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第五話「和平交渉は一杯の紅茶と共に?」①

 完璧なタイミングでの、正面爆撃コースから一転、アクロバット飛行。

 ……レナウンとしては、心底肝を冷やした状況だったのだが……。

 

 さすがに、至近距離で日の丸付きの偵察機にアクロバット飛行を見せつけれて、相手が何者か気付かないほど愚かでもなかったようだった。


「……対空砲火も砲撃も止んだみたいですわね……それに、誰か出てきましたわよ」

 

 利根が映像を拡大して見ると、見張り台にメイドみたいなのが立って、一生懸命、旗のようなものを振ってる様子が見えていた。

 

「Stop……Fire? 撃たないでーってとこでしょうか……英語とか、私良く解らないのですが」


 手旗信号を解読した由良が不思議そうに呟く……利根も同様なので、何とも言えなかったが。

 少なくとも交戦の意志がないと伝えようとしているのは、明らかだった。

 

 この世界では、英語が一応、銀河共用語とされているのだが。

 桜蘭帝国では、古来から独特の文化圏が形成されており、母体となった日本国同様に、日本語が標準語とされており、利根達も英語と接する機会はほとんどなく、知識的には中学生並みとかその程度だった。

 

 要するに、簡単な単語や文法が解る程度、ヒアリングもスピーキングもお察しであった。

 

「英語翻訳プラグイン……ライブラリを漁ればあったりしないかしらね……」

 

 何とも場違いな感想を漏らす利根。

 

「なんだか、ぴょんぴょん飛び跳ねたり、後ろの方を指差したり、忙しそうな様子ですね……恐らく、あのメイドさんがこの戦艦の操艦を行ってる私達のご同類なのでしょうか……」


 利根に言われて、利根もそのメイド姿の示現体をじっと見つめる。

 

 女性の姿をしてる事については、何ら疑問は持たなかった。

 むしろ、それが当たり前……そんな風に思っていた。

 

 メイド姿なのは……メイド発祥の地がイギリスらしいので、お国柄を反映してとかそんなところなのだろうと見当をつけた。

 

 由良の操る零式水偵は戦艦の上空を周回飛行しつつフライパス……対空砲火は無し。

 

 二時方向のインセクターの飛翔種群は、ブリタニアの航空隊が撃退したらしく、続々と戻ってきている様子だった。

 

 更に奥の方に、まるで針山みたいな対空砲だらけの戦艦と駆逐艦二隻に囲まれた250m級の二段甲板式の空母が姿を見せる。

 

 空母の甲板の上では、白っぽいのがシーツみたいなのを持って、ぐるぐる駆け周っている様子が見えた。


「なんですの……あれ? 白旗を掲げてるつもりなのかしらね……」


「じゃないですかね……グロリアスって艦名みたいですね。あの方がこの艦の示現体……なんでしょうね。そうなるとあっちはブリタニアの指揮官でしょうか」


 艦橋の見張り台の上にもう一人……軍服を纏った青い帯の大綬らしきものを肩から襷掛けした、やたらと小さいのが大きく手を振っていた。

 

 服装からして、将官クラス。

 その割には、やけに背も低いし、なんとも軽々しい態度ではあったのだが、少なくとも友好的な様子には見えた。

 

「ガチの全力砲撃なんて仕掛けておいて、呑気に手なんて振ってる場合ですか? ……と言いたいところですけど。下の白いのの慌てっぷりから、向こうも相当、焦ってる様子ですわね……なりふり構わず、敵対の意志がないと伝えようとしてる様子ですわね」


「……まぁ、こちらも戦うつもりなんて無かったから、良かったですね……。あ、利根ちゃん! 有明ちゃん達のこと、忘れてませんか!」


 由良に言われて……利根も有明と夕暮の事をすっかり忘れていた事に気付く。

 通信も静かだった上に、利根達も割と切羽詰まっていたので、それどころでは無かったのだ。

 

「有明、夕暮……そっちはどうかしら? こっちではブリタニア艦の停戦の申し出を確認……たぶん、そっちの透明な奴もブリタニア艦だと思うから、まだやってるなら即刻、攻撃中止! いい加減言うことを聞いてくれないかしら?」


 利根の有明への呼びかけに反応はなかった。

 代わりに、えぐえぐとかすすり泣きみたいな声が聞こえてきていた。


「……い、いったい、何が?」


「と、利根おねーさまっ! ……有明がやられましたです! ついでに、夕暮も有明にブチかましちゃいました! ごめんなさーいっ!」


 代わりにとばかりに、夕暮が応えるのだが、ひどく要領を得ない。

 けれど、状況は良く解らないものの……有明被弾と言うことで、さすがに利根もサァッと血の気が引く思いだった。

 

