新たな怪人との戦い!
怪人との熱き戦いが始まる!
ダン!!
虎男の左足が床を叩く!右足を少し後ろに下げ、自然な半身の構えを取った。
その様子から見ても、この怪人はただ者ではない。光月も沸き立つ怒りを堪えながらも身構える。
「……瞬時に怒りを殺したか。どうやらお前は少しは出来るようだな」
「貴方のような方に褒められても嬉しい事はないですね」
冷たく返す光月。
……大分冷静になってきた。この男の構えは尋常ではない。次に繰り出してくるであろう攻撃は、光月がこれまで体験したどの攻撃より鋭いものになるはずだ。
集中しろ、集中しなければやられる。見極めるんだ、こいつの強さを。
自分に言い聞かせながら、ギッと虎男を睨みつけ、一瞬たりとも気を抜かない。
「……行くぞ!!」
言って虎男は右の突きを繰り出す!
ピッ!
重たい音ではなく、空気を裂く軽い音だけが光月の耳に届く。予想よりも早い!
「くっ!?」
左に体を裁き、右手で何とか受け流そうとするも、あまりの早さ、威力に、短い悲鳴を上げながらバランスを崩してしまう。
ダンッ!
虎男の踏み込む音。ようやく虎男の突きが伸びきった、と思いきや
「ハァッ!」
掛け声と共にそのまま背中を向け光月目がけて突き出す!背中での体当たり、この技はっ!
(鉄山靠!?)
内心で驚きつつ、いち早く虎男の背中に両手を当て、勢いを殺しながら後ろへ思い切り飛ぶ!
フワリ、と光月の体が遙か後方へ飛び、虎男との距離が出来る。
「ほう、中国拳法で言う所の化剄 (相手の技を受け流す技)か。面白い芸を持っているな」
ゆっくりと振り返って、虎男が嬉しそうに言う。対する光月には余裕はない。
「……ただの力自慢ではなさそうですね……随分と拳法に精通している……」
呟くような光月の声。正直、驚きを隠せなかった。前回のストロングブルは単純に凄まじい力であった。この虎男はブルほどではないにしろ、常人を遙かに上回る程の膂力。それに加えて拳法を使うとは……!
虎男はその言葉に、グッと拳を握りしめながら応える。
「当然だ。私の求める強さとは、単純な力などではない。相手を合理的に、効率的に破壊する能力だ。その為に、幾つもの拳法を身につけた」
こうして話している間にも、虎男の殺気は絶えず光月の全身に叩きつけられている。周囲に転がっている屈強なはずの男達程度ならあっという間に飲まれてしまう程の強い気。光月とて一瞬でも気を抜いたら危険だ。
「そんな強さ……虚しくはないのですか?」
今は少しでも心を落ち着ける間が欲しい。些細な質問でも何でもぶつけて、相手の気を逸らさなければ……!
虎男は、眉を一度ピクリと動かしたが、しかしすぐに話し出した。
「虚しいな。これほど強くなると、本気で戦える相手を見つけるのに苦労する。仮に見つけたとしても、喜びの余りすぐに虐殺してしまう。誰も俺の強さの証明には役に立たないのだ」
ふう、と溜息を吐く。そして改めて光月を睨みつけ、
「しかしだ」
嬉しそうな|(虎の顔なので正確な所は分からないが)顔をする。心底嬉しそうな。それは余りにも邪悪な笑顔だ。
「稀にだが、お前のような奴と出会えたりする。それが溜まらなく嬉しいんだよ!」
今まで以上に殺気を放ってくる!心なしかその巨躯が更に大きくなったようにも見える!?
「さぁ! 少しは休めたか!? たっぷり殺し合おうぞ!!」
!やはりこちらの意図は読まれていたか!
否応なく構えさせられる光月!
ダンッ!
凄まじい衝撃、音。虎男が踏み込み、飛んでくる。
「がぁぁぁぁぁぁ!!!」
「くっ!?」
初手を躱すも、次々と拳を繰り出してくる虎男!それを捌く光月!
――後手に回りすぎている!このままでは……!
