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第六話「共同戦線」①

「……タイガーモスとスティングレイか……連中もしつこいね。ひとまず、どうだろう? この場は共闘して奴らを片付けないかい? こちらも艦艇はともかく、航空戦力が壊滅してるからね……今までのパターンからすると、飛翔体だけで2-300機は来そうだ……流石に僕らだけだと、ちと厳しい数だね」


 アマゾンの言葉に、利根達も否応は無かった。


「問題ありませんわ……由良も有明、夕暮……三人共まさか反対なんてしませんよね?」


 三人共無言で頷く……その様子を見て、アマゾンも微笑む。

 

「ありがたい……なら、僕もちょっと本気でやらせてもらうとするよ。ひとまず、こちらとしては、グローリアスには超重要人物が乗艦されているからね……だから、最優先防衛目標として真っ先に下がらせる。彼女の戦線離脱が戦略目標……ここと君達の基地の間は安全が確保されてると思っていいのかな?」


「対インセクター戦では、後退防御が基本ですの。退路を確保した上での迎撃態勢の構築は当然ですのよ?」


 すでに基地からは、龍驤が出港し、防衛用の小型舟艇群が展開中。

 増援の航空隊も次々進発中で最終的には100機近くになりそうだった……。

 

 先行する増援のゼロ隊も分散し、哨戒しながら向かっているので、退路については問題ないと断言できた。


「さすが、よく解ってるね! レナもいつまでも呆けてないで、さっさと再起動しようか。敵襲ーッ!」


 アマゾンがパンと手を打つと、コミュニケーションルームの照明が赤く変わり、空襲警報のサイレン音が響き始める。

 

 レナは、その音を耳にするなり弾かれたように顔を上げると、立ち上がる。

 ……その表情は先程と打って変わって、不敵な笑みすら浮かべていた。


「ふふん……こんな事してる場合じゃないですわねっ! 総員戦闘配置よっ!」


 フリーズ状態から一転、文字通りスイッチが入ったような豹変ぶりに利根も言葉を失う。


「やぁ、おかえり……状況説明は必要かな?」


「不要ッ! あたくしとした事がちょっとフリーズしてしまいましたの……ごめんあそばせっ! まったく、虫けらがまだ追って来てたのね! こうなったら、まとめてブチ殺してくれますわ! おーっほっほっ!」


 先程までの動揺ぶりがウソのように、まるで水を得た魚のように、生き生きとしているレナ。


(……あ、この方……要するに有明達と同類なんですね……)


 政治とかややこしい話はとかく不得手で、戦闘になると細かいことは抜きにして、スイッチが入る。

 所謂、戦闘民族系と言う人種。

 

 要するに、戦ってれば幸せ……そう言うものなのだと、身近に同類がいる利根も良く理解出来た。


「どうやら、問題なさそうですのね。それにしても、珍しいですわね……高速戦艦タイプなんて大物が6隻も、それに駆逐種がぞろぞろと……まったく、えらい騒ぎ。貴女方いったい何をしでかしたので? 警戒色全開で……物凄く怒っているみたいですわ」


 利根の中継映像には、高速戦艦タイプの大型種6隻のみならず、続々と集団で突き進むインセクターの群れが捉えられていた。

 

 けれども、その視覚センサーに当たる目のような部分は、例外なく赤く染まっていた。


 利根達は、これを「怒りモード」などと呼んでいた。

 彼らの領域でインセクターを狩りまくったり、営巣地への破壊活動を行うとよくこの状態になって、猛反撃を仕掛けてくるのだ。


 破壊衝動で猛り狂ったような状態なので、こうなると損害に構わずひたすら突っ込んでくる……。

 

 もっとも、怒りモードだと基本的に遮二無二まっすぐに突っ込んでくるだけなので、対応自体は難しくもない。

 適当に下がりながら、十字砲火点を形成し、火力集中をかければ、容易に殲滅できる。

 

 けれども、数の暴力で多方向からこれをやられて、懐に飛び込まれるとかなり厄介だった。

 だからこそ、利根達も前進した上で、哨戒線を張り、後退防御を基本戦術としていたのだ。


「そう言えば……途中でインセクターの母艦がぎっしり集まってたからって、あたくし達が先制攻撃を仕掛けて、母艦を10隻近く沈めてさしあげましたけど。あれって、連中の巣だったんですかね……お陰で追撃が激しいのなんの……」


 涼しい顔でレナが呟く……利根達もその集結点とやらには心当たりがあった。

 利根達が何度も叩き潰そうと画策しては、戦力不足で攻略を断念していた最寄りのインセクターの巣窟の事だろう。


 拠点の殲滅も戦力的に出来ないこともないのだが……いざ、インセクターの拠点に攻め込むと大抵、他の拠点から増援が押し寄せてきて、酷い消耗戦となり、結局攻略を断念する……。


