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環境戦隊ガドガイアー  作者: 黒井羊太
第四話「断固粉砕! 怒れる光月の戦う理由!」
32/33

戦い終わって……

「先生!」「先生!」「グリーン!」

 戦いが決着して、ブルーを先頭に皆が駆け寄る。

「やあ、勝ちましたかね?」

 いつもの口調でグリーンが答える。その様子にブルーはほっとした。

「えぇ、やりましたとも! 凄い戦いでした……」

 グリーンに肩を貸しながら、ブルーはグリーンの視線を紅虎の方へ向ける。紅虎は仰向けに倒れたまま動かない。

「良かった……さすがに負けるかと思いましたよ。敵ながら凄まじい武の持ち主でした……」

「ククク、貴様も大概だ。この化け物め」

 突如聞こえる、紅虎の声。グリーンを除く全員が身構えるが、紅虎は身動き一つ取らない。

「最後のあの技……確か中国武術の『虎撲(こぼく)』と言ったか。虎を撲つ、まさにこの勝負を決するに相応しい技だったな」

「……偶然ですよ」

「最後の瞬間、貴様の膝が崩れたあの瞬間、勝ったと思ったんだがなぁ……」

「最後の瞬間、あなたの動きが鈍くならなければ、負けていたでしょう」

「何だ、バレていたのか」

「当たり前です」

 まるで、長年の友の会話のように、グリーンと紅虎は静かに、和やかに話す。不思議な空間だった。

 やがて、紅虎が大きく息を吐いて呟いた。

「さて、俺はもう動けん。トドメを刺せ」

 グリーンは紅虎を見つめ、そして首を振った。

「いやです。トドメは刺しません」

「先生!?」

 ブルーは驚いた。悪の組織、カリメアの怪人にトドメを刺さない!?そんな事があるだろうか。

 しかしグリーンは構わず、悪戯っぽい話し方で言葉を続けた。

「私の弟子になりなさい。あなたの性根、全部叩き直してやりますよ。そして正しく力を使いなさい」

「ハッ……ハハハ! 何だってそんな事をしなけりゃならない!?」

 紅虎の至極当然の問い。そしてグリーンは、これまた至極当然、といった口調で答えた。

「『弱き者は強き者に従うのが絶対論理!』とあなたは仰ったじゃないですか? 強き者、つまり私に、弱き者、つまりあなたは従いなさい」

 あたりがシン、と静寂になる。そして、紅虎が吹き出す。

「ウワッハッハッハ! そうきたか! この俺が弱き者か! ハハハ、それじゃあ従わなきゃならんな! ワハハハ! ゴホッゴホッ!」

 ひとしきり笑って、咳き込む。

「……そうしてやりたいのはやまやまだが、俺の体はもう活動限界を遙かに超えて消滅するだろう。強者にトドメを刺されないのは口惜しいが、このまま静かに消えていくさ」

 静かな呟き。言葉の中にあるのは、満足感だけだ。

 紅虎の体の紅色が、徐々に黒ずみ始める。そして毛先からボロボロと崩れ落ちていく。

「紅虎……」

「これが無闇に力を追い求めた愚か者の末路さ。海といったか、よく見ておくがいい」

 ブルーは静かに紅虎を眺めていた。その双眸に浮かぶ感情は、憎しみでも恨みでも、哀れみですらない。何かを学び取りたい、その必死さだった。

 紅虎の死を見届けるだけの静かな空間に、突如不気味な声が響き渡る!

「そうはいかない。紅虎。お前にはもう一働きしてもらわねばな……!」

 聞き覚えのない声。ガドガイアー全員が辺りを見回すが、誰かが居る気配はない。

 一人、紅虎だけが、目を見開き、怒りを露わにする。

「貴様! ディオナルドか!」

「フフフ、ご名答。さあ、我がカリメアの為に巨大化して戦っておくれ!」

「やはり貴様……っ! しかしそうはいくものか!」

 紅虎は動かない体に鞭打ち、右の拳で己の胸を突く!ブシュッと鮮血が吹き出す!紅虎が苦痛に呻き声を上げながら、右手で何かを探し出す。

 その様子に、オレンジが小さく悲鳴を上げる。他の誰もが、その凄惨な様子に声すら上げる事もできない。

「……! これか!」

 ブチリ、と音がして、右手を引きずり出す。握られていたのは、小さな装置。

「紅虎! 貴様、強制生物巨大化装置を!」

「ふん、やはりこんな下らない物を仕込んでいやがったか。誰があんな理性のない醜い化け物になどなってやるかよ。

 おおよそ俺の体の時間制限だって、お前が嫌がらせで設けた物なんだろう?」

「……貴様の武力、我がカリメアに向けられてはたまらないからな。

 しかし貴様はやはり失敗作だったよ。そのまま敵に死に様を晒して消えろ」

 不機嫌そうに呟いて、謎の声の気配は消えた。

「紅虎!」

 グリーンが声を掛ける。紅虎は笑う。

「ハハ、敵がどうなろうと、構うなよ。

 今の小物は、ディオナルド。我がカリメアの幹部だ。聞いての通りの小物だが、頭が切れる。厄介な敵になるぞ」

 グリーンは驚いた。まさか紅虎が、カリメアの情報を提供するような事をするなど、思いもしなかったからだ。

「紅虎……何故それを?」

「気まぐれさ。奴には恨みもあるしな。奴は……いや、あまり言うまい。

 だがな、我がカリメアの歩みは何人たりとも邪魔はさせん。我らの歩み、貴様らなどにはな」

 強い意志。この紅虎をしてそこまで言わしめるカリメアとは果たして何なのだろうか?

 ガドガイアーのそんな疑問を余所に、紅虎は言葉を続けた。

「最後にケチがついたな。しかしこれで終わりだ。

 最期に、光月。最高の戦いだった。お前と戦えて良かったよ。さらば」

 言い終わるやいなや、紅虎の体は一気に黒く染まり、そして崩れ落ちた。一陣の風に乗せられて、紅虎だった粉が舞い上がった。

「紅虎……」

 グリーンは複雑な思いでそれを見送り、そしてぐらりと倒れた。


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