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第六話「共同戦線」②

「……ただ今、戻りましたわ」

 

 戻るなり隣で心配そうに佇んでいた蒼島中尉に笑いかけると、中尉も安心したように笑みを浮かべる。

 

「お疲れ……電子空間で連中と交渉してたみたいだね……一応、こっちでもモニターしてたんだけど、流石に高速通信モードだと、僕には全く追い付けなかったよ」


 向こうの言う所のコミュニケーションルームは、完全な電子空間だった上に利根達示現体専用とも言える圧縮情報空間。


 感覚的には、およそ30分程度の会合だったのだが、基底現実の時間にすると一分どころか、一秒も経っていなかった。

 

 蒼島中尉も電脳改造しているので、利根達のように精神自体を電脳空間に飛び込ませるフル感覚ダイブも出来なくもないのだが……。

 

 桁違いの演算速度を持つ利根達の基準に合わせろと言うのは、さすがに無理な相談だった。


「まぁ、その辺は仕方ないですわ……向こうの示現体と挨拶ついでに、一通り顔合わせしましたの。とりあえず、このまま彼女達と共闘して、インセクターを撃退するということで話もまとまってますの」


「インセクター? 本当だ……11番機から敵発見の報が今入って来た。なるほど、未来予測による情報先読みか……って、ダイレクトリンクの接続先に、ブリタニア艦が次々に……これはいったい?」


 蒼島中尉の見ているモニターに、洪水のように情報が押し寄せていた。

 

 見る間に、各艦同士が情報連携を開始……ブリタニア艦と桜蘭艦では、各種情報システムにかなりの差異があったようなのだが、それもリアルタイムの高速演算と言う力技で修正しているようだった。

 

 一部の艦艇は、火薬式の砲を使っているようだが、回頭し前衛に回りつつある艦艇は、利根達と同じく電磁投射式が主流……恐らく、ブリタニアでも最新鋭なのだろう。

 

 その照準システムや情報連携システムも、利根を中心とした戦場管制システムへ統合するようだった。

 

「ブリタニアの皆様……どうやら、わたくし達に合わせてくれるようですの……現在、彼女達と無制限相互情報連携中です……ひとまず各種システムの相互互換性の確保の為のシステム調整を実施中ですの」


「……確かにここが孤立する前に本国の方で、ブリタニアへの技術提供を試みたって話は聞いてるからね……。半ばダメ元のやけっぱちの計画だったようだけど、上手く行ったってことか。けど、そうなると僕らも負けられないね……お、丁度いいところに、増援も到着したみたいだね」

 

 蒼島中尉がそう言うと、増援として出撃していたゼロ二個中隊が到着したところだった。

 

「こちら、ゼロ第6、第8中隊……臨時飛行大隊長の峯岸大尉だ。佐神中佐、一体何があったんだ? 戦術マップ上の味方艦がやたら多いぞ?」


「こちら佐神、よく来てくれた! 一言で言うと、ブリタニア艦隊と合流した……つまり連中は味方だ。送り狼のインセクターともうすぐ接触するらしくてな……交戦準備の真っ最中って訳だ。貴官らはハイ・ゼロのコントロールを空母グローリアスへ引き継ぎ……戦闘には参加せず、そのまま斑鳩基地へ撤退せよ……由良、これでいいのか?」


 この辺りはすでに由良経由で相模中佐に伝えられていた。

 人間サイドの指揮官や兵への指示出しは、もっぱら中佐の仕事だから、その辺りは中佐もよく解っており、話は早かったようだ。


「はい、ブリタニアの皆様も有人機を対空戦闘に巻き込むなんて、論外って言ってます。統合情報システムでの指揮下内に有人機という異物が紛れ込むのは、イレギュラーの元ですから……ここは、皆様の安全の為に撤退した方が良いと思います」


 その点については、利根達も異論は無かった……元々無人機のハイ・ゼロは龍驤が相当無茶な改良を施しているので、レシプロ機にあるまじき、超高性能機。

 

 その戦力比は、有人タイプと比較すると5倍近い……言わば、化け物だった。


 本来の運用では、空母龍驤による指揮管制下での運用を前提にしているのだが。

 有人機による指揮管制コントロールで、スタンドアロン制御の無人機に大まかな指示を出していくと言う運用想定もされていた。

 

 けれど、どうにも彼ら自身が空戦に参加したがる傾向が強く……むしろ、利根達にとっては厄介なイレギュラー要素となっていた。


「そりゃねぇっすよ佐神中佐、こちとらやる気満々ですぜ! って言うか、そのグローリアスとか言うデカブツはなんなんでさぁ!」


「どうもブリタニアの無人正規空母らしい……。良く解らんが極めて重要な人物が座乗してるそうで、最重要防衛目標なんだそうだ。まぁ、峯岸大尉……気持ちは解るんだが、どうもこの連中……この流域のインセクターを蹴散らしながら、突破してきたらしくてな……」


「たったこれだけの戦力で? 確か、母艦だけでも2-30隻はいたんじゃねぇのかよ……それを突破してくるって、尋常じゃありませんぜ?」


「そうだな……おそらく、ブリタニアでも最強クラスの精鋭艦隊だ。由良や利根から見ても化け物揃いだそうだぞ」


「二人がそう言うなら、相当なもんなんでしょうな……けど、それならなおさら、俺達の腕の見せ所じゃないですか! ここで尻尾を巻いて逃げ帰ったら、ブリタニアの奴らの笑いものになりまさぁ!」