焦る気持ちが、動きを粗くする。じわじわと捌ききれなくなり、光月の体勢が崩されていく。
「それそれ、どうした!? 貴様はそんな程度ではないだろう!?」
虎男の言葉をきっかけに、光月が攻勢を掛ける!
「ならば!」
虎男の拳を躱し、ショートレンジの位置に潜り込む!そして
「憤っ!!」
ダンッ!!
強く踏み込みながらの、下から虎男の顔面への掌打!溜まらず虎男が顔を逸らす!
「破っ!」
虎男が顔を下げた事で逆に前へ突き出された鳩尾目がけて、本命の突きを放つ!
「おごぉお!?」
顔面への掌打に完全に意識を取られていた虎男、腹部への一撃は想定外であった。意識の外からの攻撃を食らい、思わずうめき声を上げる虎男!
――効いたか!?
光月は打った後すぐに距離を取る。虎男はフラフラと二、三歩後ずさり、そして止まる。
――くっ……有効打にはならなかったか……
内心舌打ちをする。これほどの相手だと、打ち込む機会というのはそう多くない。一度で終わらなければ、持久戦となる。そうなれば、基本的に攻め込まれ続ける光月が徐々に不利になっていくのは目に見えている。
と、不意に虎男が動く!?
「!?」
慌てて身構えようとするも、間に合わない!
「憤!!」
崩れた体勢から突きが繰り出される!
避け……られない!
光月はすうっと息を吸い三戦の構えを取り、剄を発する!
「破ぁ!!」
ボン!!
凡そ突きの音とは思えない音が鳴り、拳が光月の胸を捉える!
光月は三戦の構えのまま後方へ吹き飛ばされる!
ズザザザザザッ!
5mほどで、ようやく止まる。そこでがっくりと膝を付く。
沈黙。どちらも動かない。いや、動けないでいた。お互いの渾身の一撃をその身に受けたのだ、如何に武の達人とは言え、まともでいられない。
しばらくして、虎男が先に口を開く。
「……クク……ククク……ハーッハッハッハ!! 咄嗟に手が出てしまったが、そこで首里手とはな!! しかも大した内気功だ! 良く練り上げられている! お陰で…」
先ほど突きを繰り出した右手をプラプラとしてみせる。その指の何本かはあり得ない方向を向いている。
「この有様だ。無意拳|(意識せずに放つ拳)とは便利だが、功を伴わぬ故、脆い物だな。いや、また一つ勉強になった!」
快活に喋り続ける虎男。その様子は先ほどまで光月に対し殺気をぶつけていた人物とは思えない程爽やかである。
一方光月にはそんな余裕は無かった。
――今の一撃は不味すぎた!まさかあの状態からあんな突きを繰り出すとは……!?
発剄である程度は跳ね返せたものの、絶対的な力の前には微々たる物であった。今ここに五体満足でいられるのは運以外何物でもない。
「それにしても先ほどの攻撃は面白い一撃だったな。顔面への掌打、何なら眼球への攻撃すら想定していたな。
どんなに体を鍛えても、眼球は弱いもの。思わず怯んだ所に腹部への一撃か。
食らう側は顎を引いているから鳩尾は逆に突き出る。しかも意識は顔面のみで、まさか鳩尾へ攻撃が来るなんて考えていないから防御反応も無いのでもろに食らう。なかなか考えられた技だ」
打たれた腹をさすりながら、虎男は先ほどの光月の一撃を事細かに解説してみせる。
――次は通じない、という事ですか……
光月の内心の焦りを感じたのか、虎男はニタァァァッと今までにない邪悪な笑みを浮かべる。
「このような相手を確実に破壊する一撃、躊躇いなく繰り出せるという事は……お前も随分人間を打ちのめしてきたんだなぁ!?」
ぎくりとする。
「な、何を……」
「動揺しているな。図星か。くくく……」
光月は、言い返せなかった。
(確かに私には……)
「さて、そろそろ時間もない。実に惜しいがお前を始末しとかなきゃならん。死ね」
言うなり虎男は、構え、打つ。
光月は――
――しまった!?
動揺を引きずってしまい、反応が鈍る!
拳が迫った瞬間、思いもしない方向から衝撃が来る!
「ぐ!?」
光月は、真横に吹っ飛んだ。
光月はどうなったのか…!?




