちの空母が好き勝手に散々いじり倒したから、後ろ向きに飛ぶとか訳の分かんない機動も出来るみたいですの……」


 利根のアドバイスに、グローリアスも一安心しながらも、こんな高性能機を開発する桜蘭の開発力に内心舌を巻いていた。

 

 安全な流域へ後退するだけなら他にやることもなく、手すきだからと無人戦闘機の統括を安請け合いした結果、独自進化を遂げた異様な戦闘機を押し付けられた形となって、正直……後悔仕掛けていたのだけれど……。

 彼女だって、伊達にブリタニア有数の古参空母と言うわけではなかった。

 

 利根のアドバイスに従い、自らの群体制御システムの統括下にハイゼロを加えていく……もう4機単位で大雑把に指示出しするだけでいいやと、半ば開き直りながら直ちに戦闘命令を発令する。

 もとより、数も16機しか居ない……自律制御でもそこそこ戦えそうなので、問題もなさそうだった。


「うん、これならいけそう……それでは、ハイゼロ隊に散った敵編隊への突撃を下命っ! 目標、各個撃破します」


 利根達のロングレンジ射撃で、敵機の編隊を散々に撃ち散らした上で、ハイゼロによる近接戦闘で止めを刺す。

 利根達の対飛翔種の戦い方の基本どおりだった。

 

 それにインセクターの侵攻パターンも利根達は何度も交戦しているので、読み切っている。

 

 飛翔種の第一陣は、対空戦闘重視タイプが出てくるのが定番。

 

 レナ達はタイガーモス、利根達は四ツ羽と呼んでいる正面から見るとX字型に見えるタイプの機体。

 生体大気圧縮器官を持ち、ジェット機のように圧縮した空気を吹き出して飛び、その速度も時速700kmとかなり高速で、機銃のようなプラズマ弾を撃ってくるため、侮れない火力を持つ。

 

 駆逐艦クラスだと、近づかれると十分脅威である上に、エーテル大気の薄くなる高空からの一撃離脱に徹されると、相応に厄介な相手で、ノーマルのゼロ程度でははっきり言って歯が立たない程度には進化していた。

 

 けれども、初手から艦砲射撃で編隊を崩してしまえば、その突進力も失われさしたる脅威でもなくなる。

 本来ならば、艦砲射撃が届く範囲よりも戦闘機での防空戦闘が先なのだが、レールガン実装艦だと艦砲射撃の方が先になるから、このような戦術が可能となる。

 

 案の定、初撃とルースの追撃で壊乱しかかっていたところに加え、ハイゼロの戦闘力も手伝って、あっという間に敵第一陣は壊滅していく。

 

 元々、キルレシオも二桁超……その程度には優位性があるのだ……緒戦の制空戦は利根達の圧倒的勝利で終わる。

 

 続いて、エイのような形をした戦闘爆撃機が続くのだが……。

 これは、はっきり言ってハイ・ゼロの敵ではなく、倍以上の兵力差にも関わらず、これもまた呆気なく食い散らかされていく。

 

「す、凄い……圧倒的ですね……ここまで高度なエーテル空間戦闘機が完成しているなんて……」


 グローリアスが感嘆の声を上げる。

 シーハリケーン自体、そう悪い機体でもなく、今回の一連の戦闘でのキルレシオも約5倍と相応に健闘していたのだけど。

 

 常に寡兵で圧倒的多数の敵と戦ってきた龍驤が実戦で磨き上げたハイゼロと、その戦闘ドライバは、もはや比較にならないほどに強力だった。

 

 どうやら敵の飛翔種は、定番通りの攻撃機、爆撃機タイプが続いているようだったが。

 すでに護衛の対空戦闘タイプが壊滅しているので、わずか16機のハイゼロ隊は圧倒的多数の敵機をたちまち食い散らかしていく。

 

 更に、ルースも機械のように淡々と高射砲群で次々に敵機を叩き落としていた。

 主砲を二門に減らしてまで、増設しまくった高射砲群の火力は凄まじく……火山噴火のように砲火をバラ撒いていた。


 ……この分だと、敵飛翔体群は、機銃の射程に入る前に全滅するのは目に見えていた。

 

「じゃあ、悪いけど先手はあたくしがやらせてもらいますわよ! 観測射……打ち方、初めっ!」

 

 レナが艦体を斜めに向けながら、後部砲塔を含めての観測射撃を開始する。

 命中弾は無いものの、初弾から夾叉が出ており、次弾での直撃が狙えそうだった。

 

