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第一話「王立近衛宇宙艦隊(ロイヤル・ガーズ)」①

 夕焼けにも似た空の下。

 

 ……鈍色の波間を掻き分けながら、二隻の戦艦が進んでいた。

 

 その艦影は……かつて、Royal Navy(ロイヤルネイビー)に所属していた巡洋戦艦レナウン級に酷似していた。

 

 更に後続には2隻の同型の駆逐艦。

 

 そして、両脇を駆逐艦に守られるように、一隻の240m級の空母が続く。

 その側舷にはGlorious(グローリアス)と記載されていた。

 

「……はぁ、どうしたもんかねぇ……なんとか、グローリアスのお馬鹿さんの保護には成功したものの……こんな敵地の奥深く……まったく、女王陛下の無茶振りとは言え、甲斐甲斐しいのにも程がありますわ」


 先頭を進む、突撃戦艦レナウンの艦橋……それも艦長席で、メイド服の少女が優雅に紅茶を飲みながら、そんな風に独り言ちた。

 

 その傍らには、飛行機のプロペラのような物が無造作に立てかけてあり、広い艦橋内には、他の誰もいない。


 にも関わらず、舵はひとりでに動いていたし、その内装は外見の古めかしさの割には、空間投影モニターや複雑な計器類などが並んだ近代的な代物だった。


 そう……彼女こそ、戦艦レナウンの(ウォーシップ)乙女(・ヴァルキリー)と呼ばれる者。

 

 桜蘭帝国では、戦闘艦艇示現体とも呼ばれている者達と同等の存在。

 ……旧時代の戦闘艦艇を我が身として操る……言わば戦闘兵器だった。


「レナお姉様……問題ありませんわ。私がいる限り、お姉様には指一本触れさせません」


「あ、あの……色々すみません。でも、これも勅命ゆえ……我らは、たとえこの身が沈もうともっ! いや、沈んじゃ駄目なんですけど、とにかく不退転の心意気なんですから!」


 艦橋の何もない空間に唐突に、空間投影ウィンドウが表示され、それぞれ、眼鏡のメイド服姿の少女と、白基調の豪奢なドレス姿の銀髪の長い髪の少女の姿が映し出された。

 

 ウィンドウには、それぞれレパルスとグローリアスと発信者名が表示されていた。

 

「うんうん、レパルス……頼りにしてるわ。でも、グローリアス……不退転って、王立近衛艦隊ロイヤルガーズもアンタ達しか残ってないじゃないの……あたくし達のミッションは、貴女方の保護、撤収支援であって、そちらのやる事には興味ないの……もう十分じゃないかしら? ……いいから、もう引き上げてもらえませんこと」


 半ば呆れたように、投げやりな調子でレナウンが静かに告げる。

 つい先程まで続いていた……激しい戦闘。

 

 それを物語るエーテルの空に棚引く黒煙と、流体面に浮かぶ大量の生き物のような何かの残骸。

 

 それは、グローリアス達、近衛艦隊の独断による桜蘭帝国への回廊突破作戦……失敗の後始末の跡だった。

 

 王国遊撃宇宙艦隊所属艦艇の中でも最精鋭を謳われる……レナウン達「BlackWatch(ブラックウォッチ)」特務艦隊に下った任務は、近衛艦隊の保護と撤退支援……だったのだが。

 

 インセクターの飛翔種の群れに包囲され、僅か三隻までに討ち減らされながらも、なおも進軍を続けようとしていた近衛艦隊の残存艦隊と共同で、インセクターを全滅させたのがつい先程の出来事。

 

 レナウン達は、グローリアス達、近衛艦隊の生き残りに、撤退を促しているのだけど、彼女達が頑として撤退を受け入れず……レナウン達もほとほと困りきっている状況だった。


「そうです……そちらの作戦はそもそも、無謀としか言いようがありません。この戦力で撤退はまっとうな判断と言えます」


 レパルスも同意見らしく、冷たく言い放つ。


「そ、そう言われましても……私達にも退けない事情がありますの……それにあと距離にしてたった3000kmなんですよ? ここまで来て引き返せとか、道中志半ばで倒れていった同志達へ申し開きが出来ません」


「途中で浮いてた近衛の連中なら、後続が救出して後送済み。勝手に仲間を殺すんじゃありませんって……。そもそも、あたくし達もアンタ達の無謀な作戦に付き合うほど、お馬鹿さんじゃないですの……退けない理由があるなら、きちんと説明してくださりませんか?」


「す、すみません……撤退できない理由については、私の口からは言えませんの……口止めされてまして……とにかく、私だって本当言うと、もう帰りたいんですのよーっ!」


「だったら、帰れよっ!」


 ……それまでの丁寧な口調を忘れたようにレナウンが怒鳴る。

 うっかり地が出たことに気付いたのか……軽く咳払い。


「おほん……失礼。とりあえず、アカスタ、アーデント……貴女方もこんな無茶に付き合わず、引き返しませんことかしら?」


 レナウンがそう呼びかけると更にウィンドウがふたつ開き、同じような顔立ちの茶色の髪の小さな女の子達の顔が表示される。

 

