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第四話「砲戦距離100000m」③

「利根ちゃん、ちょっとまずくないですか……敵艦……Unknownが砲塔を展開して、こちらを指向してますよ……もしかして、撃ってくるんじゃ……」


 由良に言われて、利根が索敵機の中継画像を見ると、敵艦の装甲が展開し、中から砲塔が姿を見せるところだった。

 

 どうみても、戦艦用の大型砲塔……口径は38cmクラスの大口径砲。

 ……当たれば、重巡クラスでもひとたまりもない。

 

 駆逐艦や軽巡クラスなど、ほぼ一撃で致命傷を負う……その程度には強力な砲だった。


 けれども、その形状は明らかに人類製の軍艦のものだった。


「まさか、あれがもしかして……ブリタニアの戦艦? ……でも、冗談でしょ……まだ100km以上離れてるんですわよ? この距離で撃ってくるわけが……」


 利根がそう言い終わる前に、すでに発射!


 外見上は、第二次世界大戦時の戦艦砲に見えたのだが、中身は別物……射出後の砲身が帯電し激しくスパークをしている様子が見える。

 

 電磁投射砲射出直後の帯電現象……その砲弾も凄まじい速度で突き進んでくる!


「中尉! 耐ショック姿勢を急いでっ! 艦橋部装甲展開っ!」


 利根の艦橋の窓ガラス部分が、シャッター状の装甲で覆い隠される。

 中尉も慌てて、しゃがみ込む……。

 

「弾道予測済み……大丈夫、この予想数値なら問題ない……外れるはずですの……」


 すでに、利根も観測情報を元に弾道計算を終えており、砲弾が外れることは解っていた。

 けど、解っていても、自分の方へ向かってくる砲弾なんて、恐怖以外の何物でもなかった。

 

「3、2、1……弾着っ!」

 

 由良と利根の間に着弾……爆発したような盛大な流体エーテルの柱が立ち、激しく波打つと、利根も由良も共に艦体姿勢を大きく乱す……利根と由良はお互い1kmほどの距離を離していたのだけれども、そのほぼ中間点に着弾した。

 

「今の……かなり近い。視認範囲外のはずですのに……こちらの位置情報を掴んでるとしか思えないどうやって……?」


 エーテル空間では、電波式レーダーなどほとんど役に立たない……それ故に基本的に索敵は光学観測頼みと言うのが常識だった。

 

 もちろん、地球環境と違いエーテル空間には、水平線など存在しないのだが、気体化したエーテルやプラズマ雲などで視認範囲は限定される。

 

 高度な宇宙空間戦闘用の観測機器を使い、赤外線など複数波長の組み合わせやノイズキャンセリング補完処理などを動員しても20km程度が限界とされていた。

 

 だからこそ、多数の索敵機による広範囲索敵能力を持ち、複数観測点からの環境分析、高度な未来予測能力との組み合わせで、レールガンの長大な射程をフルに活かせる。


 それこそが利根の最大の強みでもあったのだが……。

 

 敵艦は、観測機も使わず、極めて正確な超長距離砲撃を仕掛けてきた。

 

「利根ちゃん、今の砲弾……弾速が3000m/sを軽く超えてたな……レールガンタイプの砲? いやはや……こいつはインセクターなんかじゃない……君達の同類、それも僕らと同等レベルの高度な技術力を持つ相手だ。……しかし、どうやってこっちの位置を割り出してるんだ?」

 

 蒼島中尉の的確な分析。

 弾速3000m/sともなると化学エネルギー弾ではもはやありえない速度。

 

 ……その分析は間違っていないと利根も同意する。

 

 けれども、エーテル空間内であまり弾速を出しても、弾頭が空力加熱で燃え尽きてしまう上に、砲弾が帯電して、弾道が複雑に変化し、かえって命中精度が低下してしまうのだ。


 だからこそ、むしろ利根達は、相応の熱対策を講じた上で、弾速を2000m/s程度まで制限しているのだが……。

 

 大口径砲の大質量弾なら、多少弾頭が溶解しても威力は維持できる上に、慣性も相応に働くので、弾道も安定する……だからこそ、初速を可能な限り向上させる。

 

 シンプルながら、大口径砲を活かす最適解とも言えた。

 

 けれども、こんなものの直撃なんて、利根も想像したくもなかった。

 

