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第三話「Knights of Britannia」②

「そうですわね。さすがに、私も志半ばで倒れる訳には参りませんから、引き続きよしなにでございます」


 唐突に割り込んできたその聞きなれない声にレナも首を傾げて、戸惑いの表情を見せる。

 「……誰?」と言わんばかりのその様子は、彼女の困惑を的確に物語っていた。

 

 けれど、その声の主がグローリアスからの中継モニターに映ると、誰もが凍りついた。

 

 一見、背の低い王立宇宙軍ロイヤルフォースの士官のように見えるのだけど、その豪奢なブロンドと、凛とした蒼い目、それは……彼女達王立宇宙軍所属の者達にとっては、見間違えようのない人物だった。

 

 ……ブリタニア合衆連合王国の宗主。

 1000年以上もの長き間、連綿とその血を繋ぎ、権威的にはブリタニアの最高権力者たる大統領より格上の存在。

  

 この宇宙時代においても、その権威に匹敵する者は、日本の天皇家の末裔にして、桜蘭帝国の元首たるみかど華雅ノ宮かがのみや陛下のみと言われていた。

 

 齢13歳にして、前王ロードエドワード19世の崩御に伴い至高の王冠を抱くに至った……。

 ブリタニア宇宙艦隊の一翼を担う、王立宇宙軍所属艦艇にとっては、至高の忠節を捧ぐべき存在。

 

 それが彼女……クイーン・オブ・ブリタニア、ルクシオン女王陛下その人だった。

 

 そして……その通信は、グローリアスからの発信となっていた。

 そのことが何を意味するのか気づいたらしく、レナは凄まじい速さでその場に跪く。

 

「へ、陛下……その……ご、ご機嫌麗しゅうございます……あわわわわ、あたくしったら、これまでなんて無礼な」

 

 ……内心の動揺を隠せずに、彼女の額や頬をダラダラと汗が伝う。


(なんてっ! なんてっ! なんてことなのかしらーっ!)


 内心で絶叫するレナ……戦場で先陣を切って、突っ込む時よりも、緊張を強いられる……それが本音だった。

 

「……皆も、ご挨拶が遅れてごめんなさい……どうぞ、楽にしてくださいな」


 ……彼女の言葉に、もはや誰も返す言葉を失っていた。

 楽にしろと言われても、跪いたまま身体が固まってしまい言うことを聞かないようだった。

 

「Yes,your highness! お、恐れ多いながら、ご質問よろしいですか?」


 そんな中、レパルスが震える声を絞るように、答える。

 

「あ、はい……なんでしょうか?」


「……なんで、グローリアスに陛下がいるんですかぁっ! ここは最前線どころか、敵中真っ只中です! 無茶にも程がありますっ!」


 もはや、敬語すらも忘れたレパルスが血相を変えて、半ば怒鳴るように言葉を並べる。


「そ、そうですわっ! あたくし達がどれ程、危険な任務に臨んでいるか! グローリアス、貴女は解っていたのではなくて? 貴女っ! 一体何を考えているのでっ!」


 ……レナも完全に、普段のその冷静さを忘れているかのようだった。


「わ、私のせいなんですかっ! そ、そりゃあ……貴女方が付いてきたのは予定外でしたけど……。これも全て陛下のご命令でして……。今の今まで、黙っていたのは、陛下のご要望に沿ったまでですからね! 私、悪くありませーんっ!」


 吊し上げを食らう形になったグローリアスが、両手を交差するジェスチャーを交えつつ、無罪アピールをする。


 一応、事情を知っていたアカスタとアーデントも、藪蛇はごめんとばかりに、ささっと下を向く。


「そうです……グローリアスは悪くありませんよ。強いて言えば、私のわがままです。……私、元々桜蘭帝国には興味ありましたから、一度行ってみたかったのですよ」


 そう言いながら、胸を張る女王陛下。


「そ、そんな理由で……陛下、御身はブリタニアの至宝とも言える方……そのような軽はずみな真似を……」


 レナがそう言うのも当然……あまりにも軽率だった。

 

 レナ達、戦乙女は一種の強化サイボーグのようなもので、生身の人間と比較にならない程に頑丈で、乗艦が撃沈されてもしれっと生還する程度には、高い生存性を誇っていた。

 

 それに引き換え、生身の人間はあまりに脆弱な上に、エーテル空間の過酷さは誰もが知る所。

 

 それ故に、彼女達エーテル空間戦闘艦はほとんど初めから、無人でのスタンドアロン運用が大前提となっていた。


 装備類の研究開発や作戦プランなどの立案も、彼女達自身が行っているほどに、それは徹底されている。


 この点については、ブリタニアと桜蘭帝国とで大きく運用が異なる点なのだが……。

 元々ブリタニアはその活動領域も広く、敵対関係にあるウラル連邦や、シュバルツハーケン連合との紛争においての人員損耗に嫌気が差し、無人艦艇や戦闘兵器群を主戦力としていたと言う事情もある。