 それぞれ、モニターには、アカスタ、アーデントと表示されている。

 彼女達はお揃いの赤と黒、金の縁取り入りの英国近衛兵のような姿をしていた。

 アカスタの方はそばかす顔のツインテール、アーデントの方は前髪で目元が隠れた内気そうな雰囲気。


「レナ様、姉上がいつもお世話になっているそうで……じゃなくて、我らにも大義ある故、この場は退けぬのです……と言うか、我ら二人ではもう無理っぽいので、むしろ手伝って欲しいんですけど……マジでお願いしますーっ!」


「そ、そうです……無茶振りはんたーいでございますぅっ! むしろ、手伝ってください……でないと、死んじゃいます! こんにゃろーっ!」


 最初は恭しかったのに、あっという間に好き勝手な事を喚き散らし始めた二人の様子を見て、メイド服の少女……艦隊指揮艦レナウンは困ったように苦笑する。

 

「はぁ……貴女達もあくまで、不退転……か。こりゃ、参っちゃうわね」


「あの……その二人は、多分何があっても、退かないと思います。一応、ボクの身内でもあるので、その辺は解ります」


 更にウィンドウが追加で開き、青基調の海上迷彩服姿にベレー帽を被った小さな少女が顔を見せる。

 画面の隅には「アマゾン」と言うタグが付いている。


「あ、姉上……久しぶり、おいっすー!」


「薄情な姉上、お元気ですか? いたなら、声くらいかけて欲しかったです」


「やぁ、二人共久しぶり……僕は今回、先行偵察役なんだ、だから、あまりおしゃべりも出来ないんだ、ごめんね」


「さすが、我ら姉妹の長姉ですな……栄えある王立遊撃宇宙艦隊の精鋭ブラックウォッチの先陣とは」


「引きこもりのアローとは、訳が違うのです!」


 アカスタとアーデントが、喜々としてアマゾンとのおしゃべりを始めようとするのと、レナウンは手を振って留める。

 

「はいはい……身内の挨拶はそこまでにしなさいお嬢ちゃん達(ペティガールズ)。アマゾン、貴女はどうすべきだと思ってるのかしら?」


「そうだねぇ……もう、ここまで来ちゃったら、ボク個人としては、最後まで面倒見てあげたい。ここからエーテル潮流を逆走して引き返すのも中々の骨だろう? それに桜蘭帝国まであと3000km程度……。問題は、そろそろ敵の親玉が待ち伏せてるって事だけどさ。そこはそれ……ボクらの力で、何とかしようじゃないか」

 

「まぁ、貴女は元々この近衛艦隊救援作戦に志願参加したくらいだものね……身内が居たんじゃ、そりゃ必死にもなるか。アローもなんだかんだで、似たようなもんだろうしね。レパルス……貴女の意見は?」


「そうですね……幸いこの流域の敵は、飛翔種と駆逐種程度が中心……グローリアスも艦戦中心の防空編成ですし、私もいます。航空兵力が中心なら余程の波状攻撃でも無い限り、凌げると思います……問題は、どちらかと言うと桜蘭帝国側の出方……ですかね」


「あの……桜蘭帝国は、友好国じゃありませんの? 今の私は外交特使と言うことで、女王陛下の代理人のようなものなんですから……さすがに、無茶はしないんじゃないでしょうか」


 ……実際、彼女の船体のマストには、ユニオンジャックとともに盾に三頭獅子をあしらったイングランド王室の紋章が翻っていた。


 この旗を掲げると言うのは、王国近衛艦隊にとっては女王陛下の代理であることを意味していた。


「国レベルでは、そのはずなんだけどね……どうも向こうにもあたくし達のご同類がいるって話じゃないですか。向こうの連中って、あたくし達と敵としてやりあった記憶があるんじゃないですかね……。正直、いきなり、襲いかかって来られても文句は言えませんわ……。その辺、例えば……ルースはどうなの?」


「……日本軍は敵です。あの緑の雷撃機……見かけたら反射的に撃ってしまいそう……うん、むしろ撃ちたい……その為に、私はこのようなハリネズミみたいな姿に……」


 レパルスの雰囲気がガラリと変わり、俯き加減の暗い表情になると、何やらブツブツつぶやき始める。

 レナウンも変なスイッチを入れてしまったとばかりに、思わず天を仰ぐ。

 

 彼女の歴史上の評価……それは当時の英国海軍最新鋭戦艦プリンス・オブ・ウェールズ共々、世界で最初に航空機に沈められた戦艦と言う不名誉なものだった。

 

 彼女達には、それぞれの名を冠した戦闘艦の戦いの記憶と言うべきものが色強く受け継がれている。

 だから、彼女のように過去の最期の記憶をトラウマとして、対抗装備の増強に勤しんだり、自らの仇の名を冠する……言わば同類を恨んでいたりと、色々と複雑な事情があった。


 レナウンは、数々の戦いに駆り出されながらも、大戦を生き延びた武勲艦でもあり、戦っていた相手ももっぱらドイツ軍であり、太平洋の敵と戦う機会はついぞ訪れず、日本軍について、特に何か思うところは無かった。


 むしろ、どう言う訳か自分の名が日本では知名度が高かったと言う話を聞いて、勝手に親近感を抱いているくらいだった。


 けれども、ドイツ系……シュバルツ・ハーケンにも現れているであろう同類に出くわして、自分がどう言う反応をしてしまうのか……。


 全く予想が出来ないだけに、桜蘭帝国側の同類の出方についても、予想できなかった。

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