マキシムの単独調査
やはり太白山が怪しい。マキシムは単身、太白山をパトロールすることにした!
週末、早速マキシムは太白山へと向かう。しかしいくら小さい山といっても、全体を一人で捜索するには広すぎる。加えて手掛かりが少なすぎる。轟火達を誘えば良かったのかも知れないが、如何せん不確かな情報だ。その為に全員をかり出すのは少し気が引けた。加えて、数少ない情報の内容は『太白山では見た事もない蝶々が飛んでいた』と言う事だけ。普段から通っているマキシムならどんな蝶々なら珍しいかがすぐに分かる。が、他のメンバーが分かるとは思えない。決して効率的ではないのだ。
気が滅入りそうだ。が、やるしかない。うん、と大きく一つ頷いて、マキシムは山に入っていった。
「流石ニ……疲レタナ……」
日も沈みかけ、一日中山中を歩き回ったマキシムは、道端の切り株の上に腰掛けた。足が痛い。一日中気を張って歩き続けたおかげで気も滅入っている。
収穫は、無かった。何一つ変わらない、いつもの山だった。
やはり手掛かりが少なすぎたのだろうか?どこから手をつけて良いのか分からない。だが、異変はある。
……自分の考え過ぎだったのだろうか?
そう思い始め、下山しようと腰を上げた瞬間、マキシムは見た。今まさに目の前で壊れたテレビを投げ捨てようとしているおじさん!!
「何ヲシテイル!!」
慌てて怒鳴る。その声に動じることなく、おじさんはせぇのでテレビを崖下に放ってしまった!
ガシャーーン!!
大きな音一つ、テレビが落下して、画面が割れた音だ。それから周りの草木を巻き込みながら転げ落ちていく音が聞こえる。徐々に小さくなって、やがて聞こえなくなった。
マキシムはおじさんに駆け寄る!明らかに不法投棄だ!逃がしてはいけない!
ガシッとおじさんの腕を掴んで、大声で問いかける。
「何ヲシテイルンダ!! 不法投棄ダゾ!?」
耳元で怒鳴られ、おじさんはようやくハッと気付く。それから少し、辺りを見回して、
「何か?」
とだけ呟いた。
マキシムは呆れて言葉を失ってしまった。テレビを崖に投げ込んで置いて、何か?とは何事だ。
「今アンタ、テレビヲココニ捨テタダロウ!? ソレガイケナイ事ナノガ分カラナイノカ!?」
「テレビ? ……一体何の事です? ……あれ、ここはどこですか?」
きょろきょろと辺りを見渡すおじさん。演技では無さそうだ。
「……一ツ、聞イテモイイデショウカ?」
マキシムには一つの疑問が浮かんでいた。いや、疑問と言うより、ほぼ確信だ。ただ確証がない。それが欲しいのだ。
「何?」
「アナタハ以前、太白山デ遭難シタ事ガアリマセンカ? ソレモ最近」
マキシムの言葉に、おじさんはビックリした様子だった。
「な、何であんた知ってるんだ? そんな事……」
やはりそうだ。今マキシムの心の中で確信が生まれた。『太白山で行方不明になった人は異常行動を起こすようになっている』!!そしてそれは恐らくカリメアの仕業だ!!
「ソノ時ノ様子ヲ詳シク教エテ欲シイ! 蝶々ヲ見ナカッタカ!?」
おじさんの両肩をがっしと掴み、揺さぶりながら問いかけるマキシム。ガクンガクンと頭を揺らしながらも、おじさんは答えた。
「みみみ、見た! 見ました! だから殺さないで!!」
おじさんの怯えた声に、マキシムはハッとする。今、多分自分は凄い顔をしている。それこそ、おじさんが殺されると怯える程に。それじゃいけない、と頭を振り、気を取り直して言葉を続けた。
「スマナイ……脅カスツモリデハナカッタンダ……タダ、聞カセテ欲シインデス。ドノ辺リで見カケマシタカ?」
ガサガサ……
藪を掻き分け、マキシムは黄昏時を進む。
あの後、おじさんに場所を教えてもらい、帰した後に現地に来た。時間帯的にかなり厳しいものがあったが、原因が分かった以上放っておく訳にはいかない。一応本部に連絡して、今こうして藪を進んでいる。
「話ニ寄レバコノ辺リノハズ……」
呟きながらも前へ前へ、藪を掻き分けていく。辺りには人気もない。静かな空間だけが広がっている。
マキシムの心の中に、疑問が生まれ始める。本当にここなんだろうか?今日、そのおじさんが見たという蝶々を見る事が出来るのだろうか?……空振りに終わるのではないだろうか?
ブンブンと首を横に振り、雑念を追い払う。ダメだダメだ!余計な事を考えるな!ただ目の前の事に集中しろ!マキシム!
目を閉じて、一つ大きく息をする。心が静まってくるのが分かる。そうだ、落ち着いて、じっくり探すんだ。違和感はないか?異常はないか?アンテナを広く張って、何一つ見落とさないようにするんだ……
すぅっと目を開けると、目線の先に蝶々がいた。見た事もない蝶々だ。クワッと目を見開く!!