「……大尉は……無人機と対空砲火の隙間で空戦なんぞしたいのか? ブリタニアの奴らは有人機との連携なんて、経験ないらしくてな……いくら敵味方識別があっても、乱戦になると正直当てにならん。万が一ブリタニアの味方撃ちで死なれると、下手すると外交問題に発展しかねんからな……ここは由良の言うとおりにしとけ……不服か?」


 峯岸大尉と他の3機の有人機のパイロット達も流石に息を呑む。

 

 ……彼女達、斑鳩基地所属の無人戦闘艦の防空戦闘は、味方無人機との高度な連携の上で、成り立っている。

 

 濃密な弾幕がシャワーのように飛び交い、その中を縫うように飛び交う無人戦闘機群……その無人機ですら、誤射で度々落とされるのだから、始末に負えない。

 ……そんな中に有人機が紛れ込むのは、如何なる手練であっても怖気づく、いわば自殺行為に近かった。

 

 有人機が空戦を行うのは、麾下の無人機が全滅してから……いわば最後の手段。


 だからこそ、本来は後方で大人しくしているべきであり、有人タイプのゼロもコクピット周りの防弾性能やら高速性だの、脱出装置と言った乗員の生存性に重きを置いており、その機動性は鈍重で火力も乏しく、空戦自体推奨されていなかった。

 

 けれども、彼ら桜蘭のエーテル空間戦闘機パイロットは、過酷な状況でも勇敢に戦うことを美徳としており、龍驤や利根も細心の注意をはらいながら、有人機を生還させるべく少なくない努力を強いられていた。

 

 そもそも、この有人機による無人機の運用自体が龍驤が使えない時の為の非常運用のようなもの。

 無人機の管制を引き受けてくれる空母がいるのであれば、有人機の出る幕などないと言うことは、彼らも良く理解していた。


 なにより、彼らにとってもブリタニア艦は共に戦い慣れた利根達と違って、全くもって信用ならない相手ではあった。

 

「了解……では、我々は後方で観戦でもさせてもらいますよ……それくらいなら構わんでしょう? それに万が一敵機に抜かれた時の保険くらいにはなると思いますんで……由良の上空警護をお任せ願えませんでしょうか?」


「お前らもつくづく物好きだな……まぁ、俺も後方で観戦って立場にゃ変わらんよ。連中の超高速情報連携の前にゃ、細々と指揮なんて間尺に合わんからな……どのみち、いつも通り好きにやらせるつもりさ。俺に出来ることなんて、戦闘開始と終了の号令くらいのもんさ」


「エーテル空間での戦争は、機械共に任せるに限る……か。龍驤のお嬢ちゃんが航空隊を仕切るようになってから、クドクドと言われてはいましたけど、いよいよもって我々は役立たずって訳ですな。……ってすまん……この会話、利根ちゃん達も聞いてるんだっけ……」


 つい本音が出てしまったのだろう……峯岸大尉が申し訳なさそうにする。

 

「いえ、お気になさらず……わたくし達は自分達の務めを果たすまでです。戦場に一緒にいてくれるだけでも、わたくし共の気分が違いますので……お気持ちだけでも嬉しいですわ」


 利根の言葉に峯岸大尉も思わず苦笑する。

 

「そう言ってくれるとありがたい……まぁ、いざって時は役に立ってみせる。せめて、この場で君らの応援させてもらうとするさ! じゃあ、がんばれよっ!」


 大尉との通信が切れる。

 利根もほっとため息を吐きながら、複雑な顔をする。


「……やっぱり、僕ら人間が戦場に立つのは君達にとっては、抵抗があるのかい?」


「そうですわね……わたくしも、大勢の方が亡くなるのをこの目で見てしまいましたからね……」


 そう言って、目を伏せる利根。

 彼女は、特に人の死に敏感な傾向があった……誰かが死ぬとそれが彼女の責任でも何でもなくても、本気で泣いて、本気で落ち込む。


 戦士としては、そんな事では失格なのだが……それ故に、誰も死なない戦場を作り出すことに、彼女は誰よりも熱心で、それゆえに斑鳩でも最高戦力と言われるほどまでに、成長を遂げたのだ。


「……まぁ、僕は簡単に死ぬつもりはないし、この艦の整備は僕がやってるからね。命を預けるくらい何とも思わないさ。ああ、今度僕の人格データでもバックアップしておいてくれよ。そうすれば万が一僕が戦死しても、整備ロボットにでもデータを移植してくれれば、僕の知識や技術も無駄にならない」


 割と本気っぽく言っているあたり、中尉も大概だった。


 中尉の人格データが移植された大量の整備ロボが一斉に砲塔の煤磨きをしている情景を想像し利根も思わず苦笑する。


「中尉みたいなのが、大量生産されるとかあまり想像したくないですわ。なので、今度から戦闘になりそうだったら、さっさと救命ボートにでもくくりつけて、エーテルの海にポーイさせていただきますのっ!」


 笑顔で、そう宣言する利根に蒼島中尉も思わず苦笑する。

 

「……ははっ……ひどい扱いだな……それ。でもまぁ、僕らの生き死になんか気にするなって……皆、そう思ってるのは確かなんだから、気楽にやってくれて構わないさ。そもそも、君が無茶しなければ大丈夫だって、誰がこの艦のメンテナンスをやってると思ってるんだい?」


 自信満々と言った様子で胸を張る蒼島中尉。

 けれど、そんなやり取りのうちに少しは気楽になっていることに気付き、利根も密かに感謝する。


(これだから、人間って嫌いになれないんですのよね……感謝しますわ……中尉)


 内心でそう呟いて、利根は蒼島中尉に笑いかけた。

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