「あら、観測射撃なんて、あまり経験ないんだけど、良い感じじゃないの……オッケ! 次は当てますのよ! レディ利根、そちらの準備はよろしくて? 効力射……ブチかましちゃいましょう!」


「観測射による弾道データ修正値受領……効力射前の下準備としては上々ですわ。では、わたくしも撃ちますわっ! 全門斉射、撃てーっ! ですのっ!」


 利根も同じく斜めに艦体を向けた状態で、一番、三番、四番主砲を斉射。

 

 利根の三番と四番砲は後ろ向きに設置されているので、全力砲撃の際は艦体を横に向ける必要があった。

 最大火力を発揮するには、舷側を敵側に向ける必要があり、真っ向から向かい合っての砲撃戦になりがちな対インセクター戦では、不合理と言えるのだが。

 利根達にとっては、砲戦とはそういう物と認識しているので、特に問題視していなかった。

 

 利根の放った砲弾は、奥に居た敵三番艦に集中。

 立て続けの直撃弾で、装甲殻が砕かれ、一気に速度が落ちる。

 

 インセクターの戦艦種の砲撃はせいぜい50km程度しか届かないので、この距離だと一方的なアウトレンジ。

 さすがに、利根の20cm砲では一撃必殺とは行かないのだが、利根には対戦艦種用の切り札があった。

 

「動きが止まったのなら、あとは止めっ! 荷電粒子砲! 行きますわっ!」


 利根の二番砲から、二条の光条が放たれ……それは絡み合い螺旋状になると、凄まじい速度でインセクターに直撃……その巨大な艦体に大穴が穿たれ……しばらく進んだ後に大爆発を起こす。

 

 さすがにレナ達、ブリタニア艦にとってもこれは未知の兵器だった。

 当たり前にように放たれたその異形の兵器に、驚きを禁じ得ない様子だった。

 

「まさか! 荷電粒子砲っ! エーテル空間砲戦用なんて、あたくし達ブリタニアでも開発に難航してたのに……桜蘭では、実用化されていたんですのね……」


 荷電粒子砲自体は、宇宙空間用兵器として、既存の兵器ではあるのだけれども。

 エーテル空間戦闘では、荷電粒子がまともに直進せず、実用に耐えないとされていたのだ。


「これは……まぁ、敵性技術の応用だね。向こうの母艦が荷電粒子砲を撃ってきた実例があったんだ。それがこんな風に螺旋状に束ねて撃ってきてて、相当な命中率を出してきたんだ。それをまるごとパクったら、これまでの問題だったエーテル空間での直進性の問題が一気に解決してね……今じゃ、こちらも荷電粒子砲対策の強電磁界シールドを搭載してるから、砲戦だとワンサイドゲーム状態だ。欠点としては、最低でも20cm砲クラスでないと射程が短いって事とパワーチャージに少々時間がかかる点なんだけどね」


 利根の荷電粒子砲。

 その威力はもはや、戦艦クラスを一撃で沈め、1000m級の要塞クラスですら、単艦で撃破できるほどの凄まじいものだった。

 

 その情景を見て、負けじとばかりに、レナも大口径レールガンの連続砲撃を開始。

 

 その威力は当たれば一撃必殺レベルの上に、これまで超長距離砲撃時の問題点だった命中精度が劇的に向上していることも相まって、あっという間に、敵前衛艦隊が壊滅する。

 

 さすがに、この結果に利根も驚きを禁じ得ない。

 戦艦級の火力と利根達の確立した高精度未来予想砲撃の組み合わせが、ここまで凄まじいものだとは思ってもいなかった。

 

「……さすが、遠距離戦での命中率がここまで高いと、殲滅力が違いますわ。敵の第一陣は早々と壊滅したみたいですわ。駆逐艦の子達には悪いけど、大物は総取りさせていただきましたわっ! ごめんあそばせっ! おーほっほっ!」


 レナも高笑いと共に上機嫌な様子。

 どうやら、想定以上の戦果だったらしく、喜色満面と言った様子だった。

 

「レナさん、そちらの各種ステータスをモニターしてますが。これまで連戦だったせいで弾薬の残りが怪しいみたいですの。ひとまず、わたくし達が殿を務めますので、ブリタニア各艦は後退の準備を……先頭の戦艦タイプは殲滅したけど、細かいのが次々来ますわよ……」