「ちょっ! 有明は無事なの?!」


「うぐぅ……こちら、有明です。……あいつ、いきなり沈んだから、殺ったと思って近づいたら、いきなり撃ってきて、有明の機関部をぶち抜きましたのです! 乙女の純潔が……散らされたのですっ! 悔しいですっ! ふぇえええええっ! 責任取らせてやるんだからっ! こんにゃろーっ!」


 何とも生々しい表現で、泣き喚く有明。

 

 哨戒機の制御を取り返して確認すると、機関部被弾で煙を吹く有明と、その船尾に激突した夕暮の様子が目に入ってきた。

 

 ものの見事に共倒れ……まさに一石二鳥の完敗……。

 

「と言うか、いきなり沈んで撃ってきたって何? 状況がよく解かりませんの」


「潜行艦……だったんですかね。あの二人、搦手に弱いから……」


 半ば呆れたように、ほっとため息を吐く二人。

 

 もし、ブリタニア艦が本気で沈めに来ていたら、追撃であの二人は今頃、轟沈……だっただろう。

 それをしないとなると、向こうも交戦の意志が無いということなのだろう。

 

「うへぇ……ものの見事に機関部だけを狙い撃ちか。幸い、いや……これはわざとかな。砲弾が不発だったみたいで奇麗に通り抜けたみたいだ。損害も蒸気タービンが一基破損して緊急停止状態になっただけ。核融合ボイラーには異常なし……ナノマシンダメージ・コントロールが破孔と損傷箇所を修復中と……まぁ、これなら問題ないかな。まったく、手加減してくれたんだろうけど、良い腕してるな」


 蒼島中尉が苦笑しつつ、損害計上報告をしてくれる。

 そう言う事なら、問題ない……利根も一安心。

 

「夕暮、敵艦……いえ、ブリタニア艦の様子はどう?」


 向こうがまだまだやる気なら、夕暮も有明も極めて危険な状況だったが……有明達の猛攻を受けながら、手加減をするような余裕、明らかに格上の相手。


 ……ここは相手の良識を信じるべきだった。


「ふぇ……えっとですね……。姿さらけ出して、白旗挙げてますね……駆逐艦? って言うか、沈みかけてたのに……なんかちゃっかり元に戻ってますよ! 騙しやがったのです! ……あ、敵艦、レーザー通信送ってきてますです……ど、どうすればっ!」


 夕暮が露骨に狼狽える……とは言え、白旗を揚げる意味……。

 その上で、レーザー通信を送ってきてるとなると、交渉をしたいとかそう言う意味なのは明白だった。


 とは言え、有明と夕暮は基本二人セットな上に、相方がやられている状況……どっちも脳筋武闘派なので、交渉役なんて論外だった。


「あんたじゃ話になりそうもないから、わたくしがお話をしますわ。こっちに中継して! 佐神中佐もそれでいいかしら?」


 利根としては、そう言う結論となるのは必然だった……。

 もちろん、ちゃんと指揮官へのお伺いは忘れないあたり、いつ何時も律儀な利根らしかった。


「ああ、そうだな……お前ら同士の方が話し合いはしやすそうだしな。難しい話になりそうなら、俺が代わるから、まずは向こうさんの話でも聞いてやってくれ」


 夕暮経由で、利根とブリタニア艦との通信回線が確立される。

 

 さすがに、レーザー通信システム自体は枯れた技術で銀河標準のエーテル空間通信方式……と言うか本来はそれしかないのだが……。

 距離自体も視認範囲内なので、通信に支障はない様子だった。

 

 利根の艦橋のモニターに、背の低い青い迷彩服とベレー帽を被った青い目の女の子が映る。

 腰にシックな黒と緑のストライプ柄の布を巻いてて、否が応でも目を引く。

 

 傍目にも彼女が緊張してるのが解る……向こうも意表を突かれたようで、押し黙っていた。

 

(こう言うときは、スマイルですわっ!)

 

 とりあえず、すでに物々しい各種電子兵装を解除した利根が笑顔でペコリと頭を下げると、向こうもぎこちない笑みを浮かべて、同じようにお辞儀。

 

 お互いそんな事だけで、すっかり緊張が解ける……。

 

 この独特の人懐っこさが利根の良いところ……ファーストコンタクト役としては、悪くない人選だった。

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