 要は、人間は戦場に出ず後方でバックアップに徹すると言うのが彼らにとっては、常識だったのだ。


 そう言った理由もあって、彼女達も同じような感覚でスタンドアロン運用し、好きなようにやらせた結果……各々が好き勝手に目的を持って、集団化して艦隊を作ったりと、割と手に負えない状況になりつつあった。

  

 いずれにせよ、エーテル空間の戦場に、人間が出てくるのは死にに来るようなもの……。

 それが彼女達にとっての共通認識だった。


「……そうですね、レナ殿。貴女方はブリタニアの事実上のトップ……ゲーニッツ大統領が色々悪巧みをしているのはご存知でしょうか?」


 一瞬の沈黙の後、ルクシオンは苦笑しながら、そんな風に切り出した。


「は、初耳ですが……具体的にどのような?」


「大統領……つまり、ブリタニアの最高政府関係者側では、王室排斥の動きがありますの。父上の死も自然死とは言い難いとは思いませんでしたか? 表向きには病死と発表されていましたが……。王立情報局第三課からの報告によると、大統領直属の特務機関ブラック・ウィドウによる暗殺だとの結論が出ました。その事実を公表しようとした矢先に、ロイヤルガーデンでの同時多発テロ……これは貴女方も知るところだと思います」


 ……幸いルクシオン自身は、グローリアスでの前線視察の最中だったため、難を逃れたのだが。

 テロの対象に王立情報局や宮殿も含まれており、王室関係者を対象としたテロなのは間違いなく……。

 

 ブリタニアは、事実上の内戦と言える状況に突入しつつあった。


「色々、本国がきな臭いと言う噂は、あたくし達も知ってますけど……それほどとは……」

 

 実際問題レナ達には、そこまでの情報は伝わっておらず……それは間違いなく意図的なものだと推測された。


 何より、先代国王暗殺の件はレナ達にとっては、初耳だった……。


「正直、主星ロイヤル・ガーデンですら、安全地帯とは言い難かったのです……。なにぶん私もブリタニア女王として、即位させられたものの有力な後ろ盾もなく、信頼出来る味方と言えば、グローリアス達のような王立近衛艦隊の者達のみ……いえ、むしろ、それが問題になってしまっているのですけれど」


 今や、対インセクター戦の中核戦力とまでなっている彼女達、戦乙女達。

 現在、ブリタニアのエーテル空間戦力は、アメリカ系と英国系と艦艇群に別れているのだが……。


 後者の者達は、本来ブリタニアの象徴的存在だった王室に対して、絶大なる忠誠を誓っており、ブリタニアの軍部や政府の命令を軽んじる傾向があった。

 

 実際問題、各種作戦も基本的に女王陛下を経由して……そんな形式になっており、当然ながら、女王陛下の発言力や影響力も増大し……ブリタニアの首脳部にとっては、お飾りだったはずの存在の顔色を常に伺うような状況となっていたのだ。


「そう……私達は、女王陛下の一声で動く……それは、ある意味当然のことなんですけど。それはつまり、女王陛下が私達と言う強大な武力を従えていることにもなりますからね……」


 それまで、押し黙っていたグローリアスが口を開く。

 その考えには、レナも同意出来た。


「確かにそうですね……。ついこないだも、セカンドコリドールへの侵攻計画が、女王陛下の反対で立ち消えになったばかりだったわよね……」


 ……桜蘭帝国からもたらされた情報のひとつに、セカンドコリドールの存在もあり、ブリタニアも当然侵攻計画を立案したのだが……。

 

 こんな大義もないあからさまな侵略戦争に、誰もが眉をひそめ、それでも悪化した戦況の打破にはやむを得ないということで、侵攻計画が練られたのだが。

 

 即位したばかりの女王陛下の強い反対。


 それが王立宇宙艦隊に伝染し、それは最終的に戦乙女達の総意として、ブリタニア政府に叩きつけられることになり、結果的にブリタニアによるセカンド進出計画はものの見事に頓挫したのだった。

 

 それは、間違いなく正しい事だったのだが……。


 即位したてで、政府の決めた方針に真っ向から異を唱えたのは、さすがに不味かったのだろう……その事はレナにも容易に想像できてしまった。


 比類なき権限があるのだけれども、その権力は決して使われることがない。


 それがブリタニア歴代の国王達の暗黙の了解だったのだけれども。

 彼女は、それを平然と破った……それもまた事実だった。

 

 ルクシオンは、女王命令と言うブリタニアの最高権力者として、手渡されていたカードを使ってみせただけの話だったのだが。


 それは、本来使ってはならない切り札……。


 かくして、ルクシオンと言う若き女王は、独裁者にすらなりかねないとして、ブリタニアの政府側からは、危険視され……出された結論は、その身柄の拘束と権限の凍結。


 抵抗されるならば、排除も辞さないと言う冷徹な結論だった。


 彼女ももう少し慎重に行動していれば、ここまで危険視されることも無かっただろうと、そうレナも思うのだけれども。

 

 彼女は若いのだ……この世に正義があると信じて疑っていなかった。


 それは、本来好ましいものなのだけれども……。

 権謀術数渦巻く政治の世界では、正義なんてものは通じない。


 それが常……やりきれない話……だった。

おかしい点が残ってる気がするので、後から訂正入るかも……。

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