光月の心に残るもの
倒れた光月がみたものは
気がついたら、見知らぬ天井があった。
「こ……ここは……?」
白い部屋。白いベッド。白いカーテン。光月の見覚えのない景色だ。
私は確か、隼人君と話している最中倒れて……
気絶している間に運ばれてきたのだろう。しかしこんな場所、基地にあっただろうか?宇宙にある基地だというのに、窓があって、カーテンが風でそよぐのだろうか?
「気がついた?」
女性の声がする。ガバッと起き上がると、ベッドの脇に……有り得ない女性がいた。
「!! 君は!?」
「もう何時間も寝てるわよ。十分休めた?」
「起きた! 起きた起きた!」
無邪気な声がして、女性の脇からひょっこり少女が顔を出して覗き込んでくる。その姿に光月は更に驚く。
「 !?」
声にならない叫び。この子は……
動揺する光月に、女性は構わず言葉を投げかける。
「みんな、貴方の代わりに頑張るんだって、張り切ってパトロールに行ったわよ? 貴方はいいの?」
「いいの~?」
少女は女性の言葉を楽しげに繰り返す。あぁ、この景色は……私の求めていた景色だ。
「さて。目も覚めたみたいだし、そろそろ行くわね。」
言って女性は立ち上がり、扉に向かって歩き始める。少女はきゃっきゃと部屋中駆け回りながら女性についていく。
「待ってくれ!!」
光月は叫ぶが、体は少しも動かない。女性はやがて隣に来た少女の手をとり、扉の外に立つ。
「まだよ、あなたがこっちに来るのは。やるべき事があるのでしょう?」
ほら、バイバ~イといいながら少女の手を掴んで振る。
もう少し待ってくれ。話したい事があるんだ。抱きしめてあげたいんだ。例えこれが、夢でも、幻でも。
「どんなになっても、貴方は立派な人よ。誰かを守るって、とても大変な事。それが出来る貴方は、私の誇りよ。忘れないで」
にっこりと笑って、手を振りながら扉を閉めていく。
「頑張って、あなた」
扉は、閉まる。
「 !!! !!!」
光月は、力の限り妻と娘の名前を叫んだ。
目が覚めると、見知った天井があった。基地の病室だ。
私は、泣いていた。とても悲しかったのだと思う。
それと同じくらい、嬉しかった。死んだ家族に、こんな形でも会えた。今まで一度も、夢にすら出てこなかった家族に。
「気がつきました?」
女性の声がする。ガバッと起き上がると、ベッドの脇にオペ子が座っていた。
「オペ子さん……」
「大丈夫ですか? 体の方は」
読んでいた本をパタンと閉じ、光月のほうに座りなおしてオペ子が問う。
「体……あいたた、まだ痛むみたいですね」
感情の昂りで気づかなかった痛みが一度に襲い掛かり、光月は顔を歪めた。
「もう少し休んでいてください。今は他のメンバーが町の警戒に当たっています」
言って、光月に横になるよう促す。体が痛む光月は、おとなしくそれに従う。
「では、何かあれば呼んでください」
退室しようとするオペ子に光月が呼びかける。
「あ、ちょっと待ってください」
「はい?」
「私はどれくらい寝てましたか?」
「えぇと……10時間ほどでしょうか。まだ完全な休息が取れたわけではないので、しっかり休んでください」
では、と言い残し、オペ子は退室していった。
10時間……あれだけの大怪我を負ったんだ、これぐらいの痛みはあって当然だ。しかし、それ以上に今は気力が充実している。
動ける。行かねば。奴が来る。守らねば。皆を。
やらねばならぬ、今はその時。