「そうね……確かに残弾が2割を切ってるとなると、そんなに楽しめないか……それに戦艦砲で小型艦艇相手にするのって、オーバーキルもいいとこなのよね……後は、こっちは援護に徹して、仕上げは駆逐艦連中に任せるとしますか」


 レナが名残惜しそうに呟く。

 まだまだ暴れ足りない……そんな様子だったが、これまで散々暴れてきて、まだやる気なのはさすがにたいがいだった。


「利根さん、僕はこれまであまり戦闘には参加してなかったから、多少は残弾に余裕があるよ……アローもそろそろ引き上げさせないといけないから、僕も前に出るよ!」


 アマゾンもレナ達に触発されたらしくやる気のようだった。


「有明、夕暮……貴女達は行けますの? さっきのダメージはどうなったのかしら?」


「有明は問題ありません。先程のダメージも損害自体は軽微でしたので、復旧済みです。私達二人なら、この程度の雑魚……余裕です!」


「夕暮もバッチリです! ここは、汚名挽回のチャンスなのですよー!」


 軽口を叩きながら、最前衛の有明と夕暮が更なる前進をかけ、アマゾンがその後を追う。

 敵艦総数は軽く10倍くらい残っているのだが……その程度の兵力差はいつものことだった。


「汚名は挽回するんじゃなくて、返上すべきものですわよ? さすがに、インセクター相手に自重しろなんて言いませんわ……派手にやっちゃいなさい! アマゾンさんは、二人のフォローをお願いしますの」


「心得た……突っ込むのは、向こうに任せて、僕は援護と近接防御を担当するよ」


 有明と夕暮、二隻の駆逐艦が突撃を開始。

 敵の射程に入るなり、残存艦艇の砲撃や、生き残っていた敵機の攻撃が集中する。

 

 戦術マップ上では、たちまち敵の攻撃予測ラインや、着弾予想サークルで埋め尽くされたような有様になる。


 けれども、そんな猛攻撃の中、どちらも巧妙に避けながら、確実に敵艦を沈めていく。

 

 その快進撃を支えているのは、後方の利根の援護射撃だった。

 弾道計算をリアルタイムで行い、当たりそうなものを片っ端から、敵機はおろか砲弾まで、次々撃ち落していたからなのだが……。


 アマゾンも見習ったのか、自前のレールガンで、飛来する砲弾を片っ端から落としていってくれている。

 

 砲撃も敵機も、高精度予測が可能ならば、撃ち落とすことが可能となる。

 もし仮にこのエーテル空間での戦闘に、対艦誘導弾のような兵器があったとしても、脅威にもならないことは明白だった。

 

 彼女達の脅威となるすれば、レールガンの直撃を耐えしのぐほどに強力な防御力と、100km単位の長距離砲撃を可能とする超重砲や荷電粒子砲を有する超大型艦クラス程度だった。

 

 実はこの流域にもそんな通称「R・E・D」と呼ばれる超大型変異個体が生息しているのだが。

 現状それは、確認されて居なかった。

 

 それが居ないのであれば、もはや利根達の勝ちは揺るがない。

 

 有明と夕暮の有視界戦闘による蹂躙戦闘と、それを支える高精度情報連携。

 そして、利根や龍驤による長距離支援攻撃。


 通常レベルのインセクターとの戦いに於いて、一年にも渡って、利根達が無敗なのはこう言う事だった。


 それに加えて、今回はブラックウォッチ艦隊と言う強力な助っ人もいた。

 かくして、一方的な虐殺に近い戦闘は、極めて効率よく進められ……その決着は文字通りあっという間だった。


 数時間後、利根達斑鳩星系防衛艦隊とレナ達ブリタニア遠征軍は轡を並べて、斑鳩基地へ凱旋した。

 

 ブリタニアと桜蘭、それぞれ違う環境で生まれ育ち……同じように過酷な戦場を戦い抜くうちに、異常なまでに進化してしまった戦闘艦艇達。


 一つだけ言えることは、この時点で彼女達は宇宙最強とも言える強大な存在となっていたのだが。

 ……その存在は、未だ誰も知り得なかった。


 そして、二つの宇宙は……そんな彼女達を尻目に、混迷の時代を迎えることとなる。

第一章「邂逅編」はこれにて終了。


次回から、ちょっと舞台が変わります。

前作のあの人達の登場です。(笑)


第二章「炎上編」ってとこかしら?

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