「イタッッ!!」
声を押し殺しながら叫ぶ。詰めを誤らないよう、慎重に慎重に近づいていく。蝶々は同じ場所を飛んでいる。
もう僅かの場所まで来て、マキシムはバッと身構えた!
「ヤハリ来タカッ!!」
途端、蝶々は姿を消し、辺りの木陰から黒い影達が躍り出る!!
「「ウィーー!!」」
カリメアの戦闘員達だ!!五人の戦闘員が、マキシムをあっという間に囲む!
「ヤハリ貴様達カリメアガ関係シテイタカッ!! カカッテコイ!!」
マキシムの言葉が終わるやいなや、戦闘員の一人がマキシムに殴りかかる!!
「ウィーー!!」
シュッ!!
それを右手で流し、体制を崩した戦闘員の脇腹に一撃を入れる!拳の触れた点を中心に戦闘員の体が『く』の字に折れて吹っ飛んでいく!
「次!」
正面から戦闘員が二人、同時に殴りかかってくる!マキシムは体を前に倒しそれをかわす!
「ウィッ!?」
戦闘員が驚きの声をあげている間に、マキシムは二人の体に向かって、まるでラグビーのタックルのように当たる!そして持ち上げる!!
「ヌゥォォオオオオ!!!」
持ち上げられた戦闘員はジタバタするも、マキシムの体はびくともしない!そして
「ソリャァァァァァアアア!!」
ブォン!!
二人の体を、棒立ちになっている戦闘員たちに向って投げつける!突然の出来事に投げつけられた方も動けずにそれをまともに食らってしまう!
「「ウィーーー!!!」」
全員まとめて叫びながら崖の下へ落ちていく……
それを見送り、マキシムはほっと一息をつく。
やれやれ、これで落ち着いてこの辺りの探索が出来そうだ……今回のこの事件、やはりカリメアが関わっていたか…奴ら、やはり放っておくわけにはいかない!!
「マズハコノ辺リヲ……」
言った途端、マキシムは脇腹に猛烈な違和感を感じた。ハッキリとは分らない。何だろうか?この感覚は……
ミシリ……
微かな音。しかし確かに聞こえた。これは……!
ミシミシミシミシッッッ!!!
骨の折れる音!!?
途端、猛烈な痛みを自覚した!!攻撃されたのだ!!誰から!?どこから!?
どこが痛む右脇腹だ何が当たっている恐らく拳だ誰だ分からないこのままで大丈夫か駄目だ逃げなくてはどこに力の向きに従って!
最早足が離れ始めた地面をなんとか蹴飛ばして力を受け流そうとする!しかしそれでも体は先程の戦闘員のように『く』の字に折れて飛んでいく!!
ドウッ!!
今更拳のインパクト音が空間に響き渡る!マキシムは木々の間を吹っ飛ばされていった。
戦闘員たちが倒れている、先ほどまでマキシムが立っていた地点。そこには巨躯を持つ黒ずくめの男が一人、立っているだけだった。
「……ち、つまらん……戦闘員共が苦戦しているようだから、久々に骨のある奴だと思ったが……期待はずれだったようだな……」
小さく呟いた後、溜息をついて山へと帰って行った……
ドンッ!ズッシャァァァァァ!!!
マキシムは壮絶に地面に叩きつけられ、その後も何十メートルと地面を転がり続け、ようやく止まる。どれ程滞空していただろうか、飛んでいる間意識が途切れ途切れになっていたようなので正確には分からない。
「カハッ!! ハァハァ……クッ……」
血が口から吹き出る。内臓がやられたようだ。首だけ横を向き、一度溜まった血を全て吐き出す。そして呼吸を何とか整えようとする。
体は動かない。全身が痛む。殴られた脇腹はもちろん、壮絶に地面に叩きつけられたのだ、痛くない場所などない。苦痛に顔が歪む。
この状態は……極めて危険だ……!
「……チ、地球ノ力ヨ……マグマノ力ヨ……今少シダケ……俺ニ……傷ガ癒エルダケノ力ヲ……」
言葉を絞り出すと、マキシムの体がうっすらと光に包まれる。これは、ガドガイアーの力の使い方の応用で、本来戦闘に使われる力を治療に充てているのだ。
「……何者ダッタンダ……気配ヲマルデ感ジナカッタ……」
マキシムの心の中には、悔しさが満ちていた。油断をしたわけではない。が、一撃でやられてしまった。不意打ちが卑怯とか、そんな事を言っている場合ではないのだ。
負けた。その事が彼の心にずしんと圧し掛かる。この町を守るためには、一度とて負けてはならないのだ。
「クソッ!!」
悔しさで拳を地面に叩きつける!
ドン!!
わずかな痛みが拳を襲い、やがて光に包まれて消えていった。
マキシム、痛恨の敗北!恐るべし、カリメアの怪人!?




