再び始まる悪夢
戻ったはずの平和な日常。それはまた、唐突に打ち破られることになってしまった!
「あっしたー!! またご利用下さい!」
脱帽しながら、轟火が大きな声で挨拶をする。
額に汗を浮かばせながら、次の仕事場へ急ぐ。何せこの時期、少しは減ってきたとはいえ、仕事はひたすら多い。
新年度である。生活がバタバタする時期である。そして、学都としても有名なこの仙台市、全国から大学生達が集まってきたりする。だから、轟火は忙しい。
「さて、次の荷物はどこに降ろすんだっけ?」
トラックに乗って、次の現場へ。トラックにはデカデカと『引越しの宗さん』と書かれていた。
そう、彼の普段の仕事は、引越屋なのだ!
「よ~し、ここも終わりっと!」
一通り荷物を運び終え、車に戻る。次々こなしていかなければ、仕事はいつまで経っても終わる物ではない。
“スピーディに、且つ丁寧に”
このモットーが彼の人気を支えている。
次の行き先を確認して、ふと顔を上げると、住宅地の中で一軒だけ、浮いた家があるのに気付いた。いわゆるゴミ屋敷だ。
嫌だなぁ、と思うより先に、あの屋敷にある物、トラック何台分なのかなぁ……と思うのはきっと職業病だろうなと苦笑いをする轟火。しかし今日はそれに構っている余裕はない。
キーを差し込み、エンジンを掛ける。
キィキィキィ……ブルゥン!
独特の振動とエンジン音が全身を包む。ハンドルを握りしめ、アクセルを……
ドガァァァァァァァァァン!!!
大爆発が起こる!
「な、何だ!?」
轟火は車から飛び降りて、辺りを見回す!爆発があったのは……さっき見たゴミ屋敷!
辺りには屋敷中のゴミが吹き飛び、いたるところで残骸がめらめらと燃えている。周囲からは悲鳴やサイレンの音が聞こえ始める。
「一体……何が……」
突然の惨事に轟火は、呆然と立ち尽くすしか出来なかった……
ここはオペレーティングルーム。長官とオペ子、それに対峙する形で五人が並んで立っている。
「今回のこの事件、例のカリメアの仕業と見て間違いあるまい」
長官が五人に向かって断言した。
「今回も、前回のような怪人が関わっているのでしょうか?」
光月が口を開く。長官の言葉を予測していたのだろう、もう次の事を考えての質問だ。
その質問に、長官は頷きながら答える。
「うむ、恐らくな。しかし今回も分からないのは目的だ。ゴミ屋敷を狙ってどうするつもりなのか……私にも見当がつかん」
「そうですね。ゴミ屋敷を吹き飛ばして何の利点が……」
「取りあえず混乱は招いたわね……あっ! カリメアもあのゴミ屋敷の散らけ具合が許せなかったとかぁ?」
「ソノタメニアンナ大規模ナ爆破事件ヲ起コストハ考エラレナイダロウ……」
色々案を出してはみたものの、それらしいものは出てこない。
「とにかく、だ。各自、警戒を怠らないように! どんな些細な事でもいい、何か妙な事に気付いたらすぐ本部に連絡するように。頼んだぞ!」
「「了解!!」」
「でもなぁ……」
廊下で轟火は一人呟く。
何度もあの現場の事を思い出していたのだが、妙な事などは何も無かったのだ。至って普通の住宅地で、何か騒ぎがあった訳でも、怪しい人物がいた訳でもない。そう、爆発は突然起こったのだ。
それをどう警戒したらいいのだろうか?一人で悶々と考えてみても、答えは出そうもない。
そもそも敵の目的がわからない以上、先手を打つことができない。
その間にも増えるであろう被害を思い、轟火は苛立ちを募らせていく。
ぶつぶつ独り言を言いながら考え込んでいる轟火の肩を、後ろを歩いていたマキシムがポンと叩き声を掛けた。
「ドウシタ、轟火? 何カ変ダゾ……?」
心配そうに轟火を見るマキシム。
「あ、いや、何でもないんだ」
何故か誤魔化してしまった。この男、マキシムがメンバーを厚く信頼し、とても優しくいつも気にかけている事を轟火はよく知っている。だから、心配してくれているのは分かるし嬉しいのだが、轟火自身が自分の中の、不確かで、説明するにもうまく言葉にまとめられない不安をどう話したらいいか分からなかった。
――もやもやしたまま相談しても、混乱させるだけだろう……
「さ、次の犯行を防ぐための手段と今回の事件のリサーチをするぞ!」
と、会話を切って別れる。残されたマキシムは、ただ心配そうに去っていく轟火の後ろ姿を見つめるしか出来なかった。
「フッ……フフフフ……素晴らしいぞ、この力……!」
トレンチコートを着た男は、喜びに打ち震えていた。
「この力さえあれば……もう、負けることなどない! この作戦、失敗するはずがない!」
後ろから、男が現れる。カリメアの幹部である男は、トレンチコートの男に話しかける。
「どうだ、新しい能力は?」
その声で初めてその存在に気付き、慌てて敬礼するトレンチコート。
「ディオナルド様! それはもう、素晴らしい力です! 力と共に頂いた名、『ネオ・ボムマウス』に恥じぬ、強大な力ですとも!」
幹部、ディオナルドと呼ばれた男は、そうか、と呟きながら頷く。
「その力で、今度こそ我等カリメアの悲願達成への第一歩を成し遂げるのだ!」
「ははっ! この素晴らしい力で必ずや、この作戦を成功させて見せましょう! この『第二次GarbageScatter作戦』を!」
トレンチコートは、声高らかにディオナルドへの忠誠の意と計画成功の自信を込め言い放った。
「よし。行け! ネオ・ボムマウス! お前の新しい能力で、ガドガイアーとか言う忌々しいカス共を蹴散らしてこい!」
「ははっ!!」
恭しく一礼して、空間を歪ませ消えていくネオ・ボムマウス。残されたディオナルドは、一人呟く。
「勝って貰わねば困るのだ……」
死んだかに思われたボムマウスが生きていた!?