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環境戦隊ガドガイアー  作者: 黒井羊太
第四話「断固粉砕! 怒れる光月の戦う理由!」
22/33

光月の何気ない日常!

 パンッ!と手を打つ音が、道場に響き渡る。

「はいっ! 今日の練習はここまで!」

「「ありがとうございましたー!!」」

 子供たちの元気な声が響き渡る。続いて、ドタドタ足音、きゃっきゃとはしゃぐ声が、道場に響き渡る。

 光月はそれを、満足そうに頷きながら見つめる。


 彼は、この中国武術道場の師範である。そして、週末にはこうして子供たちに武術を教え、また人としての心得を教えている。

 道場に通うようになってから、子供が礼儀正しくなった、人を思いやれるようになった、などの保護者の意見が出るのは、彼の人柄を反映してのことなのだろう。

 と、一人の子供が光月に駆け寄ってくる。

「ねーねー、先生!」

「ん? どうしました?」

 子供の呼びかけに、光月はしゃがんで、にっこり笑いながら返す。

「俺、先生みたいにすげー強くなりたい! そしたら、クラスの奴とかも皆俺の事馬鹿にしなくなるもん! もしいたら殴って言う事聞かせてやるんだ!」

 無邪気に笑う子供。しかし、光月の顔は険しくなる。

「それはいけません。私はそういう事の為に、武術を教えているのではないんですよ?」

 叱る訳ではなく、優しく諭す。子供はキョトンとして光月を見返す。

「何で? じゃあ何で強くなるの?」

 子供の純粋な質問。それは光月の胸を苦しめた。溢れ出しそうになる感情、それを何とかかんとか胸の奥に押し込めて、何もなかったように振る舞って答える。

「君が優しくなる為だよ」

 精一杯の答えだった。胸に去来する様々な思いを押し殺して、微笑んで答える。こどもはふーんと納得したのかしてないのか分からない、適当な相槌を打った後、親元へ走っていた。



「ふぅ……」

 小さく溜息をつきながら、自宅のアパートの階段を上がる。トントントン……という足音が、真っ暗な闇に吸い込まれて消えていく。

 ガチャリ。キィ……

「ただいま」

 返事はない。電気をつけて、遅い夕飯の準備をする。ただただ静かに、時間が過ぎていく。


 彼には家族がいた。それはそれは、幸せな家族だった。妻がいて、娘がいて、光月がいた。それ以上、望むものなどなかった。それだけで、完璧な世界がそこにあったからだ。

 しかし今はいない。いなくなってしまってから、随分長い時間が経ってしまった。そのせいで、いや、おかげというべきなのか、一人でも生きていけるほどになった。

 ただ時折、感傷という名の苦しみが彼を襲う。覚えていたい。思い出したくない。その葛藤が彼を苦しめる。


 光月は、今も思い出していた。苦痛とも、微笑ともとれる顔をしながら。

「いけないいけない。私の悪い癖だ」

 頭を振って少し溜息をついた後、止まっていた手をまた動かし始める。

『じゃあ何で強くなるの?』

 子供の言葉を思い出して、ぎくりとする。かつて光月は、同じ疑問を持った事がある。そして、間違った答えを導き出し、たくさんの人を傷つけた。それを思い出して、辛くなる。辛い思いをしても、時間は帰ってこない。だから、前を向く。そう、決めたんだ。



「やぁ、光月先生」

 ガドガイアー基地の廊下で、向こうから歩いてきた隼人が声を掛けてきた。

「こんにちは、海君」

 光月はニコリと笑って返す。

「……あれ? 先生、今日は休みじゃなかったっけ?」

 隼人は首を傾げながら疑問をぶつける。

 そう、ガドガイアー基地では、必ず誰かしら一人は残る決まりになっている。そして今日の担当は隼人であり、本来光月はここにいる必要がないのだ。

 隼人の疑問に、光月は笑いながら返す。

「色んな所で指導していますからね。たまには自分の修行もしたいのですが、落ち着いて出来る場所と言えばここしかないんですよ」

「あぁ、なるほど。そういえばまた新しく指導する場所が増えたとか……」

「えぇ。彼らの指導は、それはそれで面白いんですがね」

 はは、と小さく笑う。その様子を見て、隼人の表情も思わずほころぶ。

「先生、楽しそうだね」

「あれ? そう見えますか? これで結構大変なんですよ?」

 大袈裟に返事をしてみせる。そんな光月のおどけた様子に、隼人はプッと吹き出してしまう。

「先生は本当に根っからの指導者なんだなぁ。それでいて自分自身も強いし。尊敬するよ、本当」

「どうしたんですか? 急におだてて」

「おだててなんかないさ。俺ももっと頑張らなきゃね」

「ふふ、素直に受け取っておきましょう」

「おっと、邪魔しちゃいけないね。先生もほどほどに頑張ってね。でないと俺がちっとも追いつけないからさ」

「今度指導してあげましょうか? 付きっきりで。」

「そりゃさぞかし怖いんだろうね」

 冗談の応酬もそこそこに、二人は廊下を別々の方向に歩き出す。


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