「やはり相手はブリタニア艦……こちらを敵と認識してる? けど、このまま撃たれっぱなしなのも良くない……レールガン相手だと、弾速だって半端じゃないですっ!」


 レールガン搭載艦との実戦は、利根達も始めてなのだけど。

 仲間内で演習もやっている上に、自分達もレールガン搭載艦……であればこそ、その弾道特性なども含めてよく分かっていた。


 その欠点もだが、同時にその脅威も……特に38cmもの大口径砲ともなると、威力も桁違い。


 仮に弾頭重量800kg、弾速2500mと仮定した場合、36億ジュールもの運動エネルギーになる。


 その威力自体は、戦艦大和の46cm砲の10倍ほど、TNT火薬換算で1トン分と言えば、その凄まじさが解るだろう。


 なにより、3000m/sもの弾速だと、100km離れていても、30秒弱で着弾する……必然的に回避行動に割ける時間もあまり長くは取れない……。

 

 エーテル空間での長距離砲撃時の命中率は電磁場干渉の影響で、さほど高くはないのが安心材料なのだけど。


 戦艦クラス相手に、全砲門斉射なんてやられたら、確率の問題で直撃の可能性が出てくる。

 

 そもそも、利根クラスの重巡洋艦でも至近弾で吹き飛ばされかねない。

 そうなってくると、現状取るべき手としては、反撃の上で相手の攻撃力を削ぎ落とすべきだった。

 

 ……このままでは長くは保たないのは明白だった。

 

「と、とにかく……回避行動を! 乱数回避……パターンD! 由良! なるべく、わたくしの影に隠れるようにしてっ! 回避運動同期ッ!」


「由良、了解です! 回避パターンDですね! 同期しますっ! はわわっ! だ、第二斉射っ! 来ますーっ!」


 第二どころか、第三、第四……次々と飛来する無数の砲弾群。


 レールガンは速射性も高い……正面火力は4門程度の砲門数ながら、一分あれば各砲10発位は余裕で撃てるだろう……つまり、一分間で40発もの砲弾が降り注ぐ計算になる。

 

 それも一発一発が致命傷レベルの砲撃……もはや悪夢だった。


 先の一撃は観測射……これはもう間違いなく効力射……相手は本気なのだと伺えた。

 

 利根の艦首の200mほど前に至近弾が炸裂し……エーテルと反応を起こしたのか、巨大な爆炎が立ち上り、溶解した砲弾の破片とプラズマ化したエーテルが津波のように利根へと襲いかかる!

 

 それは艦橋部の装甲にも当たり、ゴツゴツと嫌な音を立てる。


 けれども、利根は元々日本の重巡でも最大級の装甲を誇る……機関部や弾薬庫周りは170mmに達しており、実はアメリカ軍の重巡洋艦の決定版と言われたボルチモア級よりも部分的には重装甲なのだ。


 更に、今の利根は最新の複合装甲素材の上に、重層ナノマシンコーティングが施されている為、その防御力はもはや戦艦並みだった。


 けれども、砲塔部装甲は、英米系と違い25mm程度と無いに等しい程度の装甲しか施されていないのが実情だった。

 甲板部装甲も35mm程度と貧弱だった。


 これ自体は、日本の重巡特有の設計思想で、どの艦も共通したものだったのだが……。

 これはこれで、軽量の為、砲塔の旋回速度も早く重心が下がるなどメリットも大きく……利根も敢えて、砲塔を重装甲で固めたりせず、オリジナル同様の軽装甲で満足していたのだ。

 

 けれども、そんな紙装甲……戦艦相手の砲戦だと至近弾でも怪しい。

 案の定、4番砲塔の装甲が弾片に貫通され、被害が出ていた。


 利根のレールガンなら、すでに敵艦は射程内……攻撃力を喪失する前に一刻も早く撃ち返すべき状況なのだけど……。


 相手がインセクターではないと解っている以上、どうしても撃ち返すことに躊躇いを覚える。


 砲弾の迎撃もやって出来なくもないのだけれども……砲弾を迎撃するために発砲すると、その時点で射撃点が特定されさらなる高精度の猛追が待っている……そうなると、必然的に撃ち負ける。

 

 ……とにかく、ここは回避に徹するしか無かった。

余談:

大和砲の威力がTNT換算だと100kg分相当と言うのは弱いという意見がありそうですが。

爆薬の場合、四方八方に威力が広がりますけど、徹甲弾の弾着だと運動エネルギーも一点集中となるので、億単位のジュール数の時点でとんでもない破壊力だったりします。


レナの38cmレールガンとか、まともに喰らえば、マクロスだって危ういレベル……。


ちなみに、9mmパラベラム弾の運動エネルギーは500J程度で、バレットクラスの対物ライフルで10000Jくらいと言えば、比較になるのかなー。

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