敗戦、それぞれの思惑!
激しい戦い。それは実に多くの物を傷つけていった。
チッと舌打ちをする。実に面白い事があっただけに、実に面白くない。
「まずまずの成果だったようだな、紅虎」
声がして、振り返るとそこにはカリメアの幹部、ディオナルドがいた。面白くない気分が一気に増す。
「あんたか……まぁな。対カリメアの特殊部隊とか言っていたが、なんの手応えも無かったぞ。一応作戦だから潰しておいたがな」
「ご苦労。……随分ご不満のようだな」
「当然だ。最後にあんなに面白そうな奴らと出会えたのに、途中で帰ってこなければならなかったんだ。この出来損ないの体が恨めしい……」
それに帰ってきた途端てめえの面を見たんでな、という言葉は流石に飲んだ。言ったところで何も得る物はあるまい。
紅虎の言葉に、フフンと鼻で笑うディオナルド。芝居がかった仕草に、いちいち腹が立つ。
「仕方あるまいよ。我々の技術とて完全な物ではない。寧ろお前のその強靱な肉体が維持できている事に驚異を感じるがな。通常ならとっくの昔にバラバラにはじけ飛んでいる。それを精神力で押さえ込むとは……」
「しかし活動時間に制限があるなぞ、武闘家としては致命傷だ」
「堪えてくれ。いわば強さの代償のような物だ。しかたないのさ」
「ふん……だといいがな……」
言って紅虎は奥へと去っていく。ディオナルドはその場に留まり、その姿が見えなくなった途端、笑みを浮かべる。邪悪な笑みだ。
「ククク……」
光月達はあの後、二人で救急車を呼び、その場にいた全員の救助に当たった。軽傷者から重傷者までいたものの、幸い死者は無かった。が、カリメアの、いや紅虎の残していった傷跡は余りにも大きかった。
「……そうですか……残念です。今後、別な場所でも貴方が活躍できる事を祈ってますよ」
光月は溜息混じりに電話を切る。これで何人目だろうか?身体的に問題が残り、HIDEとして活動が出来なくなってしまった者、意志を折られ、立ち直る事の出来なかった者、恐怖を植え付けられ、社会的生活すらままならなくなった者。施設自体だってズタズタにされ、しばらくは指導すら出来そうもない。
「……クソッ!」
歯噛みして、思わず声が漏れる。隼人の体は悔しさから来る怒りに満ちていた。どこにぶつけようもない。
「まあまあ、そんなに怒らないで。皆無事だったんだから、それで良しとしましょう」
そんな隼人を見て、光月が宥める。が、それは逆効果になってしまう。カッと目を見開き、隼人は叫ぶ。
「先生! あんな事があったのにそんな事思える訳ないでしょう!? 何とも無いんですか!? 皆があんな風に傷ついてて!」
言ってから、隼人は自分の失言に気づく。自分よりも、手塩に掛けて育てた部隊が一瞬で壊滅した、光月の悔しさの方がずっと上に決まっている。何とも思わない訳がない。
「すいません……俺……」
「いいんですよ。怒りは判断を狂わせます。海君も、きちんとコントロールできるようにならねばね」
いつも通りの口調、表情。隼人はほっとした。これが平常心という奴なのだろう。誰かが平常心を保つ事で周囲も落ち着く事が出来る。冷静な判断を下す事が出来る。改めて、このガドガイアーにとって光月という男は非常に重要なんだと思い知った。
「さて……紅虎とか言いましたか。彼は時間だと言って去りました。何の時間なんでしょうか?」
「……? あぁ、確かに言っていましたね。……今回の計画は恐らく新設部隊の壊滅。それを一定の時間内にこなさなければならない理由があった?」
「さて。部隊壊滅以外には特に目立った被害はなさそうです。恐らく、あちらの都合でしょう。例えば、一定時間しか戦っていられない、とか。」
「そんな事が……?」
「分かりません。とにかく情報が無さ過ぎます。楽観視するのは危険でしょう。一方で新設部隊の情報はあちらに漏れている。……彼らの強さのみならず、情報力も侮れない、と言う事でしょう」
改めて相手の未知数さを目の当たりにし、二人は言葉を無くす。こちらは相手の事を全く知らないのだ。その一方でこちらの事は筒抜けなのだ。これでは常に後手に回らざるを得ない。
敵は一体なんなのか?いつ、どこで、何を仕掛けてくるのか?どれほどの規模なのか?そして、一体どんな目的なのか?カリメアという組織の名前以外には、分からない事だらけである。
「さて」
光月は立ち上がり、そしてよろめいた。
「先生!?」
駆け寄る隼人を片手で制し、大丈夫と笑ってみせる。
「次はどこが襲われるか分かりません……私たちが……町を……守らね……ば……」
ぐらりと光月の体が傾く。
ドサッ……
「先生? 先生ーーー!!」
倒れる光月に駆け寄る隼人。その絶叫は光月には届いていなかった。
光月が倒れてしまった!?
 