 その繰り返しで、一向に拠点を落とすことが出来ないでいたと言うのが、利根達の実情だった。

 結局、守るには良くても攻めるには頭数が足りない……それがネックとなっていたのだ。


 恐らく、レナ達は、一箇所に固執せず、手当たり次第に拠点を攻撃し、インセクターを蹴散らしながらここまで来たと……そういう事なのだろう。

 

 それならば……この辺りにインセクターが一匹も居なかったのも、むしろ当たり前。

 ……インセクターにとっては、前代未聞の大規模侵攻を食らった……と言ったところだろう。

 

 この分だと出てきても、インセクターの一拠点分程度の戦力だと利根も当たりをつける。

 各拠点でインセクターが増殖し、余剰個体が溢れかえった末に発生する、スタンピートと呼ばれる複数の拠点から一斉に押し寄せるようなものと比べると、全然ヌルい。

 

 おまけに、こちらもブリタニア艦隊という強力な助勢がある……彼女達がどの程度戦力になるか解らないけれど、負ける要因は殆どなかった。

 

「……まったく傍迷惑な事してくれたわね……アンタ達。まぁ、いいわ……この所、ずっと防戦一方だったけど、そんな痛快な真似してくれたんなら、駄賃代わりにわたくしが送り狼を返り討ちにしてさしあげますわ! とりあえず、由良は後方に下がって、戦域管制と演算処理に専念して……有明、夕暮、それにわたくしが前衛に回ります。そちらはいかがされますの?」


 利根がレナにそう振ると、レナも待ってましたとばかりに一歩前に出る。


「あたくしとルース、アマゾンとアロー……ブラックウォッチ各艦は、180度回頭して迎撃に回りますわ。グローリアスはそのまま前進し、この流域を離脱……アカスタ達は、グローリアスの護衛。けど、敵の航空戦力はどう致しましょうかしら? 艦隊で防空網を張って、食い止めると言っても限度がありますし、グローリアスの航空隊も損耗が酷くって、戦力外ですのよ……あたくし達を無視したり、迂回されてグローリアスに殺到されるのは避けたいですわ」


「間もなくこっちの航空隊が合流しますの……それにわたくしが最前衛に出ますから、あの程度の数の飛翔種なら、展開前に一蹴してご覧に入れますの」


 自信満々な利根の様子に、レナも毒気を抜かれたような表情を見せる。

 

 実際問題……利根としては、この程度の戦力……脅威として、認識していなかった。

 第一陣でわずか50機程度の飛翔体しか居ないとなると、本隊も200か300程度と予想していた。

 

 その程度の数では、鎧袖一触で終わる……これは利根達にとっては、自信過剰でもなんでもなく、ただの事実だった。

 

「あの程度って……貴女方、存外頼もしそうね。あたくし、強い味方は大好きですわ! ……それではお手並み拝見といきますか……じゃあ、お互い顔合わせも済んだことだし一旦解散! この戦いが終わったら、今度は直に顔合わせてお茶でもしましょうね! 実はとっておきの天然モノの葉っぱがありますの」


「じゃあ、こちらも天然モノのサンマでもご馳走しますわ……なんだか、有り余ってるようなので、日本の和食というものを味わっていただきますわ」


 作るのは、わたくしじゃないんですけどねーと内心で付け加える。

 利根は基本的に、食べる専門だった。


「サンマ? サーディンみたいなものかしらね……なら、久しぶりにスターゲイジーパイでも焼こうかしらね」


 話し合いの最中に、やっつけで突っ込んだ英語プラグインでは、星を見上げるパイなどと直訳されて、利根もなんともロマンチックな名前ですの……等と勝手な想像をふくらませる。

 

「なんだか、素敵そうな食べ物ですわね……うふふ、楽しみですわ」


 実は、ものの見事に会話が噛み合っていないのだが……。

 後日、その衝撃的なビジュアルのパイに代表される異形の英国料理の数々を振る舞われ、揃って頭を抱える事になるのだけれども……それは別の話。


「……それでは、以降は共に戦う仲間同士と言うことで、こちらも最大限の支援をお約束いたします……レナ様、また後ほど……ですのっ!」


 そう言って、海軍式の敬礼をびしっと決める利根。


「うふふ……小さなレディ利根、あたくしも貴女の事、好きになれそうですわ……それでは、御機嫌ようっ!」


 レナがスカートの端を摘みながら、ペコリとお辞儀をすると接続が解除された。


 利根も一気に現実感覚が戻ってくる……風景が見慣れた重巡利根の艦橋に一変する。

お察しでしょうが……レナ達英国勢は揃いも揃ってメシマズです。(笑)

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